LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来への扉」 #31 

Profile

大槻 智也(おおつき ともや)氏

税理士法人チェスター大宮事務所代表
税理士 CFP®︎

1988年3月13日生まれ。茨城県行方市出身。茨城県立石岡商業高校で簿記の学習を始め、簿記実務検定1級まで取得。中央学院大学商学部に入学後、AFP認定、日商簿記検定2級、全経簿記1級を取得。新卒で会計事務所に入社後、CFP®認定、税理士試験の簿記論と財務諸表論に合格。税理士法人チェスター転職後も勉強を続け、官報合格。税理士資格取得後に一度退職し独立開業をするも、誘いを受け税理士法人チェスター大宮事務所の代表に就任、現在に至る。宅地建物取引士、相続診断士、年金アドバイザーなど資格を多数所持。

【大槻氏の経歴】

2003年 15歳 高校で初めて簿記に出会う。パズルのような感覚と電卓での計算が楽しく夢中に。
2006年 18歳 大学入学後はファイナンシャル・プランナーの勉強にも取り組む。大学卒業後は会計事務所に入所し法人向け業務を担当。
2014年 26歳 相続の分野に興味を持ち税理士法人チェスターに転職。
2018年 30歳 29歳で官報合格を果たし、独立開業するも、しばらくして税理士法人チェスターの代表から、パートナーのスカウトがかかる。組織で働くほうが自分に向いていると気づき、大宮事務所代表に就任することに。

顧客の人生に真摯に向き合う相続資産税専門の税理士に。
従業員全員を乗せた船で、日本一をめざしたい。

 大学時代にファイナンシャル・プランナー(以下、FP)の勉強を開始し、「税」の重要性や複雑さを知った大槻智也氏。卒業後は税理士になることを決意し、5科目すべてを働きながら勉強、合格した。一度は個人税理士として独立・開業したが、現在は相続資産税専門の大型税理士法人で拠点長として活躍している。そんな大槻氏に、税理士をめざすことになったきっかけや、相続資産税を専門に選んだ理由、働きながら5科目合格するためにした工夫などをうかがった。

正義の味方に憧れた少年時代、高校では簿記の勉強に熱中

 日本で二番目に大きな湖・霞ヶ浦と筑波山の側で生まれた大槻智也氏。幼い頃から釣りに親しみ、学生時代はバスケットボール部と駅伝部に所属。自然豊かな地域で元気いっぱいに育った。
「子どもの頃から弱いものいじめや不平等、不公平なことが嫌いで、正義の味方に憧れていました。高校生でアルバイトを始めた頃から、税金に関心を持ち始めました。身内に詳しい人もいなかったので、損をしないためにも自分が知識をつけなければと思うようになりました」
 商業高校に進んだため、簿記は必修科目。中学校までの勉強は暗記がメインであまり興味が湧かなかったが、簿記は「主体的に動いて学べる」という感覚があり、おもしろかった。在学中に、商業高校の生徒向けの資格である簿記実務検定1級まで取得した。
「大学は商学部を選択し、経済、経営、法務と世の中のお金の流れ、ルールを学びました。その中でFPという資格に出会い、学習分野のすべてに税金が関係していることに気がつきました。税金は、企業や人の活動に密接に関わるのに、しくみが複雑なので、ほとんどの人がきちんと理解できていない。勉強して、多くの人が損をしないように伝えていきたいと思うようになりました」
 大学入学後はAFPの認定も受け、税金の知識を蓄えていった大槻氏。大学の講義でも、簿記会計の原理や会計マインドが世の中にとって必要不可欠であると学んだ。そこで、就職活動では金融機関と会計事務所を中心に受け、中小企業向けの総合型の会計事務所に入ることになった。
「就職活動の時期がリーマンショックと重なっていたため、どんな状況でも生きていけるスキルが必要だと感じるようになりました。そこで、新卒で入った会計事務所で基本のビジネススキルや税務会計実務を覚えながらCFP®︎の勉強を進め、無事に合格したあと、税理士試験の勉強を始めました」
 入社当時は「新人だから」と会社の飲み会にはできるだけ参加していた。顧問先法人の経営者とのつき合いも多く、学習のスケジューリングには苦労したと振り返る。
「諸先輩を見て生意気ながら『お客さんとの信頼関係さえあれば仕事はできる』と思っていた時期もあり、あらゆる会合に時間を費やしていました。しかし税理士資格があるのとないのではお客様の反応や業務範囲も異なります。仕事の忙しさを理由に逃げそうになる自分とずっと戦ってました」
 勉強時間の確保が最優先だと気づいてからは、業務に直接関係のない飲み会への参加を一切やめた。周囲の声は気にせず、時間さえあれば当時から通っていたTACの近くのカフェに駆け込んで学習を進めた。
「業務やどうしても断れない飲み会を切り上げ深夜に帰宅、明け方まで勉強して少し仮眠し、また出社するということもよくありました。その頃は会社と自宅とTACの距離も近く、20代前半で年齢も若かったため、無理がききました(笑)。やはり、有資格者で自立して働いている先輩が羨ましかったですし、自分も早く資格を取って一人前になりたいと必死でしたね」

仕事と税理士試験の勉強を両立、 個人資産のコンサルティングにも興味

 入社から2〜3年経つと、業務にも慣れ学習のペースもつかむことができた。社会人3年目となる2012年には、簿記論と財務諸表論の2科目に合格することができた。そしてこの頃、中小企業の経営者と仕事をする中で、個人資産のコンサルティングに興味を持つようになっていった。
「社長や会社の経理を担当している奥様と経営や税務について話していると、次第に社長個人の保険や家計、不動産や相続事業承継の相談になっていくことも少なくありませんでした。FPの勉強をしていたので、知識を駆使して提案ができることもうれしかったですし、相続の分野を税理士としての自分の強みにしたいと思うようになりました」
 こうして2014年、大槻氏は相続資産税を専門とする税理士法人チェスターに転職し、三越前本店にて相続税申告書作成や審査業務、生前対策業務などを中心に担当していくことになった。専門特化して誰にも負けないカテゴリーを作ろうと意気込む大槻氏だったが、新しい環境に慣れるまでは失敗もあった。
「転職先で担当するのは、大切なご家族を亡くされた個人のお客様です。悲しみに暮れる中、相続の手続きをしなければなりません。それを頭では理解していたつもりでも、つい法人顧問時代の癖で元気よく応対してしまったり、何度もお電話してしまったり、負担をかけてしまいました」
 試行錯誤の中で、目の前にいるお客様の状況を想像して仕事をすることの大切さに気づいたという大槻氏。「節税」など数字だけをゴールにするのではなく、亡くなった方の思いや残された家族の状況を基にライフプランニングをしていくことが、自分のやるべきことだとわかったという。
「ここでもやはりFPの知識が役に立ちました。残されたご家族の方が、これまでの人生を肯定し、幸せな人生を歩んでいけるよう、税務だけではなく、不動産、保険、年金などの知識を総動員してサポートしていくことに強いやりがいを感じました。お客様からの『大槻さんにお願いしてよかった』という言葉がうれしかったですね」
 転職後も税理士試験の勉強を続け、2014年に法人税法に合格するも、仕事に没頭してしまい翌年は足踏み状態になってしまった。
「これ以上5科目合格を先延ばしにはできないと焦りました。そこで、次の試験で1科目も合格できなければ、事務所での役職を変更してもらい、大学院に進学すると、会社と家族に宣言しました」
 大学院に進学して2年間勉強し修士論文を提出すれば、税法科目が2科目免除になるが、進学費用がかかる上に大量の時間も割く必要がある。当時チームリーダーで部下も抱え、働きがいを感じていた大槻氏にとって、役職変更は絶対避けたいことだった。後には引けない状況を自分に課し、残りの2科目の勉強に取り組んだ。
「自分でデッドラインを引いたのが功を奏し、2016年に消費税法、2017年に住民税で官報合格を果たすことができました。最終科目の本試験前の5月には、第一子の長女が誕生していました。本当なら出産前後の妻をサポートすべき時期で心苦しかったのですが、必ず合格しなければと思うと不思議なパワーが出て集中できました」

背水の陣でつかんだ官報合格、独立開業後、新しい挑戦へ

 晴れて税理士資格を取得した大槻氏は、一度自分の力を試してみたいと考え、税理士法人チェスターを退職。個人税理士として独立・開業し、埼玉県に事務所を構えた。
「チェスターからは卒業生として、退職後も業務を委託され良好な関係を保っていた中、半年ほどたった頃、代表社員の2人から『大宮に拠点を作るからパートナーにならない?』『ツッキー(大槻氏の愛称)なら安心して任せられるから』と誘いを受けました」
 大槻氏の心は揺れた。独立して間もないながらも、すでに相続税申告や法人顧問業務の引き合いがいくつかあった。しかし、ひとりで働くことに、限界や物足りなさを感じていたのも事実だったからだ。
「個人事務所を経験したことで、自分は個人プレーよりも、いろいろな人に協力を仰ぎ仕事を大きく動かすことに働きがいを感じていたと気がつきました。いろいろな人の意見も取り入れながら仕事をしたいという思いもあり、組織に戻るのもいいのではないかと」
 しかし、いち従業員ではなく拠点のトップ。それに、税理士法人のパートナーになれば、無限連帯責任を負うことになる。例えば税理士法人が支払い切れないほどの損害賠償を負った場合、基本的にはパートナーが支払うことになるということだ。
「チャレンジングで魅力的な誘いである一方、大きなリスクもともなうので、自分ひとりでは決断できず、妻に相談しました。妻も司法書士の資格を持ち、組織で働く人間です。私の性格や、これまで勉強してきた過程、リスクとリターンなどを考慮した上で背中を押してくれ、決意を固めることができました」
 2018年8月15日、税理士法人チェスター大宮事務所がJR大宮駅すぐ側に設立され、大槻氏が代表に就任した。30歳という若さで、拠点経営、スタッフマネジメント、提携先との関係構築、さらに新しい顧客の開拓もミッションに加わった。
「懸念事項のひとつに集客がありましたが、大宮事務所のオープン以降、たくさんのご依頼をいただいています。税理士法人チェスターは創設以来、相続税の年間申告件数を増やし続けているのですが、拠点が首都圏中心だったため、北関東地域のお客様への利便性向上が課題でした。大宮事務所の設立によってより広い範囲のお客様にお越しいただけるようになりました」
 2021年8月には設立3周年を迎える大宮事務所。相談予約の連絡は引きも切らず、スタッフ全員で目標に向かって全力で走っている今が楽しいと目を輝かす。そんな大槻氏が、相続資産税の専門家として8年のキャリアを積んできた今、心がけていることは何だろうか。
「相続税の申告納税期限は、お亡くなりになられてから10ヵ月後に到来します。一見長いように感じますが、この期間にやるべきことは多く、あっという間に期限がやってきます。だからこそ、『誰が、何を、どこで、いつまでに、どのように』行えばよいかを明確にお伝えし、しっかりリードしていくようにしています」
 相続資産税の申告は、相続関係、財産構成、遺産分割、相続税額など案件ごとにそれぞれ必要な知識やスキルが異なるため刺激的だと語る大槻氏。FPの知識があることで、金融や不動産、保険についてもカバーできる上、他の士業専門家に業務を橋渡しする際にも顧客のニーズを整理しやすいというメリットにもなるという。

FPの知識を土台にプラスアルファの提案、顧客の人生に向き合い、後進を育てる

「年金アドバイザーや宅地建物取引士、相続診断士なども取得したのですが、個人のリタイアメントプランニングや相続人等のライフプランニングのアドバイスに役に立っています。税理士資格だけではなくFPを起点に知識を増やし、プラスアルファの提案ができているので、複数資格の相乗効果を感じますね」
 今後も引き続き、相続資産税のプロフェッショナルをめざしたいと力を込める大槻氏。自分だけではなく、従業員全員を乗せた船で「相続資産税分野の日本一」を目標にしている。
「何が正解かは私にもわかりません。ただ、すべての案件にベストを尽くしていくことで答えが見つかると思っています。納税者を守り、適切な対価をいただき、従業員を育てていく。これを愚直にやっていきたいです」
 将来について模索し、資格取得や独立開業をめざす中で、時間のやりくりに苦労し、やめるか続けるか悩んだ経験がある人も多いことだろう。大槻氏もそんなひとりだったが、初志貫徹で合格を勝ち取ることができた。その勝因は何だったのかを尋ねると、大槻氏はTACの会員証の束を見せてくれた。
「税理士の簿記論から、最近受講した宅地建物取引士のものまで取ってあるのですが、こうしてみると結構なボリュームですよね(笑)。でも『取らなければよかった』と思った資格はひとつもないです。せっかく自分の大切なお金と時間を投資したのだから、途中でやめるのはもったいない。会員証を見ると初心に戻れるので捨てられないですね」
 難関の税理士試験に働きながら合格したことで、地頭がいいと勘違いされることもあると大槻氏は語る。
「私はそもそも勉強が好きではなく、出身大学の偏差値も高くありません。ではなぜ合格できたかといえば、TACのような受験指導校でキッチリ型にはめてもらい、合格レベルまで底上げしてもらったからだと思います。カリキュラムに沿って勉強さえすれば、あとは自分の気持ち次第。難関試験と言われていますが、人間の作った問題ですから、必ず答えはあり、解けないということはないはずです」
 環境を整えて努力さえすれば、誰にでもチャンスはあると大槻氏は断言する。そのチャンスをつかむために、「勉強を続けざるを得ない状況」に自分を追い込むことが重要だと教えてくれた。
「『いつまでに合格します』と家庭や職場で宣言するのは効果的です。あとは、月単位、日単位、分単位で勉強時間を確保してしまうのも有効でした。例えば、繁忙期に入る前の9〜12月にその年の試験範囲をあらかた終わらせていましたし、就業前の2時間は会社近くのカフェで勉強をしていました。電車では座ると必ず寝てしまうので、あえて優先席の前に立って理論テキストを読んでいましたね。勉強嫌いで怠け者の私でもできたことなので、習慣化がカギなのだと思います。コロナ禍の中、精神的にもつらい状況だと思いますが、思い切ってスマートフォンを封印したり、ステイホームで生まれた時間をすべて勉強に費やしたり……。とにかく勉強時間の確保が合格への近道になるはずです。私も引き続きスキルアップのための勉強を続けますので、一緒にがんばっていきましょう!」

[『TACNEWS』 2021年5月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]

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