タックス ファンタスティック Tax Fantastic!! 第1回テーマ 相続税申告 〜その1〜「勘定より感情?」

簿記美 税太さん、奥さんから電話です!
税 太 え、ほんと?な、なんだろう?
簿記美 うそですよ~。代表から内線で、打合せしようって(笑)
税 太 簿記美ちゃん、やめてよ~!おれ一応年上なんだからね!代表、何でしょうか?
田久巣 税太君、奥さんじゃなくて悪いね、いや奥さんじゃなくてよかったのかな(笑)?
税 太 代表までからかわないで下さいよ~
田久巣 わるいわるい。私の友人から連絡があってね、お知り合いが亡くなったらしく、相続税に詳しい人を紹介してほしいって頼まれたと言うんだ。
税 太 そうだったんですね。代表は相続税もお得意ですもんね。
田久巣 だが今回の申告書の作成は税太君がメインで担当してほしいんだ。でも相続は初めてだから、もちろん襟糸君に面倒みてもらうつもりだけどね。
税 太 え、僕でいいんですか?相続税の仕事はずっとやりたかったんです!
襟 糸 税太君、初めてで慣れないだろうけど僕の明晰なる高速回転頭脳を頼ってくれれば大丈夫。がんばろうね!
税 太 は、はぁ。。いや、は、はい、襟糸先輩。宜しくお願いします!
田久巣 襟糸君、ところでこの案件どうやって進めるつもりだい?
襟 糸 まずは親族構成を確認したうえで顧客のニーズに沿って進めるつもりです。亡くなった被相続人であるお父さんは80歳、相続人はお母さん75歳、長男50歳、長女48歳の3人です。今回の顧客窓口である長男さんは、今回の相続税もさることながら、今後お母さんが亡くなった時の相続税負担、つまり二次相続のことを気にされています。となると今回の相続でお母さんがすべて相続してしまうと配偶者軽減特例が使えて今回の一次相続では有利になりますが、二次相続では税金が高くなってしまいます。したがって今回の相続では長男長女に7割くらい相続させる遺産分割案を提示してみようと思います。その割合が一次相続二次相続トータルの税金として一番安く済むことがわかったので。

■親族関係図

簿記美 きゃぁ、襟糸先輩すごいですね!さすがエリート!
田久巣 税太君は襟糸君の見立てにどう思う?
税 太 僕としては襟糸先輩の話、わかりますしある意味正しいとも思います。でもちょっと引っかかります。
田久巣 そうか。具体的にどこがだい?
税 太 75歳のお母さんが可哀想な気がします。僕も自分が死んだら子供より妻のことが心配です。
襟 糸 税太君、まだまだ甘いな。お子様の支払う税金が高くなって苦しくなってしまってもいいのかい?
田久巣 うーん、襟糸君、残念ながら今回は税太君の発想の方がいい線突いてるかもしれないなぁ。

【今回のポイント】

代表の田久巣だ。税太君の言ってる意味を解説しよう。今回はお母さんの年齢、75歳がポイントだ。これは驚くべき数字なのだが、1次相続で夫を亡くされた奥様がその後亡くなるまでの期間は平均18年というデータがあるのだ。つまり二次相続が起きるのは93歳の可能性が高い。となると今後の生活が非常に心配だ。二次相続の税金を安くするためにお母さんにお父さんの財産をあまり渡さないのは酷と感じだのが税太君なんだ。またお母さんにしてみればお父さんの財産を内助の功で築いたという自負もあるだろうし、気持ちとしては半ば自分のものとも思っているだろう。長男の損得「勘定」よりお母さんの「感情」を優先したんだね。ただこれはあくまで一つの意見、いい案であっても選択するのはお客様。押し付けてはいけないから要注意だ。


[『TACNEWS』 2018年9月号|連載|タックスファンタスティック]

Profile

天野大輔

1979年生。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ社員税理士、株式会社レガシィ常務取締役。慶應義塾大学卒業、同大学院修了。情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務。その後公認会計士試験に合格、監査法人に入り、会計監査・内部統制監査・IPO準備監査に従事。また事業再生、M&A支援等のコンサルティング業務も行う。その後日本で最大級の相続税申告数実績のある税理士法人レガシィへ。現在は相続・事業承継対策コンサルティングを担当。主な著書『改訂版 はじめての相続・遺言100問100答』(2017年、明日香出版、共著)。