プロが教える!第6回 お金編 資産運用におけるリスクの考え方

  

ファイナンシャル・プランナー(FP)は、お金に関する幅広い知識に基づいて暮らしや家計についての相談に応え、相談者の夢や目標の実現をサポートする専門家です。前回、老後資金を貯めるために最適なiDeCoとNISAについてお話ししましたが、今回は、引き続き資産運用をテーマにお話しします。

◆資産運用におけるリスクとは

資産運用という言葉は幅広い意味に使えますが、ここでは資産運用=投資として話を進めます。投資とは、リターンを期待してリスクのある対象にお金を投じることです。では、リターンやリスクとはいったい何でしょうか。リターンはわかりやすいと思いますが、投資によって得られる収益のことです。100万円投資して1年後に110万円になれば、10万円、年率10%のリターンを得たことになります。
 一方で、リスクは誤解されやすい言葉です。例えば、激しい運動はケガのリスクを伴う、というように、一般的には「リスク=危険」という意味で使われることが多いと思います。しかし、投資の世界では、リスクとは必ずしも危険(損失)のみを意味するのではなく、結果が不確実であることを意味しています。例えば、100万円投資したときに、1年後に110万円になるかもしれないし、120万円になるかもしれない、このようなときに、この投資にはリスクがある、と言います。逆に、100万円が1年後に確実に90万円になるという投資は、リスクゼロ(不確実性ゼロ)です(誰もこのような金融商品に投資しないと思いますが)。ですから、リスクが大きいとは、不確実性が大きい、ということを意味していて、100万円が50万円や200万円になる可能性が少なくない、という投資はハイリスクな投資と言えるわけです。
 リスクとは不確実性を指しますので、ハイリスク=不確実性が大きい、つまり、リターンのブレ幅が大きいということになり、高いリターンを求めようと思えば、ハイリスクの投資を行う必要があります(ハイリスクハイリターン)。ただし、下方に大きくブレる、つまり大きな損失を被る可能性も少なくありません。一方、リスクの低い投資では、リターンのブレ幅が小さいのでハイリターンを期待することはできませんが、大きな損失も負いにくいということになります(ローリスクローリターン)。

◆リスクの大きさはどうやって測ればよいの?

投資を行う際には、このリスクの考え方が非常に重要になります。いくら儲けたい、ということを先に考えてしまう人が多いと思いますが、それよりも、いくらまでなら損しても許容できるか、を先に考えたほうがよいでしょう。投資したお金が近い将来必ず必要なもの(例えば教育資金など)であれば、許容できる損失はかなり小さなものとなるでしょう。逆に、当面使う予定のない余剰資金を投資しているのであれば、家計上はある程度の損失まで許容できるかもしれません。この場合は、精神衛生上の許容範囲を考慮する必要があるでしょう。
 では、自分が行おうとしている投資にどのくらいのリスクがあるか、どうやって測ればよいのでしょうか。投資の世界では、リスクを標準偏差という数値で表します。いきなり数学の話になって拒絶反応を起こす方もいるかもしれませんが、ここでは標準偏差について細かく説明したりしませんのでご安心ください。
 標準偏差は、結果のバラつきの大きさを表す数値です。学生の頃、テストの成績を偏差値で表していたことを覚えていると思いますが、偏差値は、標準偏差を元に計算した数値で、自分の成績が平均からどの程度離れているかを表すものです。Yahoo!ファイナンスで投資信託を検索すると、1年間のリターンと標準偏差が掲載されています。その他にもいろいろ掲載されていますが、とりあえずこの2つだけ見ておきます。リターンは、その投資信託が1年間でどれだけ(何%)リターンを得られたかを表しています。一方、標準偏差は、1年間でどれだけ(何%)価格が変動したかを表していて、標準偏差が大きいほど、価格の変動幅が大きいことを意味します。

◆標準偏差でリターンのブレ幅を予測できる

もう少し具体的に見ていきましょう。例えば、リターンが5%、標準偏差が10%という投資信託があったとします。リターン5%というのは、この投資信託に投資すると平均的には5%のリターンが期待できるということを意味します。また、標準偏差10%というのは、リターンが5%の上下10%の幅でブレる可能性があるという意味になります。つまり、下に10%ブレると「5%-10%」でマイナス5%、上に10%ブレると「5%+10%」でプラス15%となり、この投資信託のリターンは、概ねマイナス5%~プラス15%の範囲になりそうだということが予想できるというわけです。5%損することもあれば15%儲かることもありそうだ、ということですね。
ところで、標準偏差10%とは、リターンの平均から概ね上下10%の幅でブレる可能性がありそうだということを意味しますが、これがどのくらいの可能性かと言うと、約68%の確率となります。これは、統計学上の一定の前提の下でデータのバラつきを考えた場合に、平均値を中心に標準偏差の分だけ上下した範囲に約68%のデータが収まるという考え方に基づきます。先ほどの例だと、リターンがマイナス5%~プラス15%の範囲に収まる確率が約68%ということですね。
もちろん、それ以上の幅でブレる可能性もありますので、より保守的に考える場合は、標準偏差の2倍、この場合であれば上下20%のブレ幅を想定します。そうすると、統計学上、リターンがこの範囲に収まる確率は約95%となります。平均5%の上下20%ですので、95%の確率でリターンはマイナス15%~プラス25%の範囲内に収まると考えることができ、1年間で最大15%の損失を想定しておけばよいということになります。標準偏差を3倍(上下30%)すれば99.7%の確率でその範囲に収まると考えられますので、さらに確実です。
 このように、標準偏差を見れば、その投資にどの程度のリスクがあるか、つまり、将来のリターンが(マイナスも含めて)どの程度の幅でブレるのかを予測することができます。投資信託への投資を考えるとき、自分が許容できる最大の損失額が、上記の考え方に基づいて計算したブレ幅の範囲に収まるかどうか、という視点で商品を検討してみてはいかがでしょうか。前回お話ししたiDeCoやつみたてNISAでは、投資信託が主な選択肢となりますので、投資に何となく不安を感じている方は、今回のお話を参考にぜひいろいろな商品を見てみてください。とは言え、あくまでも過去の一定期間のデータに基づいて計算した数値ですので、将来も必ずその状況が当てはまるとは限らないことには留意してくださいね。投資信託の評価など金融・経済の情報発信を行っているモーニングスターのサイトでは、長期間における平均リターンや標準偏差なども掲載されていますので参考にしてみてください。
 なお、株式や債券の個別銘柄へ投資をしようとする場合、投資信託のように標準偏差を直接確認できるサイトなどはあまり見かけません。その気になれば自分で算出することも可能ですが、ややハードルが高いと思います。その場合は、例えば、過去10年間の値動きを見て、その期間でもっとも低い価格まで値下がりしたとした場合の損失額が許容できるかどうか、といった観点でリスクを検討してみてもよいでしょう。

 FPでは、様々な投資指標の見方や分散投資の考え方など資産運用に役立つ知識をたくさん学べます。金融商品への投資をはじめる前に、まずは自分自身への投資をしてみてはいかがでしょうか。それがもっともローリスクでハイリターンな投資なのかもしれません。

※本記事の情報等は、特定の商品や投資手法を推奨するものではありません。

[TACNEWS 2018年11月号|連載|プロが教える!]

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FP講座 松田 大

CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、1級DCプランナー。
FP講座の責任者として日々、試験対策講座の企画・運営に従事。できるだけ多くの人に少しでも早くお金の勉強を始めてもらうべく、マネー知識の必要性を声を「大」にして喧伝中。

  

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