人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第26回 株式会社サイバーエージェント

Profile

石田 裕子氏

株式会社サイバーエージェント
専務執行役員 採用戦略本部 本部長

2004年、新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門で営業局長・営業統括に就任後、スマートフォン向けAmebaのプロデューサーを経て、2013年及び2014年に2社の100%子会社代表取締役社長に就任。2016年サイバーエージェント執行役員、2020年10月より専務執行役員に就任。人事管轄採用戦略本部長を兼任。

1998年創業のサイバーエージェントは、インターネット広告事業からスタートした会社だが、今日ではテレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA」を思い浮かべる方も多いだろう。進化の速いインターネット産業界で、「人材力」「技術力」「創出力」を強みに、次々と新規事業に参入してきたサイバーエージェント。源泉である「人材力」はどのようにして生み出されているのか。専務執行役員・採用戦略本部長の石田裕子氏に、採用戦略と人材開発、求める人物像について詳しくうかがった。

変化対応力で事業を拡大

──株式会社サイバーエージェントについて教えてください。

石田 サイバーエージェントは、インターネット広告事業、メディア事業、ゲーム事業を軸に、多岐にわたる事業を展開しています。創業以来、中核事業であるインターネット広告事業は国内シェア No.1の規模を誇るまでに成長し、テレビ&ビデオエンターテインメント「ABEMA」では動画配信事業にも参入しています。今日の当社は、ベンチャー企業でもなく、大手企業でもない、メガベンチャーという表現が近いかもしれません。
 そしてこの規模になっても新規事業参入に意欲的な会社です。進化の速いインターネット産業の中で変化対応力を培ってきましたので、例えば新規事業開発にともない新会社設立が決議されれば、2週間、場合によっては1週間で登記まで完了するような、相当スピード感のある会社です。子会社が100社以上ありますが、今後も積極的に新規事業に参入していきます。

インターンシップを活用し実践力を育成

──サイバーエージェントの採用計画についてお聞かせください。

石田 年間採用計画は、基本的には業績に連動する形で人員計画を立てています。2020年4月の新卒入社は約220名です。中途採用については、年間500名程度を採用していた時期もありますが、ここ数年は空いたポジションを採用によって補充するよりも、まずはジョブローテーション(異動)によって社内での適材適所の実現を図ることを重視しているため、採用数は年間100名超のペースで推移しています。

──サイバーエージェントの「求める人物像」について教えてください。

石田 創業当初から一貫して変わらないのは「素直でいい人」という人物像です。事業の立ち上げ経験がある、最先端のコードが書けるといったスキル重視ではなく、「変化対応力」のある人材を採用してきました。スキルマッチよりカルチャーマッチを優先しています。

──応募職種と選考ステップについてご紹介いただけますか。

石田 新卒の場合はビジネスコース、エンジニアコース、クリエイターコースの3職種に分かれています。選考プロセスは職種ごとに独自に設けており、会社として何回面接を経なければいけない、何回インターンシップをやらなければいけないといった共通ルールはありません。また数年前よりリアルでの会社説明会も廃止し、オンライン上で会社説明動画を見られるようにしました。
 エントリー方法は、ビジネスコースの場合、「マイページ」に登録後、「サイブラリー」というオンラインの会社説明動画を見た上で、アンケートに回答するところからスタートします。その後、通常は1次面接でグループディスカッション(集団面接)を行い、1~2日間のインターンシップを経て、3次面接、4次面接、最後の役員面接になります。
 エンジニアコースでは、エントリーシートを提出いただいています。その後現場の技術者や人事担当者、技術責任者やマネジメントに関わる社員との面接を経て、最後の役員面接を行います。技術面に関しての理解度を現場のエンジニアが評価する点が、ビジネスコースとは異なっています。
 クリエイターコースでは、インターンシップの中でポートフォリオを提出してもらっています。これはエンジニアとクリエイターの双方に言えることですが、就業型のインターンシップなどを通して現場に配属し実践で学び、スキルを上げていく手法を取り入れているのが特徴です。

──各コースともインターンシップをうまく活用しているのですね。

石田 そうですね。ビジネスコースにおいては2021年度卒採用からインターンシップを必須化しました。面接とグループディスカッションだけで見極めるのは難しい面があるので、インターンシップでお互いに理解を深め、双方のミスマッチを防ぐことが狙いです。

2020年4月入社は入社式からフルリモート

──新卒採用に関して、新型コロナウイルスの影響が大きかった、2020年の入社式と新入社員研修について教えてください。

石田 どちらもフルリモートでの実施となりました。入社式は前日にフルリモートでの実施を決めましたが、コロナウイルスの影響が出始めたタイミングから、フルリモートになる場合を含め、いくつかのパターンを想定して準備を進めていました。当日スムーズに実施できたのは、それに向けて準備を進めてくれた人事の担当社員たちのおかげです。
 新入社員は例年通り、ビジネスコースは約2週間、エンジニアコースとクリエイターコースは1ヵ月間の研修を経て各部署へ配属になりました。今年の新入社員は入社直後からリモートワークが続いていましたが、緊急事態宣言が解除されてからは状況に応じて、オフィス出勤とリモートワークを併用する形を試験運用していますので、一度も出社したことがないという社員はいません。ただ、入社以来半年間の勤務はリモートワークがメインでしたので、戸惑うことばかりだったと思います。また新入社員を受け入れる各部署のマネージャーやトレーナーも、これまでは直接隣の席で指導をする教え方しか経験がありませんでしたので、リモートワークでの指導の難しさを痛感していました。

──新入社員研修のあとは部署別、職種別の研修制度が用意されているのですか。

石田 基本的に、一方的に知識をインプットさせるような受け身型の講座などを会社側が用意して受講してもらうことは一切ありません。それは当社のカルチャーに合わないからです。知識のインプットより、実践でどう成長していけるかという育成計画を各部署、各職種単位で組み、より実務に密接したやり方で育てていきます。ですから部署や職種によって、新入社員研修後の流れは大きく異なってきます。例えばビジネスコースの営業職の場合、事業部研修を終えたらすぐに各営業局に配属され、担当案件を持ちます。実際のお客様を担当することによって、いかに担当するお客様の課題解決をしていけばいいのか、計画を先輩トレーナーと一緒にアウトプットして、1日も早い独り立ちに向けて成長してもらいます。
 エンジニアでも、1ヵ月の研修を経てすぐにプロジェクトへ配属されるケースもあります。サーバーサイドエンジニアやフロントエンドエンジニア、アプリエンジニアなど様々な業種がありますが、多くのユーザーに使われているサービスのコードに実際に触れ、様々な課題に直面しながらも、先輩に相談をしつつ課題を解決してスキルアップしていきます。

2021年度新卒採用は途中からオンラインに

──2021年度の新卒採用の状況を教えてください。

石田 2021年度採用はほぼ終わっている状況で、人数は概算でビジネスコース120名、エンジニアコース80名、クリエイターコース10名の総勢約210名です。新型コロナウイルスの流行前は選考や面接などの採用活動は基本的にすべてオフラインで行っていましたが、2月末から3月にかけて徐々に感染が拡大していく中でオンラインでの採用活動に移行していきました。

──コロナ禍の中で、内定者とはどのようにコミュニケーションを取っていますか。

石田 私たちは採用して終わりではなく、人材一人ひとりの力をきちんと伸ばしていくことに注力していますので、内定者とはより多くの接点を持とうと考えています。そこで内定者には、「いかに成長するか」「どのように才能を開花できるか」を意識してもらうために、入社までに様々な取り組みや課題に挑戦してもらいます。
 例えば、10月上旬にはサイバーエージェント内の部署をより理解してもらうために、オンラインで2日間の内定者研修を実施しました。内容は、各部署がどのような業務を行い、そこに配属されたらどのような貢献ができるか、どのようにスキルアップできるかということを、インタラクティブに考えアウトプットしてもらうものです。また入社後に即戦力としていいスタートを切ってもらうために、内定者の段階からインターンシップやアルバイトとして現場で働くことを推奨しています。例年、内定者の7割近くがこの内定者アルバイトを経験していますね。

──2022年度に向けての採用活動はいかがですか。

石田 2022年度の新卒採用では、会社説明会から夏のインターンシップまで、すべてをオンラインで実施しています。当然ですが、応募者から「一度も会社に行かないままでは、自分に合った会社なのか判断しきれない」という声も寄せられます。私たちとしても来社していただきたいという思いはあるので、10月からはオンラインと来社いただく機会を組み合わせ、希望があれば来社にも対応できるよう配慮しています。

──新型コロナウイルスが収束に向かった場合、入社式や新入社員研修はオフラインに戻していくのでしょうか。

石田 入社式や新入社員研修の枠組みだけでなく働き方全体に共通することですが、今後、状況が落ち着いたとしても、コロナ前にすべてが戻ることはないと考えています。賛否ありますが、実際リモートワークでも充分仕事はできるし、そのほうがより生産性高く仕事に打ち込めるという声があるのも事実です。おそらく今後はオンラインとオフラインを組み合わせてやっていくのが会社全体の方針になっていくでしょう。
 今回、新入社員研修も、基礎知識のインプットであればオンラインで充分可能なことがわかりました。一方、研修の大きな目的である「同期同士で親睦を深め、これから困難なことにぶつかってもお互い励まし合い、ともに乗り越えていく同期の一体感を培う」ことは、コロナ禍が落ち着いてからオフラインでの懇親会などで実現できればと思っています。

「ジョブローテーション」は採用計画の前提

──中途採用に関してはどのような採用計画を立てていますか。

石田 先ほどお話ししたように、採用計画は会社の業績と連動させながら決めますが、数年前より社内の「ジョブローテーション」を強化しています。部署が多岐にわたる当社では、ある部署で人が足りないからといってどんどん採用してしまうと、結果的に膨大な採用人数になってしまいますので、それを防ぐために、人が足りない場合にはまず、社員のジョブローテーションで補完を行います。社員の能力を高めつつ人材流動性を高める取り組みですね。その上で、特殊分野の能力が必要、あるいは特定の能力を持っているスペシャリストが必要といった、社内のジョブローテーションでは補完することができない場合に中途採用を行います。エンジニアはもちろん、ビジネスコースでもデータアナリストやAI技術に長けているプランナーといった研究職や特殊能力のある人材が、中途採用の対象になっています。

──ジョブローテーションの具体的な内容を教えてください。

石田 ジョブローテーションには主に2つのルートがあります。1つは、ジョブローテーションの概念である「この部署に異動し、今度はこんなチャレンジをしたい」と自ら挙手する「キャリチャレ(キャリアチャレンジ)」です。
 もう1つは、社内ヘッドハンターの役割を持つキャリアエージェントを活用するケースです。毎月全社員が回答する独自のアンケートシステムや面談を通じて、キャリアエージェントは社員一人ひとりの強みや志向を把握しています。そして「会社として新たにこの分野に注力していくので、そこに人材を集中させたい」といったときには、それらのデータをもとにキャリアエージェントから異動を打診しています。

──採用時の職種を超えるジョブローテーションもあるのですか。

石田 ビジネスコースからエンジニアコースへの異動はスキル的に難しい面もありますが、エンジニアコースからビジネスコースであれば事例はあります。あるいはビジネスコース内でも、営業職からメディアのプランナー職やABEMAの番組プロデューサー職といった異動は常にあり得ます。

──転職せずにグループ内でいろいろな経験を積み、成長することができ、会社がむしろそれを望んでいるというのは、社員にとって理想的な環境ですね。

石田 当社には様々な事業形態があり、チャレンジの幅がとにかく広いからこそ、実現できるのだと思います。転職しなくても自分のやりたいことができるという点を魅力に感じて入社を希望される方がいるのも事実です。ジョブローテーションの希望が必ずしも100%通るわけではありませんので、採用活動の中では特にそこを強く打ち出してはいませんが、実際には人材流動性が非常に高く、いろいろなチャレンジができる環境が整っています。

安心できる環境があるから挑戦できる

──他の人事制度や福利厚生面などで特筆すべきものはありますか。

石田 私たちは「挑戦と安心はセット」という考え方で人事制度の設計をしています。安心できる環境をまず創り、その上でチャレンジしやすい環境を構築することで、一人ひとりの才能を開花させることを心掛けています。オリジナルの人事制度や福利厚生によって、男女問わず優秀な人材がワーク・ライフを充実させながら、長く継続して働ける会社をめざしています。

──チャレンジしやすい環境づくりにはどのようなものがありますか。

石田 一例ですが、エンジニアとクリエイターを対象に、社内で副業として成立する案件があれば、本業とは別にオープンな場でチャレンジして報酬をもらえるグループ内副業制度「Cycle(さいくる)」が2019年10月にできました。「社内で仕事を循環させる」「エンジニアとクリエイターのスキルアップを図る」という意図で作られた制度で、これまで外注していた制作物を内製化することで、社員が空いた時間を使って、外注と同等の金額で新しい案件としてチャレンジできる、副業として立派に成立する新しい制度です。リモートワークになったことがひとつの起爆剤となり、活用する社員が増えましたね。
 他にも、若手のうちからプロジェクトなどに抜擢されるチャンスは多いですし、社員が役員と一緒になって、“会社のあした”をつくるために社長へ新規事業案や経営課題の解決案の提案をする「あした会議」など、挑戦できる環境が整っていることが、当社の大きな魅力のひとつだと捉えています。

──資格に対してはどのようにお考えですか。また、学生時代に資格を取得したことはどのように評価されるのでしょうか。

石田 資格は、それまで本人ががんばってきたことや注力してきたことの証になります。当社の応募条件の中に、必須の資格はありませんが、資格を取ろうとした背景をお聞きすることで、人となりを見極めるひとつの判断材料にしています。
 また入社後にも必須の資格はありませんが、社内には「この資格を持っていればもっとスキルアップできる」「もっとプロフェッショナルな視点が持てる」という理由で、レベルアップをめざし自発的に資格を取得して視野を広げている社員は大勢います。

──スキルアップや資格取得をめざしている方々に向けて、メッセージをお願いします。

石田 当社の採用では資格の有無は問いませんが、目標達成に向けて打ち込んできたこと、資格取得という成果を出したことは採用選考で評価するポイントのひとつです。サイバーエージェントは「どういう人なのか」をきちんと深堀りした上で採用を行っています。そこを踏まえ、私たちのカルチャーに合う方、「21世紀を代表する会社を創る」という私たちのビジョンに共感していただける方のご応募をお待ちしています。

[『TACNEWS 』2021年1月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

(写真提供:株式会社サイバーエージェント)

会社概要

社名  株式会社サイバーエージェント
設立  1998年3月18日
代表者 代表取締役社長 藤田 晋
本社所在地 東京都渋谷区宇田川町40番1号Abema Towers

事業内容

メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業

従業員数

連結役職員数 5,467名  ※2020年6月時点

URL: https://www.cyberagent.co.jp