タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第11回テーマ M&A 〜その5〜
「後継者がいないとき、どうする?」

監 子  襟糸先輩、ちょっと相談があるんですけど。

襟 糸  め、珍しいね監子君。税太に相談しないでこの襟糸様に直接相談ってことは、どうやら結婚相手やらなんやらのコイバナではなさそうだな。

監 子  ピンポン!コイバナではなくてコウバナよ。

襟 糸  なんだその略語は?TRFのDJのKOOさんの話かい?それとも女優の柴咲コウさんの話かい?

監 子  ブブー、コウバナは「後継者の話」に決まってるでしょ。「コウ」は後継者の「後」!

襟 糸  いやいや決まってないでしょ、てっきりTRFだと思ったぞ、なあ税太。

税 太  いやいや同意を求められても。。。

田久巣  わしは香坂みゆきさんの話かと思ったぞ、なあ税太。

税 太  あのぅ、みなさん、監子さんの相談、ちゃんと聞きましょうよ、ね?

監 子  私のクライアント先の社長が後継者がいないって嘆いているの。子供もいて会社には入っているんだけど、経営者としては継ぎたくないようなの。かといって今の幹部社員は皆経営者として任せられるほどではないようで、決めかねているようなの。

襟 糸  それで社長は何をしたいって言ってるんだい?

監 子  廃業するには惜しいくらい儲かっている会社だから、売るしかないか、って言ってるわ。

襟 糸  社長の仰る通りまさに売るしかないと思うよ。監子君もそう言ったんだろ?

監 子  いえ、社長がどれだけ心血注いでこの会社を大きくしたかわかってるから、たとえ社長から仰ったことでもそんな非情なことは言えないわ。

襟 糸  でも内部に後継者がいないなら外部に求めないと。やはり売るしかないでしょ、なあ税太。

税 太  2回目の同意催促ですね。そうですね、僕は他の選択もあると思います。

襟 糸  ほほう、それはおもしろいじゃないか、他の選択ってなんだい?

税 太  まず社長が亡くなるまで社長を続けることです。

襟 糸  それは無茶な!途中で認知症になってしまったらどうするんだい?それに業績がいい会社のようだから、亡くなるころには株価がとても高くなっていて相続税の負担が大きくなるかもしれないじゃないか!あまりにも相続人や従業員に迷惑をかけてしまうぞ!社長だって大変じゃないか。

税 太  確かにそのようなデメリットはあります。でもモノは考えようで、社長にとっては生涯社長のほうが生き甲斐が続いていいですし、従業員にとっても今の社長がトップにいると業績が好調であり続けるのだったら、そのほうがいいと思います。

襟 糸  むむむ、まあそれもなきにしもあらずだ。他の選択は?

税 太  後継者を徹底的に探すことです。たとえば子供の子供である孫とか。

監 子  それはありえないわ、お孫さんはまだ10歳の男の子よ。

税 太  でもそれだって15年も経てばわかならいですよね?15年間後継者が確定するまで自分で社長を続けようっていう目標も生まれます。

田久巣  税太君、どうした、今日はやけに張り切っているではないか?我々がふざけすぎたから怒っているのかい?

税 太  そうではないんですが、後継者がいなくても会社を売ることに前向きでない社長も多いのかと思いまして。あくまでお客様に寄り添いたいと思ったからです。

田久巣  うん、それはえらいぞ!

【今回のポイント】

日本の中小企業では今、後継者問題が加速している。後継者がそもそもいなくて困っている会社が非常に多いんだ。税理士はお客様に後継者がいないという悩みを伝えられたら、どうするか常に考えていないといけない。軽はずみに売却しては如何ですか?と言うと二度と敷居をまたがせてくれないかもしれない。そこで税太君のようにお客様の立場になって、社長を一生続けるとか、後継者を15年かけて探すとかという案が出てくるわけだ。確かに売却したほうがいいこともたくさんある。それは税理士として説明しないといけないと思う。しかし売却に抵抗があるなら、税太君のようなコメントは非常に嬉しいはずだ。税理士として「コウバナ」をキャッチした際は、「コウだ!」と限定せずに、「コウいうのはありかな?」と考えることが大事なんだ。


[TACNEWS 2019年7月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)