日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2021年3月号

Profile

松村 文子氏

湘南BUN税務総合事務所
所長 税理士

松村 文子(まつむら あやこ)氏
1969年12月27日静岡県生まれ、神奈川県横浜市育ち。東京理科大学理学部応用化学科卒業。新卒で大手エレクトロニクスメーカーに就職。出産を機に退職して専業主婦に。2人目の妊娠中に税理士試験の勉強を始め、2004年、税理士試験合格。2004年9月より税理士事務所に勤務。2009年11月に松村文子税理士事務所(現・湘南BUN税務総合事務所)として独立開業。

経営者、そしてスタッフの思いや夢を最大化する
お手伝いが私の仕事です。

 専業主婦時代に湧き上がってきた「社会復帰したい」という切実な思いがきっかけで、税理士をめざすことを決めたという松村文子氏。2人目の妊娠中から税理士試験に挑み、約5年で5科目合格を勝ち取った松村氏は、現在は会計事務所の代表となり、税務会計業務だけではなくコンサルティング業務にも注力している。さらにフルーツパーラーやゲームショップなど、経営者としても幅広い事業を展開している松村氏に、税理士という資格を選んだ背景や、受験生時代、勤務時代から開業へ至るまでの道のり、そして現在の仕事内容や今後の展開について語っていただいた。

2人目の妊娠中に税理士をめざすことを決心

 湘南台駅(神奈川県藤沢市)近くで湘南BUN税務総合事務所を率いる税理士の松村文子氏は、税務会計業務だけでなく、コンサルティング業務にも注力している。松村氏がコンサルティング業務に取り組むようになったのは、経営者の思いを最大化したい、思いを実現するお手伝いをしたいと考えたことから始まっている。そんな松村氏が、税理士をめざしたのは2人目の妊娠中。松村氏はどのような歩みを経て、税理士という資格にたどり着いたのだろうか。
「高校時代、理系科目の偏差値はかなり高かったのですが、国語など文系科目は平凡な出来でした。ですから大学進学での選択肢は自然と理系を選ぶことになりました。いわゆる『リケジョ』として大学では化学を勉強し、卒業後は大手の総合エレクトロニクスメーカーに入社しました」

 新卒で入社後すぐ結婚し、夫の勤務地に近い藤沢市に住むようになった松村氏。
「仕事は楽しくやりがいもあったので、結婚後もそのまま続けていました。でも、体力的に通勤を続けることが厳しくなり、本当はやめたくなかったのですが、1人目の出産と同時に退職しました」
 専業主婦となった松村氏だが、初めての子育てに取り組むかたわらで、パソコンを使った入力業務など、在宅でできる仕事をもらうようになった。状況に変化が起きたのは2人目を妊娠した頃のことだ。
「2人目のときはつわりがひどくて、寝込んでいることもありました。でも、上の子はそんなことはわかりませんから、遊ぼう、外に行こうと私の手を引きます。このまま寝込んでいてはいけないと一緒に散歩に出かけたのですが、そのときに偶然拾ったものが、今の私につながっています」

 散歩で偶然拾ったものとは、税理士試験の相続税法のテキストと問題集一式。なぜ落ちていたのかはいまだにわからないままだが、その拾いものが松村氏に進むべき新しい道を示してくれることになった。
「拾ったのは4月の初旬。祖父が亡くなったときに相続の話題が出たので、税理士という資格は知っていましたが、理系の自分には関係ない世界だとそのときは思っていました。
 ただ、意識が未知の世界に向いたからでしょうか、ちょっとテキストを眺めてみたら不思議とつわりが治まったような気がしたのです。体が楽になるなら勉強してみるのもいいかもしれないと思い、税理士試験について調べてみるとちょうど願書提出の時期でした。勉強するからには願書を出そう。願書を出すからには勉強しなきゃいけない。出産予定の11月より前、8月に試験があるから勉強期間は3ヵ月半くらい。それなら上の子がいても勉強はできるだろうと算段をつけました」

 こうして偶然にも始まった松村氏の税理士受験だが、そこには女性のライフイベントに関わる悩みも大きく影響していた。
「2人目の妊娠中に、それまで在宅で受けていた仕事の契約が終わったことで、このまま社会復帰できなくなってしまうのではないかという不安を感じるようになりました。社会復帰するには何か武器があったほうがいい、そんな思いもあって税理士試験にチャレンジしようと考えたのです」

約5年で5科目に合格

 税理士試験へのチャレンジを開始した松村氏は、なんと3ヵ月半ほどの受験勉強で相続税法の試験に合格した。
「今振り返ってみると、試験までの約3ヵ月半、その期間だけがんばろうと思って始めたのがよかったのかもしれませんね。つわり対策もありましたが、上の子がいますので勉強できるのは、上の子が寝ている時間しかありませんから、その時間に集中して勉強しました。短期間で集中して勉強することができたというか、そうせざるを得ない環境だったのですが、それが幸いしたのかもしれませんね」

 1科目合格すると、もっとがんばろうという気になる。受験2年目に松村氏が選択したのは、財務諸表論と酒税法だった。
「酒税法はなんとなく理系の内容なのではないかと思い選択しました。でも2年目は財務諸表論には合格できたものの、酒税法は不合格。なかなか思い通りにはいきませんね」
 それでも、3年目に酒税法、4年目に法人税法、5年目の2004年に簿記論と順調に合格し、約5年間で、見事5科目合格を果たした。実は税理士試験に独学で挑んでいた松村氏だが、5年目の簿記論を勉強し始めたとき、TACなどの受験指導校を利用すべきだったと後悔したという。

「簿記論の勉強を始めたとき、財務諸表論とこんなに勉強内容が似ているのかと驚きました。財務諸表論と一緒に勉強しておけば1年無駄にしないで済んだのにと後悔しましたね。すぐに高得点をとることができたためモチベーションの維持も難しく、春先から改めて勉強してなんとか合格しました。専門家に頼っていればこのようなことはなかったと思います。完全に情報不足でしたね」
 とはいえ子育てと両立をしながら、独学で約5年間での5科目合格は快挙といっていいだろう。

お客様が笑顔になることを自分でもできないか

 8月の本試験を終えた松村氏はさっそく就職活動を始めた。「ここだ!」と思った会計事務所は求人募集を出していなかったが、電話をして所長に面談を取りつけ、無事に採用が決まった。ところが初出勤日、事務所前のエレベーターで待っていた初対面の副所長から最初に言われたのは、「あなたは価値のない人間なので、この事務所にはあなたなどいらない」というひと言だった。
「ベテランの副所長にとって、私は実務経験のないただの新人。社会復帰できること、働けることがとてもうれしかったし、拾ってもらえてよかった、と思って出勤したのですが、それだけではダメだと痛感しました。働けることに満足するのではなく、そこから一歩踏み出さなければいけないと思いました」

 さすがに悔しくて、帰宅後には涙があふれた。
「実務は自分で調べたり、先輩に教えてもらったりして徐々に身につけていきました。税理士試験で勉強してきたいくつもの『点』が、実務を経験していくことでだんだんと『線』になっていく実感がありましたね。  そして仕事をする中でたくさんの経営者やお客様にお会いしているうちに、人生は一度きりだから、お客様が笑顔になるようなことを、自分もしていきたいと考えるようになりました」

 そう考えた松村氏は自分自身を振り返ってみた。子育てと税理士受験を経て会計事務所に勤務。子どもも少しずつ手がかからなくなってきた。気がつけば30代後半、もし自分が独立するのなら、なるべく早いほうがいいだろう。
「正直に思いを話したところ、所長は了承してくれました。引き継ぎには半年ほどかかるので、並行して独立開業の準備も進めていきました」
 まず行ったのは人脈づくりのための異業種交流会への参加だった。後に事務所に勤務してくれるスタッフや、実務上連携が必要となる弁護士や司法書士ともここで出会うことができた。
 こうして2009年11月1日、自宅の1室を改造して、松村文子税理士事務所はスタートした。

人の役に立ちたいという思いがコンサルティング業務につながる

「開業から3ヵ月後、顧問先がない状態で湘南台駅の近くに事務所を借りて、スタッフを雇いました。『何と無謀な!』と税理士会の先輩方からはかなり叱られましたね(笑)。私よりも会計業界の経験があるスタッフに加わってもらいましたから、もう逃げられない、なんとか給与を払わなければならないと必死でした」

 最初の依頼は、意外なきっかけで受けることになった。
「事務所の前を掃除していたら、偶然通りかかった方から『税理士事務所ができたんですね』と声をかけられたのです。いろいろお話をしているうちに、最近旦那様を亡くされたということをうかがい、相続税の申告業務の依頼を受けることになりました。それが最初のお客様です」

 税理士会の相談会や青色申告会の相談会などは積極的に受け、地元の金融機関にも足を運んだ。訪れたリサイクルセンターにパンフレットを置いてもらい、そこから紹介を受けたこともあるという。こうした活動が少しずつ実を結び、お客様の紹介が徐々に増えていった。
 「お客様が笑顔になるようなことを、自分もしていきたい」、そんな思いで決断した独立開業。松村氏は、税務会計業務という型にこだわらず、お客様の思いを実現するために何かできることはないかと考えた。
「お客様が困っていたら、何かお役に立てることはないかと考えてご提案してきました。これが今のコンサルティング業務につながっています。開業間もない頃でしたが、実際にご提案をして財産管理のお仕事をいただきました。そのお客様とは今でもおつき合いがあります」

 こうしてお客様の役に立ちたいという思いが、税務会計業務だけでなく、コンサルティング業務、さらに事務代行業務や営業代行業務、アミューズメント事業へと成長、そこから展開し、会計事務所も含めたBUNグループとなった。事務所名も松村文子税理士事務所から湘南BUN税務総合事務所に変更され、2016年6月30日からは湘南BUN行政書士事務所も併設している。もともと税理士資格も、税理士になるためではなく、社会復帰をして生き生きと働きたいからと取得したものだった。だからこそ税理士という枠にとらわれず、柔軟な発想で様々な事業を展開していけるのだろう。
「現在の業務としては、経営者のサポートをするコンサルティング業務が大きな柱になっています。例えば、事務員が欠けてしまった会社の総務経理一式をサポートする、社長が急に亡くなった会社の承継者が決まるまで経営の一式を請け負うなど、お客様の状況に合わせてサポート内容をご提案しています。その他にも、電話代行や秘書代行、資金繰り業務、建築業の書類作成一式、事業承継や相続対策、遺産整理業務、営業・企画資料作成業務や全国のマーケティング資料作り、地域活性化のお手伝い、社会福祉法人やNPO法人の立ち上げ業務など、数えきれないほどの案件を請け負ってきましたね」

コロナ禍でゲームカフェを閉店

 独立準備に際して異業種交流会に参加して人脈を築いた松村氏だが、独立開業後は自らの事務所が主催する形で異業種交流会や経営者の会を積極的に行ってきた。それが「ぶんぶん交流会」、「湘南経営者倶楽部」といった活動につながっている。実際に、こうした異業種交流会を通じての経営者同士のつき合いから、新しいビジネスも生まれている。その中のひとつがボードゲーム・カードゲームを主体とする「ゲームカフェぶんぶん」である。
「もともと異業種で交流しましょう、遊びながら仕事につながることもしていきましょう、という思いで交流会を企画してきたので、そのつながりの中から新たなビジネスが生まれることもあります。
 5年ほど前、湘南経営者倶楽部の活動として経営塾を始めました。内容は、これから事業を興していきたいという方が集まる起業塾に近いものだったのですが、あるとき、塾生から『講師の人たちも含め、みんなで事業を始めませんか』と提案されたのです。話し合った結果、楽しく遊べて交流が仕事にもつながるもの、ということでボードゲーム・カードゲームの店舗を開くことになりました」

 こうして店舗探しを始めた松村氏のもとに不動産会社から提案されたのが、関内駅近くの60坪のスペースだった。
「最初は15坪くらいを想定していましたが、思い切ってその場所を借りて、2016年11月1日からゲームカフェぶんぶんをオープンしました」
 そこはカフェだけでなく、ゲームイベントを主体として来場者に楽しんでもらうスタイルの店舗として運営された。来場者は店舗に常備してある数100種類のゲームから好きなゲームを選んで遊ぶことができる。イベントによってはビルの外まで入場待ちの若者たちが並ぶこともあり、ビルのオーナーからも「若い人たちに来てもらえてありがたい」とお褒めの言葉をもらったという。ゲームカフェぶんぶんはその後、白楽駅(横浜市神奈川区)と湘南台駅にも展開していった。

「このようにお話しすると順風満帆なように聞こえますが、それは新型コロナウイルスが流行する前までのことです。ゲームカフェぶんぶんはイベントを主体に集客を行ってきましたから、イベントの中止を余儀なくされ大きな打撃を受けました。感染予防策を十分に講じたうえで営業を続けていく道も模索しましたが、終息の道筋が見えない中での継続は難しく、最終的に閉店することを決めました。湘南台の店舗は2020年12月までゲームの販売を行っていましたが、今は楽天市場内のECサイト『ぶんぶんゲームズ』のオンライン店舗へ移行し、スタッフたちはグループ内の他の事業に異動してもらい、再開できる機会をうかがっています」

 この失敗に挫けることなく、松村氏はまた新たなチャレンジを始めている。それは2021年に事務所のすぐそばに2月上旬オープン予定の「フルーツパーラーぶんぶん」である。
「コンサルティングの仕事で北海道夕張市に行く機会があって、そこで夕張メロンをいただいたのですが、とてもおいしくて感動しました。ところがコロナ禍でまったく売れないというのです。夕張メロン農家の方たちは、観光客が現地に訪れてお土産に買って帰ることをビジネスの基本としていました。ところが観光客が来ない状況では、メロンを売ることができない。安く売ればいい、という意見があるかもしれませんが、ブランド価値を棄損するような安売りをすることは避けたい。農家は営業に特化しているわけではありませんから、結局廃棄するしかないという話でした。
 調べてみると、他の地域でも同様のことが起きていました。それなら地域のおいしいものを発信できる場所や、食べておいしさを知ってもらう場所を作るのはどうだろうと思いつき、フルーツパーラーをオープンすることにしたのです」

事務所のマスコットキャラクター「ぶんぶん」

  さて、先ほどから何度か出てきている「ぶんぶん」というワードだが、これは事務所のマスコットキャラクターの名前だ。ユリちゃんという中学1年生の女の子が描いたイラストを気に入った副所長が、事務所のキャラクターにすべく、デザイン会社とイラストレーターに依頼。2012年4月にキャラクターとして誕生し、2014年8月には商標登録も済ませた。
 そんなキャラクター「ぶんぶん」の強さを松村氏が実感したのは、ある私立学校から依頼された租税教育の講師を務めたときだった。

「ある私立学校から保護者と子どもたちにお金や税金について教えてほしいと依頼されて、2014年6月に全6回の公開講座を開きました。内容は、お小遣い帳とダミーのお金を用意して、買い物をしてもらい実際にお小遣い帳をつけることを体験してもらうものです。きちんと記入できたらシールを貼ってあげたり、グッズをプレゼントしたり、子どもたちが喜ぶ特典つき。でも初日は、子どもたちにまったく話を聞いてもらえなかったのです。子どもたちに興味を持ってもらうためには、普通に話していてはダメなのだと学びましたね。そこで、キャラクターを使ってはどうかと、パペット人形を用意し、事務所のマスコットキャラクターであるぶんぶんが説明する形式に変更しました。結果は大好評。まったく反応が違ったので、キャラクターの力は偉大だと痛感しましたね」

 それ以降は、税理士会が租税教育に力を入れるようになったため、松村氏自身は租税教育を行っていないが、「湘南のふしぎちゃん ぶんぶん」として様々な店舗や企業、イベントとコラボレーションしたり、地域のイベントに参画して、Tシャツやトートバッグを作る企画を実施したりと、BUNグループのシンボルとしても大活躍中である。

幅広い業務にチャレンジしたい人に向いている

 現在はコンサルティング業務を中心に、税理士の枠にとらわれない活動をしている松村氏だが、コンサルティングを行うベースとして税理士であること、会計事務所を持っていることのメリットについてこう話している。
「どんな会社でも年1回の税務申告は必ずありますから、そのときには必ず経営者にお会いすることができます。これは税理士、会計事務所の強みではないでしょうか。通常は決算説明会といった形でお会いしますから、税金のことや事業計画はもちろんですが、いろいろな雑談の中から経営者の方の思いや悩み、売り上げや従業員のこと、後継者のこと、販路を拡大したいといった希望など、いろいろな思いを知ることができます。

 もともとは、その思いを最大化するにはどうしたらいいのか、どうすればお役に立てるのかを考え、そのお手伝いをしていたのが始まりで、次第にコンサルティングや事務代行などの業務に発展していきました。経営者は孤独を感じています。その最大の味方になれるのが税理士であり、会計事務所だと思うのです」
 BUNグループとしては幅広い業務を行っており、グループ総勢は約40名、うち会計事務所には10名が在籍。スタッフはひとりで複数の業務に携わっていることも多いという。
「スタッフにはユニークな経歴の人が多いかもしれません。異業者交流会で知り合ってスタッフになってもらうケースも多いです。実際、会計事務所の副所長とは異業種交流会で知り合いました。中にはゲームカフェのお客様がゲームカフェのアルバイトになり、そして正社員になったというケースもあります。ゲームカフェで採用したスタッフの中には、会計事務所で働いてもらっている人もいますので、いろいろなことをやりたい、いろいろなことができるのが楽しいと感じる方が向いていると思います」

 会計事務所には税理士試験の科目合格者は在籍しているが、有資格者は松村氏1名のみ。今後は有資格者の採用も視野に入れているそうだ。もちろん入社してから税理士試験にチャレンジしてもらってもいいと松村氏は言う。 「採用にあたっては資格の有無ではなく、人柄を一番重視しています。そして幅広い業務にチャレンジしたい方に加わってほしいと思っています。
 現在、グループではいろいろな事業をしていますが、私のメインはコンサルティング業務です。事業によっては私は報告を聞いているだけで、スタッフに任せているものもあります。ですから、自ら事業をやってみたいという方に加わっていただき、将来的には事業のトップとして活躍してほしいですね」

経営者、スタッフの思いを実現したい

 幅広く活躍する松村氏だが、今後の展開についてはどのように考えているのだろうか。
「やはり一番は、経営者の思いを実現するお手伝いをしていきたいと思っています。そして将来的なことを考えると、一緒に働いてくれている大勢のスタッフたちにも還元していきたいです。具体的な仕事というより、その人たちが輝ける場所を提供するのが私の仕事だと思っています。輝いた人たちは、また次の人たちが輝ける場所を作ってくれると考えていますので、長期目線でもグループがいい方向に進んでいけるようにがんばりたいですね」

 経営者の思いを実現するお手伝いだけでなく、スタッフの思いの実現もサポートしていきたいという松村氏は、さらにこう語ってくれた。
「女性の場合、出産や育児、夫の転勤、親の介護などで出勤できない、あるいは立地的に事務所に来られないケースも出てくると思います。ですから、例えば夫の海外赴任について行ったとしても、海外からでも仕事ができる環境を作っていきたいと考えています。育児や介護で1年、2年休んでもいい。いつでも戻ってこられるような組織にしていきたいですね。就業規則など法的なことはもちろん整備しますが、実際に組織としてどう対応できるかが一番大切だと思います。

 BUNグループは若いスタッフも多いですし、思いを共有できる方たちが長く働ける場所、輝ける場所を提供していきたいですね。自由に働きたい方がいたら、どうすれば自由に働けるのかも一緒に考えたいと思います。そのためには分社化や働き方の変更など、柔軟に対応して、みんなが望む働き方ができるように、もちろん十分なお給料も出せるようにしていきたいです」
 そんな松村氏だが、偶然の拾いものから始まった税理士という資格については、どのように思っているのだろうか。 「税理士を取得して、とてもよかったと思います。もし資格を持っていなければ起業はできませんでしたし、こんな仕事はしていないと思います。税理士になったからこそ経営者と話す機会があり、経営者の思いを実現する後押しができる。それが税理士という資格の魅力だと思います」

 さらに、税理士資格が自身の経営に役立っている部分についても教えてもらった。
「数字が読めるというのは大きな強みになります。試験で勉強した財務諸表論や法人税法の知識がありますから、決算書を読む力もあり、事業計画など未来のものに対しては経常利益や資金繰り、キャッシュフローなどがわかりますし、新規の事業を行う場合も、どこに投資して、どこで利益が出るか、考えていくことができます。税理士資格を持っているから絶対大丈夫だという安心はできませんが、数字を読めることは経営を行う上で大いに役立っていると思います」  最後に現在税理士をめざして勉強している方へのアドバイスをうかがった。
「私もやっと合格できたという感じなので、アドバイスなんてできません。でも、社会復帰したいという思いで勉強されている方たちと働いてみたいという思いがあります。ぜひ合格をめざしてがんばっていただきたいです」


[『TACNEWS』日本の会計人|2021年3月号]

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