人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第30回 株式会社マネーフォワード

Profile

富田 政孝氏(左)

株式会社マネーフォワード
People Forward本部 人材採用部 副部長

井上 玲氏(右)

株式会社マネーフォワード
People Forward本部 人事企画部 副部長

2012年創業の株式会社マネーフォワードは、多様なサービスを通して、個人や企業のお金の課題解決をめざしてきた。2017年9月には国内初のFintech、SaaS企業として東京証券取引所マザーズ市場に上場している。お金に関わる領域だけに、マネーフォワードでは財務会計のスペシャリストである公認会計士や税理士も社内で活躍しているという。マネーフォワードの人材戦略と人材育成について、詳しくうかがった。

※FinTech(フィンテック)…Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語で、インターネットや人工知能などの情報技術を活用した新たな金融サービスのこと。

※SaaS(サース、Software as a Service)…ソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供する形態のこと。SaaS企業とは、ソフトウェアという形態で顧客にサービスを提供している企業をいう。

求めるのはミッション、ビジョン、バリューへの共感

──株式会社マネーフォワードとは、どのような会社なのか教えてください。

富田 当社は2012年の創業以来、様々な角度からお金に向き合い、法人・個人を問わずすべての人のお金の課題解決をめざしてきました。代表的なサービスである個人向けお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」、ビジネス向けのバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド」をはじめとして、4つの事業領域で30を超えるサービスをリリースしています。中でも「マネーフォワードME」は国内ユーザー1,150万人を超えています。
 また、“お金を前へ。人生をもっと前へ。”というミッションと、“すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる。”というビジョンのもと、“User Focus、Technology Driven、Fairness”の3つのバリュー(行動指針)を掲げています。このミッション、ビジョン、バリューを非常に大切にしている会社です。

──2021年のトピックがあればご紹介ください。

井上 現在、サスティナブル(持続可能)な社会をめざしてESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みを強化していて、“User Forward:ユーザーの人生をもっと前へ。”、“Society Forward:社会をもっと前へ。”、“Talent Forward:社員の可能性をもっと前へ。”の3つの重点テーマを据えて取り組んでいます。

──「求める人物像」を教えてください。

富田 大前提として、当社のミッション、ビジョン、バリューに共感できる方を求めています。また、創業9年目のベンチャーですので、社内には整備されていない部分がまだまだたくさんあります。その意味で、自分自身が主体的に動いて作り上げていこうというベンチャーマインドを持って業務に取り組める方、かつ個人の成果よりもチームのアウトプットを最大化するためにチームワークを大切にした業務推進ができる方を求めています。

通年でミッション、ビジョン、バリューを浸透

──2021年4月の入社式と新入社員研修はどのように実施されますか。

富田 2021年4月は20名強の新入社員が入社します。入社式はオンラインとオフラインの両方を想定していますが、可能であればオフラインで実施したいと考えています。というのも、2021年春入社の新卒は最終面接で本社に来ていただいた方が多いのですが、新型コロナウイルスの影響で、地方在住の方は面接から内定まですべてオンラインで完結したためです。せめて入社式はオフラインで実施してあげたいですね。


井上 新入社員研修は、入社後1~2ヵ月間に集中して行っていた時期もありましたが、近年は一気に詰め込むより、要所要所で接点を設けながら1年かけて学び続けるほうが定着し、実務にも活かしてもらえると考えています。ですので、例えば会社のコンプライアンスやリスク管理の部分など、入社後すぐに覚えていただきたいことについては入社初期に行い、実務面やマインド面、代表の思いやミッション、ビジョン、バリューをインストールしてもらうのは、通年で取り組んでもらおうと考えています。配属も、以前は研修後からでしたが、直近では比較的早くして、実務を覚えてもらいつつ並行して研修を実施しています。

──秋採用も実施されていますね。

富田 新卒に関しては現在通年採用を実施しており、2020年10月の秋採用では10名が入社しました。秋採用はほとんどがグローバル採用で、エンジニアが中心です。グローバル採用は2017年から着手し、2018年から実際の採用をスタートしています。アジアを中心に日本語話者の学生から採用し始め、今では多様な国から採用しています。ダイバーシティの観点から国籍を問わない採用を進めるという意図だけでなく、国内の学生という小さなマーケットから、世界にいる優秀なプログラマーたちにも枠を広げたいという思いで始めました。

──2022年入社の新卒採用の進捗状況はいかがですか。

富田 ビジネスサイドとエンジニア・デザイナーサイドを半数ずつ、トータルで25~26名の採用を想定しています。2022年入社の採用活動は早めに動き出していて、2~3月に面接を行っているので、夏前には当社に意思を固めていただけたらと思っています。また当社では新卒採用が前提ではないアルバイトも含めて、インターンシップを各部署、グループ会社でも多く受け入れています。インターンシップを経て当社に興味を持ち、新卒採用に応募される方もいますね。

──新卒の採用プロセスを教えてください。

富田 現在はすべてオンラインでの実施ですが、基本的に人事部面接を経て各現場の専門面接官にあたる部長クラス面接、その後複数名の役員面接を経て、最後に代表が面接する合計3~4回の面接になります。ただ学生によって「この人にはインターンを経験してもらいたい」「この人はあの社員と会わせたい」といったアレンジをすることが多いので、テンプレート通りに進まないことがほとんどです。またビジネスサイドには特にテスト的なものはありませんが、エンジニアには技術試験を用意しています。

──内定者に対して、研修やeラーニングなどのフォローは行っていますか。

富田 当社は半期ごとにグループ会社を含めた全社総会を実施していますので、この総会に内定者にも出席してもらい、同時に内定者研修や配属説明会といったイベントを行うことで接点を持っています。2020年の総会はオンライン開催となりましたが、当社の情報には定期的に触れてもらえるようにしています。
 入社前に内定者に学んでいただく機会については毎年試行錯誤していて、課題図書を設定したり、1Dayワークショップを実施したりしてきました。まだしくみ作りの最中ですが、2022年度採用についても入社前に学んでいただく機会を用意していきます。

■富田 政孝氏 新卒で人材紹介会社に入社し、転職支援・採用支援・営業に従事。2018年、マネーフォワードに入社。中途採用をメインに、人事採用部副部長として組織運営を任される。

期中に採用枠拡大、年間約150人の中途採用

──中途採用は年間何名採用していますか。

富田 2020年度だけで約100名を採用しました。当社のWebサイトの採用ページにたくさんの職種が並んでいることからもわかるように、ほぼすべての職種で常に人を募集している状況なので、中途採用はかなり多いですね。2020年の場合、リファラル採用が全体の30%、続いてエージェント経由やスカウトも含めた求人媒体が並び、ここまででほぼ80%になり、残りがWebサイトからでした。
 選考ステップとしては、各部署の部長ないしは本部長が面接をして、役員面接、場合によっては代表面接を経て2~3回で内定に至ります。


井上 当社は期中に事業の状況を見ながら増員増枠をすることが多い会社です。特にSaaSは先行投資が必要なビジネスモデルなので、期初の時点では控えめな数字を立てても、四半期ごとに事業の見通しが明確になってくると、採用のアクセルを踏むことが例年あります。また、当社は30ものプロダクトが走っていて、新規事業も期中にどんどん増えていくので、新たな人材採用の必要性が発生する確率は高くなっています。

──中途採用の入社と研修の流れを教えてください。

井上 毎月1日と15日が入社受け入れ日となっていて、2020年実績では、受け入れ日のたびに数名から10数名が入ってきました。初日はスクーリングのようなオリエンテーションを実施しますが、基本的に2日目からは現場に配属し、入社から2週間のうちにプロダクトの理解や事業内容の理解など、全社の主要な情報を知っていただく機会を設けています。


富田 現在は基本的に研修もリモートで行っていますが、最初から完全リモートになるとコミュニケーションに支障が出てしまったり、キャッチアップが遅くなってしまったりするケースもありますので、対面でコミュニケーションを取る場を各部署で増やしてもらっています。会社としては、緊急事態宣言などの特別な状況を除き、原則として週に1回は出社し、チームでのコミュニケーションを大切にしましょうと周知していますが、それ以外は受け入れ部署に相談しながら実施しています。ガチガチにルールを固めることはせずに、新入社員の初出社日はお互い顔を合わせて、一緒にランチをするなどして歓迎してくださいねと、受け入れ部署に伝えています。
 基本的に入社後のフォローは各部署や配属先に任せていますが、1ヵ月後に人事面接、3ヵ月目に現場の受け入れ部署で面談をします。あとは人事周りを含め、困ったときに使える社内コミュニケーションツール「Slack」で交流を図っています。


井上 多い部署だと週に1回、上長と部下、あるいは同僚とカジュアルな話も含めた1on1で面談する時間を設けています。最初は制度として人事の旗振りで始まったのですが、現在はコミュニケーションの文化が自然に根づいています。もちろんコロナ禍前とまったく同じとはいきませんが、IT業界なのでコミュニケーションツールを使うことには慣れていますし、社内のツールを使って過去の情報を探りやすい文化もあるので、中途採用での受け入れは比較的スムーズにいっていると思います。

■井上 玲氏 新卒でERPソフトウェア企業に入社し、営業・マーケティングに従事したのち、転職して営業に携わる傍ら人事を担う。2017年、マネーフォワードに入社し、採用を担当。その後、子会社に出向し組織人事に従事。2020年12月から本社に戻り、人事企画部にて人事制度面を担当し、人事企画部副部長として組織運営にも携わる。

「育てる制度」は現在進行形で開発中

──社内研修制度で特筆すべきものがあればお聞かせください。

井上 中途採用をメインとして即戦力となる人材を受け入れてきた期間が長かったので、まだ研修制度や自己啓発を体系立てて構築できていないのが正直なところです。ただ個人の学びを支える支援でいうと、例えば業務に関連した書籍購入に関しては会社の共有財産として自由に購入できるなど、やれることから導入しています。おかげで金融関連、給与などのバックオフィス関連、IT関連と、社内には幅広いカテゴリーの書籍が並んでいます。
 他には、技術系含め有料セミナーなどに業務中に社費で参加することもできます。制度としてあるわけではなく都度判断ではありますが、積極的に外部セミナーに参加して、社内向けレポートで還元してもらうといった形でサポートを行っています。

──人事制度や福利厚生面で何かユニークな取り組みはありますか。

井上 1つ目は、3~4年前から始めた、半年に1回開催する「MFチャレンジシステム」という社内公募制度です。同じ部署の中でひとつの仕事にじっくり取り組み成果を出すというのは素晴らしいことですが、当社には30以上のプロダクトが揃っているので、社内にいながらいろいろなキャリアを開発していってほしいという思いで、事業や職種をまたぐ異動をサポートしています。この制度を通じて、毎回5~10名の異動が決まっています。
 2つ目は、「MVP」と「Culture Hero」という表彰制度です。当社の大切にするミッション、ビジョン、バリューに対して成果を出したメンバーを半期ごとにMVPに認定し、カルチャーを体現したメンバーに対しては3ヵ月に1回、Culture Heroとして表彰しています。

──社員の男女比はどうなっていますか。

井上 7対3で男性が多いです。エンジニア職種が多いのでどうしても男性が多くなりがちですね。しかし女性の産前産後・育児休業からの復帰率は高く、子育てしながら活躍している女性も多いです。また男性も、創業者の1人が育児のために1ヵ月休暇を取り、積極的に社内でも発信してくれているなど、男性もごく当たり前に育事休業をしやすい環境です。

財務会計の知識をダイレクトに活かせるマネーフォワード

──資格に対する考えを教えていただけますか。

富田 会計系資格は当社のプロダクトと親和性の高い領域なので、会計周りでの課題解決を実現し、事業者の生産性を向上させることによって、ミッションである“お金を前へ。もっと人生を前へ。”を実現する実感がわきやすいのではないでしょうか。ですから履歴書に会計系資格が書かれている場合は、私たちのミッションに興味を持っていただけたらなと期待しながら見ています。


井上 資格を持っている、あるいは挑戦したけれど断念したという事実よりも、その背景にあるものをしっかり語っていただきたいです。ご自身が資格の取得に興味を持ったきっかけや思い、あるいは学ぶ姿勢や動機の部分は、入社後にどれだけ力をつけていってもらえるか、主体的に学んでもらえるか、金融に関してどれだけ興味を持っていけるかなど、モチベーションをうかがい知るための、会話のひとつのトリガーになると思います。

──社内には有資格者の方も多いのでしょうか。

井上 公認会計士、税理士、貸金業務取扱主任者を始めとした金融系資格や、社会保険労務士、行政書士、中小企業診断士、弁護士など士業の資格を持った社員はたくさんいます。サービス開発のために資格を取るメンバーも多いですね。彼らの携わっている事業内容は様々で、会計サービスの開発ディレクションあるいは経営企画に従事する会計系有資格者メンバーもいれば、人事労務に携わる社会保険労務士メンバーがバックオフィス支援として人事プロダクト開発にフィードバックをしたり、同様に経理部門にいる経理財務メンバーが実務をプロダクト開発にフィードバックしたりと、かなり密に連携しているケースもあります。

──特に奨励している資格はありますか。

富田 職種が非常に幅広いので、全社共通で奨励している資格はありません。ただ会計や財務のプロダクトを開発・提供しているので、公認会計士・税理士有資格者や受験勉強中の方の知識とノウハウは大いに活かされます。そこは非常にポジティブに評価しています。
 資格取得をめざす際の受講費用補助や資格合格一時金といった支援は、現状、制度としては設けていませんが、事業部ごとに事業部の予算内で支援しているケースもあります。会計プロダクトやセールス部門あるいはカスタマーサポートといったお客様対応が発生する職種では、プロダクト開発に必要な知識でもあるので、資格取得はマストではありませんが日商簿記検定3級の知識は最低限最初に身につけてもらっていますし、配属される新卒には簿記の勉強時間を取ってもらっています。

──最後に、キャリアアップをめざす方々へメッセージをお願いします。

富田 私たちのメインプロダクトに、企業のバックオフィスの生産性を上げる「マネーフォワード クラウド」というサービスがあります。会計や人事労務といったバックオフィス業務は企業の成長を支える要となる仕事です。バックオフィスが強いとその会社自体が強くなるように、バックオフィス業務の単なる効率化だけではなく、企業経営を強くしたいという思いを持った人材を強く求めています。当社はフレキシブルにそうした方のキャリアを構築したり、ロールを変えていったりすることができる会社であると自負しています。


井上 財務会計の知識が事業サイドに活かせるのは当社の大きな魅力です。ぜひ学んだ知識を一般的なバックオフィスだけでなく、当社のフロントサイドや事業サイドでも活かしていただきたいと思います。

[『TACNEWS 』2021年5月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  株式会社マネーフォワード
設立  2012年5月
代表者 代表取締役社長CEO 辻 庸介
本社所在地 東京都港区芝浦3-1-21 msb Tamachi 田町ステーションタワーS 21F

事業内容

インターネットサービス開発

従業員数

865名(2021年11月末現在)

URL:
https://moneyforward.com