日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2020年12月号

Profile

横溝 大門氏

税理士法人横溝会計パートナーズ
代表社員 公認会計士 税理士

横溝 大門(よこみぞ だいもん)氏
1980年9月1日生まれ、東京都出身。2003年3月、明治大学法学部卒業。同年4月、多摩信用金庫入庫。2005年、退職し公認会計士受験に専念。2007年、公認会計士試験合格。同年、有限責任監査法人トーマツ入所。2010年、公認会計士登録。同年、税理士法人レガシィに転職。2011年、税理士登録。2012年、横溝範治税理士事務所入所。同年、横溝大門公認会計士事務所開業。2013年、税理士法人横溝会計パートナーズに組織変更し、代表社員に就任。

父が築いた30年の基盤に改革の風を吹き込み、
組織は新たなフェーズに突入。

 今、事業承継は日本経済全体の課題と言われている。もちろん士業の事業承継も例外ではない。東京都国分寺市にある税理士法人横溝会計パートナーズは、うまく事業承継を進めることができた一例である。30年以上の歴史を持つ事務所が地元最大規模と言われるまでに成長した背景には、初代を引き継いだ2代目の努力と改革への熱意があった。公認会計士・税理士の有資格者で、横溝会計パートナーズの代表社員を務める横溝大門氏に、事業承継を成功させるに至った経緯や、2代目として取り組んできたチャレンジ、今後のビジョンなどを詳しくうかがった。

「絶対に事務所なんて継ぐものか!」

 日本税理士会連合会の第6回税理士実態調査(2015年3月公表)によると、税理士の年齢層は60代が最も多く全体の30.1%、60代~80代は53.8%と全体の半分以上を占めている。定年のない士業とはいえ、高齢化の波は会計事務所の世代交代と事業承継を推し進めている。
 税理士法人横溝会計パートナーズの代表社員・横溝大門氏も、2代目として父の事務所を継いだひとりだ。言葉にすれば「継いだ」のひと言になるが、そこには親子の葛藤あり、ケンカありで、今の状況にたどり着くまでの道のりは、決して平坦なものではなかった。
「父・横溝範治が9年間務めた日産自動車株式会社を退職し、税理士試験に挑戦したのは私が保育園に通っていた頃で、小学校3年生のときには独立開業していました。父はその頃からずっと私に後継者になってほしいと思っていたようですが、当時私は朝から晩まで働き続ける仕事ひと筋な父に反発心があって、税理士になりたいとはまったく思えませんでした。大学時代、父と激しくケンカをしたことがあったのですが、そのときに『絶対に事務所なんて継ぐものか!』と宣言しているほどです」
 父のように生活を犠牲にして働かなければいけない税理士にはなりたくない。そう思うものの、特に他にやりたいこともない。そんな横溝氏を待っていたのは就職氷河期だった。就職活動ではなかなか内定を獲得できず、やっとの思いで内定を勝ち取った地元金融機関に就職した。こうして社会人としての第一歩を踏み出すと、しばらくして支店の渉外係として地元のお客様を担当することになった。
「新人の渉外係ができることは、個人の客先へ行って『預金をしてください』とお願いするか、法人客の元へ行って『お金を借りてください』とお願いするかという2パターンの営業ぐらいです。金融機関に入るのだから簿記3級ぐらいは持っていないといけないだろうと思って取得した日商簿記検定3級でしたが、この知識では、融資の話ができるほどのレベルには届きませんでした」
 横溝氏は仕事をしていく中で、次第に自分はこのままではダメだと感じるようになった。そんな矢先、父が体調を崩して入院。聞けば、かなりまずい状況だという。
「そろそろ父に反発するのも潮時かな……」
 横溝氏はこのことをきっかけに父の後を継ぐことを真剣に考え始めるようになった。
 幼い頃から父の後ろ姿を見てきたので、漠然とではあるが、税理士という仕事のイメージはある。そこに自らの金融機関での経験がプラスされたことで、「金融機関と税理士では、中小企業との距離感が圧倒的に違う。税理士は経営者に近く、寄り添っている存在。案外おもしろい仕事なのかもしれない」と思うようになった。
 会計系の資格であれば、税理士の他にも公認会計士(以下、会計士)を取得するという選択肢もある。横溝氏は自身の性格や資格の勉強で得られる知識について冷静に分析した上で、会計士を選んだのだという。
「個人的な意見ですが、会計士のほうが受験を通して得られる知識の幅が圧倒的に広いと思います。また、試験の性格として、税理士試験は暗記系の科目が多いのに対して、会計士試験はきちんと理解していれば表現力で点数が取れるイメージがありました。合格後に生じる税理士と会計士の差は、実務としては会計士の独占業務である監査ができるかできないかだけです。でも、会計士の受験科目である会計学を学ぶことで、実務で実践できる仕事の幅が広がると思ったのです。決算書を作ることは会計士でも税理士でも、経理担当者でもできますが、私が将来的にやりたいと興味を抱いていた、事業計画や財務分析といった経営コンサルティングにつながるサービスに一番近いことを学べるのは、会計士だと考えました」
 こうして横溝氏は25歳のときに金融機関を退職し、会計士受験に専念することを決心した。

監査法人と税理士法人で実務を学ぶ

 受験勉強をスタートした横溝氏は、TAC渋谷校で受験生時代を過ごし、2年という短い期間で会計士試験に合格した。短期合格できた要因は何だったのだろうか。
「私は勉強は量とベクトルだと思っていて、この2つが合えば絶対合格できると考えていました。まず『量』についてですが、父に『全体で1,000時間を超える勉強をしないと、その資格で食べていくことはできない』と言われていたことが印象に残っていて。その影響もあり、勉強を始めて1年目の早い段階で父が話していた1,000時間という勉強時間の基準を達成させました」
 「ベクトル」については3年間の社会人経験が大きくプラスになったと、横溝氏は振り返る。
「社会人経験を経て目標を期日までに達成するという意識やその方法が身についていたのか、試験のしくみや勉強内容を踏まえて、会計士試験ならこういう勉強をすればいいんじゃないかという方向性が何となくわかったのです。早い段階から目標に向けて、正しい『量とベクトル』で勉強ができたということが短期合格の大きな要因だと思っています。
 あとは精神的な部分ですが、自信を持つことはとても大事です。私は講義以外でもTACの自習室へ通って朝から晩まで勉強し、往復の通学電車で毎日『会計監査六法』を読み続け、『これだけやっているのだから自分は絶対に合格できる』と自分に言い聞かせていました」
 また他にも、模擬試験の点数がどんなに悪くても「会計士試験は、丸暗記の試験ではないのだから、勉強した内容がそのまま試験に出るわけではない」「この問題はもう試験には出ないから大丈夫」など、マイナス思考にならないように自分を励ましていたのだという。
 合格後の監査法人への就職活動では、就職氷河期真っ最中だった学生時代とは異なり、金融機関勤務経験がある横溝氏はニーズが高く、引く手あまただったという。
「2~3年働いたあとは退職して家業を継ぐと最初から決めていましたので、きちんと鍛えてもらえるように、厳しいという評判だった有限責任監査法人トーマツを選びました。入所してからは希望を聞いていただいて、ひたすら将来の実務に直結する国内上場企業の監査だけをやらせていただきました」
 試験合格後、会計士登録するまでに通常は3年間の研修期間が必要だが、横溝氏は金融機関勤務経験があったため2年間で終えることができた。
 順調に経験を重ね、会計士となった横溝氏は、自分の現時点での実力を鑑みて、予定どおりすぐに家業を継ぐべきか、まだ別の組織で修業すべきかを父に相談することにした。すると父の回答は「一度相続を勉強してきてほしい」というものだった。確かに、父の事務所には当時から相続関係の案件が相当量あったが、会計士試験の勉強では相続税について学ぶ機会がない。相続税の知識習得の必要性を感じた横溝氏は、父の助言も参考に、相続に特化した税理士法人に転職し、父の事務所を継ぐ前に相続税、贈与税、事業承継コンサルティングを学んでおくという作戦を立てた。
「自分は相続のプロフェッショナルをめざしているわけではないので、相続を学ぶ期間は2年と決めていました。最初は小・中規模の相続を担当していましたが、2年目には地方の大規模な相続まで担当するようになり、相続税に関するスキルをかなり磨くことができました」
 2012年、横溝氏は予定どおり2年の修行を経て「横溝範治税理士事務所」に入所し、父の後を継ぐスタートラインに立った。

トップとなって進めた社内改革

 横溝範治税理士事務所に入所して1年、事務所は税理士法人横溝会計パートナーズへと名前を変え、横溝氏と父の2名代表での運営体制となった。代表になってからは「いつトップを引き継いで、どのように運営していくのか」を、父と一緒に計画を立てていったという。
「父の体調悪化が想定よりも早く、当初6年だった計画は結果的には3年に短縮されました。それでも毎年権限委譲を進め、今年は営業、今年は管理系、来年は人事系と計画的に引継ぎをしていき、父が体調を崩してからは、私がひとり代表として実質のトップになりました」
 創業者が30年以上もトップを務めてきた事務所を、予定より早く継ぐことになった横溝氏。ベテランスタッフとのやりとりは、当初なかなか思うようにはいかなかったという。
「すべてのスタッフの中で、30歳そこそこの私が一番若手だったので、『ジュニアが入ってきたぞ!』と、鳴り物入りといった感じで、正直とてもやりにくかったですね。ひとり代表となったあと、いろいろと組織改革を進めていったのですが、ルールを変えた私への風当たりは強くなり、ベテラン社員は、何名も事務所を去りました。父は『私の代になったら一切口出ししない』と徹底してくれていましたが、やり方が変わったことで居心地が悪くなってしまったスタッフもいたのかもしれませんね。そのあと、新しい社員を増やすため人材採用を行ったのですが、採用後の定着率が悪くかなり苦労しました。自信を失って、精神的につらい時期でした」
 このような苦しい思いをしてまで「変えなければいけない」と横溝氏がこだわったのは、一体どのようなことだったのだろうか。
「父は顧客第一主義を徹底していました。『お客様がよければすべてやろう』という姿勢には今でも私は勝てないと思っています。一方で、お客様偏重になりすぎて、スタッフへしわ寄せがいってしまう場面があり、お客様のために安い顧問料で多くの業務を請け負っていたことで、社員の給与をなかなか上げられないような状態になっていました。
 また、社内のしくみも整備途上で、人事評価には客観的な指標もなく、設備面でいえば、『セキュリティが不安』だということで一部の限られたパソコンしかインターネットにつながっていなかったほどです。私が真っ先に改革したのはこのような部分でした。お客様も大事だけれども、スタッフも大事にしたいという思いで、制度の見直しやIT化など、社内のしくみづくりに注力していましたね」
 破格の顧問料で請け負っていた客先には横溝氏自ら出向いて、「すみません。この金額では請け負うことはできません」と頭を下げた。当然「今までの手頃な顧問料はなんだったのか」と猛反発を受けたが、「今までの方針が間違っていました」と粘り強く頭を下げると、次第に顧問先も受け入れてくれるようになったという。
「最初の頃は風当たりが強く反発がありましたが、順調に社員や顧問先の満足度は上がってきていると思います」
 22~23名規模だった法人化当時、父と横溝氏、そしてもう1名の税理士が在籍し、法人の税務会計をメインに資金繰り、管理会計、事業計画コンサルティング、そして資産税案件などを扱っていた。業種は小売業、介護事業、医療の他にも、社会福祉法人、一般社団法人、NPO法人、非営利法人など、公益法人が多かったが、特筆すべきは全国120~130件の新聞販売店の案件だ。収益の柱として長く安定的に事務所の屋台骨を支えてきた。
「おそらく会計事務所で一番といえるくらい新聞販売店の税務会計を担ってきたと思います。父の代はそのおかげで収益を上げ、社員を増やすことができました。しかし現在、デジタル化の波により、新聞業界は厳しい状況です。そこで業種の多様化を進めないといけないと考えて、私が最初に着目したのが介護事業だったのです」
 新聞販売店に代わる次代の新しい事業の柱として考えたのが、高齢化社会でニーズが高まる介護事業への特化だった。横溝氏はまず、介護保険法改正などを一から勉強し、セミナーを開催するなど集客に力を入れた。そしてデイサービスや特別養護老人ホームといった介護事業の顧客を30件までに増やしていったのだ。
 また、父の代からの主力だった個人顧客向けの相続案件についても、現在も6名で資産税チームを組み、年間50件を超える相続税申告業務など、事業承継コンサルティングをメインに展開している。売上比では法人業務に届かないが、最近では紹介だけでなくWebサイトからの依頼も多く寄せられるようになるなど好調である。
 横溝氏の改革により、現在、法人顧客数は350件、個人向け事業でも不動産賃貸を中心に顧客数は約700名にまで拡大した。また、スタッフは横溝氏を含め税理士4名、有資格者3名、総勢30名の規模までに成長。30年続いてきた礎に横溝氏が新しい改革の風を吹き込んだことで、組織は新たな成長フェーズに入ったといえるだろう。

思いを伝える遺言サービス

 相続分野で、横溝氏が企画した新しい取り組みが、2020年8月にスタートした「結いごと」という動画による遺言サービスだ。
「聞くところによると、日本人は1,000人に3人ほどしか遺言を書かないそうです。『うちは遺言を残すほどの財産がないから』、『うちは揉めないから』とお客様はおっしゃいますが、私たちの扱う相続案件の10件中3件は、訴訟までいかなくとも、何らかのしこりが残っているように感じます。その中でも『遺言を書いておいてくれたら揉めなかったのに……』というケースが、私の肌感覚では9割近くあり、どうにかできないだろうかと心苦しく思っていました。そこで、遺産となるような財産はなくても、揉めるような関係でなくても、残したい言葉はあるはずだと、遺言をハートフルなものとしてご提案することにしたのです」
 スマートフォンのアプリを使って自分をカメラで写し、好きなときに好きなだけ、何度撮り直してもいいから、家族への思いやあなたが生きていた間に伝えたかった思いを残してみませんかと、遺言の敷居を低くして間口を広げる。
 サービスを始めるにあたっては、事務所近くに「結いごと」のショールームをオープンし、プロモーション動画を流した。9月からはサービスを充実させるべくクラウドファンディングもスタートしている。
「遺言を考える方は50代、60代以上の方が多いのですが、クラウドファンディングを通じて40代から始める終活のひとつとして遺言書を普及させ、世の中を変えたいと思っています。
 他者に模倣されやすいサービスだとは思いますが、私はこのサービスを始めることによって、遺言という文化を普及させることを第一の目的にしているので、一石を投じることができれば、それでいいと考えています。思いを誰かに伝えることを、ひとつの文化にしていきたいのです」
 和やかで幸せなイメージでありながら、大きな社会的意義を投げかけるチャレンジである「結いごと」には、スタッフへの副次的な効果も期待しているという。
「揉めごとになるケースが多い相続の仕事では、案件に携わる私やスタッフも精神的に疲弊することがありますが、家族への愛に満ちた商品である『結いごと』を通して集まったデータベース、言うなれば『愛のビッグデータ』が蓄積されていくことで、社内にも心地いい空気が広がっていくといいなと考えています」
 社会的意義のある仕事をしたい。「結いごと」に込められた横溝氏の思いは、社内でもつながりや絆の意識を深く育んでいるようだ。
 また、コロナ禍の中でも同様の思いで取り組んだことがあったという。
「新型コロナウィルスの影響でテレワークを導入した結果、慣れない環境が影響してか、社内の空気が少し悪くなってしまったのです。スタッフがひとり暮らしでテレワークをしていると、集中できる一方で、孤独感があり気持ちが暗くなってしまいがちです。そこで、みんなで何かできることはないかと始めたのが『つながろうプロジェクト』でした。
 少しでも不安を解消しようと最初に行ったのは、スタッフや家族など、コロナで離れてしまった人たちと心でつながろうというコンセプトで、毎日社内チャットに空の写真をアップするという企画でした。
 そしてお客様に対しても、きっと同じように不安を感じているだろうということで『皆さん不安だと思いますが、いつでも私たちに声をかけください』というメッセージを込めて、スタッフ総出で直筆の手紙を出しました。お客様にはかなり喜んでいただけたようで、中には泣きながら電話をくださる方までいらっしゃいました」
 「つながろう」の輪は、横溝氏が抱く問題意識を種に生み出された様々な事業や企画によって、お客様内外へ広がりを見せている。

ひとり起業に伴走する「となりのBRAIN」

 横溝氏の新たなチャレンジは他にもある。現在開発中なのが経理アウトソーシングだ。会計事務所がこれまで行ってきた記帳代行を、クラウドサービスを使うことで一括集計し、会計データにする。その会計データを元に「請求書の発行」、「支払い代行」、「給与計算」、「給与支払い」、「債権管理」までトータルで行うことができるというサービスだ。バックオフィス系の業務をひと通り担うことができるので、社長は本業に集中することが可能になる。
 こうした経理のアウトソーシングを専門にしている会計事務所はたくさんあるが、横溝会計パートナーズは会計データ作成後のサポートで差別化を図っている。作成された会計データを基に、組織コンサルティングや人材教育コンサルティング、事業計画といった、会社を強化するためのコンサルティングをプラスオンしていくのだ。
「社長がひとりで始めた会社であっても、経理部長、人事部長、総務部長、法務部長がいるかのようにサポートするという意味で、このサービスを『となりのBRAIN』と呼んでいます。ウィズコロナ時代となり、これからどんどん先が読めなくなる中で、起業する社長も減ってくるでしょう。起業家は皆さん、ひとりで心細く起業して、何もわからない状況で始めます。そんな経営者の方を支え、ともに闘うアドバイザーとして、経営が良好なときもピンチのときも、重要な決定をするときにも、常に隣にいて、事業を盛り上げられるような存在になりたいと思っています」

揺るがない会計人としての矜持

 会計業界全体に目を向けると、今、税理士や会計士はAIに取って代わられる職業のトップランカーに挙げられている。横溝氏はそんな業界の将来に、このような気概で臨む。
「記帳代行などの事務作業は、むしろAIにやってもらったほうが速くて正確です。AIに任せられることは任せて、私たちはAIが作ってくれた会計データに紐づいた周辺の税務会計や経営のコンサルティング、事業計画をやるべきだと思います。数字はひとつの事実を示しているので、それをどのような判断材料としてお客様に提供するのかを考え実行するのが、私たちの仕事だと思っています。これは税務や会計、そしてお金の流れをきちんと理解した人間にしかできません」
 「結いごと」の他にも新しいアイデアをたくさん抱えているという横溝氏。柔軟な発想力を持つ経営者として事業領域を拡大していくこともできそうに思えるが、あくまですべて税務会計の領域でのビジネスに向けたアイデアなのだという。
「私が会計士であり税理士であることは絶対に揺るぎません。収益の柱はあくまで会計税務。いろんなサービスを開発していっても最後の着地点は税務会計につながるサービスでありたいと思っています。『結いごと』は横溝会計パートナーズの広告塔でいいと思っていますし、『となりのBRAIN』は税務会計で仕事をしていく幅を広げることを目的にしています。
 今後も会計データや税務データを中心に、提供する事業の幅を広げ、周辺の新しいことを取り込んでいくことで、世の中にいろいろなものを投げかけ、社会的に意義あるものを作っていきたいですね」

資格を持つことで経営判断の基準が手元に

 次々と新しいチャレンジをしつつ、税理士法人としても大きく成長してきた横溝会計パートナーズ。今後の展開も期待されるが、横溝氏自身には拡大志向はないという。
「おかげさまで最近スタッフも定着してきて、優秀な人材が育ち、総勢30名になりました。規模拡大は狙いませんが、社員に選択してもらえるキャリアプランを作っていきたいと思います。メンバーのビジョンを実現していく過程で、拠点展開であったり、人数を増やす可能性はあると思います。
 うちの事務所はもともと社内の雰囲気がいいし、女性も多く、社内が和やかです。私は大手法人のようにプロフェッショナルを大勢集めて、専門的なことに取り組んでいこうというタイプではありません。どちらかというと、普通の人たちが集まってきて、優れたしくみの中にいることで数年で自然に成長できる。そんな組織にしていきたいのです」
 父から引き継いだあと、事務所を思い切って改革してきた。スタッフに潤いを与えてあげたい。独立するならば応援したい。やってきたことはすべてスタッフへの思いに通じている。
「いろいろな未来を選べるようにしたいです。会計事務所に入ったら、ずっとこういう仕事をすることになるのだろうなで終わってしまうのではなく、興味があれば資産税部門も、『結いごと』の動画担当も、経理代行も、なんでもできる。そうした道をたくさん作ってあげたいと考えています」
 そのためには、もっとたくさんのアイデアを実現しなければならないのだと横溝氏は語る。
「資格を取ったからといって人間が変わるわけではありませんが、経営判断に必要な情報を潤沢に持っているのは会計士や税理士の勉強をしてきたからです。このような専門知識はビジネスに必須だと思いますし、少なくとも自分たちが成長をめざしていく中で、経営判断の基準を手元に置いておけるという意味でも資格はなくてはならないものだと思っています。資格を持っているか否かの差が経営においては非常に大きいということを、現在資格取得に向けて勉強中の方たちには伝えたいですね」
 学生時代に父と仲たがいして絶対に税理士にならないと宣言したとき、会計士をめざし会計事務所の後を継ぐ選択をしたとき、ひとり代表となり事務所の改革を進めたとき。横溝氏は、節目ごとにつまずいたり転んだりしながら成長してきた会計人だ。だからこそ、資格の重要性を人一倍わかっている。


[『TACNEWS』日本の会計人|2020年12月号]

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