タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第33回テーマ 暦年贈与廃止は税理士の敵か味方か?

監 子 税太君、先月のオンラインデートの話なんだけど。


税 太 あ、先月号を読んでいない読者の方へ説明すると、監子さんがマッチングアプリでいいなと思った人とオンラインデートするって話でしたね?結果、どうだったんですか?


監 子 悔しいけど誰かさんの見立て通り現実は厳しくてダメだった!オンラインで話していたときは盛り上がって、後で贈りたいものがあるって言うからワクワクしてたのに、あとでLINE見たらなぜか象さんのスタンプがあるだけ。意味がプー!(# ゚Д゚)


襟 糸 「機会はどの場所にもある。釣針を垂れて常に用意せよ。釣れまいと思う所に常に魚あり」byオウィディウス。


監 子 あら、襟糸先輩、いつもは名言を使って怒らせてくるくせに今回は励ましてくれるのね。


襟 糸 2000年以上前の古代ローマの天才詩人だってこう言っているのだ。釣糸をどんどん垂らすべきだな。むしろ釣糸に豪華な餌を付けて監子君から贈り物をしたらどうだ?


監 子 貢ぎ物ってことでしょ?それはダメ。またダメ男にはまってしまうから。


襟 糸 贈り物や貢ぎ物で思い出したが、税太君、この間の税制改正大綱で発表された、暦年贈与が廃止される可能性についてお客様にご案内したか?田久巣代表からも指示があっただろ?


税 太 年間110万円までの贈与税の非課税枠を利用して少しずつ贈与を行うっていう、相続税の節税対策が使えなくなるかもという話ですよね。特に資産家の財前様はまさに我々の提案で相続対策として毎年少しずつお子さんやお孫さんに贈与していたので、びっくりしていました。「お宅の提案だったでしょ?」って言われたときはドキっとしましたが、「まだどうなるかわからないから」ってことで矛を収められてほっとしました。


監 子 私が以前IPO(株式公開)のお手伝いをした外資系企業の経営者の方は、日本も今後は欧米と同様に相続と贈与が一体になって、いつ生前贈与をしても結局相続のときに加算されるようになるんじゃないかって。この間一緒にお仕事した金融機関の方も、制度の廃止によって富裕層向けの金融商品に影響がないか心配していたわ。


田久巣 フフフ、乱入して失敬。盛り上がっているようだね。ここで1つ質問だ。なぜ政府はこのような暦年課税制度(1~12月の1年間に受けた贈与に対して課税する制度。ただし、受贈者1人あたり年間110万円までは非課税となる)を改正しようとしているんだと思う?


襟 糸 大綱には資産の移転をより早いタイミングで行うよう促進するためと書いてあります。今の制度では、長期間かけて少しずつ贈与すれば節税できるので、資産の移転が抑制されペースが遅くなるからじゃないかと。


税 太 僕としては、単純に富裕層が生前対策で贈与を巧みに使って相続税を節税すると政府の税収が減ってしまって困るからだと思います。資産の移転が遅れるっていうのは後づけの理由のような気もしますね。たくさんお金を使って経済を回すべきという考えはわかりますが、僕だったらやっぱり自分の家計を優先して考えちゃいますから。


田久巣 フフフ、税太君、さすが家計を背負っているだけに鋭いね。確かにそれは僕も思うよ。ただもちろん大義もあるから襟糸君も正解だ。ちなみに、監子君がオンラインデートした彼氏も正解じゃないかな?


監 子 いや彼氏じゃないですよ!ん?正解ってどういうことですか?


田久巣 贈りものをしたい、つまり君に贈与(ぞうよ)したいってことでしょ?象のスタンプを送って、これが「象よ(ぞうよ)」って。洒落(シャレ)が効いていて粋じゃないか!


監 子 代表、それは恐縮ながら不正解です…。女性は洒「落」では「落」ちないんです!あら、これも漢字のダジャレ?(笑)



【今回のポイント】

「贈与税は相続税の補完としての役割を果たしている」。税理士試験で相続税法を勉強している方にとっては馴染み深いフレーズだろう。しかし上の話の通り、この馴染み深い常識が非常識になる時代が来るかもしれないのだ。もともと民法では特別受益という考え方があり、遺産分割で不公平にならないように、特定の誰かに特別な贈与があった場合は相続財産にそのままプラスして遺産の分け方を考えるというルールもあるが、今回の大綱で示唆された暦年課税制度の改正や相続と贈与の一体化によって、このような考え方に近づくのかもしれない。さて、ここでタイトルの質問だが、答えは「味方になる」だと思っている。贈与を表すGiftには「天賦の才能」という意味がある一方、ドイツ語になると「毒」という意味に変わる。ただでさえ薬にも毒にもなる複雑な構造を持った贈与。改正されれば税理士のような専門家でなければ対応が難しくなるため、今後はより専門家としてお客様の力になっていけるだろう。


[『TACNEWS』 2021年5月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ副代表/代表社員パートナー。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人兼コンサルティング会社に入り、会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ入社。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年7月には会計事務所向けWebサービス「Mochi-ya」をリリース。2020年8月にはシニア世代向けWebサービス「相続のせんせい」をリリース。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。

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