人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第29回 株式会社Jストリーム

Profile

田中 潤氏

株式会社Jストリーム
人事部長

食品メーカーでの営業部門と人事部門、IT企業での人事部長を経て、2019年7月、Jストリームに人事部長として入社。現在は、2021年4月から導入予定の新・人事制度の最終調整に取り組みつつ、新卒・中途採用や研修、新型コロナウイルス対応などに奔走している。人事部門は現場から信頼され、相談を受けてこそ機能すると考え、「日本一敷居の低い人事」を実現すべく取り組み中。

株式会社Jストリームは、1997年に世界初の動画配信専門事業者として誕生し、未開拓だった国内の動画配信を普及させてきた。設立25年目を迎える今、技術の進化と並走するように動画配信ビジネスの可能性を広げるJストリームでは、どのような人材観をもって採用や育成を行っているのか。人事部長の田中潤氏に詳しくうかがった。

動画配信サービスのパイオニア

──最初に、株式会社Jストリームについてご紹介ください。

田中 当社はひと言でいうと動画のプロフェッショナル集団です。表に出ないBtoBビジネス、かつ無形物を扱っているので若干わかりにくいかとは思いますが、動画に関する多岐に渡るビジネスを展開しています。
 2007年の設立10周年を機に「もっと素敵な伝え方を。」というコーポレートメッセージを掲げました。動画をより高品質で、より多くの人にお届けするのが私たちの使命です。ただし、送る側の人にとっては動画を送り届けること自体が目的ではありません。何を送るか、動画を活用して何を解決するかが目的なのです。そこで、クライアントの想いを把握し、どう伝えれば「もっと素敵に」伝わるのかを考え、実行していける最先端の技術と広い意味での感度をもった会社でありたいという思いが、このメッセージには込められています。
 加えて、動画を使ってもっと日本のビジネスをよくしていきたいと考えています。企業が抱える課題に対し、動画を使ってできるソリューションがないか、あるいは今まで以上に動画を活用できないかといったニーズに対して、できることをすべてやっていきます。
 2020年は、新型コロナウィルス感染症の影響で一気に動画シフトが起こった、私たちにとって激動の年でした。人が自由に集まれないとき、それをリアルに補完できるツールは動画しかないということに誰しもが気づいたのです。わかりやすい例でいえば、株主総会をオンラインで実施するというニーズが大変高まりました。株主総会という重要な場で、映像が見えなくなったり、ある部分が聞こえなかったりということがあってはいけませんから、安定した配信システムを作り、会場で撮影した様子を、リアルなライブ配信で届けることが求められます。私たちは動画配信システムと巨大なサーバー群という配信ネットワークに加え、撮影チームを自社で持っていますので、ライブ中継の映像を自社で撮影し、それを自社のネットワークに載せ、自社のコンテンツサービスで送ることまで首尾一貫してできるのです。
 BtoBのビジネスでは、セキュリティ管理など情報漏えいリスク、ID管理までしっかりサポートできるサービスを持っていることも重要です。さらに動画配信だけでなく、Webサイト構築や映像コンテンツ作りができる制作部隊も充実していますので、映像に関することすべてができる、非常にユニークな会社です。

──コロナ禍がある意味で追い風となる部分もあったのですね。

田中 私たちからの映像活用のご提案に対してこれまでなかなか踏み込めなかった企業が、コロナ禍で背中を押され、この1年間であっという間に現実化したというのが実感です。遅かれ早かれ映像メディアが主流となる時代になると思っていましたが、それが何年か早まる結果になったと言えます。ただ、当社の社員を感染から守ることも並行して行わなければいけません。当社では、テレワークを働き方の基軸のひとつとして恒久的に取り入れる判断を早期にしました。また、現場業務では感染対策を徹底しています。

──2021年、新たに取り組もうとしていることがあればお聞かせください。

田中 映像への期待感はますます高まりますから、それに効率的・効果的に対応する必要がさらに高まると考えています。映像は今以上に身近なものになるでしょう。ライブ配信にしても、当社の部隊が現地に赴くのではなく、すべてをオンライン管理して、当社社員は自社や自宅にいて配信ができるしくみなど、新たなサービス・商品を提供していきます。

新卒は4部門の職種別で採用

──採用に関してはどのように進めていますか。

田中 当社では、新卒と中途、どちらもそれぞれ重要だと考えて採用活動をしています。新卒に関しては、2020年4月入社が11人、2021年4月入社が15人、2022年4月入社に向けては前年以上の人数を想定しています。
 新卒採用では、まず多様な人材がいていいと考えていますが、ベースにはコーポレートメッセージである「もっと素敵な伝え方を。」という思いを共通に持ちながら、皆がそれぞれの意見を持って、チームとして新しいことにもチャレンジしていけるよう、自分の意見を伝え、相手の意見もきちんと聞くという、基本的なコミュニケーションは大切だと捉えています。

──コロナ禍での2021年新卒採用は、どのように行いましたか。

田中 早い段階で100%オンライン採用に切り替えました。内定式もオンラインでしたから、内定者は今まで誰ひとり会社に来ていない状況で入社日を迎えることになります。
 「会社には受付がある」という実体験すらしたことがない、テレビドラマでしか会社のイメージを知らないメンバーが加わることになるのです。突然のコロナ禍の影響を受けた2020年新入社員研修はなかなか大変でしたが、2021年はこの意味でまた別の工夫が必要であり、心して受け止めなくてはと考えています。
 また、会社に訪問できない応募者にリアルに会社を知っていただくため、採用ホームページをリニューアルしました。当社らしい、動画を多用したサイトです。動画制作、Web制作を自社でできる強みを活かし、若手社員が中心になって、社員が実際にディレクションを行い、内製化でサイトを作り上げました。これができる企業はそう多くはないと思います。当社の思いと総合力が詰まったサイトになっていますので、ぜひご覧ください。

──新卒採用の選考ステップについて教えてください。

田中 当社は基本的に配属本部別に採用を行う職種別採用になっています。大きく分けて、エンジニア中心のプラットフォーム本部、制作職中心のソリューション推進本部、営業本部、管理本部の4つの本部別にエントリーしていただきます。
 その後の流れはエントリールートによって異なりますが、基本的には求人セミナーやイベントなど出会う機会を経て、面接は3段階で、その間に社員との面談などを挟みながら進めています。当社の経営層は人材に対する思いが非常に熱く、最終面接では必ず社長、副社長が全員にお会いしています。

──2021年採用は内定式もオンラインとのことですが、内定者フォローはどうされましたか。

田中 従来は夏に1回内定者イベントを行い、10月に内定式、翌年1月にもう1回イベントを実施するという感じでした。今回もオフィシャルなイベントの構成は同様ですが、合間に月1回程度のペースで採用担当者と参加可能な内定者によるオンラインの会を開いています。オンラインでも先輩社員との懇談の場を作ることは充分できるのですが、リアルとは違い、部屋のすみっこで内定者同志で仲よく話したり、LINEの交換をしたりといったことはなかなかできません。それを解消するには回数でカバーするしかないと考えました。

2021年の入社式は本社でリアルにやりたい

──2020年の入社式から新入社員研修について教えていただけますか。

田中 2020年4月1日は例年通りに入社式を実施し、4月7日の緊急事態宣言までの間は感染防止施策を行いながらすべての研修をリアルで実施しました。当社では2ヵ月間の新入社員研修を実施していて、最初の部分は人事が担当し、そのあとは、いろいろな技術商品の説明や、新入社員同士で新入社員紹介サイトを作って社内公開まで行うような技術研修と、営業研修(2020年はオンライン営業同行)を実施しました。そして最後にまた人事研修で締めくくります。その最初の6日間だけでもリアルでできたので、いきなりオンラインに放り込むのとは違って、新入社員同士の関係性が作れたのでよかったと思います。
 2020年の研修はこちらも余裕がなかったこともあり、かなり新入社員の自主性に任せましたが、これが思いのほかよい結果を生み、自分たちでチームの計画を立て時間管理をするようになりました。新入社員研修は綿密に設計し過ぎず、自主性に委ねながらも、しっかりと目配りしていくほうがいいなと新たな気づきがありました。
 当社の新入社員研修はかなり愛情を込めて行っているので、各本部から総勢10名程度の新入社員研修事務局を選出し、さらに研修期間中はマンツーマンに近いかたちでチューター社員がつきます。毎日夕方のミーティングで1日を振り返ったり、研修事務局に選ばれた若手社員がカリキュラムを考え、研修の仕切りをしてくれました。それらもオンライン上でうまくできてよかったと思っています。
 2021年は今の時点で確たることは誰もいえませんが、できれば4月はリアルに会社に出社してもらって、入社式を行いたいですね。これまで会社に来れていないだけに、本社の会議室で初めて出社する新入社員を迎えてあげたいという思いを持っています。
 現状、勤務体制は基本的には出社とオンラインのハイブリッド型になっているので、入社式後の状況が許せば新入社員研修も出社とオンラインを織り交ぜた形式で実施したいと思っています。

──新入社員研修後に行う研修はありますか。

田中 2020年採用の振り返り研修は2021年3月に実施します。2020年12月に全新入社員の面接を実施したのですが、やはり皆で集まりたいという欲求を強く感じました。ただこの情勢ではちょっと厳しいと考えています。研修の内容としては、こちらからあれこれ情報提供するというよりは、いろいろな組み合わせで新入社員同士がたくさん話す時間を作ったほうが、かえって学びがあると思っています。

──そうした出会いの場を作るのも人事部門の役割なのですね。

田中 テレワークが定着すると、会社の中でどう「場」を作っていくかがこれからとても大事になってくると思います。人事部門の人間が変にレクリエーション的な場を作るのもちょっと違うかなと思っていて、研修を組織横断的な場づくりにして、そこにインプットだけの研修ではなく、なるべく皆であれこれ話す場を意図的に作り、それが交流になったり、勉強になったり、社内の出会いの場になるようにデザインしていきたいと考えています。

中途採用者の孤独化を防ぎたい

──中途採用はどのような流れになっていますか。

田中 中途採用は2020~2021年にかけて年間約50人を採用しました。最近では当社の社員からの紹介によるリファラル採用にも力を入れていますが、まだ人材紹介会社経由の採用が多く、基本的には職種によって面接2~3段階で決まります。マネージャー以上の採用は、社長・副社長にも会っていただいています。

──中途採用の場合、入社後の研修は実施されますか。

田中 毎月何名か入社していますので、月同期として2日間は一緒にリアルで研修を実施しています。それ以降は配属先での実務に即した研修になります。
 中途採用の場合、現在では最初からオンラインで仕事を行う人も多いため、配属部署以外の人と知り合う機会がなかなかありません。新卒はまとめて採用してつながりを作れるのですが、中途入社は孤独化していかないかと心配していて、会社としても何か対策が必要ではないかと思っています。
 オンラインでも仕事がきちんとできているのは、社員同士にこれまでの関係性の蓄積があるからです。その蓄積がない中途入社者が増えていくと、いつかひずみが出てくる可能性があると懸念しています。特にこの1年間は一気に中途採用を行いましたので、中途入社者とのつながりをどう作っていくか、困ったときに誰かに相談できるか、きちんとしくみ化も含めて取り組まなければならないと考えています。

──オンラインでの業務が増えることで、今までにはない悩みが発生するのですね。

田中 そうですね。入社半年後には人事ですべての中途入社者と個人面談を実施しています。また「JストリームWAY」というクレド的なものがあり、私たちが大事にしている理念について伝える研修を新しく入ってきた方を対象に行っています。

多様で自由な働き方を選択

──人事制度や福利厚生でユニークなしくみがあればお聞かせください。

田中 2020年10月から、テレワークを働き方に恒久的に取り入れる制度に変わり、テレワーク中心の働き方の社員にはワークシフト手当を支給しています。併せてオフィスレイアウトも見直し、フリーアドレス制も導入しました。
 またそこからさらに一歩進めて、中途採用ではポジションによっては居住地を問わずに応募ができるようにしました。まだ始めたばかりですが、所属は大阪の部署でも東京在住という社員や、福岡勤務の社員が東京の部署に異動後も福岡在住のまま基本テレワークで働いているというケースも出ています。
 この取り組みは、コロナ禍に関わらず、当社の人材確保戦略として続けていこうと思っています。例えば親の介護で一時的に地元に帰りたいという社員が出ても、離職せずに働き続けることができます。今回のコロナ禍では、本当に苦しく大変なことがたくさんありますが、世の中が変わっていくことをポジティブに捉え、どうせ変えるならよりメリットのあるものに変えようと考えていくことが大切だと思っています。

──勤務地と居住地が必ずしも一致しない時代が来るのですね。

田中 そうですね。もうひとつ、まだ1年目なのでそれほど事例は多くはありませんが、当社では副業を解禁しました。副業で自分の経験やスキルを使って何かに取り組み、その経験が社内に還元されれば、いい循環が生まれると思っています。実は私も副業で週末にはキャリアカウンセラー養成講座の講師をしていますし、最近採用した中途入社者にも、副業前提で週4日間勤務の正社員という人がいます。少しずつですが、働く場所も勤務日数も選択できる時代が近づいていると思います。必ずしも正社員という雇用形態にこだわることもなく、一人ひとりのニーズと向き合って業務委託や契約社員といった雇用形態の柔軟化にも取り組んでいます。多様な働き方ができることで、多様ないい人材を集めたいですね。

資格試験で大事なのは動機とプロセス

──新卒採用では、学生時代に取得した資格をどのように評価していますか。

田中 資格については、取得したこと自体を評価するというよりも、2つのことを面接で確認し評価したいと思っています。1つは、どのような思いで取得したのかです。資格の取得は動機が非常に大事です。何をやりたくて、どうなりたくて取得したのか。その動機に合理性があって、当社への応募と親和性があるかを見極めます。もう1つはプロセスです。資格は「取得した」という結果だけを重視されがちですが、資格取得はかなり大変です。そこに確かな思いがあって、どのような苦労やがんばりをして、どのような勉強の仕方をしたのかを確認することは、入社後、何か新しい仕事を頼んだときにどのようなやり方ができる人かの判断につながります。その意味で、資格取得のプロセスからきちんと経験学習サイクルを回せているかを確認しているのです。

──最後に、資格取得やキャリアアップをめざしている方にメッセージをお願いします。

田中 私たちのビジネスにおいて、動画を使うということ自体が決して目的ではないのと同じで、資格取得は動機が大事です。何のために資格を取得するのか、それによって何を成し遂げたいのかというストーリーがきちんと自分の中にできていれば、勉強も続くし取得後も役に立ちます。
 試験勉強と聞くと孤独な感じがしますが、今はオープンな場や資格をめざす人同士のネットワークがあります。ひとりで煮詰まるのではなく、より開いた勉強の仕方でネットワークを活かして、将来的にもプラスになる勉強をしていただければと思います。

[『 TACNEWS 』2021年4月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  株式会社Jストリーム
設立  1997年5月29日
代表者 代表取締役社長 石松 俊雄
本社所在地 東京都港区芝二丁目5-6 芝256スクエアビル6階

事業内容

ネットワークシステムにおける、動画データ及び各種情報の提供サービス、その他関連する事業

従業員数

単体275名 連結450名(2020年3月31日現在)

URL:
企業ホームページURL https://www.stream.co.jp
採用ホームページURL https://recruit.stream.co.jp/

合わせて読みたい

おススメ記事

「TACNEWS」に掲載の記事内容・情報は執筆時点のものです。