人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第15回 サイボウズ株式会社

Profile

青野 誠氏

サイボウズ株式会社
人事本部 部長 兼 チームワーク総研 研究員

2006年、早稲田大学理工学部情報学科卒業後、新卒でサイボウズ株式会社に入社。営業、マーケティング、新規事業立ち上げなどを経て、2012年人事本部に異動。現在は採用、育成、制度づくりを担う。2019年より部長。チームワーク総研 研究員も兼務。


組織内での情報共有やコミュニケーションの円滑化などをネットワーク上で実現する「グループウェア」。そのグループウェアのリーディングカンパニーであるサイボウズ株式会社は、一方で「チームワークあふれる社会を創る」という理念を軸に組織づくりをしてきた。「チームワークを発揮する会社をめざすなら、トップダウン型ではなく『多様性のある自立型の組織』にしたかった」と代表の青野慶久氏は語っている。「多様性のある自立」とはどのような「働き方」なのか。そしてどのような人材が働いているのか。人事本部部長の青野誠氏に、サイボウズのワークスタイルをうかがった。

「100人100通り」の働き方

──サイボウズ株式会社についてご紹介ください。

青野 自社プロダクトである「サイボウズOffice」「Garoon ( ガルーン)」「Mailwise( メールワイズ)」「kintone (キントーン)」を主に提供するサイボウズ株式会社は、国内顧客数9万社と、中小企業のグループウェアとしては国内トップシェアを誇っています。さらにアメリカとアジアに拠点を設け、海外販路の拡大をめざしています。
「グループウェアで世界No.1」の実現をめざしている 当社には、「チームワークあふれる社会を創る」という理念があります。チームワークを発揮する会社をめざすには、トップダウン型ではない「多様性のある自立型の組織」であることが前提になります。自立とは「自分の人生に自分で責任を持とうとする主体性」です。全員が自分 の意思で選んで行動する。100人いれば100人の違うサイボウズ社員が集まって、100人100通りの働き方をする。 そんな多様なスタイルや働き方でつながるチームをめざして、制度づくりをしています。この制度に共感してくださる企業も多いため、グループウェア事業とは別に、チームワーク支援のための企業研修や講演、個別研修、経営塾などを担う「サイボウズ チームワーク総研」も展開しています。

多様なキャリア採用で多様な人材が活躍

──サイボウズの新卒採用と中途採用についてお聞かせください。

青野 新卒採用と中途採用(キャリア採用)の割合はほぼ半々です。新卒は営業企画(ビジネス職)系とエンジニア系に分けて採用し、ビジネス職20名、エンジニア職10名と毎年約30名が入社しています。2019年4月入社の新卒採用は28名でした。キャリア採用もほぼ同数の30名前後ですが、2018年は少し多めで53名採用しました。

──新卒採用の流れを教えていただけますか。

青野 エントリー後、3回前後の面接を経て内定という流れです。適性検査などはやっていませんが、エンジニアは過去の成果物を提出していただいて書類選考時に見させてもらいます。ビジネス職はサイボウズのニュースの中で気になったものを選び、どこが気になったのか考察する作文と、何のために働こうと思っているのか、学生時代にやってきたことなどをお聞きして選考していきます。

──内定後のフォローアップ体制はどのようになっていますか。

青野 例年夏に内定者の懇親会という1泊2日の集まりがあります。その後内定式を行いますが、内定後はサイボウズのグループウェア上に招待し、ずっとオンラインでつながっています。
 どちらかというと学生生活を満喫してほしいので、入社前の内定者研修や資格取得などは強制していません。ただし、内定段階のうちから社員と同じように資格取得補助のプログラムを利用することができるので、TOEIC®L&RTESTや技術系資格を取得する場合には補助を受けることができます。

──キャリア採用について教えてください。

青野 多様なバックグラウンドを持った方に来てほしいので、キャリア採用では通常のスキル採用だけでなく、業界や職種の経験に関わらず新しいチャレンジをしたい若手のためのU-29(ユニーク)採用というポテンシャル採用を行っています。その他、複業採用、障がい者採用、ポスドク採用と、幅広い人材を採用するのがサイボウズの特徴です。
 複業している社員も私の実感値で全体の2割くらいと、かなりの割合を占めています。複業といっても、別の会社で働く社員もいれば、他社がメインでこちらが複業という社員、自分でNPO法人を立ち上げる社員、フリーランスのエンジニアで週に何回かサイボウズの仕事を受けている社員、YouTuberになる社員と、いろいろなスタイルがあります。実は私もNPO法人フローレンスの人事部門で複業をしています。
 多様な採用方法で多様な方に働いてもらいたいのですが、あくまで自分にとって何が大事かをきちんと考えた上で自分の責任をもって選んでもらう。採用では、それができそうな人材を見極めることにポイントが絞られます。

──サイボウズの採用選考を通過するのはとても難しそうですね。

青野 キャリア採用を通るのは1%程度ですから、非常に難しい採用をしていると思います。人事部内でも「いま自分たちが受けたら受からないね」と言っています(笑)。それぐらい厳しく見極めていかなければ当社にうまくフィットしません。「スキルがあるから採用」ではうまくチームづくりができなかったり、共感できなくて離れていく人が増えてしまいます。大前提としてサイボウズの理念に共感してくれる人を採用したいと考えています。

希望や情報はすべてアプリで「見える化」

──新入社員研修についてご紹介いただけますか。

青野 2019年は2ヵ月行いました。まず入社後1週間は同期とともに4日間の合宿をして基礎的なビジネスマナーや社会人必須のスキルを学び、その後座学で各部署の部長や役員から、どのような部署があるのかや、どのような製品があるのかについての紹介を受けて、翌週から1ヵ月間、「体験入部」が始まります。これは、営業4日間、開発4日間といったように各部門を巡って業務を体験してもらうものです。また同時進行で、配属希望を聞いて人事部とのすり合わせをしていきます。以前は新入社員が希望を出してそれに沿って人事部が検討しましたが、2019年は配属方法を変えました。まず、どの部門で何名募集しているのかという情報を専用アプリで見られる状態にして、新入社員には第3希望まで、その理由とともに書き込んでもらい、これを全社員にオープンにしました。例えば「営業部門は4名の募集枠に6名の希望が出ている」といったことが全社員に見えている状態です。その後、人事部との面談で最終的に配属先を決めますが、これを研修と同時進行で進めました。

──本人の希望と部門の希望が合致すれば、希望の部門に入れるということですね。

青野 そうです。とはいえ枠があるので、5人の枠に6人の希望が来たら1人は別の部門に配属しなければなりません。ただ、その1人も全く見当違いなところに行かせるわけではなく、「こちらの部署もいいですよ」とアドバイスしながら決めています。
 配属が決まったら必要に応じ、各部でそこから1ヵ月間、スキル研修やトレーニングを行います。その後もサイボウズの評価について理解する場は定期的に設けていて、1年を振り返ってどうだったか、2年目に向けてのプランづくりをする機会が1年目の後半、年明けにあります。

──多様な人材を採用し、複業社員も2割ほどいるという中で、どのように教育研修の場を提供しているのでしょうか。

青野 一律で社員を集めて行う研修は難しいですし、そうした集合研修にあまり意味も感じていません。やはり日々の業務の中で自分が何かをしたいと思ったときにアクションを起こせるしくみや、自主的に参加できる制度設計が大切だと考えています。先ほど話した体験入部もそのひとつで、これは新入社員だけでなく、社員全員に適用されています。例えば「集計作業ができるようになりたい」ということで経営企画室に体験入部するなど、社員が他部署の業務や違うスキルを得たいときに、3ヵ月まで体験入部できるしくみで、希望した翌週から入部できます。
 そのまま異動したい場合には、「Myキャリ」というアプリを使った制度を利用します。アプリで「営業にぜひ行きたいです」と書けば、人事部とマネージャーが集まって検討し、本人にリターンします。

──いろいろな希望がすべてアプリで叶えられるのはすごいですね。

青野 すべてアプリによって「見える化」されています。今話したMyキャリというアプリも、全社員にオープンで、誰が営業に行きたいのか全社員がわかるようになっています。その他、働いている時間も複業をしている人の複業申請も、アプリで全社員から見えるようになっています。
 いろいろな情報をオープンにするのが当社のルールなので、役員会の議事録もその日のうちにすべての社員が見ることができます。社長や役員の発言は詳細まで載って、提案された案件の採否のプロセスが見えますから、決まったことに対して社員がもやもやすることはありません。

多様な働き方を支援する「働き方宣言制度」

──10年以上前から働き方改革に取り組んでいるとお聞きしましたが、その背景を教えてください。

青野 きっかけは、2005年に離職率が年間で28%にまで上がってしまったことでした。当時は制度があまり整備されていなくて、社員みんなが猛烈に働こうという風潮でした。ところが、ライフステージが変化したり多様な人材が増えてきたりする中で、ひとつの働き方だけではみんながついていけなくなってしまったのです。
 そこでまず育児・介護短時間勤務制度を作りました。すると今度は定時で帰りたいという人も出てきたので、残業を「する」「しない」「ちょっとする」の3パターンを作りました。さらに「リモートワークしたい」も出てきて、働く場所と時間をかなり柔軟にしていきました。2018年4月からは「働き方宣言制度」の運用を開始しました。例えば「月曜は○時~△時、火曜は□時~◇時までオフィスにいます。水曜日は出社しません」といったように、曜日ごとに宣言できるようにしたのです。
 同じ正社員でも、週4日勤務の社員や週2日勤務の社員がいるので、週2日勤務だったら2日分の仕事をお願いしてその成果を評価するというスタイルでやっています。本人の希望をまず実現できるように支援することがベースにありますね。ただ、今の私たちの考え方では、社員の働き方の柔軟性と、会社としての目標達成は相反するところがでてきます。売上予算が達成できなくなるといったことが絶対に起きてくるのですが、そのときは「売上予算を下げればいいじゃないか」と働き方を実現する方向に舵を切ります。

──売上予算を下げるとなると、株主の反応が気になりますね。

青野 インターネット掲示板などでよく怒られています、「なんで上場したんだ」って(笑)。ただ私たちは株主との付き合い方もかなり変わっていて、株主もチームの一員として応援してもらいたいという気持ちがあります。株主総会も、ひと通りの事業説明をして質疑応答して終わりではなくて、2019年度には、日本テレビ系列のトークバラエティ番組『恋のから騒ぎ』をモチーフにした『株主のから騒ぎ』というコンテンツで株主に登壇してもらいました。副社長が明石家さんまさん役を買って出て「なんでサイボウズの株価は上がらないんでしょうね?」と株主に聞くと、「さあ、市場から嫌われてるからでしょう」と言われたり(笑)。これも、チームとして株主と一緒になってぶっちゃけてやってみようというところから始まりました。株主にも、ただ株で利益を得るだけでなく、サイボウズの理念や事業に共感して株を買ってもらい、応援してもらいたい。そういう思いがあるんです。

世界初!?の「人事部感動課」

──Webサイトを拝見するとユニークな制度が目白押しですが、特にアピールしたい制度をご紹介ください。

青野 先ほどお話ししたように、複業を含めた働き方宣言制度が特徴的ですね。働き方宣言では、育児や介護に限らず、通学や複業など個人の事情に応じて、勤務時間や場所を決めることができます。新しい制度のもとで一人ひとりが自分の働き方を自由に記述するスタイルで宣言し、実行しています。
 もうひとつ特徴的な制度に「育自分休暇」というのがあります。これは35歳以下の、転職や留学など環境を変えて自分を成長させるために退職する人が対象で、退職しても最長6年間は復帰が可能です。実際に復帰した社員が何名もいますし、復帰はいいことなので、「辞めるチャレンジも応援したい」と、対象者は退社後6年間戻ってこられるパスポートを渡しています。
 実は、このパスポートを作っているのが「人事部感動課」というちょっと珍しい、ただ社員を感動させるためだけに存在する部署です。「職場に感動を!」をスローガンに、全社員での活動の中に感動要素を入れたり、影でがんばっている人にスポットライトを当ててみんなにその仕事を知ってもらったりすることをミッションとしています。

──ユニークな取り組みですね。資格取得支援についてはどのように対応していますか。

青野 例えばTOEIC®L&RTESTのような、業務に必要性があると定めた資格を取得する場合は、受講料や参考書などかかった費用を実費請求してもらい、それを会社が支払います。資格によって全額負担、半額負担、一部負担という形で資格取得補助のプログラムを設けています。外国語学習支援制度もあって、こちらは月々のオンライン英会話や英語の参考書購入、外国人社員なら日本語学習の支援をしています。社内の業務として必要ということであれば、公認会計士や弁護士の資格も対象になります。実際、過去に弁護士がいて、社内の業務として弁護士資格を使っている場合は弁護士会の費用を会社負担にしていました。
 対象となる資格は変動的で、新しい資格も出てきます。部署で必要だと申請すればいつでも補助の対象になるので、取得支援はどんどん増えているイメージです。

──資格取得をめざしている方々に向けてメッセージをお願いします。

青野 何かに取り組む中では、絶対に壁にぶち当たることがあると思います。それをどうやって乗り越えるか。自分が決めたものに対して考えながら改善し、アクションし続けることは、必ず仕事に活きてきます。そこに向けてがんばっている方をぜひ応援していきたい。サイボウズはそう考えています。

[『TACNEWS』 2019年11月号|連載|人事担当者に聞く「今、欲しい人財」]

会社概要

社名  サイボウズ株式会社
設立  1997年8月8日
代表者 代表取締役社長 青野 慶久
本店  東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー 27階

事業内容

グループウェアの開発、販売、運用
チームワーク強化メソッドの開発、販売、提供

従業員数

468名(2018年12月末 単体)/795名(2018年12月末 連結)

URL: https://cybozu.co.jp/