LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #19

 
Profile

岡本 享大(おかもと たかひろ)氏

大手鉄道会社勤務
中小企業診断士

1993年3月生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学法学部 政治学科卒業。大手鉄道会社に就職後、新規事業企画を担当。ビジネス全般を体系的に学びたいと考え、2016年、中小企業診断士試験の学習を開始。2017年12月に合格し、実務補習を経て2018年4月に登録。自社の新規事業企画にとどまらず、資格を活かしたコンサルティング活動でも手腕を発揮する。

【岡本氏の経歴】

2015年 22歳 新卒で大手鉄道会社に就職。新規事業企画に携わり、経営層向けの資料作りを担当。
2016年 23歳 ビジネスを体系的に学ぶべく、2月頃から、TACで中小企業診断士の学習を開始。
2017年 24歳 9月に1次試験、12月に2次試験合格を果たす。中小企業診断士試験の学習で身につけた知識は、普段の仕事にも活きていると実感。
2018年 25歳 中小企業診断士の試験に合格後、実務補習に参加。4月、中小企業診断士として登録以降、社外でのコンサルティングなどさらなる活躍の場を広げている。

入社2年目、ビジネス全般を学ぼうと、中小企業診断士の資格に挑戦。
資格を手にし、活躍の場が広がった。

 ビジネス全般に関する知識を体系的に学ぶことができる中小企業診断士資格。経験を積んだビジネスパーソンが将来のステップアップを視野に入れ、取得をめざすケースが多いこの資格に、入社2年目にして挑戦したのが、岡本享大氏だ。
 資格を手にした現在、身につけた知識を活かして勤務先で活躍する一方、普段の業務を離れてのコンサルティング活動にも情熱を傾けている。そんな岡本氏に、資格取得のきっかけ、この資格の強み、魅力をうかがった。

新規事業の企画に携わり、ビジネス全般を学ぶ必要性を感じた

 若手ビジネスパーソンの岡本氏は、自身のアイデアや企画力を強みとして、世界を楽しいものに変えていこうと思いを巡らせている――。今でこそビジネスの現場で活躍する岡本氏だが、大学在学中は勉強よりもアルバイトや海外旅行に熱中し、将来について本格的に考え始めたのは就職活動がきっかけだった。

「社会に出ていくにあたってまず考えたのは、お客様の笑顔が見られる仕事がしたい、ということでした。その観点から、就職活動ではB to C業態の会社を中心として、幅広い業界を見て回っていました。その頃はちょうど、訪日外国人観光客によるインバウンド消費が盛んになってきた時期。外国の方に日本をもっと好きになってもらえるような仕事に携わりたいな、という思うようになり、自分の中で関心が高まっていったのが、『日本の魅力発信』というテーマでした」

 そうした思いを胸に選んだ就職先は、観光に携わるチャンスもある大手鉄道会社だった。2015年4月に入社後、数ヵ月間の研修を経て配属されたのが、新規事業企画に関わる部署だ。

「最初は、農業に関する新規プロジェクトに携わりました。私が配属される以前から進んでいたプロジェクトで、いよいよ本格的に事業を立ち上げ、具体的な計画や活動に落とし込んでいくという段階でした。そこで私が任されたのは、当社の経営層に事業内容を説明するための資料作りです。メンバーの一員として期待されていたのだと思いますが、右も左もわからず、見よう見まねで資料を作成しましたね。無事、会社から実行承認が下り事業がスタートすると、今度はマーケティングを中心とした業務に携わることになり、ブランド名の決定、価格の設定、販路の確保といった実務に従事しました。ゼロからイチを生み出していく仕事に参加することができましたが、特におもしろかったのは、ブランドのネーミングです。私も意見を求められましたが、昔から人と違うことを考え、新しいアイデアを出していくことは好きでしたから、自分の強みを十分に活かせたと思います」

新規事業の企画や運営に携わるうちに、「ビジネス全般を体系的に学びたい」という強い思いが岡本氏に芽生えた。その目的にかなう資格はないかと探したところ、中小企業診断士(以下、診断士)の資格に目がとまった。

「この資格について調べると、勉強を通じて身につけられるビジネスに関する知識が幅広いと知って、自分の目的にぴったりだと思いました。当時、新入社員としては幅広い仕事に関わるチャンスに恵まれていたものの、自分の経験や知識の不足から、ビジネスの全体像がつかめずに苦労していたからです。このことが自信のなさにもつながり、仕事上のやりとりの中で思い切れない場面もあって……。資格の取得をきっかけに、そうした状況を打開し、自分に対する自信がつけばと考えました」

2016年の春先、まもなく入社2年目に差し掛かろうとする時期から、岡本氏の挑戦は始まった。

有効だったTACの講義とすきま時間の活用
プロモーション戦略の提案でも活躍

 診断士の試験では、経営戦略、組織・人事、マーケティング、財務・会計、生産管理、店舗運営、物流、経済学、IT、法務に関する知識、およびその応用力が問われる。これらの広範な知識を身につけるために岡本氏は、1年半程度かけて合格をめざすTACの「1.5年本科生」コースと、すきま時間をフル活用した。

 「働きながら資格取得をめざしたため、TACの講義、テキスト、問題集は欠かせませんでした。特に学習内容が効率よくまとめられたオリジナルのテキストは、表紙がボロボロになるまで繰り返し読み込んでいましたね。合格するには知識を維持し続けることが必要なので、私は自作の単語カードを活用していました。このカードを普段から持ち歩き、就寝前や起床後のちょっとした時間、電車での移動中、入浴時などのすきま時間にチェックするのです。こうした工夫も功を奏し、2017年9月に1次試験に合格することができました」

 だが、喜びも束の間、次に立ちはだかるのが2次試験だ。事例に関する記述試験と口述試験が課せられる2次試験は、1次試験合格が判明してからおよそ2ヵ月後に控えているため、短期間で仕上げていかなくてはならない。

 「限られた時間での対策は大変で、難しい問題も多いのですが、企業が抱える課題に対して解決策を考えることは楽しかったですね。また、記述試験に向けた自分なりの戦略として、得意とするマーケティングの問題で高得点をねらい、やや苦労していた財務・会計の問題は、基本をしっかりと押さえ手堅く得点しよう、と考えていました」

 そうして10月末の記述試験に挑み、12月の合格発表を待った。

 「やはり財務・会計は自信がなく、試験の手応えはほとんどありませんでしたね。結果は厳しいかなという気持ちが強かったです。合格発表の日はドイツのフランクフルトにいました。試験に関することから離れたい一心で、休暇を利用して現地の友人を訪ねていたのです。日本時間で午前10時、現地時間で深夜の発表をスマートフォンから恐る恐る確認し、合格がわかったときは本当にうれしかったですね。しかし、次は口述試験が控えています。少しは対策しなければと、帰りの飛行機の中で慌てて勉強しました」

 その後、口述試験も突破して2次試験の合格を果たした岡本氏は、診断士登録をするために課せられている実務補習に臨み、指導員のもとで実在の企業に対するコンサルティングを経験した。企業へのヒアリングをもとに経営状況を分析し、本格的な経営強化の提案を行ったことには、気づきや学びも多かった。

 「実務補習では5人で1つのチームを組み、リーダー担当や財務担当のほかいくつかの担当を決めて、それぞれの役割を受け持ちます。私は1社目の企業で得意だったマーケティングを担当して、プロモーション戦略を提案しました。SNSを絡めた企画を説明したところ、今までになかった視点だとその企業から評価され、うれしかったですね。実務補習を通じて、経営コンサルタントはクライアントが抱える課題に対し、自分がやりたいことではなく、経営陣が実現させたいと望むことを具現化する、そのサポートが求められていることを再認識しました。また、勉強していた時は『点』だった知識が、次第に体系化され『線』になっていくことも実感できました」

資格は次のステージに行くための武器
自分の自信と相手の信用をもたらすもの

 実務補習を終え、2018年4月、岡本氏はいよいよ診断士としての登録を果たした。名刺には「中小企業診断士」の肩書きが入るようになり、今もますます活躍の場を広げている。

「勉強を通じて身につけた知識は、普段の業務に活かせていますし、資格を手にしたことが自信となり、さらに積極的に仕事に取り組めるようになったと感じています。そして会社からも、資格取得以前に比べ、仕事により多くの裁量を持たせてもらえるようになった気がします。現在力を注いでいるのはインバウンドに関する新規事業。入社以来ずっとやってみたかったことでした。企画自体は2年近く前から温めてきて、折を見て上司にも話し、企画書をまとめていた案件です。ようやく企画が通り、事業として立ち上げ、具体的に進んでいます」

 そしてもうひとつ、普段の業務を離れて取り組む活動として、東北地方のある企業へのコンサルティングで手腕を発揮している。

 「就職活動のときからのテーマである『日本の魅力発信』にも通じることですが、地方創生というテーマにはずっと興味を持っていました。当然ながら日本の魅力は全国各地にありますので、その魅力を引き出すことで、地方の活性化に少しでも寄与したいと考えていました。そこで、診断士に登録後、資格を活かして自分が役に立てることはないかとウェブで調べていたところ、地方自治体による事業の一環で、農業参入を検討している仲卸業を営むある企業のサポートを担う人材を募集しているのを見つけたのです。自分に手伝えることがあればとの思いで応募したところ、面接を経て経営コンサルタントとして採用されました」

 採用後は、2、3ヵ月に一度の頻度でその企業を訪問して課題や要望をヒアリングし、農産物のブランド戦略を踏まえた提案を行ってきた。 「この企業は現在、農業参入に向けた準備を進めていますが、さらに近い将来、会社の取り組みをもっと広く知ってもらうための関連事業も立ち上げようと計画しています」

 コンサルティングに携わる時、岡本氏は大切にしていることがある。

 「相手と同じビジョンを共有するということです。将来どうなりたいか。どんな世界にしていきたいか。同じ夢を抱き、一緒に歩む姿勢を大事にしています。具体的な事業や施策に落とし込むのはそれからです。この企業と関わるようになり、私自身非常に恵まれていると感じたのが、皆さんがとても情熱的だったこと。私の提案やアイデアもおもしろがっていただけているようです。分け隔てなく、フラットに接して下さることもありがたいですね。裏を返せば、それだけ期待されているということであり、やりがいを感じています」

 穏やかな口ぶりだが、熱い思いを語ってくれた岡本氏はこれからも、アイデアを形にする仕事に力を尽くしたい考えだ。「勤務先での業務や実務補習、さきほどお話しした企業のサポートを通じて、自分の強みであり、今後も挑戦していきたいのはやはり、ゼロからイチを生み出す仕事だということを実感しました。斬新なアイデアを具現化して、世の中を楽しいものにしたいですね」と目を輝かせる。こうした、自身の「やりたいこと」を実現するために、診断士の資格はこの先も力強い支えとなっていくに違いない。岡本氏にとってこの資格は、どんな存在だったか――。

 「次のステージに行くための強い武器になってくれる存在だと思います。資格自体が働いてくれるわけではないですが、自分が成し遂げたいこと、挑戦したいことに取り組む時に、ひとつの大きな味方となってくれるものだと思います。コンサルティングに携わる場合も、仕事において圧倒的な実績を残してきた方は別ですが、資格があることで自信を持つことができ、また相手の信用を得るきっかけのひとつにもなるのではないでしょうか。診断士の資格取得を通じて身につけられる知識は、ビジネスパーソンにとって仕事に活きることは間違いなく、挑戦のしがいがあると思います」

[TACNEWS 2020年3月|連載|資格で開いた「未来への扉」]