人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第19回 日本航空株式会社

Profile

服部 あずみ氏

日本航空株式会社
人財本部 人事部
採用グループ

2017年4月入社。入社後1年半、成田空港にて国際線の旅客ハンドリング業務を担当。2018年10月より現在の人事部採用グループへ。業務企画職(地上職 事務系/数理・IT系)の採用をメインに、新卒採用、既卒採用から内定者フォローまでを担当している。

 

日本航空株式会社は、国内線・国際線ともに日本で最も長い歴史を持つ航空会社である。「日本の翼」とも呼ばれる日本航空だが、パラダイムの変化を踏まえて「成長」と「挑戦」をキーワードに新しい「日本の翼」へと変貌を遂げようとしている。そのとき要となるのはどのような人財なのか。日本航空の人財戦略と育成制度について、人財本部 人事部 採用グループの服部あずみさんにお話をうかがった。

フルサービスキャリアとして地域振興も支援

──最初に日本航空の事業内容をご紹介いただけますか。

服部 日本航空(以下、JAL)は、フルサービスを提供するネットワークキャリアとして、世界66ヵ国 405都市(2019年3月時点)へ飛行機を運航しています。私たちは、世界で一番お客さまに選ばれ、愛される航空会社をめざして、日々の業務にあたっています。航空会社ですから、もちろん飛行機を運航することが主な事業内容となりますが、それにとどまらず、お客さまが常に新鮮な感動を得られるような最高のサービスを提供するために、一見飛行機と関連性のないような事業も幅広く展開しているのが、現在のJALの姿です。
 一例として、地域の自治体と協力し、観光需要の創出や地域産業の発展につなげていく地域活性化プロジェクト「新・JAPAN PROJECT」があります。「日本に生まれて、日本に育てていただいた航空会社として、日本を元気にしたい。」という思いから、当プロジェクトに取り組んでいます。例えば、地域産業支援の一環として、日本の伝統文化「漆器」の振興を目的とした、機内誌などを活用したプロモーションやオンラインショップでの販売を行っています。また、観光振興の一環として、地域観光資源を活用したイベントの企画・協賛などを進め、地域の魅力をWebサイトで発信することも行っています。

──2020年はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックの年になりますが、JALとして新しい取り組みがあれば教えてください。

服部 2020年は世界中からたくさんのお客さまが日本へお越しになります。それに向けて、私たちも様々な準備を進めております。「JAL SMART AIRPORT」の実現もそのひとつです。2020年夏、羽田空港国内線にて全面オープンを予定しており、その後は他国内基幹空港へ拡大していくことが決まっています。これはお客さまのチェックインからご搭乗までのプロセスをよりスムーズにすることを目的としています。ITの活用そしてヒューマンサービスの強化により、これまで以上にお客さま一人ひとりの心に寄り添ったサービスを提供することが可能になると考えています。そして、もちろん「東京2020オフィシャルエアラインパートナー」として、大会の成功に貢献するという大きな使命もあります。

業務企画職は、地上職
事務系/数理・IT系/技術系の3職種

──JALの経営理念と採用方針を教えてください。

服部 JALは、企業理念で「JALグループは、全社員の物心両面の幸福を追求し、一、お客さまに最高のサービスを提供します。一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。」と謳っています。この理念のもと、2017年〜2020年度の中期経営計画では、「成長」と「挑戦」をキーワードに「ネットワークを磨き上げる」、「商品サービスを磨き上げる」とともに、「事業領域を広げる」ことで成長につなげていくことをめざしています。成長を実現するためには新しい「挑戦」が必要で、その観点で重視しているのがイノベーションを生み出す「人財」と「テクノロジー」です。この理念と経営計画を軸に採用方針も考えられています。

──新卒採用には、どのような職種がありますか。

服部 まずJALには業務企画職(地上職 事務系/数理・IT系/技術系)、運航乗務職、客室乗務職の5つの職種があります。その中でも今回は、業務企画職について説明したいと思います。
 2018年以前、業務企画職には事務系と技術系しかありませんでした。しかし、社会におけるテクノロジーの重要性や現在の顧客ニーズの変遷スピードの速さを踏まえると、データ分析やITテクノロジースキルが求められる時代になってきています。そこで2019年4月入社の新卒から、「業務企画職(地上職 数理・IT系)」という新たな職種を設けることにしました。

──業務企画職の仕事内容について教えてください。

服部 「業務企画職(地上職 事務系)」は、一般管理業務はもちろん、営業や海外エアラインとの提携、路線計画等を中心に携わります。一方で、「業務企画職(地上職 数理・IT系)」は、最新テクノロジーを駆使した商品・サービスの企画や、路線計画を練るためのデータ分析等が中心となり、文理問わず応募いただけます。事務系と数理・IT系の仕事は横断的なので区分けは難しいのですが、学生の皆さまからすると職種を分けたことで、JALがITやテクノロジー分野に素養のある人財を求めていることがわかりやすくなったのではないかと思っています。
 また「業務企画職(地上職 技術系)」は、理系学生のみ応募可能で、安全で高品質な航空機の提供を通してJALを支える仕事です。入社後は、整備の現場で経験を積んでいただき、その後は現場で働く整備士のサポートやパイロットの操縦マニュアル作成、部品調達といった、航空機全般に携わる仕事を経験していきます。

──2019年4月入社の業務企画職は何名でしたか。何か特徴的な採用プロセスは実施されましたか。

服部 ほぼ募集人数と同じくらいの新入社員がJALの新たな仲間として入社いたしました。採用プロセスについては毎年変わるので、次年度も同じ選考スタイルかどうかは未定ですが、学生の皆さまにとって就職活動が少しでも前向きになるよう、できるだけ負担を軽減したいと考えています。
 そこで2020年4月採用においては動画選考を取り入れました。導入の背景には、エントリーシートだけではなかなか伝わりづらい熱意やありのままの姿まで知りたい、そして、地方出身者の就職活動にかかる時間的・金銭的負担を軽減させたいという想いがありました。結果として、多くの方から「時間に縛られなくて良い」「文章では伝えられないことも話すことができた」というお言葉をいただきました。ただし、選考方法は毎年見直しますので、次年度以降も動画選考を行うとは限りません。

──経験者(既卒)採用はしていますか。

服部 経験者採用は、基本的に時期を指定した公募型で全職種とも行っていますが、採用マイページには通年で登録いただくことが可能です。募集を開始する際には、マイページよりご案内しております。他社や他業界での経験を活かし、これまでのJALにはない視点をもって活躍していただきたいという思いで採用を行っています。

グループ全員共通の価値観「JALフィロソフィ」

──内定式以降のフォロー体制と内定者研修についてお聞かせください。

服部 ビジネス研修というよりも、入社のための準備として業務内容を学んだり、同期との絆を築いたりしてもらうためのプログラムを用意しています。入社前に集まる機会は3回程度ですが、入社時点では既に絆が深まっていて、私たちも微笑ましく、そして頼もしく思うことがしばしばです。
 JALの仕事には「ひとりでできる仕事はない」と思います。どの仕事もいろいろな部署が協力し合ってひとつのプロジェクトを進めていくので、仕事の中でより強固なつながりを持っていくことになりますし、その中でも同期との絆が活きる場面が多々あります。

──新入社員研修について教えてください。

服部 入社式はJALグループ全体で行われ、2018年度は新入社員約2,000人が一堂に会しました。半日の入社式を含め、3日間で「JALグループに同じ日に入社した仲間」と一緒にグループについて勉強し、JALグループの一員としてのマインドを学びます。
 JALグループには、JALに携わる者全員が持つべき意識・価値観・考え方として「JALフィロソフィ」があります。JALグループの企業理念とJALフィロソフィを学ぶとともに、JALグループの安全とブランドを理解し、安全運航を堅持しながらお客さまの心に寄り添い、最高のサービスを提供できる素地を身につけていただくのが、新入社員研修の趣旨です。
 それが終わると、業務企画職とパイロットは研修、客室乗務職は乗務に向けた訓練へとそれぞれ職種別に入っていきます。業務企画職の研修では、JALグループにおける自分たちの役割やマインドについて学んでいただき、そのあとに現場の研修が始まります。

──現場の研修とはどのようなものですか。

服部 業務企画職(地上職 事務系/数理・IT系)については、最初にグランドスタッフや予約センターなどの現場の部門で働いていただき、そこでJALにはどのような商品・サービスがあるのか、JALではどのような仲間が働いているのかを学んでいただきます。そのため、業務企画職の研修が終わったあとは、それぞれ現場での業務のための勉強が始まります。グランドスタッフであれば、最初に「シドニー:SYD」「ロサンゼルス:LAX」といった「空港3レターコード」や危険物について基本的な勉強をして、その後現場でOJTに入り、それぞれ独り立ちしていくという流れになっています。

──新入社員研修のあと、同期で集まる機会はありますか。

服部 もちろんあります。例えば、入社2年目に「職場改善プログラム」という業務企画職の新入社員が必ず全員参加するプログラムが設定されています。準備研修を経て、プログラム当日は同期全員の前で自分のやってきたことをプレゼンテーションします。これは楽しくもあり大変でもありで、業務企画職として最初の大きなブレークスルーポイントになります。
 内容としては、まず課題解決に必要なロジカルシンキングなどを座学やワークを通して学び、自分の職場に戻って自分なりに課題を発見・分析し、改善策を自分で考え、現場の仲間に協力してもらいながらトライアルを行い、その効果を測定した結果までを発表するというものです。さらに4年目にも「職場改善プログラム」を実施し、2年目のプログラムで学んだ経験を活かして、さらに効果の大きな職場改善に取り組みます。4年目にはそれまでいた現場部門から間接部門に部署が変わっているので、そこでまたトライアルをすることで、論理的思考力をさらに向上させることができます。
 私自身、グランドスタッフとして「搭乗にかかる時間が長い」「ゲートの周りが混雑していてわかりづらい」というお客さまの声をいただいて、それをどう解決するかを考えました。「業務企画職」というものを改めて考えさせてくれるプログラムですね。

「ワーク・ライフ・バランス」重視の制度と環境づくり

──JALの「求める人物像」を聞かせてください。

服部 全職種に共通している大切な要素は「コミュニケーション」です。航空会社の仕事は、非常に多くの人が関係しています。相手が何を考えているのか、自分はどのようにしていきたいのか、きちんと考えて相手に伝えていく力が必要不可欠だと思います。その相手というのは、一緒にプロジェクトを進めていく社員でもありますし、もちろんお客さまにもなり得ます。「お客さまにとって最高のサービスを提供する」ことをめざしている以上、自分たちが創っている商品・サービスの先にお客さまがいらっしゃることを考えられる人が「活躍できる人財」です。
 もうひとつは、挑戦を恐れない人です。今のJALは「挑戦」と「成長」をスローガンに掲げています。現状維持で満足するのではなく、新しい改革に常に挑戦できる人と明日のJALを創っていきたいです。

──人事制度や福利厚生で特筆すべきことがあれば教えてください。

服部 成制度では、やはり安全に関する教育とJALフィロソフィ教育が特徴的で、JALグループ全社員の根幹を形成するための非常に重要なものです。2011年以降、ほぼ毎年D&I(ダイバーシティ&インクルージョン。社員の多様性を尊重し、個性を包含することで、組織の競争力を高めようとする考え方)に関する社長によるメッセージも掲げていますが、2014年には女性活躍推進、2015年にはワークスタイル変革への取り組みを開始しました。全社員が今以上にやりがいをもって働き、生き生きと活躍できるように、社員の意識改革と各種環境整備に継続的に取り組むことになりました。その一環として、働き方に自由度をもたせるためにITツールの活用やフリーアドレスの導入などオフィスの環境改善を行ったほか、「勤務時間選択制度」「フレックス制度」「テレワーク(在宅勤務)制度」を導入しています。
 また、全体の半数に当たる社員が女性であり、約6,000人が客室乗務職、その他にも女性パイロット、女性総合職もいる「女性が活躍している職場」なので、産休・育休などの制度は整っていますし、活用しやすい社内の雰囲気もあり、多くの社員が実際に活用しています。おかげさまで経済産業省と東京証券取引所が毎年共同で発表する「女性活躍推進に優れた上場企業」に送られる「なでしこ銘柄」に2015〜2018年まで4年連続で選出されました。その際JALは、「トップコミットメントによるダイバーシティ経営を強力に推進していること」「女性のキャリアサポートに関する管理職層への研修や女性社員に対するキャリア形成の意識醸成の取り組みを実施していること」「ワークスタイル変革に取り組んでいること」などが評価されています。
 加えて、至近の取り組みとして、休暇と業務を融合させ、休暇取得を促進するとともに、その土地でしか体験できない経験を通して、自分自身の成長に繋げる制度も導入しています。休暇時に一部業務を認める、「ワーク」と「バケーション」の造語である「ワーケーション」や、出張時に休暇をつけられる、「ビジネス」と「レジャー」の造語である「ブリージャー」も導入しています。ブリージャーは、例えば海外出張へ行く際、その前後にお休みをつけることができ、現地で休暇を取れるという制度です。出張のついでに休暇を取れるので、社員にとっては時間的にも費用的にもメリットが大きい制度で、私も国内出張でブリージャーを活用してリフレッシュしています。地域の良さを感じられ、新しい視点を持てることで、自由な発想をかきたてられるので、とても良い制度だと思っています。

資格はやる気と努力のバロメーター

──資格について、JALではどのような考えをお持ちですか。

服部 新卒の応募の際、何か特定の資格があるからといってそれだけで採用を決めることはありません。あるいは一定の資格を持っていないから採用しないということもありません。ただし、資格は学生時代の努力のバロメーターになると考えています。入社後については、TOEIC®L&R TEST、マイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)、日商簿記検定の資格取得を推奨しています。あくまで自己啓発プログラムの位置付けではありますが、業務内容が多岐に亘るJALにおいて、自分のできる仕事の幅を広げるために、資格が役立つことは確かです。

──資格取得をめざしている方々に向けてメッセージをお願いします。

服部 資格の勉強は絶対にやる意味がありますし、必ずどこかで活きるタイミングがあります。何事にも全力で一生懸命打ちこんでいれば、就職活動についても必ず良い結果がついてくると信じて、がんばっていただきたいと思います。

[『TACNEWS』 2020年3月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  日本航空株式会社
設立  1951年8月1日
代表者 代表取締役社長執行役員 赤坂 祐二
所在地 東京都品川区東品川二丁目4番11号
      野村不動産天王洲ビル

事業内容

定期航空運送事業及び不定期航空運送事業、航空機使用事業、その他附帯する又は関連する一切の事業

従業員数

12,750人(2019年3月末現在)
連結従業員数 34,003人(2019年3月現在)

URL: https://www.jal.com/ja/