悪の組織 悪の組織の統領 会計に目覚める
~悪の統領 Episode0~

 今月からスタートする「悪の組織の統領 会計に目覚める ~悪の統領 Episode0(ゼロ)~」は、悪の秘密結社「ZAIM」の統領が、まだサラリーマン「戦闘員Z」だった頃、会計の重要性に目覚めていく物語です。月1回連載の予定です。ぜひ、ご期待ください。

第1話 戦闘員Z 無資格に悩む

 ある日曜日の朝方。TVで「戦況」を確認する、黒ずくめの男たちの姿があった。
 「正義のヒロインパワー!必殺マーケティングアロー!」
 チュドーン!
 「グワーッ!」

戦闘員A あ~あ、作ったモンスターまた負けちゃった・・・。
戦闘員B 制作コストいくらだったっけ?けっこう高かった記憶が…。
統領  まったく!お前たちは本当に「数字」を考えないヤツラだな!日本商工会議所の「悪の組織の原価計算」でも読んで少しは勉強せい!

 ここはヒーローにやられっぱなしの悪の組織「ZAIM(ズァイム)」の本部である。中小企業診断士や税理士といった難関資格に合格している統領のもと、数字を生かした戦いに奔走していた。

戦闘員C そうは言うけどさー、統領みたいに数字に興味ある戦闘員なんていねえよ…。
統領  ワシだって最初は数字や資格など興味なかったのじゃがな…。

これはZAIMの統領となる10年以上前のお話である。当時は、悪の組織のサラリーマン「戦闘員Z」として、戦闘員abcらのいるチームを引っ張る立場であった。
戦闘員Z 貴様ら!戦闘員たるもの、頭脳よりも戦いだ!
戦闘員a はい!チーム一同トレーニングに励みます。
戦闘員b おうっ!自分も怪人出動までヒーローを食い止める役割を担えるよう頑張ります。
戦闘員Z そうだ。その意気だ!

しかし、十分な戦果は上がらず、モチベーションの上がらないZチームであった。

戦闘員c そうは言うけどさー、どうせ俺たちのチームは負けるんだし、ほどほどにしとこうぜ~。
戦闘員b たしかに…ウチのチーム、すぐやられるし、戦績上がってないよな。
戦闘員a 戦闘員Yさんのチームは次々と都市を制圧してて、「首領表彰」も出たらしい。将来の幹部候補って聞いてるぞ。

 噂の戦闘員Yは、戦闘員Zとは同い年である。上場企業で経理をしていた異色のキャリアで、公認会計士の資格も保有しているという。Zとは顔見知りで、今日も缶コーヒーを飲みながら世間話である。
戦闘員Y たしかに俺たちのチームは都市の制圧数は多いんだけど、「生産性」は低いんだよね。
戦闘員Z え?セイサンセイ…?
戦闘員Y ためしに「怪人1体あたり建物占領数」をデータで出してみたんだけどさ、明らかに数値が「前年度比」で下がっててさ。
戦闘員Z ???
戦闘員Y 最近は重火器類の「原価コスト」もバカにならないし、消耗戦ばかりじゃ勝ったとは言えんよな。今後は「収益性」を考えた都市制圧が重要だと思わないか?
戦闘員Z ゲンカ?シュウエキセイ?(…こいつ何を言ってるんだ?呪文か?)

 この日の午後、リーダー戦闘員を集めての会議が行われた。議題は、オオサカCityの地区制圧である。残念ながら構成員の大半は発言しない典型的な会議であった。
上司  オオサカの制圧について、意見のある者はいないのか?戦闘員Z、貴様はどうだ?
戦闘員Z いや…私は現場専門なもので…戦いの日まで、ひたすら戦闘員を鍛えたいと思います。(…あとは美味いB級グルメを調べるくらいしか考えてないし)
戦闘員Y はい!

 おもむろに戦闘員Yが発言を始める。
戦闘員Y 次の都市の制圧には、最低でも怪人が2体、戦闘員が100人は必要かと存じます。過去の戦績と照らし合わせた「定量分析データ」はこちらにございます。
上司  ほう。よく調べてあるな。
戦闘員Y このデータを基に、今般の都市を制圧する場合にどのくらいの見返りがあるのか、「財務分析」をしておく必要があると思います。
上司  うむ。それは一理あるな。ではそのコスト予想のもとで計画を立ててくれ。
戦闘員Y 御意!「決算年度ベース」で収支のバランスが取れるようにしたいと思います。
戦闘員Z ん???何を言っているんだ?

 後日、ふたたび会議が持たれた。
戦闘員Y オオサカ制圧のシミュレーションを作成しました。オオサカCityの将来性を加味すると、怪人3体、戦闘員200人まで増員しても利益が出る計算となりました。
上司  うむ。これはなかなかよい試算だな。首領にも報告するとしよう。お前のグループには怪人1体、戦闘員100人の増員を認めることとする。おい戦闘員Z、お前のグループから回すからそのつもりでな!
戦闘員Z ええ~っ?!は…はい~。(手柄はYかよ~…トホホ)

 悪の組織で飛び交う会計用語についていけず、焦りと苛立ちが隠せない戦闘員Zであった。果たして戦闘員Zは復権できるのか?

 次回「戦闘員Z 会計に目覚める」お楽しみに!

Profile

鈴鹿大学 准教授 髙見 啓一氏

日商簿記1級、販売士検定1級、税理士、中小企業診断士など数多くの資格に合格。
日本商工会議所のネット小説「悪の組織の原価計算」の作者でもある。