読めばモチベーションUP?ビジネスや会計の気になる「あの本」を紹介 萌さんとカッキーの読書室 #6

仕事と資格マガジン『TACNEWS』から生まれた会計小説『女子大生会計士の事件簿』のメインキャラクター、公認会計士・藤原萌実(萌さん)と新人スタッフ・柿本一麻(カッキー)のふたりが、気になる本について激論を交わす…?!ゆったり、まったり、時に激しい、「楽しく、ためになる読書室」です。

『仮想通貨脱税』


『仮想通貨脱税』

 著者  :佐藤弘幸
 出版社 :扶桑社
 初版  :2020年

萌さん さて、今回の読書室は、金融小説よ。

カッキー 小説を取り上げるのは、『リョウ・ホームズ』以来ですね。本のタイトルが、またズバリですね。仮想通貨で脱税ですか……。ネットにあまり詳しくないので、読める自信がないです。仮想通貨界隈の人と国税局員とが、ネット上でパソコンをカタカタしながら戦うんですよね、きっと。

萌さん それが意外と、血湧き肉躍る生々しいドラマなのよ。ここに、あらすじがあるから読んでみて。

 仮想通貨のマーケットテイカーで、大口取引者を指す「クジラ」とも呼ばれる北条悟は、マルチネットワークグループのリーダー・豊丸にアルトコイン「ビリオネアトークン」のICOを持ちかけ、14億円もの巧妙な脱税スキームを企てる。

 一方、東京国税局課税第一部の高松と菅野は、セミナーで多数の会員を募り、勢力が急拡大している「ピリオネアトークン」に危機感を抱き、違法な税金対策を打ち崩すべく、調査を開始する――。

 国税最強部隊「資料調査課」出身の著者が描く圧巻の金融小説!

(帯の「あらすじ」より)

カッキー ……すみませんが、さっぱりついていけません。

萌さん そう? 面白そうじゃない!

カッキー そもそも、最初の一文目の「マーケットテイカー」で挫折したんですけど。

萌さん こういうのは雰囲気でいいのよ、雰囲気で。もー、あんた真面目ね。マーケットテイカーは、市場で取引している人、ってくらいの認識でいいの。

カッキー そうですかあ?

萌さん わかった。私が内容を説明してあげる。まず主人公は、東京国税局課税第一部統括国税実査官・電子商取引担当、通称「電商トージツ」の高松統括主査と、東京国税局課税第一部統括国税実査官・情報担当、通称「情報トージツ」の菅野主査――。

カッキー ――や、やめてください! 漢字ばっかりで余計にわからないんですけど。萌さん、ワザとですよね。

萌さん それだけ国税局の中でも私たちに馴染みがない部署ってことよ。

カッキー それで、その二人が何をするんですか?

萌さん 脱税を見つけるのよ。

カッキー だから、どんな脱税か教えて下さいよ。

萌さん 簡単に言うと、今回の敵役である北条と豊丸が、新しい仮想通貨ビリオネアトークンを作り出して、それを多くの一般の人に買わせるの。これを仮想通貨のICO(新規発行)っていうんだけど、「将来的に価値が数十倍、いや数千倍にもなる仮想通貨がいまなら買えます!みなさんも億り人になれます!」って、ビリオネアトークンを売ったの。

カッキー さすがにちょっと欲しくなりますね。でも、怪しくないですか。

萌さん そうよね。だから、北条と豊丸は、単に仮想通貨の値上がり益だけをアピールするのではなく、そこに太陽光発電投資を組み合わせるの。

カッキー は? 太陽光発電投資って、ソーラーパネルのあれですか? 電力会社が毎月電気を買ってくれるから安定収入になるって、会社員とかでも投資している人がいますよね。

萌さん それよ。北条と豊丸はみんなから集めた仮想通貨資金14億円のうち、12億円で太陽光の発電設備を買って、そこからの売電収入を配当金として、ビリオネアトークンを買った人たちに配ったの。

カッキー つまり、ビリオネアトークンを買った人たちは、「将来の値上がり益」と「毎月の配当金」の両方がもらえるってことですか! それは一粒で二度美味しいですね!

萌さん あんたも絶対騙される側よね……。

カッキー でも萌さん、ちょっと待ってください。これのどこが脱税なんですか?

萌さん これがなんと、北条・豊丸側も、ビリオネアトークンを買った側も脱税になるスキームだったの。

カッキー どういうことです!?

萌さん 税法上は、新しい仮想通貨をICO(新規発行)すると、購入者から受け取った代金は売上になるの。

カッキー ということは、14億円を集めたとしても、法人だったら税率3割、つまり4億円ほどは税金で消える、ってことですか!

萌さん まあ、仮想通貨の発行にそれほど経費はかからないでしょうから、そうなるわね。だから、北条と豊丸はその法人税を免れるために、仮想通貨の発行会社を、なんとあのマレーシアのラブアン島に作ったの!

カッキー ……はい?

萌さん 知らないの? アジアでは有名なタックスヘイブン(租税回避地)よ。これによって、マレーシアで少しの税金を払えば、日本の税金を払わなくて済むの。

カッキー 脱税じゃないですか!

萌さん そう言っているじゃない。そして、購入者にとっては、毎月の配当金をビットコインやイーサリアムといった別の仮想通貨で入金してもらえば、ぱっと見、税務署にバレない。これでみんなが脱税できるスキームになるのよ。

カッキー はあ、そうなんですねー。

萌さん あと、太陽光発電設備を税込12億円で買うんだけど、そのうちの消費税約1億円は消費税還付で戻ってくるから、税金的にかなり美味しいスキームなのよねえ。

カッキー えっと、たしか売上とかでもらう消費税よりも、設備投資で払った消費税のほうが多ければ、その差額が還付される、というややこしい仕組みですよね。

萌さん そう。そんな美味しいスキームをどうやって国税局の人たちが見つけて課税するのか、といったところがこの小説の見所ね。

カッキー ちなみに税理士とかは出てくるんですか?

萌さん 出てくるわよ。国際税務の租税回避のスペシャリスト、テッド西本という税理士がね。

カッキー 名前からして凄そうですね。

萌さん これは小説なんだけど、実際にあったこと、ありそうなことが元ネタになっているから、仮想通貨っていう新しいお金の動き、そしてそこに付随する税金や税務署の動きは、会計人にとって勉強になると思うわ。

[『TACNEWS』2020年5月号│連載│萌さんとカッキーの読書室]

著者プロフィール

山田真哉(やまだしんや)

公認会計士・税理士。TAC梅田校出身。中央青山監査法人(当時)を経て、現在、芸能文化税理士法人会長。株式会社ブシロード等の社外監査役。著書に『女子大生会計士の事件簿』シリーズ、『世界一やさしい会計の本です』『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』等。

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