人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第39回 ソフトバンク株式会社

Profile

足立 竜治氏

ソフトバンク株式会社
コーポレート統括 人事本部
採用・人材開発統括部 統括部長

1997年、日本国際通信株式会社(現:ソフトバンク株式会社)入社。法人営業、ソリューションエンジニア業務に従事した後、2007年に人事部門へ。2012年、人事企画部長、2013年、グローバル人事部長、2016年、組織人事部長、2018年、組織人事統括部長を経て、2021年4月より採用・人材開発統括部長として、採用・人材開発全体を統括している。

ソフトバンク株式会社は、孫正義氏が代表を務めるソフトバンクグループの中核を担う事業会社だ。グループ創業から約40年、常に変革と進化を繰り返してきたソフトバンクには創業時から常に「自ら手を挙げた人に機会を提供する」というカルチャーがある。自ら挑戦する人にチャンスを与える、それをサポートする立場の人事担当者は、一体どのようなバックアップをしているのだろうか。人事本部で採用・人材開発の統括部長を務める足立竜治氏に、ソフトバンクの採用と人材開発についてうかがった。

めざすのは「総合デジタルプラットフォーマー」

──ソフトバンク株式会社についてご紹介ください。

​足立 ソフトバンクは1981年、ソフトウェア流通業からスタートしました。1996年にはヤフー株式会社を立ち上げ、2006年にはボーダフォン株式会社を買収して携帯電話事業に参入しています。今でこそ「ソフトバンクといえば通信会社」というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、ソフトバンクの事業はかなり変遷していて、現在のメイン事業のひとつである携帯電話事業も始めたのは2006年ですから、まだ15年しか経っていません。
 このように創業時から常に変化・進化し続けてきた会社ですので、この勢いでいくと10年後には「ソフトバンクって、通信“も”やっている会社だよね」と言われるまでに事業形態が変わっているかもしれませんね。ただし中核には「情報革命で人々を幸せに」というグループの経営理念があるので、そこからは一切ブレずに事業を展開し成長しています。

──近年の動向について教えてください。

​足立 ソフトバンクグループにおいて、事業会社である私たちソフトバンクの配下には、現在ヤフー、LINE、ZOZO、PayPayといった330社以上の関連会社があります。この関連会社を含めた総力戦で総合的に市場シェアを拡大していくのが、ソフトバンクの大きな戦略となっています。
 その中で直近のトピックは、2021年4月に宮内謙から当時CTOの宮川潤一に社長をバトンタッチしてから「総合デジタルプラットフォーマー」という大きな戦略を掲げたことです。現在ユーザー数は、ソフトバンクだけで5,500万、Yahoo! JAPAN8,000万、PayPay4,300万、LINE8,800万と国内最大規模のユーザータッチポイントを持つ通信・ITグループです。その土台として通信基盤があることが非常に大きな強みであり、通信だけではなく、通信の上に様々な付加価値を乗せて社会や産業のDXを推進する「総合デジタルプラットフォーマー」をめざすのが現在の事業戦略です。

変化を楽しみ、何事もチャンスと捉え挑戦する人

──人材採用について教えてください。

足立 年により変動しますが、新卒は毎年500~600人ほど採用していて、2022年4月入社の内定者は約600人、内訳はエンジニアが6割、営業とバックオフィス系が4割です。キャリア採用は年によりますが、2021年度は約700人を採用する計画で、うち7割程度がエンジニアです。

──求める人物像はどのような人材ですか。

足立 共通するのは「ソフトバンクの変化を楽しみ、何事もチャンスと捉え挑戦する人」です。事業が大きく変化していく会社なので、変化そのものを成長機会と捉え、楽しんでチャレンジできる方がマッチすると考えています。

──新卒採用の採用選考について教えてください。

足立  「学生ファースト」を何より大切にしています。採用活動の解禁日を基準とした年間スケジュールはなく、ユニバーサル採用と呼ばれる自由な時期に応募してもらえる採用活動を行っていますし、30歳未満であれば、留学などで就職活動の時期がずれた方や第二新卒にも門戸を広げています。
 またインターンシップをかなり重視していて、就労直結型で400~500人規模の学生を毎年受け入れています。インターン生は、部門ごとに2~4週間、仮の社員証とPCを支給され社員と同じように働きます。そこでソフトバンクの業務を知ってもらい、お互いのマッチング度合いを見極めるという採用方法です。2020年はコロナ禍のためリアルでの実施が難しかったので、代わりにオンラインワークショップを行いました。2021年はオンラインでインターン生を受け入れ、現時点で2023年度の採用に向けてとてもよい方向で進んでいます。

「地方創生インターン」を実施

──選考方法で特徴的なものはありますか。

足立 「グローバル採用」「No.1採用」という、通常選考とは別のルートでの採用にも力を入れています。No.1採用とは、テクノロジー、ビジネス、アカデミック、スポーツ、クリエイティブなど文理の別を問わず何らかの分野でNo.1になった経験をお持ちの方のための選考方法です。他の選考過程はすべてパスしてご自身の「No.1」の経験についてプレゼンテーションしてもらい、その内容によって採否が決まります。No.1採用では毎年10人程度、年によってまったく違った分野の方が入ってきます。過去には「アメリカンフットボールのインカレ(全日本学生選手権)で優勝」という「スポーツNo.1」や、「学生の囲碁大会でNo.1」という方もいました。ユニークな例では「東京ドームのビール販売で年間総数No.1、歴代1位の記録を塗り替えた」という人もいましたね。今は営業系の部門で大活躍しています。実はソフトバンクバリューの1つに「No.1」という項目があります。これは創業者・孫正義が非常に拘っている部分で、「何かに秀でている人は、入社後の活躍度も高いだろう」と考えているため、こうした選考方法を採っているのです。

──創業者のこだわりを採用活動で具現化しているのですね。

足立 はい。2016年から始めたインターンシップ「地方創生インターン」にも、ソフトバンクらしさが表れています。課題を抱える地方自治体に全国から選りすぐった学生が赴いて市の職員や地域住民にヒアリングをし、最終日には市長に解決策を提案するというプログラムです。毎年夏に開催され、各回30人の学生が参加します。応募者は約3千人なので、実質倍率は100倍ですね。提案内容が良ければ市の施策として実際に採用され、学生も一緒に取り組むことができます。地方創生にも貢献でき、我々の採用活動にもつながり、学生にもよい体験となる、三方よしの採用活動です。

デジタルの力で業務を効率化し、アナログでの学生との接点を増やす

──新卒採用の通常選考はどのようなプロセスで実施していますか。

​足立 エントリーシート提出後、動画による1次面接、SPIを経て、人事部門と事業部門両方による複数回の面接、そして内々定という流れです。エンジニアの場合は、エントリーシートの代わりに技術アセスメントに関するレポートを提出することもできます。
 特徴的なのは、採用の各プロセスにおいてAIを導入している点で、学生からの問い合わせにAIチャットボットで対応したり、エントリーシートの1次評価にAIを活用したりしています。エントリーシートの評価では、AIが不合格と判定したときだけ人事担当者が再評価を行うので、工数を7割以上削減できました。
 動画による1次面接では、インターンシップの選考で提出された動画データと、熟練の採用担当者による評価などを教師データにして開発したデータ判定のAIを使い、テーマに沿って応募者が提出した動画の合否を判定します。ここでもAIが不合格とした場合のみ人事担当者がダブルチェックを行いますが、動画面接では85%という非常に大きな工数削減を実現できました。
 このように、デジタルの力を使って業務を効率化し、新たに創出した時間を使ってNo.1採用や地方創生インターンといった学生とのアナログなコミュニケーションを増やし、学生と企業の双方にとってよりよい、戦略的な採用活動にする方向で進めています。

──応募の際は、配属部門を想定してエントリーを実施しているのですか。

​足立 2つの方法を使っています。1つは、総合職の中で、総合コースとエンジニアコースから選んでもらい、入社後に配属先を決めるものです。もう1つは、初期配属時の業務を確約する「JOB-MATCH選考」です。データサイエンティスト、システムエンジニア、ソリューションエンジニア、営業などの職種の中で、自分がやりたい部門に対して直接エントリーしてジョブを選んでもらいます。そこで希望配属先の面接官および人事による選考過程を経て、マッチすると判断したら合格、そして初期配属確約という流れになります。今、このジョブマッチ型採用に注力していて、順次増やしています。

何事も自ら手を挙げるカルチャー

──内定後のフォロー体制はどのようになっていますか。

足立 内定者1人に対してフォロー担当の社員が1人ついて、個別の相談事項へのケアやこちらからの連絡を行うなど、マンツーマンでフォローする体制を組んでいます。加えて先輩社員座談会や内定者交流会を開いて、縦横のつながりを深めてもらうほか、業務理解を深めてもらうために内定者向けインターンシップも実施しています。

──内定者研修は実施していますか。

足立 10月の内定式で全員にiPadを支給し、各種eラーニングや、文系出身者にはITパスポート、理系出身者には情報処理系の資格取得の講座など、レベルに合わせた資格取得を支援する学習機会を設けています。
 ただしソフトバンクは創業時から「何事も自ら手を挙げること」を非常に大切にしているので、いずれも必須の研修ではありません。対象者全員が必ず受けなければならないのは新入社員研修と管理職研修だけです。数多くのメニューを用意していますが、すべて「手挙げ式」で、自分が必要だと思った研修を必要なときに受けられるようになっています。
 ですから内定者研修も推奨はしていますが強制ではなく、本人の意思に任せています。入社3年目のフォローアップ研修も8割の社員が受けていますが、受講者はすべて希望して手を挙げたメンバーです。

──研修への参加は社員の意思に任されているのですね。

足立 はい。ただ2020年入社の新卒に対しては、2年目フォローアップ研修を全員に実施しました。コロナ禍で突然すべての採用活動がオンラインになり、私たちも手探りの中で採用した世代なので、やはり対面でのケアや横のつながりなどの関係作りに苦しんでいるのではないかと考えたからです。

──新入社員研修について教えてください。

足立 2021年新卒の新入社員研修に関しては、基本はオンラインでの実施でした。ただ感染状況が落ち着いた時期に一度皆で集まり、対面でチームビルディングをした上で、再びオンラインに戻る流れで実施することができました。

──新入社員研修は総合職とエンジニアは共通ですか。

足立 全体の集合研修は約3週間あり、基礎的なビジネスマナーからビジネススキルまで学び、最後にその集大成として、課題に対してプランニングしプレゼンテーションを行う大会を実施しています。
 エンジニアは追加でレベル別の研修を受け、配属になります。総合職は4月後半には配属され、営業はOJTによる実地で学ぶ現場研修など、配属部門に応じた研修に入ります。

入社後の定着率アップを狙った採用方法

──キャリア採用はどのような流れで実施していますか。

足立 キャリア採用はまず事業計画、事業戦略ありきで、年度ごとの事業戦略に基づき次年度必要な人材ポートフォリオに基づいて採用人数・職種を決め、ターゲットごとに採用しています。
 人数はかなり大きな変動が見られ、過去には1,000人採用した年もありましたが、6年前はキャリア採用をほぼ凍結し、新卒採用のみの時期もありました。その後の事業計画で、今の通信事業の中にいる人材だけでは賄いきれない、新たなスキルセットを持つ人がどうしても必要になってきたので、キャリア採用を再開し、今は年々その採用数が増えています。

──キャリア採用には新卒のようなユニークな採用はありますか。

足立 キャリア採用は半数がエージェントの協力による採用です。頭数が必要な部門や比較的単一職種で募集できる部門についてはRPO(採用業務の外部委託)を使って採用しています。残りの半数は入社後の定着率を高めるために自社採用を実施していて、ダイレクトスカウト、リファラル採用、タレントプール(採用候補人材のデータベース)を活用しています。特にダイレクトスカウトは定着率が高く、リファラル採用も入社1年後の定着率が100%なので、この2つは非常に注力しています。タレントプールについては、孫正義が1回2時間ほど登壇する学生向けのイベント『ソフトバンクグループキャリアLIVE』を活用しています。オンライン実施のため2万人近くが参加してくれるので、そこが大きなタレントプールになっています。

社員一人ひとりが心身共に健康であるために

──人事制度や福利厚生でユニークなものがあればご紹介ください。

足立 福利厚生面では、他社にあるものはすべてあると言い切れるほど、非常に多種多様なメニューがあります。ユニークなのは2021年の「ニューノーマル支援特別一時金」で、給与のデジタル払い解禁を見据えつつ、ウィズコロナにおいて新たな働き方に取り組んだことへの慰労と感謝のため、全社員に対して「現金10万円+PayPay10万円=合計20万円」の一時金が支給されました。
 2020年には、ソフトバンクグループが、グループの従業員や取引先、医療従事者などを対象に抗体検査を実施し、PCR検査会社も立ち上げています。検査だけでなくワクチンの職域接種も率先して行い、従業員やその家族、医療従事者、地域住民なども含めて大規模に接種を行い、社員の安全だけでなく世の中の安全にも貢献しました。
 「健康経営宣言」を掲げて健康経営の促進にも注力し、月1回の全社朝礼では社長も参加して全社員でヨガをやったり、トライアルでオフィスに健康器具を設置したりしています。

──自己啓発や資格取得への支援はありますか。

足立 自己啓発・スキルアップのための資格取得支援では、かなり幅広い資格に対して奨励金最大15万円と受験料を支援しています。ビジネス、技術、IT分野で約300弱の資格が支援対象となっていますが、毎年見直しを行い、社員が求める資格、事業として必要な資格という観点で、常にアップデートしています。
 加えて自己成長のために自由に使える「自己成長支援金」を月1万円、給与にプラスして支給しています。資格取得のためでもいいし、健康のためでもいい、自己投資のために自由に使ってくださいという支援金です。

──女性の活躍推進にも注力されているそうですね。

足立 2021年4月時点で女性の社員構成比は約26.9%、女性管理職比率は7.1%でした。2021年7月には「女性活躍推進委員会」を設置して、2035年度までに女性管理職比率20%とする目標を掲げ、キャリア支援を行っています。社長の宮川自らが委員長となっており、これを最高機関として女性活躍に対する取り組みを各部門の中で走らせています。採用活動においても、新卒もキャリア採用もポジティブアクションとしての女性積極採用を実施し、女性により活躍してもらえる環境作りに力を入れています。
 また女性のみならず、当社では年齢、性別、国籍、障がいの有無に関わらず、多様な人材が個性や能力を発揮できる機会と環境作りに取り組んでいます。

──新卒採用やキャリア採用の選考の際、資格を持っている求職者はどう評価しますか。

足立 特にキャリア採用においては、例えばセキュリティ系の特定職種で実務能力と直結する資格をお持ちの方については、確認の上重視します。それ以外の資格については、努力部分として見ています。

──最後に資格取得やキャリアアップをめざす方々に向けてメッセージをお願いします。

足立 資格を取得するまでのプロセスで学んだ内容がその人の力になり糧になって、実務、就職、学業に反映されていきます。資格は「取得」が目的ではなくて、「取得後」に何をしたいかがとても大切です。資格取得の目的意識が高い人ほど、取得後の活躍も期待できますので、皆さんも資格取得後を見据えて試験に臨んでいただきたいと願っています。

[『TACNEWS 』2022年3月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  ソフトバンク株式会社
設立  1986年(昭和61年)12月9日
代表者  代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一
本社所在地  東京都港区海岸一丁目7番1号

事業内容

移動通信サービスの提供、携帯端末の販売、固定通信サービスの提供、インターネット接続サービスの提供

従業員数

単体:18,173人(2021年3月31日現在)
連結:47,313人(2021年3月31日現在)

URL: https://www.softbank.jp/corp/