LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #46

  
Profile

宮城 彩奈(みやぎ あやな)氏

あやなみ行政書士事務所 代表
行政書士
宅地建物取引士 建設業経理士2級

神奈川県横須賀市出身。高卒で就職するも会社勤めになじめず1ヵ月で退社、自由に生きるという希望を叶えるため社長になる決心をする。アルバイトをしながら行政書士試験に挑戦し、4回目の受験で合格。20代での独立開業を果たす。YouTubeチャンネル『あやなみ社長channel』で申請業務などを解説し人気を博す。代表を務める「あやなみ行政書士事務所」では、建築業許可申請をメイン業務に更新や決算時の届け出など関連諸手続きをサポート。相談しやすさとフットワークの軽さに定評がある。2020年に宅地建物取引士、2021年に建設業経理士2級の資格を取得。許可申請から物件紹介まで開業サポートできる体制を構築中。

【宮城氏の経歴】

2006年 運動は好きだが勉強は嫌い、部活の時間だけ学校へ行く高校生活を送る。
2009年 就職するも会社勤めになじめず退職。アルバイトを掛け持ちするフリーターに。自由に生きていくために社長になるという目標を立て、開業を目標に行政書士試験の勉強を始める。
2016年 4回目に受けた2015年度の試験で合格。事務所を構えて独立開業するが、経営のノウハウもなく一時は資金難の危機に陥る。
2019年 地道な営業活動で顧客拡大、事務所を軌道に乗せる。PRで始めたYouTubeが注目を集める。
2020年 宅地建物取引士に合格。翌年には建設業経理士2級にも合格。
2022年 横浜へ事務所移転と共に宅建業免許申請。行政書士の枠組みだけにとどまらない事務所経営をめざす。

社長になるためにめざした資格。
勉強嫌いを克服し行政書士試験を突破。
チャレンジする行動力が未来を創る!

 19歳で「社長になる」という目標を立てた宮城彩奈氏は、4回目の受験で行政書士試験に合格、20代で独立開業した。事務所は建築業許可とその関連手続きをメインにサポート。SNSを活用しYouTubeで建築業法や許可申請などをわかりやすく発信して注目を集めている。事務所を軌道に乗せ、さらに次のステップをめざす宮城氏に、行政書士という仕事の魅力と独立開業を成功させるポイントをうかがった。

「自由とお金を手に入れるには社長になるしかない!」

 2022年8月、「行政書士さい事務所」(現:あやなみ行政書士事務所)は事務所を横浜駅最寄りのビルへ移転した。代表の宮城彩奈氏は行政書士資格の他に宅地建物取引士(以下、宅建士)と建設業経理士2級の資格を持ち、新しい事務所では宅建業免許の取得を考えている。20代で独立開業して7年、着々と事業拡大を進める宮城氏だが、高校時代は学校もさぼりがちで勉強嫌いな学生だったという。
「運動は好きだけれど勉強は嫌い。授業には出ずにテニス部の部活だけ行くようなこともありました。将来こうなっていきたいという崇高な夢があるタイプではなかったですね(笑)」
 高校卒業後は自動車関連の会社へ就職するが、研修期間で退社する。1日8時間勤務という働き方がどうしても受け入れられなかったそうだ。
「就業時間にしばられず自由に働きたいという気持ちが強かったのです。それで会社をやめてコンビニエンスストアや宅配ピザ屋、パチンコ屋などアルバイトを掛け持ちしたのですが、アルバイトで稼げる収入には限界がありました。そんなとき、たまたまあるテレビ番組で、子育てをしながらアパレル会社を経営しているモデルさんの話を耳にしました。当時の私と同じ19歳だったので『同じ年齢で年商2億円?』と衝撃を受けました。これをきっかけに『十分にお金を稼いで自由に生きるには独立して社長になるしかない!』と考えるようになったのです」
 それまでは崇高な夢を持つタイプではなかったが、社長になるという目標を見つけてからは行動することを止めなかった。アルバイトで資金を貯めながら、独立開業できる可能性を探した。士業という選択肢を考えたのは21歳の頃、たまたま若い税理士と出会う機会があったからだという。
「自分の能力ひとつで働き、家族を養っているのがすごいと思いました。資格についてインターネットで調べると、士業であればパソコン、プリンター、携帯電話があれば独立できる。難関試験ではあるけれど、行政書士なら、がんばれば合格するチャンスはあると思いました」

目標は合格の先の「開業」

 試験勉強は、テキストを買って、インターネットで過年度の試験問題を探し、演習をひたすら繰り返した。
「テキストは自分でわかりやすいと思った本に絞って勉強しました。私はインプットよりアウトプット派、頭に知識を詰め込むよりも、問題を解いて解説を読むことで知識が身につくタイプです。だからひたすら過去の試験問題を解きました。ただ1回目の試験のときはまだ勉強サイクルが定着していなくて、試験3日前からやっと本気で勉強したような感じでしたね。試験会場が早稲田大学だったのですが、大隈重信像を見て『わぁ、本物だ!』と、それだけで満足してしまいました(笑)」
 勉強量が足らず初回の試験は基準点に届かない科目があり不合格に。翌年の試験は本腰を入れて勉強したが点数が伸びず不合格になってしまった。
「試験は年1回ですから不合格だと次のチャンスは1年後になってしまう。そんなに何年も落ち続けるわけにはいかないので3回目の受験では自分を追い込んで勉強しました。模擬試験でもかなり点を取れていたのですが、この年は本試験の難易度が高かったこともあり、合格には届かず…。でも苦手だった一般知識の問題も取れるようになり、手ごたえを感じ始めました」
 不合格が続くとモチベーションが下がり受験をあきらめる人も多いが、「社長になるのが最終目標ですから、ここであきらめるわけにはいきませんでした。合格の先にやりたいことがあるからがんばれたのだと思います」と宮城氏は当時を振り返る。
 アルバイトの掛け持ちはやめ、不動産会社1本で働きながら勉強を続けた宮城氏は、2015年に4回目の試験で合格を果たし、行政書士資格を手に入れた。

自分でやってみる、実践で得る知識の強さ

 行政書士登録した2016年、事務所を構えて独立開業。しかし、最初から事務所経営がうまくいった訳ではなかったという。
「コネなし、実務経験なし、資金少なしの開業ですから、3年くらいは低空飛行だったと思います。最初は営業のやり方も知らないですし、実務経験がないので申請業務の必要書類もわからない状態でした」
 ゼロからの顧客開拓を、宮城氏はやはり行動することで越えていった。飛び込み営業、電話営業、はがきやファックスを使ったDM、リスティング広告など、営業施策とされることはすべて試し、コネクションを得るため異業種交流会にも参加した。「『チラシは効果ないでしょ』とか『異業種交流会に参加する人なんて暇人ばかり』という声もありますが、何が効果的かを悩む時間があったら行動するほうがいいと私は思っています」と宮城氏は言う。実際、そうやって動き続けるうちに人とのつながりができて仕事の依頼も来るようになった。業務に関してはとにかくスピーディーにレスポンスする、難しいことを聞かれたら持ち帰って調べてから返事をすることを心掛けた。そうして真摯な対応を続けるうちに信頼してくれる顧客が増えてきたのだ。
 実務経験のなさという不安要素も「まず自分でやってみる」という方法でクリアした宮城氏。
「実務経験がゼロでも、自分が印鑑登録証明書を取得したことがあれば印鑑登録証明書が何かはわかるようになりますよね?だからまずは自分で身のまわりの公的書類を取ってみることにしました。会社の登記事項説明書や、許可申請も自分が取れるような許可を実際に申請して取ってみました。他に公庫の融資や、自分の補助金申請もしてみました。書類を取ったら内容を読み込んでわからない点はインターネットで調べます。自分用ですから不手際があっても誰の迷惑にもなりません。役所や公的機関とのやり取りがそのまま実務経験になります。経験があれば、お客様に申請や融資について聞かれたときに自信を持って答えられますので、とても有効な方法でしたね」

申請の枠を越えて起業サポートできる事務所へ

 行政書士会(神奈川県)調べで当時の20代の行政書士は0.8%、女性の行政書士は15%程だったという。そのため20代女性の行政書士は希少で、注目されるメリットはあるが、経験値や信頼性の印象面では不利になることもある。宮城氏は、そんな弱みをホームページやSNSを活用し、効果的に自分の事務所を宣伝することでカバーしていった。中でも特に効果が高かったのがYouTubeチャンネル『あやなみ社長channel』での発信だ。建築業法や許可申請について、さらに行政書士試験対策や独立開業に関するノウハウ動画を次々にアップしていったところ、予想以上の反響を得られた。
「私が開業した頃には、すでにホームページを構える行政書士事務所は多かったため、検索上位にならないと目立たず埋もれてしまう状況でした。当時は世の中的にYouTubeの利用者数が増えてきた頃で、動画編集に協力してくれる友人がいたため始めました。動画は発信できる情報量が多く、打ち合わせの雰囲気や仕事の進め方も見てもらえるのが優れた点です」
 平易な言葉や見やすいテロップを使った動画の解説はわかりやすく、法律や行政の堅い内容がすんなり頭に入ってくる。2019年7月にスタートしたYouTubeチャンネルは次第に登録者数を増やして2022年9月現在で1.29万人。建築業申請を考える人だけでなく、行政書士試験の合格をめざす人や起業を考えている人にも、実践的で有効な情報が得られると好評だ。「動画をきっかけに私に依頼しようとお問い合わせをくださる方もいます。今後もYouTubeは続けていきたいですね。協力してくれた友人には本当に感謝です」と宮城氏は笑顔で語る。
 宅建士試験に合格したことを動画で発信すると、今度は様々な業種で起業した人や起業をめざす人からの問い合わせが増えた。不動産業界で働いた経歴が活かせるという理由のほかに、事業を始めたいお客様のための物件探しができるという思惑もあって取得した宅建士資格だが、その考えが当たったようだ。
「業種によっては開業できる用途地域が限定されている場合があります。貸主が貸すと言っても自治体がNGというケースもある。法的な規制をクリアしたテナント選びは重要課題なので、そこをお手伝いしていきたいですね」
 宮城氏は行政書士の枠を超え、法的に起業を大きくサポートできる事務所をめざしている。

勉強嫌いだった高校時代から一変、「今が一番、頭がいい」

 2020年に宅建士、2021年に建設業経理士2級の資格を取得した宮城氏。どちらの試験も1回の受験で合格することができた。
「行政書士ですから、すでに法律知識があるという強みはありますが、過去に行政書士試験を4回受けるという苦痛を味わっているので、『絶対一発で受かる!』とガリガリ勉強しました。資格試験は学んだ知識の定着度合いを見ることを前提に作られているので、受けるだけで勉強になりますし、もちろん合格すればキャリアアップして箔もつけられます。次は建設業経理士1級にチャレンジする予定です」
 「法改正もあるので知識のアップデートのためにも勉強は欠かせません。今が一番、頭がいいと思います(笑)」と語る宮城氏。かつて勉強嫌いだった高校生はマルチライセンスを有する行政書士になり、日々勉強を続けている。
 最後に宮城氏が考える行政書士資格の魅力について聞いてみた。
「『行政書士は食えない』と言う人もいますが、工夫次第で4ケタ万円の売上を得ることも可能です。でもお金のこと以上に、信用や人に頼られるうれしさが感じられるのがこの仕事の魅力だと思っています。例えば『不動産』『動画編集』など自分の興味や経験と掛け合わせて、自分を売り出す上で強みとなる独自の価値を作ることもできます。かつての私と同じように『自由に生きたい!』というタイプの方は、ぜひ資格取得にチャレンジしていただければと思います」

[『TACNEWS』 2022年11月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]