タックスファンタスティック Tax Fantastic!!第10回テーマ M&A 〜その4〜
「DDはどこまでやる?」

監 子 税太君、ちょっと相談があるんだけど。

税 太 これはデジャブですか?第7回と全く同じ発言ですよ。。またコイバナですか?

監 子 まあそうとも言えるわね。聞いてくれる?

税 太 働き方改革で効率化が求められるこのご時世、就業中にコイバナ相談できるなんて僕らの事務所恵まれてますね。で、相手はどんな人なんですか?

監 子 私の相手はDDよ。

襟 糸  DD?ドナルド・トランプか?あ、それはDTか。

田久巣 わかった、ドナルド・ダックだ!

監 子  みんなして何よ!からかってんの?私の上のプロフィールにも第1回から出ているでしょ!私の恋人はデュー・ディリジェンス(投資対象となる企業等の価値やリスクなどを調査すること)、略してDDよ。

一同  はぁ。。。で?

監 子  私のクライアントから、ある会社を買いたいって相談があったの。でもその売り手の会社がちょっとクセ者で。不動産事業を全国各地で手広くやっている会社なんだけど、今まで割とグレーな投資案件にも手を出してきて、大きなリスクも果敢に取ってきたらしいというのが業界では専ら評判なの。だから、今回の対象会社もどんなリスクがあるかわからないから、ちゃんと調べてほしいっていうのよ。

襟 糸  監子君、度々の横からの介入で失礼するが、それは言うまでもなくきちんとDDをしないとまずいだろう。もしリスクがあったらクライアントを怒らせることになるぞ。会計や税金のデータはすべて集めないと!

監 子 でも今回の売り手が保有している対象会社はわりと小規模の会社なの。そして私たちに頂ける報酬もクライアントのご要望を考えるとおそらく少ないと思われるわ。しかも資金繰りの関係で売買の実行をかなり急いでいるらしいから時間がない。残念なことに、小規模、低報酬、短納期とまさに3拍子そろっちゃったってわけなの。

襟 糸  税金に関するリスク調査ならこの高速頭脳回転の襟糸様に任せなさい!さあ、早速始めようではないか!申告書の誤りから生じる追徴の可能性がないか、M&Aで繰越欠損金の引き継ぎが可能か、適格要件はそもそも充たしているのか否か、どれもどんとこいだ!

監 子  いや、税務DDだけならまだいいけど、他にも財務諸表や関連資料の数字に関する誤りがないかや債務の計上漏れがないかをチェックする財務DDだったり、事業やビジネス上のリスク、法務上のリスクをチェックするDDだってあるのよ。でもうちの事務所のメンバーを見渡してもそれ以外のDDができる人って私しかいないじゃない?人が足りないの、どーしよ?働き方改革で残業もできないし!

税 太 そのDDって恋人、厄介ですね。その恋人への返信、いわゆる「既読スルー」してもいいんじゃないですか?つまりある程度手続きは省略してしまってもいいんじゃないですか?仕事を無闇に増やすのはごめんです。

襟 糸 出た!ゆとり世代め。しかもドヤ顔しているけどそのたとえもそんなにうまくないぞ!そんなんじゃだめだ!DDだ(=どうしてもだめだ)!とにかく期限が迫っているなら高速頭脳フル回転で徹夜で頑張るしかないんだよ!

田久巣 いや、襟糸君、税太君の意見はあながち間違っていないぞ。

【今回のポイント】

今回のテーマであるDD、これは当然ドナルド・ダックではなく、Due Diligenceの略で、直訳すれば「当然すべき努力」、といった意味になるだろうか。M&Aの世界では、買収しようとする会社の事業、経営、財務の状況を事前にいろんな面から調査することを言うんだ。これによってリスクが洗い出され、買収価格が大幅に変わることもあるんだ。でもこの手続きはしっかりやろうとするとキリがない。公認会計士試験で監査論を勉強中の諸君ならピンとくるだろうが、こういう場合は重要性の原則やリスクアプローチの考え方が役に立つ。つまり対象会社の規模、事業の特殊性、買い手のニーズ等を考慮し、重要でない項目については手続きに関する工数を省けるだけどんどん省くんだ。別に働き方改革の時代で残業ができないから渋々省略するわけではなく、サボることをすすめているわけでもない。買収という経営判断はスピードもかなり大事だからね。襟糸君のように職人魂で何が何でもリスクをつぶそうと頑張る専門家もいるが、ある程度小さいリスクには目をつぶって省略するのもプロの技、これは実務をするうえで覚えておいて損はないぞ。


[TACNEWS 2019年6月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

筆者天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員パートナー、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。
主な著書:『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)