人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第45回 株式会社ポーラ・オルビスホールディングス

Profile

大榎 敬介氏(写真左奥)

HR室 室長

江國 敬泰氏(写真左手前)

HR室

岩井 明子氏(写真右)

HR室


ポーラ・オルビスグループは、創業当初から化粧品事業を軸に女性の活躍を応援してきた。この企業風土は現在も受け継がれ、「人」を組織の最も大切な資産として位置づけている。ポーラ・オルビスホールディングスが注力する、一人ひとりが能力を充分に発揮できる環境作りについて、グループの人事や人材育成を統括するポーラ・オルビスホールディングスHR室の大榎敬介氏、江國敬泰氏、岩井明子氏にお話をうかがった。

化粧品の枠を超えた事業ポートフォリオを展開

──最初に、ポーラ・オルビスグループをご紹介ください。

​大榎 ポーラ・オルビスグループは、女性の美容を支援する化粧品事業を展開しています。『POLA』と『ORBIS』の両基幹ブランドを中心に、百貨店ブランドの『THREE』、『Amplitude』、『FIVEISM×THREE』、『ITRIM』、敏感肌専門ブランドの『DECENCIA』、パーソナライズビューティーケアブランドの『FUJIMI』、海外ブランドの『Jurlique』といった個性豊かなブランドを持ち、日本やアジアをはじめとする世界各国で事業を展開しています。そして化粧品事業だけでなく、不動産事業、ビルメンテナンス事業、製品を研究・生産するポーラ化成工業のラインナップでグループを構成しています。

──グループで新たに取り組む事業や今後の展開についてお聞かせください。

​大榎 当グループは2029年に創業100周年を迎えます。これに向けて長期経営計画を社内外に発信し、今後は必ずしも化粧品ありきではない、「Well-being」や「社会領域」にポートフォリオを広げていく方針を打ち出しました。多様化する「美」の価値観に応える個性的な事業の集合体として、新価値の創出、事業領域拡張に取り組み、存在感を示していきたいと考えています。


大榎 敬介氏
新卒で株式会社ポーラに入社。訪問販売事業(現:トータルビューティー事業)で幅広い業務を担当後、経営企画部門に異動。事業管理、経営管理、経営企画を担い、部長に就任。2016年よりポーラ・オルビスホールディングス人事情報管理室( 現:HR室)の室長としてグループHRを統括している。

従業員一人ひとりの開かれた個性と感受性をビジネスに活かす

──「求める人物像」について教えてください。

​大榎 社長の鈴木郷史は、毎年4月の入社式で「会社の一組織人である前に、ひとりの人間であれ。個性を大事にしよう」と話します。このメッセージにあるように、私たちのグループは「感受性のスイッチを全開にする」というミッションを掲げており、「A Person Centered Management」という人材戦略・マネジメントポリシーを重視しています。直訳すると「個中心主義」「人中心主義」になりますが、従業員一人ひとりの感受性・個性・美意識や考え方を大切にして、「従業員一人ひとりの開かれた個性と感受性を経営に生かしていく」という方針を据えています。
 このため求める人物像についても、人としての正しい倫理観や道徳観のもと、個性や感受性を大切に、今目の前で起きていること、世の中や社会に対する興味、感心、好奇心が高く、自立した方を求めています。

──2022年4月の新卒入社は何名でしたか。入社後の流れについてもお聞かせください。

​大榎 2022年新卒採用はグループ全体で39名でした。4月にグループ合同の入社式を実施し、その後、各事業会社に分かれてそれぞれの入社式を実施しました。
 新入社員研修は最初の3日間でグループ共通の研修を行い、その後各事業会社でそれぞれの研修を行っています。

──2023年の新卒採用は何名を計画していますか。

​大榎 実は、ポーラ・オルビスホールディングスでは新卒採用を行っていません。基本的には各グループ会社が自らの方針に基づいて採用活動をしていますので、ホールディングスが各社の採用方針に直接的に関わることはないのです。持株会社体制に移行した際に基本的な考え方としていた「各社の自主自立」に加え、各社がそれぞれに個性を追求していくために、採用方針や活動そのものについては、各社が主体的に行っています。

──ホールディングスで行うのは中途採用ということですね。

​大榎 そうですね。事例としては、2022年4月に各事業会社のIT・デジタルソリューション部門をホールディングスに統合したことに伴い、IT分野の人材増強を目的に、10~12ポジションで中途採用を実施しました。専門領域ごとに要件を設定し、担当部署と一緒に採用活動を行っています。統合した結果、IT・デジタルソリューション部門自体は70人規模のセクションになっています。
 その他に知財、薬事、法務の一部といった機能はホールディングスが担っています。

労務、健康活動、人材育成をホールディングスに集約

──人事統括部門のHR室は、グループ会社の人事にどのように関わっているのですか。

​大榎 私が着任した2016年当初は、人事・情報管理室といって、人事とITの両方の機能を担っていました。グループ統制を取ることに主軸が置かれていて、人員的にも少なく、自ら企画運営するような実務機能はほとんどありませんでした。その後、グループで共通する人事労務業務に関してはホールディングスに集約して効率化をめざすために、子会社の労務機能をホールディングスに移管しました。ここで初めて実務機能を持つようになり、労務業務のシェアードサービス化にも取り組みました。現在はグループ各社の労務業務を受託し、グループ全体の給与計算や社会保険などの労務基本業務を担っています。さらに産業保健や健康経営といった活動はホールディングスが主幹となって、グループ共通で展開するようになりました。
 また、これは持株会社ならではの役割とも言えますが、グループの次世代経営幹部人材の候補者育成や、経営人材マネジメントの分野も私たちホールディングスで担っています。

──グループ全体の労務管理を管轄するのですね。

​大榎 はい。地方の従業員や店頭に立つ美容部員もいるので、施策を隅々まで波及させるのは大変です。最初は十数名だった人事・情報管理室ですが、労務を集約してからメンバーが増えて現在は約40名になりました。私たちが各社の業務を受託し、労務手続きなどの実務部分は外部業者にアウトソースしつつ、全体を管理しています。

──研修制度も含め、人材育成などはどのように進めていますか。

​大榎 将来の経営幹部候補の育成に関しては、社長の鈴木の発案から始まったグループ横断の2つの研修があります。1つは30歳前後の若手中心にメンバーを募り、次世代のリーダーを育成する「未来研究会」で、もう1つはミドル層を対象にした経営幹部研修も兼ねた「ビジネス変革塾」です。この2つの研修は私たちが運営しています。ともに1年間にわたるプログラムで、未来研究会は月1回1日、ビジネス変革塾は2日間の合宿もあり、社長の鈴木も毎回参加します。それぐらい社長の思い入れの強い研修で、どちらもすでに16~18年間続いています。両者ともに選抜型で、年間の受講者は未来研究会が約12~16名、ビジネス変革塾が4~5名ですが、それでも十数年続けているとかなりの母集団になってきて、未来研究会出身者だけで200名を超えました。研修による気づきの部分だけでなく、グループワイドのネットワークづくりにも役立っています。

──グループ間の異動は頻繁に行われているのですか。

​大榎 かつては各社内での異動が基本でしたが、私がHR室室長になったときからグループ間の人材交流促進に力を入れ始め、FA制度や公募制度を導入しました。FA制度は自ら挙手して異動を希望するものですが、制度利用には一定の成績以上であることなどの条件があります。一方、公募制度は会社が設定したタスクやミッションに対して広くメンバーを募っていきます。
 グループ間の人事異動やローテーションの交渉を各社人事に呼びかけて協議を進めてきた成果として、グループ間の人事異動は比較的普通なことになったと認識しています。


江國 敬泰氏
2006年、新卒で重工系企業に入社。人事担当として工場人事6年、本社人事6年を経験。2022年1月、ポーラ・オルビスホールディングス入社。HR 室にて学びの支援制度導入などの施策検討を担う。

理念を活かした「自主的な学びの支援制度」

──独自のミッションを反映した人材育成施策などはありますか。

江國 当社は「A Person Centered Management」を重視し、従業員それぞれの個性、感受性、美意識、考え方を活かした企業運営をめざしています。そこでグループ共通施策として、従業員の自主的な学びや異分野での経験を促進するために「自主的な学びの支援制度」を導入しました。


 この制度では、「サバティカル制度(School Learningコース)」「サバティカル制度(Free Choiceコース)」「社内インターンシップ制度」「通学支援制度」の4つのコースを設定しています。
 1つ目の「サバティカル制度(School Learningコース)」は、高等教育機関等に通うために最長2年間会社を休み、学びに集中する制度です。この制度では「多様性を身につける」という観点から、例えば文化・芸術系など、普段の業務では得られない学びを深めていただきます。
 2つ目の「サバティカル制度(Free Choiceコース)」は、フリーチョイスで会社以外の環境で学ぶためのコースです。通学に限らず、ボランティアでもいいですし、国内旅行で本人なりに多様な価値観を取り入れるなど、多様性が期待できることをきちんと明確にしていただければテーマは何でもありで、最長6ヵ月会社を休んで学べる制度です。
 これらサバティカル制度の特長は、何と言っても2年ないし6ヵ月、会社を休んでいる間もずっと給与の100%が支給される点です。ただの「お休み」ではなく、本人の成長、ひいては会社の成長につなげるための学びの期間ですから、給与の全額支給だけでなく、評価もみなしでつけていきますので、昇格などで後れを取ることもありません。さらに、School Learningコースは最大100万円、Free Choiceコースは5万円の支援金も支給します。

──サバティカル制度の利用期間中は、充実した体制で学びに集中できるのですね。

​江國 はい。そして3つ目の「社内インターンシップ制度」は、グループ内の交流という目的もあります。気軽にいろいろな業務を体験してもらおうという趣旨で、誰でも挙手すれば参加できる制度です。
 4つ目の「通学支援制度」は、仕事を休まず、夜間や休日に学びたい方に対する教育機関への通学支援制度です。資格などはこの制度を利用して取得することが可能で、通って学ぶ以外に通信講座も利用できますし、最大100万円まで支援金を用意しています。
 このように、会社を休んで学ぶ場合と、働きながら学ぶ場合のいずれにも対応した4つのコースを用意し、従業員一人ひとりに対して「感受性のスイッチを全開に」してもらうことを会社として支援していくため、2022年5月以降順次、制度の利用を呼びかけています。

──かなり思い切った支援制度に思われますが、調整面などで苦労はありましたか。

​江國 給与の支給については社内でもいろいろな意見がありました。しかしそこは会社としてのスタンスを明確にして「ぜひ行ってほしい」というメッセージを込めました。学びを得たあと、職場に戻ってきてからの活躍に期待しています。

女性の活躍を後押しする健康経営に注力

──福利厚生面でポーラ・オルビスグループらしい施策はありますか。

​大榎 私たちは、従業員一人ひとりが健康であってこそ、他者を思いやり、自分らしく、彩りに満ちた人生を送ることができると考えています。日々100%、120%のパフォーマンスを発揮するには、やはり心身ともに健康で充実していることが基本です。そこで2016年から経済産業省の健康経営優良法人認定制度に参加し、大規模法人部門において、健康経営優良法人 2022(ホワイト 500)にも認定されています。
 例えば、トレーニングジムとタイアップして運動習慣を身につける施策を展開したり、目標1日8,000歩を達成するとポイントが貯まる「ウォーキングラリー」を実施したりしています。ウォーキングラリーはチームと個人の両方で参加可能で、年々参加者が増え、今年は500名以上の従業員が参加しました。

──健康経営のために、様々な施策を展開していますね。

​大榎 健康経営施策を考える際には、産業保健体制も整備しました。ポーラ・オルビスグループは従業員の7割が女性であることから、女性の活躍を後押しする施策に力を入れています。その一環として、婦人科専門の女性医師を産業医として招いたほか、最近では月経痛や月経前症候群(PMS)によるパフォーマンス低下を防ぐために、体調管理を目的とした低容量ピルの処方をオンライン診療で受けられる『ルナルナ オフィス』を導入しました。月経による不調だけでなく、女性特有のがんや不妊治療、更年期症状などに対しても、様々な施策でサポートを行っています。


岩井 明子 氏
新卒で株式会社ポーラに入社。人事部門で労務を担当。2017年にポーラ・オルビスホールディングスに異動。労務担当を経て、2021年11月、HR室に異動。グループ横断的な研修運営、採用業務などを担当。

「A Person Centered Management」の実現に向けた能力開発制度

──採用活動の際、資格はどのように評価していますか。

​大榎 資格そのものを特別に評価することはせず、パフォーマンスやポテンシャルを軸に判断しています。
 もちろん従業員には弁護士資格を持っている人もいますし、経理・財務部門には公認会計士や税理士の有資格者も大勢います。知財部門や法務部門など専門性を必要とする部門で専門資格者を中途採用するケースもありますが、基本的にはこれまでどのような経験をしてきたか、当社で何ができるのか、そして何より人柄を重視します。

──自主的学びの支援制度が充実している中で、自己啓発で何か学びたいときの支援はありますか。

​岩井 「A Person Centered Management」を実現するために2022年1月に人事制度改定を行い、個々人が自分でキャリアを考えて生きるための機会を増やそうという考えのもと、役割等級別に、戦略思考、課題設定、課題解決、論理的思考といったコンセプチュアルスキルと、マネジメントコミュニケーション、チームマネジメント、自己表現力、伝える力といったヒューマンスキルを開発する育成制度を導入し、さらにキャリアカウンセリングを何回でも受けられる機会も提供しています。

──自分でキャリアを築く力を磨ける機会があるのは素晴らしいですね。最後に、資格取得やキャリアアップをめざして勉強中の方々にメッセージをお願いします。

​岩井 資格取得をめざすという自ら学ぶ姿勢は素晴らしいと思います。そのプロセスでいろいろな知識が吸収できるので、たとえ資格が取得できなかったとしても、その後の人生に大いに活かしていけると思います。ご健闘をお祈りします。

江國 資格は「取得すること」が目的ではなく「その資格を使って何をしたいか」が重要だと思います。これからの時代、活かし方もますます多様になっていくと思うので、「この資格はこの分野の中で活かすものだ」などと可能性を限定せずに、資格と自分とをうまくマッチングさせた上で、何がベストかイメージして活躍してください。

大榎 資格取得は、当社の人材思想にある「あなたは何者か」に通ずるとも思います。学びを通じて身につけた知識が、あなた自身の個性にもなっていきます。自分には何ができるのか、自分は何者なのかも意識しながら、勉強に励んでいただけたらと思います。

[『TACNEWS 』2022年10月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名     株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
設立     2006年9月29日(1929年創業)
代表者    代表取締役社長 鈴木郷史
本社所在地  東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル

事業内容

グループ全体の経営管理

従業員数

210名(単体・2022年6月30日現在)

URL  https://www.po-holdings.co.jp/