LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #36

  
Profile

竹内 友章(たけうち ともあき)氏

1982年3月1日生まれ。茨城県の工業高校を卒業後、ガラス工場に就職。在職中に宅地建物取引士の資格を取り、東京の不動産会社の営業職に転職するも、不動産業界の不景気の影響を受けて、退職を余儀なくされる。その後、自分の将来を見つめ直し、不動産管理会社のコールセンターの仕事をしながら司法書士の資格取得の勉強を始め、受験6回目にして合格。大手司法書士事務所で経験を積んだあと、独立し下北沢司法書士事務所を設立。現在に至る。

【竹内氏の経歴】

2000年 18歳 工業高校を卒業後、ガラスパネルを製造する地元の工場に就職。
2005年 23歳 宅地建物取引士の資格を取得して、東京の不動産会社の営業職に就く。
2008年 26歳 不動産会社の業績が悪化し退職。大手不動産管理会社のコールセンターで働きながら、司法書士の資格取得をめざす
2014年 32歳 6回目の挑戦で司法書士試験に合格。翌年10月から大手司法書士事務所で実務経験を積み始める。
2017年 35歳 独立し、自宅のある下北沢に事務所を設立。不動産業界での経験を活かしながら、他業種の士業とも連携し、トータルサポートを行える事務所をめざしている。

人生の進むべき道を、
資格取得によって切り開く。
大きな夢を成し遂げるために
目の前の事柄ひとつひとつに対して
懸命に取り組んで進んでいく。

 難関資格をめざすなら、ほかのことはすべて犠牲にしなければと考える人もいるだろう。しかし、仕事やプライベートも充実させながら、司法書士試験に見事合格した人物がいる。高校卒業後にガラス工場への就職からキャリアをスタートした司法書士の竹内友章氏が実践してきた、祖母の教えである「志は大きく、行いは足元から」という生き方に注目してほしい。

「志は大きく、行いは足元から」 目の前のことに懸命に取り組む大切さ

 「私の父は、大学に進学しないとかっこ悪いとか、社会で認めてもらえないなどといった世間体は一切気にしない人でした。そんな家庭で育った私は、軽い気持ちで大学に進学するくらいなら、むしろ工業高校へ進み、卒業後は就職しようと考えていました」
 現在、司法書士事務所の代表を務める竹内氏はそう語る。
 竹内氏の父は、「志は大きく、行いは足元から」という祖母から受け継いだ言葉を大事にしていたという。大きな目標を持つのはいいが、それを成し遂げるには、今目の前にあるものをしっかり自分なりの力で受け止めて、精いっぱいの努力をして対応することが大事。そんな代々に受け継がれる教えを自然と受け入れていた竹内氏は、高校卒業後は地元の工場に就職し、液晶ディスプレイに使うガラスパネルを作っていた。
 その後、竹内氏は「ずっと同じ仕事ばかりもしていられない」と考えるようになり、工場の生産管理の仕事もするようになる。どんな製品をどんなスケジュールで、どのくらい生産するか計画して、必要な人と材料、予算などを管理する仕事だ。そんな中で会社全体の仕事やそれぞれの社員の役割なども見渡せるようになった。そしてある日、上司と接する中で、ふと思った。 「秀でた才能や実力があるわけではない自分はこの工場では相当がんばらないと上司のような存在にはなれないだろう。果たして自分はこのままでいいのだろうか。自分には別の、もっと適した仕事があるのではないか」
 しかし、特にやりたいことや特技もない自分が、いきなり仕事をやめてほかの業界で活躍する姿は想像できなかった。そんなときに思い出したのが、祖母の代から語り継がれる「志は大きく、行いは足元から」という教えだった。
「まずは、できることからやっていこうと考えました。そこで、一定のスキルや知識を身につけることができる『資格試験の勉強』が思い浮かんだのです」
 竹内氏は、いくつかある資格の中から、これなら手に職もつけられそうだし勉強もがんばれるだろうと、宅地建物取引士(以下、宅建士)の資格取得をめざした。働きながら短期間で合格をめざすのは予想以上に大変で、寝不足の日々が続く。
「とにかく眠かったという記憶があります。特に勉強時間は決めずに、毎日仕事から帰って寝落ちするまでひたすら勉強するといった感じでした」
 当時は茨城の実家から仕事に通っていたため、両親の支えもあり、厳しいながらもなんとか仕事と勉強を両立させていた。

自らの将来を切り開くために東京へ

 宅建士の試験には1回で見事合格し、それをきっかけに竹内氏は、東京へ出る決心をした。茨城出身の竹内氏は、高いビルがそびえ立ち、人混みにあふれる東京に圧倒された。しかし、せっかく東京に来たのだから、成長できそうな会社を選ぼうと、あえて東京の中心地、新宿で事業用ビルなど大きな物件も扱う不動産売買の会社を選んで就職を決める。
 仕事は不動産営業。社員が40名ほどの規模の会社で、当時23歳の竹内氏は最年少。体育会系の雰囲気があり上下関係も厳しい会社だった。
 やがて1年ほど経て、ようやく小さなマンションの契約をひとつ取り付けたあとは、肩の力が抜けたのか仕事が楽しくなっていった。しかし、就職して2年が過ぎた頃、サブプライムローン問題が起こったことで、日本でも極度の不動産の買い控えが起こり、全社的にまったく物件が売れない状態になってしまった。ついに会社自体も存続の危機に見舞われ、竹内氏は会社をやめることになった。
 竹内氏はこれからの人生を考え始めた。宅建士の資格を活かして、他の不動産会社への再就職や不動産業者としての独立をめざすなど、いろいろな選択肢がある中で、リストラを経験した竹内氏が重視したのは、「会社をやめても生きていける力をつけること」だった。そして「始めるのに経費があまりかからないこと」「不動産業界のように営業競争が激しくないこと」「単価が不動産のように高額でなく、ひとつひとつの仕事にリスクが少ないこと」という条件を自分で立て、その条件に当てはまる職業を探した。
 そうして浮かび上がったのが、過去に周囲からも勧められたことがあった司法書士という職業だった。最初に就職したガラス工場の社長から退職時に言われた「同じ不動産の仕事でも、営業じゃなくて、司法書士の不動産登記の仕事みたいに小さくまめにやる仕事のほうが向いているのでは」という助言や、自分の性格をよく知っている父の「試験の難易度は高いが、司法書士の仕事はお前に向いていると思う」という言葉。宅建士との関連性も高く、不動産業での経験も活かせるだろうという期待もあった。
 司法書士試験への挑戦を決心した竹内氏は、まず食いつなぐ準備をした。就職活動の末、工業高校時代に取得した設備関連の資格などが評価されたのか、ビルの管理やメンテナンスを行う大手の不動産管理会社への就職が決まった。配属先はコールセンターで、夜勤もある仕事だったが、必要最低限の収入と勉強の時間は確保できた。

Wセミナーの通信講座を活用し、 仕事と勉強を両立

 竹内氏の6年間にわたる司法書士資格取得までの奮闘の日々が始まった。最初は勉強の仕方がわからず分厚い参考書を買って「これを全部覚えればいいだろう」と、ひたすら読み始めた。コツコツこなすことが得意な性格が幸いしてか、膨大なページ数にめげることはなかったが、明らかに非効率的な勉強法だった。それでも4回目の挑戦のときに合格のための最低ラインである基準点を超えることができた。「これは本腰を入れて勉強すれば受かるだろうという確信を持つことができました」と竹内氏は言う。本気になった竹内氏は、きちんとした勉強法で合格をめざそうと、Wセミナーの姫野講師の講座に申し込んだ。「カリキュラムに従って学べば合格に必要な知識が身につくという講座でした。夜勤があり疲れて眠くなってしまっても自分のペースで進められるので、Web通信講座を選んだのは正解でしたね。なるべく体調のいい状態で学び、必死に講座の内容に食らいつくようにしました」と竹内氏は振り返る。
 しかし、5回目のチャレンジも失敗に終わってしまう。記述式の問題で基準点を超えられなかったのだ。
 自信があったぶん、過去4回と比較にならないくらい落ち込んだ。そんな竹内氏を励ましたのは、4回目の試験の数ヵ月後に結婚した妻だった。「もう一度、がんばりなさい」という妻の言葉。もうすぐ子どもが生まれ、守るものも増える。そんな状況に竹内氏は、司法書士試験突破に向けて再度奮起したのだった。
 その後の勉強では、択一式の問題を効率よく解くテクニックを身につけ、本番で苦手な記述式の問題に割く時間を増やせるようにした。そうして苦手分野の対策を万全にし、満を持して受けた6回目の試験だったが、試験後、竹内氏は落ち込んでいた。
「試験のあと、解答速報会に参加したのですが、あまり手ごたえがなく『今年もまた不合格か』と落ち込んでいました。だから発表の日、合格者の一覧をパソコンで確認して自分の番号を見つけたときは目を疑いましたね。自分が合格したという実感がないまま親や妻に報告の電話をして、困惑させてしまいました(笑)。それでも、みんなの『おめでとう』という言葉を聞いたことで、徐々に合格した実感がわき、うれしさがこみ上げてきました」
 6度目の試験で見事合格を果たした竹内氏は、1年以内に独立すると心に決めて、大手の司法書士事務所に入った。実務経験がまったくない中で、「まず自分で考えること」を求められる厳しい環境だったが、そのぶん自分の成長につながったと語る。そこで約10ヵ月間経験を積み、2017年に当初の予定通り独立。自宅にパソコンを用意して司法書士の登録をし、まずは小さな規模で下北沢司法書士事務所として開業した。今はどの仕事もおもしろく、不動産登記、商業登記、成年後見、債務整理など、依頼を受けた場合はなんでも対応するようにしているという。「中でも、宅建士の資格や不動産会社での経験をダイレクトに活かせているのは、やはり不動産売却が絡む案件ですね。相続した不動産の活用や成年後見人としての不動産売却、借地権買取のコンサルティングなど、権利関係が絡むと一般の方にとっては複雑でわかりにくくなってしまうので、ここは私のように不動産知識のある司法書士の出番だと思っています。何をどうしていいかわからない状態のお客様に、こちらが段取りを示して出口まで導いてさしあげるととても喜ばれます。今まで培ってきた自分の経験やスキルを発揮してお客様に感謝してもらえることに、この上ない充足感を得ていますね。お金をもらって、お客様に感謝してもらえるというのは、この仕事ならではだと思います」と竹内氏は笑顔で語る。
 そして今後は、司法書士という枠を越えて、他業種の士業とも連携し、より多くの案件に対応できる事務所をめざしていきたいと考えているという。
「『下北沢司法書士事務所に聞けば、どんな問題もなんとかなる』というトータルサポートができる事務所にしたいと思っています。司法書士だけでは解決できない問題ももちろんありますが、そういった場合は、弁護士、税理士、不動産関連の方々などと連携しチームプレーで対応しています。信頼できる良いチームで仕事に取り組むことで質の高いサービスを提供できていますので、私だけではなくお客様にとっても大きなメリットになっていると思います」
 そう語る竹内氏は、営業活動について少しユニークな考えを持っている。
「私は人に断られるのが苦手ということもあり、自分から進んで営業をするのが不得意なのです。営業活動といえば、知り合いに開業したことを伝え、ホームページを作ったぐらいですね。でも、目の前に飛び込んでくる案件を、自分なりに親身になって一生懸命取り組んでいれば、自然とその姿勢が評価されて評判として広がっていき、次の案件、そのまた次の案件につながっていくように思います。独立開業したら、営業活動をしっかり行い、自分から積極的に仕事を取りにいかないといけないとよく言われますが、私は必ずしもそうではないように思います。引っ込み思案な人でも、行動力が低い人でも、司法書士という武器を持っているだけで戦うことは十分可能だと思いますね。
 合格後に本当に資格を活かして稼いでいけるのだろうかとか、独立開業してうまくやっていけるのだろうかといった、様々な不安を受験生の皆さんは抱くと思います。でも司法書士試験に合格するには『本番での心の強さ』が必要で、試験に合格するという『真剣勝負』に勝つということは、司法書士としての基本的な知識はもちろん、その後の勝負の局面での強さをすでに手に入れているとも言えます。また、合格することで自分に自信がつきますし、チャレンジが今後の人生にプラスになるのは間違いありません。今、資格試験の勉強をされている方には、資格を活かして働くという大きな志を実現するためにも、まずは足元のことからコツコツと、試験の勉強をがんばっていただきたいと思います」

[『TACNEWS』 2021年10月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]