LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #17

Profile

髙橋 龍生(たかはし りゅうせい)氏

日興リサーチセンター株式会社勤務
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)2次試験合格者

1996年9月生まれ。埼玉県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。大学在学中に日本証券 アナリスト協会認定アナリスト(CMA)1次・2次試 験に合格。CFA Ⓡ資格取得にも挑戦し、2019年2月 にLevel 1、同年8月にLevel 2に合格した。2019 年4月、SMBC日興証券株式会社に入社し、現在は グループ会社の日興リサーチセンター株式会社で、 ESG投資・評価に関する調査や分析などで手腕を 発揮する。

【髙橋氏の経歴】

2016年 19歳 大学2年生の夏頃から、証券アナリスト資格の取得に向けて勉強を開始。
2017年 20歳 5月、証券アナリスト1次試験に合格。 夏に参加したインターンシップでは、 ESG(環境・社会・ガバナンス)の考え方に
        触れ、興味を抱く。
2018年 21歳 6月、SMBC日興証券株式会社に 内々定が決まる。8月、証券アナリスト2次試験に合格。
2019年 22歳 CFAⓇ資格の取得に挑戦し、大学卒業直前の2月にLevel 1に合格。入社後の8月にはLevel 2に合格。
        現在、Level 3の合格に向けて勉強中。仕事でも、ESG投資・評価に関する業務で手腕を発揮する。

就職活動や将来に活かそうと挑戦した証券アナリストの資格。その知識は、希望する会社への内定につながった。

 投資の意思決定過程に参画するプロフェッショナルとして認められるうえで欠かせないのが、日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)資格だ。資産運用業界で働く人には必須とされるこの資格に、髙橋龍生氏は大学在学中に挑戦し、みごと1次試験に合格。これを強みに臨んだ就職活動では、希望する会社への内定、 入社につながった。現在、念願の仕事に自信を持って取り組むかたわら、次なるステップとしてCFA協会認定証券アナリスト(CFAⓇ)資格の取得もめざす髙橋氏に、資格の魅力をうかがった。

父親の勧めをきっかけに挑戦 資格の勉強を通じ、将来の方向性が定まった

 自分は将来、どんな仕事をしたいか。何者となり、 どうやって成長していきたいか。いつかは進路を見定めて、きちんと考えなければならないけれど、すぐに決められるようなものでもない――。髙橋氏もかつては、どちらかといえば、そんな考えの平均的な大学生の一人だった。

 「進学した早稲田大学では、1年生の頃はサークル活動やアルバイト中心の学生生活を満喫していました。意識が変わり始めたのは、2年生の夏頃からです。当時もまだ、具体的に何をやりたいかまでは見えていませんでしたが、父親が資産運用会社に勤めている影響で、将来は自分も金融業界で働けたら、という漠然とした思いがありました」

 進路を考え始めていたちょうどその頃、父親から 「就職活動で役立つのでは」と勧められたのが、 日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)資格(以下、証券アナリスト)だ。髙橋氏自身も「大学時代を遊んでいるばかりではなく、何かを達成したい」 という気持ちが強くなり、資格取得を決意した。

 この資格は、投資の意思決定過程に参画するプロフェッショナルとしての専門知識を身につけられるため、資産運用業界で働く社会人が取得をめざ すケースが多い。資格を取得するまでには、試験を主催する日本証券アナリスト協会による通信教育講座の受講と、1次試験および2次試験が課せられている。

 「学習に際しては、TACのWeb通信講座も活用しました。試験で核となる証券分析の理論や財務会計について、ほとんど知識がない状態で、初学の私 が協会の教材だけで勉強するのはハードルが高 かったからです。普段は大学の授業もあるため、空き時間に自分のペースで進められるWeb通信講座 は私にぴったりでした。講師の皆さんが、難しい部分も噛み砕いて教えてくださり、とてもわかりやすかったです」

 社会人向けのこの資格に挑戦するにあたり、苦労したのは財務会計の分野だったという。

 「会計系の科目はとくに覚えることが多かったからです。当時は大学生で実務経験もなく、イメージしにくいところもありました。そのため、とにかく理解できるまでTACのテキストを読み込みました。わからない用語はその都度調べ、父親にもよく質問しました。 基礎的な部分は、地道な繰り返しによって、知識の定着につながったのだと思います」

 こうして2017年5月、3年生に進級して間もない時期に、まずは1次試験に合格することができた。 その後は、2次試験に向けた学習に加えて、大学ではゼミを中心とする学業に力を注ぎ、一方では就職活動に向けた準備を本格化させるなど、忙しい日々を送った。

 就職に関していえば、資格の勉強を通じ、企業の価値を評価し分析するおもしろさに触れたことから、資産運用の業界へ進む意思を固めていた。そこ で同じ年の夏、資産運用会社のインターンシップへ の参加を決める。このときに髙橋氏は、自分が将来やってみたい仕事と出会うことになった。

1次試験合格を携えて臨んだ就職活動 一定の証券投資の知識をアピール

 「参加したインターンシップでは、ある企業のESGレポートを読み解き、分析するという課題が出されま した。その日の課題はごく簡単なものでしたが、私の人生に影響を与えたといえる出来事でした」

 ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を合わせた言葉だ。これまで企業の評価は、財務情報に主眼が置かれがちだったが、近年では非財務情報である ESGに配慮している企業は持続的な成長が見込める、ととらえられている。欧米を中心に急速に広まってきた考え方で、日本では2017年頃から、このESGの要素を考慮して企業価値を推定する動きが活発になり始めて いた。

 「インターンシップで初めてESG の考え方を知り、 ESGがどのように企業価値に影響を与えるのか、興味を持ちました。 しかも新しい考え方ですから、十分に理論化されているわけでもなくて、まさにこれから研究が進んでいこうという段階で、これはおもしろいと感じました。できれば仕事でも、ESG関連の専門的な分析などに取り組みたい、と考えるようになりました」

 思いがけない縁とは続くもので、髙橋氏がESG 投資・評価への関心を深めていた同じ年の冬、日本証券アナリスト協会発行の月刊機関誌『証券アナリストジャーナル』に、ESG投資に関する論文が掲載された。そして、読んだ論文の中でも、とくに興味を持った執筆者の所属する会社が、同時期にイン ターンを募集していたのだ。髙橋氏はすぐに参加して、同社の雰囲気や仕事内容に触れ、「ここで働きたい」という思いを強める。

 結論からいえば、その会社こそ、髙橋氏がのちに入社する日興リサーチセンターSMBC日興証券のグループ会社だ。

 「インターンシップを終えたあと、採用面接に臨みました。驚いたのは、面接官の方が、私が読んだあの論文の執筆者だったのです!面接で私は、証券アナリスト資格の1次試験に合格していて、すでに 一定の証券投資の知識があることをアピールして いきました。また、入社後はぜひESG投資・評価に関 連する業務に携わりたい、という思いも伝えました。 面接はいい雰囲気で、面接官の方が2次試験に向けたアドバイスをしてくれたことも覚えています。実 はその方が現在の私の上司です」

 そして2018年6月、希望していたSMBC日興証券から内々定を得ることができた。「ESG関連の仕事を することになれば、大学院で修士課程を修めるくらいの高い専門性や知識が求められるため、自分の ような学部卒の人材は採らないかもしれない……。そんな不安な気持ちもあったので、内々定の連絡を受けたときはうれしかったです。資格が強みになっ たのかなと思いました。ただ、その数日後に2次試験を控えていて、なにかと苦しい時期ではありました」。 うれしい気持ちをいったん保留して試験に臨み、8月には2次試験の合格が判明した。

 「2次試験は難易度が上がり、知識の正確な理解と、それに伴う応用力が問われます。難しい問題もけっこうありましたね。やるべきことはやった、という 思いで発表を待っていたので、合格がわかってホッ としました。時間に余裕のある学生のうちに合格できたことも、よかったです。資格を勧めてくれた父親 も喜んでくれました」

 思えば、当初は父親の勧めからスタートした証券 アナリスト資格の取得だったが、さまざまな出会い、 経験、影響が相互に作用して、髙橋氏の将来のビ ジョンは次第に明確になっていった。そんな彼が次 に考えたのは、アメリカの証券アナリスト資格であ る、CFA協会認定証券アナリスト(CFAⓇ)資格(以 下、CFAⓇ)への挑戦だ。

 「きっかけは、これまで申し上げてきたESGへの興味関心にもつながります。というのは、ESGの考え方 が広まるようになった発端が、世界の金融の中心地 である欧米のため、彼らと同じ観点で金融を学び、 知識を深めたほうが、のちの仕事にも役立つのでは と考えたからです」

 CFAⓇも、Level1、Level2、Level3と段階を踏んで受験していくが、Level1は問題文が英語であるこ とを除けば、日本の証券アナリスト試験と学習内容 が重なる部分も少なくない。2次試験までの学習ですでに広範な証券投資の知識を身につけていた髙橋氏にとっては、取り組みやすい勉強だった。

 「大学時代、英語論文を読んで発表するゼミに 参加して鍛えられていたので、英語に抵抗はありませんでした。試験の問題文も、近年は英語を母国語としないアジア圏の受験者も増えているため、比較的わかりやすい英語で書かれていました。Level1には2019年2月、つまり社会人になる直前に合格できました。その後も働きながら勉強を続けています」

試験に合格して終わりではない 資格は、次の行動に移すために必要なもの

2019年4月から社会人となった髙橋氏は、新人研修を経て、SMBC日興証券のグループ会社にあたる日興リサーチセンターに配属され、現在は自信を持って仕事に取り組んでいる。

 「希望が叶って、ESG投資・評価に関する調査や分析、そしてESG情報開示支援サービスに取り組んでいます。私たちの支援サービスでは、資金を調達するために債券を発行する企業(発行体企業)のESG情報開示を支援するために、情報開示 スタンダードに沿ったマテリアリティ(重要課題)と KP(I 評価指標)を抽出してレポートを作成し、企業へ提供や報告を行っています」

 近年、投資家の間でESGに関する情報開示の需要が高まるにつれて、企業の意識も高くなり、支援 サービスへの依頼は増えてきているようだ。それだけに、日々取り組む分析や資料作成の仕事には、ひときわ力が入る。

 「ESGにはいくつかのポイントがあり、会社ごとに重要となる開示項目も異なります。それらを踏まえて自分で作成した分析資料を、発行体企業の担当者の方に読んでいただけることには、やりがいを感じます」

 ほかにも、語学力を活かし、海外の企業がどのようにESG情報を開示しているかをリサーチする業務も任されている。「どこに必要な情報が書かれているかを探し出すことが、とにかく大変です」。また、日々の業務と並行して、CFAⓇの勉強も継続している。2019年6月に受験したLevel2は合格を果たし、現在は2020年6月に控えるLevel3に向けた準備に余念がない。本人は「Level3は、実際の運用戦略など、より実務に沿った内容が盛り込まれ、興味をもって取り組んでいます」と話す。

 一方では、身につけた幅広い知識を駆使しながら、いずれ挑戦してみたい仕事もある。

 「企業の格づけやESG評価については、グローバルスタンダード(世界基準)が確立されていますが、日本企業のESG評価がその基準で測れるのか、という課題意識を持っています。欧米と日本では文化も風習も歴史も違いますので、日本独自の指標やアプローチ方法があってもいいのではないか、と考えられます。チャンスがあれば、日本の実情に沿ったESG評価の手法を生み出せたらなと思います。また、身につけた知識をさらに活かせる仕事にも挑戦していきたいですね」

 力を込めて熱く語る髙橋氏が、こうした興味ある仕事と向き合えているのは、証券アナリスト資格があったからこそだ。彼にとっての資格は「スタートラインに立つために必要なものだった」と振り返る。

 「試験に合格し、資格を取得して終わりではありません。資格は、次の行動に移すために必要なも のだと思います。資格を持つことで、専門的な知識 を備えていることの証明となれば、大事な仕事を任されるチャンスにもつながるでしょう。金融業界を志望する学生の皆さんには、希望する仕事に就く可能性を広げてくれる証券アナリスト資格の取得を、 ぜひお勧めしたいと思います」

[TACNEWS 2020年1月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]