プロが教える!第8回 お金編 病気やけがで働けなくなったときに備える保険

  

ファイナンシャル・プランナー(FP)は、お金に関する幅広い知識に基づいて暮らしや家計についての相談に応え、相談者の夢や目標の実現をサポートする専門家です。今回は、保険をテーマにお話しします。

◆最近注目の保険とは

いざというときに頼りになるのが保険。世帯主が死亡したときに遺族の生活を支える死亡保険や、病気やけがによる医療費の支払いに備える医療保険などに加入している人は多いと思いますが、最近注目されているのは、世帯主が病気やけがで働けなくなったときに家族の生活費などを保障するための保険で、就業不能保険や所得補償保険といった商品です。TVCMで見たことがある人も多いでしょう。
 病気やけがで長期間働けなくなってしまった場合、所定の高度障害状態に該当しない限り死亡保険からの保険金はもらえませんし、医療保険からの給付も入院・手術などの医療費はカバーできるものの長期の療養期間の生活費まではまかなえません。また、マイホームを購入して住宅ローンを払っている場合、通常は団信(団体信用生命保険)に加入しているため、ローンの債務者が死亡するとローン残債の返済が不要となりますが、病気やけがで働けなくなった場合には、収入が大幅に減少したとしてもそれまでどおりの返済が必要となります。
 このように、世帯主が病気やけがで働けなくなり収入がなくなったり減少したりしたときでも、家族の生活費やローンの返済などに使えるお金を毎月受け取れ、それまでの生活水準を維持できるように備えるための保険が就業不能保険や所得補償保険です。入院や在宅療養など保険会社が定める所定の就業不能状態になって一定期間を経過したときに、その就業不能状態が解消されるまでの間、毎月一定の金額を受け取れます。
 ちなみに、生命保険文化センターが行った「平成30年度生命保険に関する全国実態調査〈速報版〉」によると、「生活障害・就業不能保障保険、生活障害・就業不能保障特約」(今回テーマにしている保険商品のこと)に対する世帯加入率は12%です。生命保険の世帯加入率88.7%と比べるとまだまだ低い加入率ですが、今後加入率が高まってくることが想定されます。
 なお、就業不能保険と所得補償保険はどちらも働けなくなったときの収入の減少を補うものですが、生命保険会社が販売しているものが就業不能保険、損害保険会社が販売しているものが所得補償保険となります。

◆加入する場合の注意点

このような就業不能保険や所得補償保険に加入するときに確認したいポイントをお話しします。まず、公的な保障を前提に加入の要否や保険金額等の設定を検討することです。病気やけがで働けなくなった場合でも、会社員の場合であれば、まずは有給を消化し、その後も復帰できないときには、加入している健康保険から傷病手当金を最大1年6か月の間受給することができます。傷病手当金の金額はおよそ月収の3分の2ですが、傷病手当金は非課税となります(社会保険料の負担は必要)。また、傷病手当金の支給期間が終了となった後も、病気やけがの状態によっては障害年金をもらえる場合もあります。勤務先によっては、独自の休業補償制度を採用している可能性もあります。これらの公的保障等を受けられることを前提にして、それでも不十分だと思える場合に、不足する部分を補えるような保険商品を選ぶことがポイントです。国民健康保険に加入している個人事業主の場合には、会社員のように有給や傷病手当金はありませんので、会社員よりもこのような保険の必要性が高いと言えるでしょう。
 次に、支給期間の確認をしっかりと行い、自分に合った設計の保険を選択することです。商品によって、就業不能状態となった後、いつから支給が開始されるか、いつまで受給できるかが異なります。生命保険会社が販売している就業不能保険の場合、30日~180日程度の所定の期間経過後に受給開始となり、保険期間満了(60歳など)まで就業不能状態が続く限り毎月保険金を受け取れる商品が多いようです。一方、損害保険会社の販売する所得補償保険には、1週間後より保険金を受け取れ、1年~2年程度の短期間のみ受給可能な商品もあり、受給期間が短い分保険料も安くなっています。働けなくなったときに当面の生活費をまかなう貯蓄の有無や保険料の負担等を考慮して、加入する保険商品を選択するとよいでしょう。
 そして、もう一つ注意しておきたいのが、保険金支給の要件となる就業不能状態の確認です。基本的にはどの商品も入院中または医師の指示による在宅療養中の期間を就業不能状態としています。ただし、精神疾患を原因とする場合は対象外としている商品も多いため、うつ病によって会社に行けなくなってしまったような場合には保険金を受け取れない可能性もあります。また、自宅で治療を受けていても、梱包や検品などの軽労働または事務などの業務を行えると判断される場合には在宅療養中とはみなされず、保険金が支給されないこともあります。加入しようとしている商品がどのような要件を満たした場合に保険金が支給されることとなるのか、どのような場合には支給されないのか、約款等でしっかりと確認したうえで契約をしたいところです。

◆間違いやすい保険

就業不能保険や所得補償保険と混同しやすいのが収入保障保険です。名前は所得補償保険と似ていますが、内容はまったく別の商品です。これは、世帯主が死亡したとき(または高度障害状態になったとき)に、その後の収入を保障して家族の生活を支えるための保険です。定期保険など通常の死亡保険では、保険期間中の死亡に対して当初設定した保険金額が一律に一時金として支払われるのに対して、収入保障保険では、死亡した時点から保険期間が満了するまでの間、毎月一定額が支払われます。死亡するタイミングによって年金を受け取れる期間が変わるため、契約してから期間の経過に応じて死亡保障額が徐々に小さくなっていくこととなり、その分支払う保険料を低く抑えることができます。子どもが成長していくにつれ、教育費などの必要額は徐々に少なくなっていくため、効率的な保険と言えるでしょう。こちらも最近よく売れている商品ですが、就業不能保険や所得補償保険とは異なり、病気やけがで働けなくなった場合には原則として保険金が出ませんので、勘違いしないように注意が必要です。

今回は、病気やけがで働けなくなったときに備える就業不能保険・所得補償保険について見てきましたが、より一般的な生命保険や医療保険についても商品によって様々な特約や支払い条件の違いがあり、自分に適した保険を見極めるのはなかなか難しいものです。まずは保険の基本的な仕組みと種類ごとの特徴を知り、検討する保険商品のメリット、デメリットを自分なりに判断できる目を養いたいものです。FPでは、保険の仕組みだけでなく、様々な商品の特徴や税金との関係、相続対策での活用法など、保険について幅広く学ぶことができます。保険の見直しを考えている人は、まずはFPを学んでみることをおすすめしますよ。

[TACNEWS 2019年1月号|連載|プロが教える!]

Profile

FP講座 松田 大

CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー。 FP講座の責任者として日々、試験対策講座の企画・運営に従事。できるだけ多くの人に少しでも早くお金の勉強を始めてもらうべく、マネー知識の必要性を声を「大」にして喧伝中。

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