日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2023年8月号

山田 直輝(やまだ なおき)氏
Profile

山田 直輝(やまだ なおき)氏

ストラーダ税理士法人 代表社員
ストラーダビジネスサポート株式会社 代表取締役
公認会計士 税理士 行政書士

1985年生まれ。2009年、公認会計士試験合格。2010年、中央大学商学部卒業。同年、有限責任監査法人トーマツ入所。2015年、同法人を退所しストラーダ税理士法人を設立。2016年にストラーダビジネスサポート株式会社、2017年に社会保険労務士法人、行政書士法人を立ち上げグループ化。その他複数の役員や評議員を兼任。

主語は「自分」ではなく「お客様」。
幅広く多様な知識を持った専門家集団だからこそできる
部分最適ではない、全体最適の提案。

 「主語は『自分』ではなく『お客様』。お客様が本当に必要としているサービスを提供しています」。ストラーダ税理士法人の代表社員で、公認会計士・税理士の山田直輝氏は、このような「マーケットイン」の発想を徹底している。1985年生まれ、現在37歳、開業8年目。税理士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人、コンサルティング会社など若い専門家集団を束ねる山田氏は、なぜ公認会計士をめざしたのか。その経緯から、今後めざす方向性までをうかがった。

偏差値38からの公認会計士試験合格

 幼少期は、父親が駐在するアメリカで生活していた公認会計士(以下、会計士)・税理士の山田直輝氏。日本に帰国したあと、アメリカではあまり症状が出なかったアトピー性皮膚炎が悪化し、徐々に生活に支障をきたすほどになったという。

「だんだんと病気が重度になり、関節が痒くて伸ばすことすらできず、歩きにくくなってしまったんです。そのためあまり学校には通えず、多くの時間を勉学でなく療養に費やすことになりました。最終的には、東京で偏差値が一番低い通信制高校を卒業しています。
 ほぼ高校に行っていなかったので、学園祭も出られなかったし、友だちもあまりいませんでした。学生らしいことは何もできず、学校生活を楽しんでいる同級生たちがうらやましいと思っていましたね」

 漢方薬で症状が快方に向かったことから、大学は薬学部をめざしたが叶わず。仕切り直して、高校時代から興味を持っていた経営を学ぶために、商学部へ目標変更。1年間浪人して中央大学商学部に入学した。

 中央大学商学部には、三大国家資格のひとつと言われる会計士をめざして、1年生のうちから勉強に励む学生も多い。しかし大学1、2年当時の山田氏は、高校時代にできなかった学生らしい生活を謳歌していたという。

 実は祖父は中小企業診断士、父親は上場企業の経理部長と、親族が会計士と近い仕事に携わっていた山田氏。大学3年生になって進路を考える時期に差し掛かり、将来について父親に相談すると、会計士の仕事について教えてくれた。偏差値が低い高校を卒業しているコンプレックスを抱いていた山田氏は、「一発逆転で会計士をめざしてみよう」と、大学4年での合格を視野に、受験勉強をスタートした。

 がむしゃらに長時間の勉強を続けた山田氏だが、大学4年時の1回目のチャレンジは1次の短答式試験で不合格。燃え尽き気味だった山田氏は、2ヵ月間、就職活動に専念することにした。

「ところが、心から行きたいと思える企業が見つからなかったんですよね。そして何より、会計士試験合格をあきらめきれなかったんだと思います」

 同じ方法で勉強しても、同じ結果を招くだけである。2回目の受験勉強は、なぜ合格できなかったのかを客観的に見つめ直すところから始めた。勉強方法が良くなかったのか。基礎ができていなかったのか。どうやったら効率的に勉強ができるのか。多くの先輩合格者に話を聞き、多くの勉強方法の本を読み、自分の「できなさ」を受け止めることにした。自分の欠点を直視するのは、精神的に非常に苦しいことだ。でもそれを避けては三大国家資格を取得できるわけがないと考え、自分を客観視することに徹した。内省することで見えた自分の穴をひたすら埋めていく。この勉強方法に切り替えた山田氏は、2度目の受験で見事に合格を果たした。

「一生使える考え方」を学んだ監査法人時代

 山田氏が会計士試験に合格した2009年はリーマン・ショックの翌年。就職氷河期といわれる、合格者の半数が監査法人に入れないような年だった。受験生時代、監査法人勤務の先輩から「金髪で面接に行っても監査法人は受かったし、1年目からものすごく高年収。会計士っていい仕事だよ」と聞いたことがモチベーションになっていたという山田氏だが、いざ面接に行くと、張りつめた緊張感で、いかにも「落とすための採用試験」という雰囲気だった。

「当時はどの監査法人に行きたいという以前に、Big4の違いも明確にわかっていませんでした。まずは自分を採用してくれた監査法人で、自分の力を伸ばそうという気持ちが大きかったですね」

 「社会って結構厳しいんだな」と痛感しながらも、山田氏は2社目に受けた有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)から採用通知をもらった。
 トーマツではメーカー、サービス業、学校、商社などの一部上場企業の法定監査や内部統制監査に携わり、監査を3~4年経験する頃には主任業務も担当するようになった。

「様々な経験を積みましたが、監査も決算も、基本的には経営の結果でしかない。実際の経営の現場でどのようなことが行われているのかは、わからないままでした」

 経営側のことも含め、自分のスキルの幅を広げたい。そう考えた山田氏は、自ら希望してコンサルティングを行うアドバイザリー部門に異動。2~3年間、ベンチャー企業支援、賠償業務算定の構築や上場支援業務に携わった。時価総額1兆円規模の上場準備の支援も経験することができた。

「監査でお客様が求めているのは、監査報告書での適正意見です。そして税務でお客様が求めているのは、税務申告書を作り上げることです。しかしコンサルティングは、お客様が何を求めているのか、成果物が明確でないケースがかなり多くあります。そこをうまくお客様と共有しながらコミュニケーションを取り、1つの成果物を作り上げ、お客様の期待値を超えていく。そういった過程をコンサルティング部門で学ばせてもらえたと思っていますし、この経験は独立開業後にも大いに活きています。この仕事を通して、私たちは専門職でありながらサービス職でもあることを痛感しました。個々人の専門知識の習得・習熟だけでなく、『どのタイミングで、誰と、どのようなことを話せば、仕事がうまくいくのか』といった対人コミュニケーションやネゴシエーションスキルなども、一流の士業には必要なんですよね。
 将来は、トーマツ内部でパートナーをめざすという選択肢もありましたが、優秀な同期の中で引け目を感じていた私は、独立を決断しました」

 こうして入所から6年目、シニアスタッフ2年目に山田氏はトーマツに辞表を提出。2015年秋、独立開業に踏み切った。

顧問先ゼロ、営業経験ゼロからのスタート

 独立のタイミングは、コンサルティング部門が多忙過ぎて体調を崩したときだった。

「このとき私は30歳まで残り数ヵ月というタイミングでした。監査法人はかなり忙しく、24歳から6年間がむしゃらに働いてきて、自分を見つめ直す時間もありませんでした。でもふと30歳という節目を目前にして『本当になりたい自分になっているのか』を振り返ったとき、独立してチャレンジしたいという気持ちが湧いてきたんです」

 こうして2015年秋、税理士登録を済ませていた山田氏は、まずは山田直輝税理士事務所としてスタート。そして同年12月に法人化し、ストラーダ税理士法人を設立した。独立開業から数ヵ月で税理士法人設立に至った山田氏だが、当初はお客様ゼロ、営業経験ゼロの状態だった。

「なんとかなるだろうと思っていました。監査法人でやってきたコンサルティングは、まったく経験したことのない案件をお客様とセッションしながら、あらゆる手段を使って作り上げ、お客様へ満足を提供するサービスです。コンサルティングと同じ発想で取り組めば、独立開業してからも、同じようにお客様の満足につなげられるのではないかと考えました」

 独立を決めた山田氏はまず異業種交流会に参加し、そこで出会った人への営業で顧客を獲得しようと考えた。しかし最初の3ヵ月間、顧客はほぼゼロ。これではいけない、自分の考えを変えなければと思い、受験時の失敗と同様に、自分を客観視することに。そして、営業は自分ひとりでやるより複数人でやったほうが受注の確率が高くなると考えた。しかし営業職の社員を雇うお金はない。そこから考えを巡らせ、独自の営業手法を確立していったという。

「失敗するのは悪いことではありません。失敗から何を学ぶかが大切です。この考え方は、ストラーダグループの組織の中にも浸透させています。提案を失注しても、お客様にお叱りを受けても、組織内でそれをとがめる文化はありません。そこから学んだことを活かし、二度と同じ失敗をしない組織をつくることに注力しています」

 山田氏自身、優等生として生きてきたわけではなく、多くの失敗を重ねながらも、そこから逃げずに現実を受け止めてステップアップしてきた。その経験を反映した組織文化となっているようだ。

「台所で信用をつかみ、カメレオンのように生きる」

 独立して仕事を進めていくうちに、山田氏はお客様から求められるものが税務の領域を超えて横に広がり、コンサルティング的な依頼が増えていると感じるようになった。コンサルティングは監査法人で学んだ得意分野。そこで2016年夏、税理士法人とは別にコンサルティング会社「ストラーダビジネスサポート株式会社」を立ち上げた。

 会社は成長すると人を雇用するようになる。次にニーズが発生したのは、顧問先の従業員に関わってくる給与計算と社会保険手続だった。これまで社会保険手続は外部の社会保険労務士に依託するしかなかったが、2017年に社会保険労務士法人を立ち上げたことで、こうした手続きも守備範囲となった。

 その後、当時増えつつあった会社設立関係と定款策定、ビザ申請業務の受け皿として行政書士法人も立ち上げた。ストラーダはこうして、お客様のニーズが生まれたタイミングで守備範囲を広げ、グループ化していったのである。
 山田氏は、グループのミッションは「徹底的な経営者支援」にあると強調する。

「私たちは事業家支援を通じて日本の国力を向上させていきます。大きな志や強い社会的信念を持った事業家の成功が、雇用を生み、経済を回し、日本を良くしていくと考えています。日本の国力が上がり、世界で戦える企業づくりを私たちは徹底的に支援しているのです。
 法律上、士業法人はそれぞれ独立性を保つ必要があるので分けていますが、私自身は税務・労務といったこだわりはなく、『経営者の課題をグループ一体となって解決したい』という思いが一番根本にあります。ですから、あえて自身の専門以外の業務に携わることで組織横断的な動きを取ることを大事にしています。人材育成の観点でも、いろいろな経験を積んでもらうことで、他社よりも深い知識や経験を持つ人材を育成できると考えています」

 現在、税理士法人、社会保険労務士法人、行政書士法人、コンサルティング会社など、グループ総勢35名で組織的に動いているストラーダグループ。業務委託先まで含めると50名以上の組織になっている。税理士法人の顧客数は約500社、グループ全体で約800社の顧客数となる。
 ストラーダ税理士法人の守備範囲は、当初案件が多かった法人申告、コンサルティング業務から、今では相続案件にまで広がっている。中小企業の社長からの依頼や相続のような個人案件を受けるようになって初めて、山田氏は税理士としての壁を意識するようになった。

「監査法人時代は大手企業が顧客だったので、経営者の方との距離が遠くプライベートで接することはありませんでした。しかし中小企業は経営者のもっと深い部分まで入り込む必要があります。以前、税理士の大先輩から言われた『税理士はお客様の台所まで見る仕事です。ビジネスだけでなく、お客様本人とその家族、親族の状況まで踏まえて適切なアドバイスをしなければなりません』という言葉が心に残っていて。私たちは仕事をする上で、お客様に信用されている必要があります。お客様が自身の台所を見せてくれるということは、最大限の信用をされていることの証だと思うんですよね。その気持ちに応えなければと思っています」

 独立し、税理士となってからは、オーナー企業の法人と経営者個人を一体で見ていくケースが増えた。特に相続では、個人とその親族を深堀りして見ていかなければならない。非常に距離が近く、密に入り込む仕事だということを実感したのである。税理士は士業の中でも、顧客との距離が一番近いと山田氏は自負している。

「税金に困ったら税理士に聞くというのは一般的に知られていると思いますが、その他の困りごとについて誰に相談したらいいのか、お客様がわかっていないケースが多くあります。登記は誰に頼むのか、社会保険に困ったら誰に相談すればいいのか、意外にパッと出てこないようなのです。だからこそ、守備範囲外の依頼が来たときに『うちではできません。他を探してください』とお断りしてしまうのは歯がゆい。お客様が求めているのに、なぜ解決できないのかと。だから私は『知らないです』と極力言いたくなかったんです」

 そんな思いと先輩税理士からのアドバイスが交差して生まれたのが、「マーケットイン」の発想だ。

「お客様が何を求めているのかを把握し、それを満たすサービスを提供し続ければ、顧客は永続的に満足してくれますし、企業としてもずっと永続します。逆にプライドやポリシーを持って『これしかやらない』と言っても、お客様にニーズがなければ何の社会的価値も生みません。お客様のニーズに合わせて、私たちはカメレオンのように色を変えていく。それができれば、多くのお客様を満足で満たせると考えています」

 これは、いち社会人にも通じる話だ。上司の要望に応じて、仕事のアウトプットを変える能力が備えられれば、どこでも必要とされる人材になれる。「最も強い者が生き残るのではない。最も知的な者が生き残るのでもない。変化に最もよく適応した者が生き残るのである」という言葉を生物学者のチャールズ・ダーヴィンが残している。

 幅広く多様な知識を持って専門家同士が会話しながら、何が一番適切なのかをお客様に提案していく。あくまで主語は「自分」ではなく「お客様」。お客様が何を求めているかに軸を据えたマーケットインの発想だ。

「それが自分ができないことならば学べばいいし、できる人にやってもらってもいい。選択肢はたくさんあるけれど、必ずマーケットインの発想を徹底しています」

 こうして山田氏は「マーケットイン」をビジョンに据え、組織全体で共有していくことにした。

徹底したスキーム作りで顧客満足度98%

 税理士法人の顧問先で最近増えているのは、他の税理士事務所から乗り換えてきたお客様だという。

「顧問税理士を変更したいと考える理由として、大きく分けて3つの不満があります。1つ目は、まったく提案をしてもらえなかったケース。2つ目は、記帳代行に時間がかかりすぎているケース。3つ目は、コミュニケーションミスが多い、レスポンスが遅いなどコミュニケーションに難があるケースです」

 この3つの課題をすべて解決したのが、ストラーダ税理士法人の作ったスキームだ。例えば、お客様に不満を生まないため、お客様の決算が終わった段階でアンケートを送付してサービス改善に役立てている。

「ひと区切りついたところで、お客様から客観的に私たちを評価してもらいます。その結果をもとに毎月社内で決算アンケートのフィードバックを行い、どうやったらもっと良いサービスができるか全員で議論しています」

 徹底したスキーム作りで、顧客のストレスを解消する。これも「マーケットイン」の発想から始まったサービスの一環と言える。実際、決算アンケートの結果では、98%の満足度を得ている。
 今後の展望について山田氏は、ニーズとタイミングに応じて法人、会社、スタッフを増やしていきたいと語る。

「社内のスタッフが成長していくと、自然と会社も成長するはずです。成長を止めてしまうとスタッフもやる気をなくしてしまうので、成長は大きな課題の1つです。結果的に社員が増えていくことにもつながりますし、売上が増えていくことにもなると思っています」

 次のステージに上がれるかどうかは、スタッフが高度なコンサルティング領域を担える人材にステップアップしていくことにかかっている。

大事なのは価値観の共有

 ストラーダ税理士法人の顧問先対応は、必ず「担当」と「副担当」で最低2名以上のチームにしていることが特徴だ。「副担当」は決算書作成とお客様とのやりとりがまだ1人ではできないスタッフ、「担当」は1対1でお客様に相対して、顧客満足度を満たせるコンサルタントと定義している。

 未経験で入所した場合、まず副担当になり、一人前のコンサルタントになるまで6年をかけて育てている。

「税務申告や記帳代行だけであれば6年もかかりません。しかし私は“提案”をサービスの1つの軸としているので、自分の提案をきちんと自分の言葉でお客様に話せるようになるレベルを『一人前』と定義して、そこに至るまでに6年かけて人材育成をしています。
 6年は長すぎると思われるかもしれませんが、実際は4年目ぐらいから担当を持ち始め、最終的な卒業を6年目としています」

 丁寧な育成制度を設けているストラーダグループ。採用の際に「求める人物像」についても質問してみた。

「採用試験ではまず、私たちの求める価値観に合致しているかを確認する“価値観の試験”を受けていただきます。通過すると税理士法人のパートナーとの1次面接に進んでいただき、そこも通過すれば私が最終面接と採用試験をする決まりです。評価で重視しているのは価値観と将来性の部分ですね。
 私たちは経営者の徹底的支援を1つの軸にしています。借入に際しては自らが連帯保証人となり、万一会社が潰れたら自分が個人保証する。そんなギリギリのところで生きているのが経営者です。そうした方に相対するのがこの仕事のやりがいであり、つらさでもあるのかなと思っています。もちろん私たちが当事者になることはできませんが、お客様が生きるか死ぬかで戦っている中で、親身に寄り添わなければならない。その意識と覚悟を持ってもらえなければ、この仕事は続かないし、良いサービスにつながりません。ですから、そういった価値観の部分を重視しているのです」

 スタート地点は、簿記2級レベルの未経験者から多少の実務経験があるレベルまで、6段階に分けて決める。未経験者から採用するのは、山田氏自身が下から本気ではい上がってきた経験があるからだ。挫折を繰り返して、それでもあきらめない気持ちを持ち続けてきたからこそ今がある。同じようにがんばりたいと思う人を組織として応援していきたいのだという。

「私自身、いろいろな方の協力を得て今に至ります。会計士になった当初も、多くの先輩方に面倒を見ていただいたおかげで何とか一人前になれました。そんな未経験者にもチャンスがある、チャンスを与える組織だということを掲げたいのです。今がどうかより、これからどれぐらい必死になってやろうと思っているのか。伸び代に期待したいですね」

 また、資格手当については、「副担当」には資格手当がつくが「担当」になると資格手当がつかないという、独自のルールを決めている。

「資格はあくまで武器であって、使わなければ単なる飾りです。税理士であれば、税理士資格を使っていかに社会的に還元ができるか、それが資格を取得した意義だと思います。資格を持っていてもうまく使えない・使い方がわからないままでは、社会的価値を生んでいないことになります。一人前になったら自分で資格をどう活かせるかを価値に還元してほしいというメッセージを込めて、担当になった段階で資格手当を外しています」

 だが、科目合格ごとや税理士登録で資格手当を支給する税理士法人は多い。手当をなくすデメリットはないのか。山田氏によれば「最も大切なのは経営者の徹底支援。経営者が喜んでくれて何か価値を感じてくれるのであれば、資格手当以上にきちんと報酬に還元する。だから資格手当は必要ない」のだという。本質的な力を持った人材の育成を目標にしているのだ。

監査で学んだ「正解」で中小企業にアドバイス

 大手監査法人での経験は、独立後のキャリアに大きな影響を与えていると山田氏は語っている。

「監査業務はあくまでこちらがサインする立場なので、関係性が上位になりがちです。ところが独立すると、先生と呼ばれていても、お金をいただいてサービスを提供する立場になります。監査での立場を引きずっていると、ミスコミュニケーションを生む可能性がありますので注意が必要です。私は監査の他にコンサルティング業務も経験していたため、お客様軸で考えるスタンスが身についていたことが役立ちました」

 また、エビデンスを踏まえながらお客様にロジカルに説明する力や決算書を読む力は、監査業務や四半期レビューで培ったスキルだと山田氏は言う。

「監査業務では、100億円の売上が正しいことを示す際、『サンプルで抽出した数十枚の伝票が正しいから、合計の100億円も正しい』と合理的に説明していきます。また、四半期レビューでは前の決算と今の決算、数字と数字を見比べることによって数字の合理性を説明していきます。それでだいぶ決算書を読み解く力が身につきましたね。
 何より監査法人に勤める大きなメリットは、監査を通して大企業のしくみがわかること。言い換えれば『教科書的な正解』を知ることができる点です。中小企業にアドバイスするとき、『あの会社に比べてここが足りないからもっとこうしたほうがいい』と比較することができる。役員会を毎月開き、みんなで情報共有することは大企業では当たり前ですが、これをやっていない中小企業はたくさんあります。当社が毎月の役員会開催をサポートし、お客様にも役員陣の共通認識を持ったほうがよいと伝えられるのは、監査法人での経験があってこそ。会社の『成功例』をある程度知っておくことは、独立後、中小企業を見ていくときに活かされ、かつお客様への説得力を生む要素です」

 また、独立を見据えるのであれば、監査法人時代に1つでも多く自分の引き出しを増やしておくことが大事だという。

「監査法人では、FAS業務と言われる株価評価やデューデリジェンス、M&Aに関することなど、たくさんの貴重な経験ができます。そうした経験を1つでも2つでも多くしておくと、独立したときにとても役立ちますよ」

 最後に、会計士・税理士の仕事の魅力について、山田氏は次のように語ってくれた。

「経営者支援をしたいと思っても、それができる職業はなかなかありません。特に一般企業では、それなりに出世しないと、経営者と相対する仕事は難しいでしょう。でも、当社グループでは、たくさんの経営者の支援をすることができます。これは会計士、税理士の大きな魅力の1つです。
 ただし資格は1つの武器でしかありません。監査法人に就職すれば、周囲は会計士だらけです。その環境で、自分に何ができるのかを問われてきます。会計と税金のスペシャリストであるだけでなく、例えば『徹底的に経営者支援をやりたい』『会計業務・税務にこだわってやっていきたい』といったプラスアルファの目標がある方であれば、資格取得がその後の成長を大いに後押ししてくれると思います。自分の将来に対する覚悟を持って、資格取得にチャレンジしてください」


[『TACNEWS』日本の会計人|2023年8月号]

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