人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第31回 株式会社ユーグレナ

Profile

金田 謙祐氏

株式会社ユーグレナ
管理部 人事課 チームリーダー

2013年、新卒でIT企業に入社。小学生向けプログラミング教育を手掛ける子会社にて事業責任者として従事。2017年9月、ユーグレナ入社。経営戦略部でM&A業務等を担当。2018年10月、管理部人事課に異動し、採用チームリーダーとして新卒・中途採用を担当するほか、人事制度企画・運用、組織エンゲージメントの向上に取り組んでいる。

2005年創業の株式会社ユーグレナは、沖縄県石垣島で微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養に世界で初めて成功し、現在は、主に食品などのヘルスケア事業、バイオ燃料などのエネルギー・環境事業を行うバイオテクノロジー企業に成長している。フロンティアスピリットを忘れないユーグレナ社では、どのような人材感を持って採用や教育を行っているのか。自ら人事制度の開発にも携わる、管理部人事課の金田謙祐氏に詳しくうかがった。

「サステナブル」を大切に

──株式会社ユーグレナについてご紹介をお願いします。

金田 ユーグレナ社は、主に微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を素材として活用した食品やビューティケア商品の製造販売、バイオ燃料の開発製造、ソーシャルビジネスを事業として行っているベンチャー企業です。
 当社の特徴は、「世界で初めて食用ユーグレナの屋外大量培養に成功し、それを軸に事業展開していること」「ヘルスケア事業と並行して、バイオ燃料事業を行っていること」「ユーグレナだけにこだわらず、クロレラなどの微細藻類の研究開発や遺伝子解析サービスなど多様なアプローチを行っていること」の3つです。
 ユーグレナは、和名ではミドリムシと呼ばれていますが、ワカメと同じ藻の仲間です。素材としての最大のポイントは植物と動物の両方の性質を備えていることで、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、不飽和脂肪酸など59種類の栄養素がバランスよく含まれています。また、植物の特徴である細胞壁がないので、栄養素の吸収率が高いのも特徴です。
 このように栄養素が豊富な上、油分も含んでいるのでバイオ燃料の原料にもなる。そんな素敵な素材がユーグレナです。

──企業として新たに取り組まれていることがあれば教えてください。

金田 ユーグレナ社は「人と地球を健康にする」という理念のもと事業を展開してきましたが、創業15年を迎えた2020年8月に、経営理念・ビジョン・スローガンのすべてを廃止し、当社の成長それ自体が社会問題の縮小に繋がるべきであるという考えのもと、ユーグレナ・フィロソフィーとして「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」に統一しました。
 ユーグレナ・フィロソフィーは、私たち「ユーグレナ社がありたい姿」で、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」は、自分の幸せが誰かの幸せと共存し続けることをめざしている状態を指します。
 例えば、もしユーグレナをたくさん作るために工場を増設した結果、工場からの汚水やCO2の排出が増えると、環境汚染や地球温暖化につながります。これでは企業は成長しても、他方では社会課題が増幅して、悲しい思いをする「誰か」が増えてしまいます。
 そうではなく、企業が成長したぶんだけ社会課題が縮小していくことを本業で実現していこうというのが「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」に込められた思いです。本業で稼いだお金で寄付や慈善活動をするのではなく、本業が成長したらそのぶんだけ社会問題が縮小することを実現したい。それが「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」の意味するところなのです。

求めるのは「フィロソフィー、カルチャーへの共感」

──ユーグレナ社の求める人物像を教えてください。

金田 ずばり「答えがない課題に対して、仮説を立てて行動し続けられる人」です。その理由は3つあります。
 1つ目は、私たちユーグレナ社はベンチャー企業なのでポテンシャルがあるぶん変化するスピードも速いです。「去年このやり方だったから今年もこのやり方でいこう」となることはほぼありません。常に新しい挑戦の連続ですので、「これだ」という答えがない中でも、自分で仮説を立てて行動できる人を求めています。
 2つ目は、ヘルスケア事業と並行してバイオ燃料事業を本業とする企業は、おそらく我々以外世の中にありません。そのため、これまでに成功した企業のビジネスモデルをそのまま参考にすることが我々にとっての正解にはならないという意味でも、答えがないのです。このことから、仮説を立て自分の考えたことが世の中や会社の答えになっていくことに楽しみを感じる人を求めています。
 3つ目に、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」はこれからの新しい会社の姿のひとつです。本業を通じて収益性と社会性の両方を高めていくということに、まだ世の中の多くの会社は成功していないと考えています。だからこそ、答えのない中でどう自分なりに仮説を立てて行動できるかが求められます。

──ユーグレナ社の採用方針をお聞かせください。

金田 新卒採用と中途採用の両方を行っていますが、どれだけスキルフルな中途の方でも、どれだけハイポテンシャルな新卒の方でも、私たちが実現したいフィロソフィーやカルチャーにフィットすることが最重要と考えています。副社長の永田はよく「綱引きは、力の強い人ばかりのチームが勝つのではなく、引くタイミングや方向性を合わせられるチームが勝つ」と言っています。綱引きで言う「引くタイミングと方向性の合致」が、ユーグレナ社で言う「フィロソフィーへの共感やカルチャーへのフィット感」に当たります。そこは決して妥協しないのが当社の採用方針です。

──新卒と中途の社員構成はどうなっていますか。

金田 約8割が中途採用ですが、新卒採用にも力を入れています。当社はベンチャー企業なので、誰もが想像しなかった非連続な成長を実現するため、その成長を共に作りたいと思ってくれる仲間を新卒・中途ともに募集しています。

──新卒採用はどのように実施していますか。

金田 新卒は通年採用を実施しており、4月と10月の年2回の入社月を設けています。通年採用を行う理由は、一括採用によるアンハッピーな状態をなくしたかったからです。学生にとっては、就職活動が一定期間だけに限定されてしまうと、その期間を中心に自分のやりたいこと、努力したいこと、チャレンジしたいことを組み立てなければならず、大きな制約になります。そして会社側にとっては、自分たちのフィロソフィーに共感してくれる方に対して門戸を開き続けておきたいと思っても、一括採用で期間が限られていることが理由で、当社に応募したくてもできない学生が生まれてしまいます。この課題を通年採用という形で解消しようと考えました。なお、30歳以下であれば第二新卒として応募可能で、こちらも通年採用で入社月は年4回、1月、4月、7月、10月となっています。

──年間何名の新卒を採用していますか。

金田 2020年4月入社は4名、2021年4月入社も4名でした。2022年も同程度を想定しています。当社がバイオベンチャー企業であることから新卒採用も研究開発系の理系中心採用と思われがちですが、研究開発するだけではなく、出来上がったものを世に届けなければ社会問題の解決には至れないため、研究職以外に、多様な職種にチャレンジできる総合職も募集しており、文系・理系問わず採用しています。

──新卒採用の選考ステップを教えてください。

金田 書類選考、Webテスト、複数回の面談と面接を経て内定というステップです。こだわっているのは、「面接」だけでなく「面談」を入れている点です。企業側のみが判断するのではなく、学生の方にも、当社が自己実現したいことや価値観とフィットする会社なのかを見極めてほしいので、面接とは別に、フラットに対話できる面談のプロセスを必ず入れています。

──中途採用の方針について教えてください。

金田 中途採用は、事業拡大する中で必要となる多様な職種において、年間数十名を採用しています。
 今、人事担当として私が力を入れているのがオンボーディング(新規採用者の教育・育成プログラムのひとつ)です。新しく仲間になった方が、本来持っている力を早期に最大限発揮いただけるよう、会社についての理解を深め、縦横の仲間とのつながりを持ってもらえるような施策を始めています。
 具体的には、これまでの15年間でユーグレナ社がどのような歴史を歩んできたかをまとめた動画コンテンツを見てもらった上で直近入社の仲間に集まってもらい、フリーディスカッションしてもらいます。
 実施後に行ったアンケートでは参加者の満足度がとても高かったので、コロナ禍でコミュニケーション不足気味になっているのを少しでも解消できたのではないかと思い、今後も続けていきたいと考えています。

新入社員研修では「最短で最低限の装備を身につける」

──2021年4月入社の新入社員研修はどのように実施しますか。

金田 毎年1〜2ヵ月の新入社員研修を実施しています。2020年はコロナ禍ということもあり1ヵ月でしたが、2019年は2ヵ月間実施しました。2021年も1〜2ヵ月を想定しています。
 新入社員研修では、研修が終わった時点で最低限のビジネスマナー、ビジネススキル、マインドセットを持ってOJTができる状態にすることをめざしています。「研修」を「成長速度を最大化させるための手段のひとつ」だと捉えたとき、自分自身の経験では実務を通じた成長機会のほうが多かったので、研修は長いほうがいいという考えをやめました。ただゼロでいいかというと、もちろんそうではありません。もしも入社後に何の研修もなく配属されたら、新卒で入った仲間も配属先部門のメンバーも、どちらもとまどいます。RPGゲームの『ドラゴンクエスト』に例えると、最初の村を出発するときに装備品ゼロでは、最弱モンスターのスライムとでさえも戦えないですよね。最低限の装備でもいいから自分で戦える力をつけることを、1〜2ヵ月の研修期間で想定しました。
 「最短で最低限の装備をまず身につける」という方向で考えた結果、研修期間は1〜2ヵ月にし、その期間でビジネスマナー、ビジネススキル、マインドセットを学んでもらい、それをできるだけ自分の身体に染み込ませられるように実践の場を設けた研修を実施しています。実践の場では、座学で学んだことを実際の営業活動を通じて自分のノウハウに転換していきます。ただ、今はコロナ禍でできないこともありますので、そこは工夫していきます。

──社内教育で、他にユニークな取り組みがあれば教えてください。

金田 社内教育に関してお伝えしたいことは3つあり、今お話しした新卒研修が1つ目です。2つ目は、研修のオンラインコンテンツの拡充です。オフラインで実施した研修をオンラインコンテンツ化して、好きなときにいつでも誰でも閲覧できるように拡充を進めています。
 3つ目としては、自主的な学びへのサポートに力を入れています。例えば私自身も社内勉強会を企画したことがあるのですが、教材費の一部が会社負担でした。またオンラインで学べるサービスを活用する際にも、利用金額の一部を会社負担にして利用しやすくしました。

社内保育所など充実した制度でサポート

──社内制度や福利厚生でユニークなものがあればご紹介ください。

金田 ご紹介したいのは育児支援です。ユーグレナ社は社内保育所を併設していて、現在8名の仲間のお子様を預かっています。制度面でも、育児短時間勤務は法令上子どもが3歳になるまでですが、ユーグレナ社では小学6年生まで適用可能です。また所定外労働時間の制限も法令上は3歳までですが、同様に小学6年生までに延長しています。育児休暇の取得や育児サポートを受けやすい環境なので、育休からの復帰率は100%です。
 また人事制度ではありませんが、社内コミュニケーションの活性化を目的として、有志メンバーとともに「社内ラジオ」を運営しています。仲間を「△△担当の〇〇さん」という業務上の役割だけではなく、人柄まで知ることで社内コミュニケーションの量と質が変化すると考えました。毎週金曜日に更新していて、入社して日が浅い仲間に登場してもらうことが多いですね。社内ラジオがきっかけで、仕事はもちろんですが、共通の趣味の仲間が見つかるなど、コミュニケーションの量が増えて、協働が生まれ、会社の成長にもつながるのではないかと考えています。

──ユーグレナ社では仕事上、必要となる資格はありますか。

金田 全社共通の必須スキルのようなものはありません。ただ、特定の資格保持者は毎月の給与に資格手当がプラスされます。例えば弁護士や医師は6万円、公認会計士は4万円、税理士や社会保険労務士は3万円といったように加算されます。ちなみに社内には現在、医師、公認会計士の資格を持った仲間がいるのですが、医師は研究開発分野で、公認会計士は経営戦略部隊としてM&Aやファイナンス分野で活躍しています。

──自己啓発として資格を取得するためのフォロー制度はありますか。

金田 企業側が用意した様々なサービスを、各自割り振られたポイント内で自由に選択できるカフェテリアプラン制度を導入しています。毎年各自5万円相当のポイントが割り振られており、自分でやりたいものがあれば資格取得や書籍購入といったスキルアップの費用補助にあてることができます。私も入社当初、経営戦略部に配属になったときファイナンスの知識がゼロだったので、この制度を利用してTACの教材を購入し、簿記の資格を取得しました。

──応募書類の資格欄に資格の記載があった場合は、どのように評価しますか。

金田 事業がより成長するために必要なスキルや知識を備えた資格であれば評価します。
 また、実務上、直接的に求められる資格ではなかったとしても、取得に向けた勉強の中でどのようなチャレンジをしたかは評価したいと思います。資格取得にチャレンジした中で、自分なりの目的意識を持って、課題解決につなげたといったエピソードがあれば、その内容についてぜひお話しいただきたいです。

──最後に、資格取得やスキルアップをめざして勉強中の方にメッセージをお願いします。

金田 資格取得は、自分のなりたい姿やありたい姿に向かっていくためのチャレンジです。しんどいことや辛いことがたくさんあると思いますが、資格を取得するだけでなく、そのプロセス自体も成長機会と捉えて、前向きにチャレンジし続けていただきたいと思います。

[『TACNEWS 』2021年6月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  株式会社 ユーグレナ
設立  2005年8月9日
代表者 代表取締役社長 出雲 充
本社所在地 東京都港区芝5-29-11 G-BASE 田町

事業内容

ヘルスケア事業、エネルギー・環境事業、ソーシャルビジネス など

従業員数

単体:250名、連結:419名(2020年9月末現在)

URL: https://www.euglena.jp/