LET'S GO TO THE NEXT STAGE 資格で開いた「未来」への扉 #11

  
Profile

古川 理紗(ふるかわ りさ)氏

日商簿記1級合格者

1987年7月生まれ。千葉県出身。大学を中退したのち、勤務先の大手外食チェーンで時間帯責任者を任されるようになると、簿記の知識を駆使して店舗管理に手腕を発揮。税理士をめざすために前職を退職したのち、2016年11月、日商簿記1級に合格。2017年8月、税理士試験「簿記論」「財務諸表論」に科目合格。現在、明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 税務専修コース在学中。

【古川氏の経歴】

2008年 21歳 日商簿記2級に合格。身につけた知識を店舗管理の業務に活かす。
2015年 28歳 10月、大学卒業資格取得を決意し、3年次への大学編入を視野に入れ、自由が丘産能短期大学に入学。
2016年 28歳 3月、5年間で税理士試験を突破する計画を立て、前職の退職を決断。日商簿記1級の合格を最初の目標に。
2016年 29歳 11月、日商簿記1級に合格。5年間で税理士試験を突破する計画が現実味を帯びる。
2017年 30歳 8月、税理士試験「簿記論」「財務諸表論」に科目合格。以後、税法科目の学習に取り組む。
2018年 30歳 4月、明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 税務専修コースに入学。現在、自身の勉強のかたわら、大学の簿記論の授業で講師補助に携わる。

人生の岐路に立ち、考え始めたキャリアプラン。
日商簿記1級合格は、夢への「特急券」になった。

 会計系資格でまず思い浮かぶ、日商簿記検定。なかでも1級は、より専門性の高い公認会計士試験や税理士試験への登竜門でもあります。古川理紗さんは「1級の合格で、一気に道が拓けていきました」と話します。簿記資格の取得をめざしたきっかけや簿記の魅力、今後の目標について話をうかがいます。

「木を見て森を見ず」とならないように

古川さんの人生を左右することになる簿記との出会いは、高校3年生の時。「友達が簿記を勉強していて、おもしろそうだと感じたことがきっかけでした。実家が会計事務所と社会保険労務士事務所を営んでいて、会計用語を日常的に聞いていたこともあり、気になっていたのかもしれませんね。この時は、お小遣い帳の延長が簿記、くらいのイメージでしたけれど(笑)」。興味を持って、大学進学後から勉強を始め、まずは日商簿記3級の合格を手にします。

その後、事情があって大学を中退すると、21歳の時に、当時働いていた大手外食チェーンの店舗で、時間帯責任者を任されるようになりました。その時に「日商簿記2級も学びたい」という思いを深めます。

「店舗の管理業務に関わるようになり、売上等の精算業務、人時売上高、食材ロスなどについて店長と話す機会が増えてきたのです。もっと簿記の知識を深めたら、業務に役立つかもしれないと思い、日商簿記2級を取得。そのおかげで、店舗のお金の流れを詳しく把握できるようになりました」

身につけた知識もフルに活かして働いていた古川さんは、この仕事が好きで、のちに契約社員となりました。しかし、20代の後半にさしかかり、将来のキャリアプランと真剣に向き合うようになります。

考え抜いたのち、税務の知識を強みとして企業をサポートする関わり方に魅力を感じ、税理士をめざすことを決断します。その最初のハードルが、日商簿記1級でした。合格すると、短大卒業を待たずに税理士試験の受験資格をいち早く得られることや、日商簿記1級と税理士試験の会計科目と試験範囲は重なるところが多く、効率的な学習につながることに着目して取り組んだのです。

「1級は2級以上に難しくなりますが、外食チェーンで働いていた時に、月次の店舗管理表(試算表)の推移分析に携わった経験が生きました。苦戦したのは、財務会計の分野。たとえば、連結会計は複雑で……。役立ったのは、TACの教材『合格テキスト』に載っている『設例』でした。基本問題にあたるこの部分を、授業に臨む前には必ず、すべてを読み込むようにしていました。全体像をつかんでから受講することで、木を見て森を見ず、とならずに理解を深めることができました」

そうした努力が実り、2016年11月に日商簿記1級に挑戦して、合格を果たします。「点数としてはギリギリでした。今振り返ると、合格できたのは、心の中で悲鳴を上げながらもがんばった最後の追い込みや、先生方の指導、答案練習、教材のおかげですね」。その後、税理士試験の会計科目「簿記論」「財務諸表論」に同時合格を果たすなど、順調にステップアップしています。

簿記を学ぶと、世の中の見え方が変わる

古川さんは現在、明治大学専門職大学院に在学中で、「組織再編税制」をテーマに研究に取り組んでいます。実は、大学院進学の際に、日商簿記1級の合格が大きく役に立ちました。

「大学院入試を受けるには、一般的には大卒が条件になりますが、私の場合は短大卒業と日商簿記1級合格で、受験資格を個人的に認めてもらうことができたのです。入試も財務会計と管理会計の筆記試験が免除となり、小論文と面接で突破できました」

大学院では学ぶかたわら、税理士試験に向けて、現在とくに集中して取り組んでいるのが税法科目の「法人税」です。もっとも古川さんは、5年間は集中して、税理士として必要な知識を身につけたいと、それ以外の税法科目の勉強にも打ち込んでいます。いずれ挑戦してみたい仕事もあるそうで、上場企業の税務を扱う税理士法人に関心を寄せています。

「チャンスがあれば、外食産業に携われたらいいな、と。外食チェーンで働いていたからこそ簿記の実用性に触れることができて、税理士をめざすきっかけにもなりました。お世話になった気持ちが強いので、恩返しができたらなと考えています。こうしたキャリアプランを描けるようになったのは、日商簿記1級に合格したからこそですね。1級の合格は夢への道を切り開いてくれる特急券だったのかなと思います。合格後、特急列車に乗ったかのように、一気に道が拓けていきました」

人生の道筋をつけてくれた簿記――。その魅力について、笑顔でこう話してくれました。

「私は簿記を学び、世の中の見え方が変わりました。最初はとっつきにくいかもしれません。でも、勉強すると親近感が湧き、社会の仕組みが見えてきます。それが簿記の魅力です。ビジネスパーソンにとっても、日商簿記2級レベルの簿記や会計の知識があれば、ビジネスを俯瞰して見ることができるので、仕事にも活かせるのではないでしょうか。簿記は職種や年齢を問わず、ぜひ挑戦してほしい資格です」

[TACNEWS 2019年7月号|連載|資格で開いた「未来への扉」]