悪の組織 悪の組織の統領 会計に目覚める
~悪の統領 Episode0~

 「悪の組織の統領 会計に目覚める ~悪の統領 Episode0(ゼロ)~」は、悪の秘密結社「ZAIM」の統領が、まだサラリーマン「戦闘員Z」だった頃、会計の重要性に目覚めていく物語です。

第2話 戦闘員Z 会計に目覚める

 <あらすじ>
 のちに悪の組織の統領となる「戦闘員Z」は、組織で飛び交う会計用語についていけず、焦りと苛立ちの日々を過ごすのであった。

 あれから数年後…。

戦闘員a 元・公認会計士のエリート戦闘員、Yさんが組織を辞めて独立したらしいな。
戦闘員b 経営者が変わって、業績も落ちてきたとかってウワサも聞くからな…。
戦闘員c おいおい…ウチの組織大丈夫なのかよ。倒産したりしないよな?
戦闘員Z 貴様ら!うろたえるな!悪の組織はそう簡単には倒産はせん…はずだ…

 強がりつつも一抹の不安を感じる戦闘員Zはその夜、(元)戦闘員Yとガード下の焼きとん屋のカウンターで飲んでいた。

戦闘員Z 率直に聞きたい。ウチの組織はヤバいのか?
戦闘員Y ああ、放漫経営もいいところだ!特に安全性が低すぎるのが決定打だよな。流動比率も自己資本比率も…。
戦闘員Z リュウドウ?ジコシホン?
戦闘員Y 論より証拠。ほら見てみろよ。

 戦闘員Yはタブレットに入れてある組織の決算データを見せるのであった。

戦闘員Z …ゴチャゴチャしてて何が書いてあるのか余計にわからん!
戦闘員Y 貸借対照表は細かいところは読まなくていい。資産・負債・純資産の3ブロックに分けてチェックしてごらん。

 説明しよう!貸借対照表(英語表記はBalance Sheet<略>B/S)とは、資金の調達源泉とその運用形態を対照表示した計算書である。貸借対照表の右側には資金の調達源泉である「負債(他人資本)」と「純資産(自己資本)」が、左側にはその資金の運用形態である「資産」が示されている。

戦闘員Z あー、「資産」を見ればウチの保有財産の内訳が分かるのか…。ふむふむウチの財産100億ほどあるんだな。なんかけっこう良さそうに見えるけど。
戦闘員Y そこで負債や純資産を絡めた「安全性」の分析が必要なんだ。まずは基本の「自己資本比率」からだ。

  説明しよう!自己資本比率とは、「自己資本/負債純資産合計×100(%)」で計算され、資金源泉全体に占める自己資本(純資産)の割合を示す経営指標である。この数値が大きいほど、返済を要しない資金調達ができていることになり、長期的に財政状態が安定していると判断できる。

戦闘員Z なるほど。この数値が高い方が借金が少ないってことか。ウチの組織は…?
戦闘員Y 残念ながら20%を切ってしまっている。業種にもよるから一概には言えないが、過去と比べても負債が一気に増えたのは間違いない。おそらく使えない新兵器のために多額の借金をしたんだろうな。
戦闘員Z ってことは倒産するのか?ウチは。
戦闘員Y 借金の正体が長期借入であれば、すぐにどうということはないが、問題は短期の安全性…「流動比率」だ。資産や負債のうち、短期的なものは「流動」に振り分けられるんだけど、この「流動資産」と「流動負債」のバランスが重要なんだ。

 説明しよう!流動比率とは、「流動資産/流動負債×100(%)」で計算され、短期的な決済手段である流動資産と短期的な債務である流動負債とのバランスを見る指標である。この数値が100%を上回っていれば、流動負債の支払いに充てられる流動資産が流動負債を上回っていることを示す。

戦闘員Y 流動比率も50%を下回っているのが現状だ。
戦闘員Z つまり…返済期限の迫っている借金を返せない可能性があるってことか!
戦闘員Y まあ、ここの焼きとんは安くて、士業の仲間にも評判だから、失業しても安心して食べに来るといい(笑)すみませーんシロタレ2本!
戦闘員Z じょ…冗談はやめてくれ!まさかな…。

 数日後。出社した戦闘員Zたちであったが、会社の外は建物内に入れない戦闘員たちでごった返していた。張り紙を見つめる従業員たち。

戦闘員a 「当組織はX月XX日をもって営業を停止いたしました」
戦闘員b 「今後は下記の代理人弁護士が一切の処理をいたします…」
戦闘員c おいおいおい…マジかよ。
戦闘員Z ほ…本当に倒産しちゃった…。

 Zの勤務する組織は倒産した。会計・決算書の重要性を痛感した戦闘員Z。次なる組織では活躍できるのか? 次回は…転職編!

 次回「戦闘員Z 戦いに勝利す」お楽しみに!

[TACNEWS 2018年10月号|連載|悪の組織の統領会計に目覚める]

Profile

鈴鹿大学 准教授 髙見 啓一氏

日商簿記1級、販売士検定1級、税理士、中小企業診断士など数多くの資格に合格。
日本商工会議所のネット小説「悪の組織の原価計算」の作者でもある。