読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #12

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方


『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』

 著者  :大手町のランダムウォーカー
 出版社 :KADOKAWA
 初版  :2020年

萌さん 今回はベストセラー本よ。

カッキー 10万部突破ですか、凄いですね。

萌さん 会計本で10万部を超えることなんて、この時代滅多にないからね。

カッキー 帯の言葉も凄いですね。「決算書は最高にシビれる“謎解き”だ!」って。うーん、確かに決算書を読み解くのって推理っぽくはあるけれど、謎解きって、ちょっと流行りに乗っかろうとし過ぎじゃないですかね。

萌さん なんですって。私はこの帯にふかーく同意するわよ。謎、解きまくりじゃないの!

カッキー ええ~?

萌さん それはアンタが漫然と決算書を見ているからじゃないの? 数字の足し算が合っているかなとか、前年比のパーセンテージが間違っていないかなとかしか見てないんでしょ!

カッキー いや、それはそれで会計士1年目の決算書チェックの仕事としては間違っていないじゃないですか。

萌さん えっ、アンタまだ1年目だったの!?

カッキー お忘れですか、萌さん。僕は永遠の1年目なんです。まるでのび太君が永遠の小学5年生であるように。

萌さん えっ、のび太って5年生だったの? いや問題はそこじゃなく、決算書にはもっとさ、想像力をかき立てられる楽しさがあるのよね。

カッキー 想像力ですか?

萌さん 決算書自体は数字の羅列じゃない? でも、その裏側にある会社の苦労とか歴史とかが滲み出る。ここが決算書のおもしろいところなのよ。

カッキー 本当ですか~?

萌さん だったら、この本を読んでみなさいよ。まさに決算書のおもしろさを抽出したようなクイズが並んでいるから。

カッキー クイズ? あ、これってクイズ本なんですね。じゃあ本当の意味で“謎解き”ですか。

萌さん そうよ。著者の大手町さんが開催する「会計クイズ」の勉強会が舞台で、出題されたクイズに対して4人のメンバーが推理をしていくの。それで、読者の私たちは、メンバーの会話を読むことによって決算書の基本をマスターできるっていう構造なの。

【目次】

Chapter 0 introduction:決算書の全体像って?

Chapter 1 貸借対照表(B/S)ってどんなもの?
・【中古販売】中古販売の貸借対照表を見抜け(メルカリ/ブックオフグループHD)
・【小売】小売3社のビジネスモデルの違いを見抜け(ニトリHD/ファーストリテイリング/良品計画)
・【銀行】銀行3社のビジネスモデルの違いを見抜け(三菱UFJ銀行/スルガ銀行/セブン銀行)
・【自動車関連】自動車のビジネスモデルの違いを見抜け(日産自動車/パーク24/ウーバー・テクノロジーズ)

Chapter 2 損益計算書(P/L)ってどんなもの?
・【小売】原価率の数字マジックに騙されるな(ブックオフグループHD/セブン-イレブン・ジャパン/キャンドゥ)
・【飲食(喫茶店)】P/Lから企業の販売先を特定できる?(ドトール・日レスHD/銀座ルノアール/コメダHD)
・【小売】企業の成長ドライバーを見抜け(パン・パシフィック・インターナショナルHD/コストコ)
・【アパレル】利益率はどこで変わるか(ファーストリテイリング/インディテックス/しまむら)

Chapter 3 キャッシュ・フロー計算書(C/S)ってどんなもの?

Chapter 4 B/S+P/L複合問題に挑め!

ほか
(目次から主な小見出しを抜粋)


萌さん じゃあ、カッキー。この問題を解いてみて。

カッキー この長方形が損益計算書(P/L)をシンプルにビジュアル化したものなんですね。

萌さん それぞれブックオフ、セブン-イレブン、キャンドゥのP/Lなんだけど、3社の中からセブン-イレブンを選ぶの。

カッキー 「どれもメジャーな小売チェーンですね。うーん、②の売上原価の少なさが異様です。つまり、原価率が相当低い商売。②はブックオフですね! 僕が売った本も買取り価格10円だったのに、350円で売られていますから!

萌さん アンタの私怨は知らないわよ。

カッキー あとは①と③ですよね。販管費の大きさが違いますけど、どちらもそれなりに宣伝費とか人件費がかかっていると思いますし――。えっと、セブン-イレブンのほうが効率よく儲かっていると思うので、営業利益の大きい①がセブン-イレブン、③がキャンドゥ! どうですか!

萌さん はい、残念。①がキャンドゥ、②がセブン-イレブン、③がブックオフでした。

カッキー ガーン! ひとつも合っていない……。

萌さん まあ、セブン-イレブンはフランチャイズ方式だし、100円ショップは薄利多売で原価率が高いというのが謎解きの鍵だったんだけどね。詳しくは、この本を読みなさい。

カッキー わかりました……。

萌さん 最後に会計士視点で話をすると、会計のことを一般の人に伝えるのも会計士の役割じゃない。だから、先人たちが色んな書籍とかセミナーとかで苦労と工夫を重ねてきたんだけど、これが正解だっていうのも正直出てこなかったの。そんな中でこの会計クイズが画期的だったのは、数字を使わずに決算書を表現した点ね。

カッキー たしかに、売上○兆円とか利益○億円とか書かれていないですね。数字を出さないことで、数字嫌いの人にも興味を持ってもらえそうです。

萌さん おバカ! カッキーは全然分かってないわね。効果はそこじゃないのよ。数字を使わないことで、比較できる企業の幅が格段に広がったのよ! これはある種の発明だわ。

カッキー え、えっ?

萌さん 企業比較で数字を使うと、どうしても金額の大小に目が行ってしまうじゃない。でも、金額を捨てて、割合で企業を評価できるようにした、これが地味に画期的なの!
 金額を使うと同じ規模同士でないと見栄えがしないんだけど、割合だけでの比較なら、違う規模の企業同士を比較することができる。これで企業比較の可能性が無限に広がったことを、発明と言わずしてなんと言うのよ!

カッキー えーっと、よくわかりませんが、教える立場の会計士にとっては、驚きの本だったんですね。

萌さん そうよ。アンタもこれ読んでせめて出木杉君レベルの5年生をめざしなさい。

カッキー 萌さん、僕、別に小学5年生なわけじゃありません!

[『TACNEWS』2021年5月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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