日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2020年9月号

Profile

福嶋 重将氏

ポラリス税理士法人
代表社員 税理士・行政書士

福嶋 重将(ふくしま しげまさ)氏
1977年、東京都生まれ。2001年、税理士試験合格。同年12月より都内会計事務所に勤務。2004年9月に同事務所を退所し、都内コンサルティング会社に転職。2005年10月に同社を退職し、同年11月から都内不動産会社に常勤監査役として勤務。2008年3月、同社を退社。同年4月、東京都新宿区にて個人事務所を開業。2016年12月、法人化によりポラリス税理士法人へ名称変更、代表社員に就任。2017年7月、ポラリス税理士法人札幌事務所を開設。

ニーズを汲み取り、顧客満足度の高いサービスを提供する。
お客様目線に立ち、税理士というビジネスを成功させます。

危機にいち早く対応し、従業員や顧客先の安全確保のために新しい提案をしつつ、生産性を高める。ピンチをチャンスに変換できる柔軟な組織が、ポストコロナといわれる時代に成長し、競争力を高めていくに違いない。士業のあり方もまさにそうだろう。ポラリス税理士法人の代表税理士、福嶋重将氏は、変化する時代の波頭を捉え、独立開業から12年目で年間売上約3億円、総勢32名の組織にまで育てた。福嶋氏のキャリアから、組織の成長や今後の方向性について探っていきたい。

20歳から、わずか3年で税理士試験突破

 ポラリス税理士法人を筆頭に、不動産投資会社、不動産事業会社、タピオカ店に加えて実質的に経営権を握る2社の合計6社を動かすのは、税理士の福嶋重将氏だ。士業というより実業家。税理士と呼ぶより経営者と呼ぶべきかもしれない。幅広い展開は、不動産会社を経営する実家の家業が少なからず影響している。

「父が不動産会社をやっていて、兄と弟も現在不動産会社を経営しています。つまり家族全員不動産業なんです。そんな環境で育ったので、自分が不動産業を始めるのは自然な流れでした。
 税理士になろうと思ったのは、父が顧問弁護士や顧問税理士を頼りにしていたことが大きいですね。資格を取ってコツコツやっていく仕事のほうが自分には向いている。そう思ったのが、資格取得を考えたきっかけでした。そこで、大検(大学入学資格検定。現在は高認:高等学校卒業程度認定試験)を取ってから税理士になりました」

 「大検?」と、ここで疑問を挟むと「わけあって、高校を卒業していないんです。気がついたら19歳になっていて、このままではちょっとまずいなと思いました」と、正直に話してくれた。

 そこから、福嶋青年の人生はがらりと変わった。
 高校を卒業していなかったので「とりあえず大検を取ろう」と、1年で大検を取った。

「大検を取ったあとで、大学に行くか、資格を取るかを考えました。ただ、そのときもう20歳になっていたので、そこから大学に行くより、資格を取って社会に出たほうが自分には向いていると思いました。そして自分で取れる資格を考えたとき、数字が好きだったので税理士をめざそうと決めました」

 こうして税理士を志した福嶋氏は、1年で大検を取ったときと同じように、猛勉強でまずは日商簿記検定1級を取得し、税理士試験の受験資格を得た。
「11月の日商簿記検定試験で1級を取得して、そこから税理士試験の勉強を始め、翌年8月の本試験で簿記論、財務諸表論、消費税法に合格しました」

 その後は1年に1科目ずつ合格し、わずか3回の受験で税理士試験合格を果たした。一度決めたら貫き通す強い信念と地頭のよさ。福嶋氏の隠れ持ったポテンシャルが発揮されたようだ。

不動産会社勤務と並行し、税理士業務も

 税理士試験合格後、福嶋氏は税理士の実務を覚えるべく会計事務所に就職した。そこで税務会計業務の基礎を身につけ、3年弱勤務したあと、コンサルティング会社に転職。その会社の社長は税理士で、会計事務所も経営していたが、メイン業務は遊技場(パチンコ店)に対する経営コンサルティングだった。福嶋氏は税務会計業務や事務所の経理業務の担当だったが、携帯電話で青色申告ができるアプリなど会計ソフトの開発を主に行っていた。わずか1年間の勤務だったが、多方面の業務で貴重な経験を得た。

 その後、最初に勤務した会計事務所からの依頼で、不動産会社に常勤監査役として勤務することになる。目的は不動産会社のIPO(株式公開)のサポートを会社内から行うことにあった。
「その不動産会社には2年半ほど勤務しました。しかし残念ながらIPOは実現できませんでした。リーマン・ショックの前触れともいえる、不動産市場の大幅な悪化の影響で債務超過に陥ってしまい、IPO自体を取りやめることになったのです。私がその会社にいる意味はなくなり、自身の身の振り方を考えなければならなくなりましたが、社会全体を見ても、IPOは激減しており、再びIPOに関わるという選択はなかったので、独立開業するしかない状況になりました」

 幸い、福嶋氏は最初に勤務した会計事務所時代に、2年間の実務要件を満たしたあとすぐに税理士登録を済ませていたし、不動産会社勤務時代は週3日は不動産会社に出社し、2日は自身の会計事務所での活動を行っていた。だから、不動産会社をやめるときには、会計事務所の基盤は十分とはいえないまでも、ある程度はできつつあったのだ。

ITを駆使した顧客獲得

 税理士として本格的に始動した福嶋氏は、まずどんなことに取り組んだのだろうか。
「不動産会社に勤務している頃から、WebサイトのSEO対策をしたり、メールマガジン配信やリスティング広告(検索連動型広告)によって、新規顧客を獲得していました。結果、本格的な開業時にはすでに何件かの顧問先があって、そこから紹介で広がっています。何年か前までは年間数千万円をかけ、Web広告での集客スタイルを展開し、新規法人設立に関しても年間50〜60社の依頼がWeb経由でありました」

 Web広告の活用とITを駆使した戦略での成長。新時代の税理士像だ。そんな開業当初のメインの顧客層は、不動産分野と飲食業、建築業だった。

 業務内容は法人の記帳代行、決算、申告書作成業務といった一般的な税務会計業務で、今でも福嶋氏の事務所のメイン業務となっている。また、IPOコンサルティングの経験を活かして会社設立、創業支援に関わることから、自身で行政書士登録し、設立に際しての定款など、書類作成まで引き受けられる体制を構築した。

 こうして開業から8年間は個人事務所として運営していたが、2016年12月に事務所をポラリス税理士法人として法人化し、2017年には札幌事務所を開設した。札幌に拠点を設けた理由は、昔の顧問先が札幌にあって、出張で何度も行っていたからだという。さらに事務所内に社会保険労務士部門を設け、助成金申請業務、社会保険関係、就業規則策定、給与計算、契約書チェックなど、会社の起業から軌道に乗せて走らせるまでをサポートできる体制を整えた。

ビジネスモデルと集客方法の転換

 独立当初から順調に顧客を獲得してきた福嶋氏は、初年度年間売上1,000万円という幸先のいいスタートを切った。自宅開業で事務所を借りず人も雇っていないので、当初の経費は会計ソフト代程度。本人は「自然な流れで独立した」ので、事務所のビジョンも特になく「とりあえず、顧問先が徐々に増えていけばいいかな」と軽い気持ちで運営していたという。そんな福嶋氏に、転機が訪れた。

「ふと、『これではよくないな』と思ったんです。自宅で自分ひとりでやって、何かに経費を使うこともない、何も変わらない状況で、1,000万円の売上が2年目には1,600万円、3年目には1,900万円と増えていきました。でも、このままでは先が知れている。やはり人を雇って組織として拡大していかないといけない。そして、他にもやりたい事業があることに気がつきました」

 その頃の福嶋氏の頭の中には、以前勤務していた税理士でもあるコンサルティング会社の社長の姿が浮かんでいたようだ。
「その社長は、税理士として会計事務所を運営するだけでなく、自身で事業を展開していたからこそ、コンサルティングができた。それは会計事務所的な切り口ではなかったと思います。税理士というのは、当然、税務会計は得意です。でも、ビジネスのしくみをきちんと理解しているかといえば、そんな税理士が果たしてどれだけいるのだろうと疑問に思うことがあります。自分で事業をやらなければ、踏み込んだコンサルティングはできないんじゃないか。そこで私は、税務会計以外にも事業をやろうと決めたのです」

 ここから福嶋氏の多面的な展開がスタートする。冒頭であげたように、税理士法人、不動産投資会社、不動産事業会社、タピオカ店、事業会社2社の合計6社を動かすことになったのである。
「なにしろ家族全員が不動産業を営む家系ですから、最初から不動産業はやりたかったですね。しかも不動産と税務をセットで受け皿にすると、かなりのシナジー効果が期待できる。そこから相続マーケットで資産の入れ替えなどのコンサルティングをしたいと思っています。そうした業務を通じて高収益体質が作り出せれば、社員にも給与などで還元できると考えています」

 まだまだ資産税コンサルティングは道半ばだというが、税務会計業務に加え、相続税・贈与税申告や相続対策コンサルティングまでの展開が功を奏して、現在顧問数は月次で200件、相続などのスポット業務を含めると400件を数え、売上も約3億円に到達した。

 順風満帆な成長を遂げてきたポラリス税理士法人だが、開業12年目を迎えて課題も見えてきた。
「基本的に『町の会計事務所』なので、記帳代行、月次監査、決算・申告業務という税理士のメイン業務だけでいくと、どうしても顧問料の価格競争に巻き込まれてしまいます。これまでの記帳代行から申告の流れ1本でやっていけるのはあと何年か。ビジネスモデルの転換を迫られていると感じています」

 集客面での課題もある。開業からメインにしてきたWeb広告は、ここ2〜3年はほとんど行っていないという。インターネットによる集客には課題があったからだ。
「正直に言いますと、Web広告で集まってくるお客様とは、税理士法人として最も大切な信頼関係が築けないことが多いと感じています。加えて、競合が多く、どうしても価格競争にならざるを得ない。結果的に入口としての客単価を下げなければなりません。関わる人員の問題まで総合的に考慮すると、割に合わないと判断しました。ですから今は広告費をかけてナンボという仕事の取り方はせずに、紹介のみなのです」

 税理士としてのメイン業務と集客方法。課題は山積するが、これは多くの会計事務所の所長たちを悩ませる共通の課題とも言える。

コロナショックでも新規顧客増

 開業12年目の現在、東京事務所22名、札幌事務所10名、総勢32名(税理士5名、社労士2名)の規模となったポラリス税理士法人。町の会計事務所と呼ぶにはかなりの規模の組織に成長した。
「開業当初はWeb集客がメインだったので、ターミナル駅から近いほうが人が来やすいと考えて、新宿駅から徒歩圏内にこだわりました」

 自宅を出て初めて借りた新宿御苑のオフィスから、新宿駅徒歩圏内に移転し、2012年には渋谷区代々木に移転。福嶋氏は、3回目の移転から本格的に人を採用し、規模拡大の方向にシフトしている。
「開業から3年間は私ひとりでやっていましたが、2012年に3名スタッフを採用したところ、そこからは売上も毎年40〜50%増で増えていったので、その後の5年間は人も増やしていきました。ここ2〜3年は今の人数に落ち着いていて、規模拡大よりもスタッフの定着と安定をめざしています。

 売上高推移を見ると、初年度1,000万円、2年目1,600万円、3年目1,900万円、その後は3,600万円、6,000万円、9,000万円、1億2,000万円、1億5,000万円と推移して、7〜8年目に2億円に到達し、現在は2億8,000万円になりました」
 着実に積み上がった年間売上約3億円は、町の会計事務所とは呼びにくいほどの実績だ。だが福嶋氏は「3億円」という数字に拘りはない。その数字よりも、採用した社員が増えればやめる、入れ替わりの激しさから脱却できない人事面が課題と考えている。 「今は新型コロナウイルスの影響で、求人に対する応募者数自体が減っていますね。働き方としては、うちも時差出勤やテレワークを導入して社員の健康と安全、公衆衛生への貢献を考えています。ただ、社員の中にはテレワークで家にこもっていることで思い詰めてしまう人もいます。テレワーク自体、やはりコミュニケーションが取りにくい面がある上に、今年は確定申告後の打ち上げやその他の飲み会、社員旅行、新入社員歓迎会もすべてなくなってしまいました」

 やはり新型コロナウイルスはポラリス税理士法人にも大きな影響を与えているようだ。従来型の働き方の見直しを迫られる中で、新たな課題も見えてきている。
 今年は新型コロナウイルスの影響で個人の確定申告や法人の申告期限も延長された。当然顧問先も期限が延びているのを知っているので「遅れてもいいでしょう」という雰囲気になる。そうなると、今までの仕事のリズムが崩れて、メリハリがなくなってしまう。一方、余裕のなくなってしまった顧問先から「融資を受けたいから試算表を送ってほしい」という依頼が急増している。そうした融資に絡む資料作成や助成金申請の依頼は増えているが、情報提供の一環ですべてサービスにしてしまうと事務所が赤字になってしまう。

「時が時だけに、お金、お金と言いたくありません。できればサービスで情報提供したいのですが、うち自身が赤字を出してまでやるのはいかがなものかと。そのジレンマはものすごくありますね」
 とはいえ、新型コロナウイルスによる事務所の売上への目立った影響はなく、福嶋氏ひとりで月3〜4件の新規顧客を獲得している。他士業との提携で融資の相談から会社設立までワンストップの流れができていたので、一時期は飲食業の新規設立が非常に多かったが、現在はインターネット系広告代理店が多く、システム系の事業が急成長しているためだ。

 コロナショックで先の見通しが立ちにくい時期だからこそ、今後はその時々の状況に合った売上の作り方をしてきいたいと、福嶋氏は話す。
「その時々の状況を敏感にキャッチしていけば何とかなる。逆にそれができないと厳しいと思います。顧問先でも体力のないところがどうなっていくのかは心配です。中には顧問料の値下げ要請もありました。ただ、値下げ要請があったからといって、社員の給与を下げるわけにはいきません。変化する社会状況をかんがみて、仕事を広げていける部分をひたすら模索するしかありません。  新型コロナウイルスに関連して、社労士は助成金の仕事がかなり増えています。もちろんうちの事務所の社労士部門でも取り組んでいます。私の妻も社労士資格を取得したので、今後は力を入れていく分野です」
 状況に合わせて柔軟な対応ができるかどうかが、時代を生き抜いていけるか否かの分かれ目になる。

ニーズをくみ取り、顧客満足度をアップ

 今後も積極的に新たなチャレンジをしていくだろう福嶋氏に、求める人材像についてうかがうと、「自ら考えて意見を言える、積極性のある人」という答えが返ってきた。
「アイデアを出してくれたり、意見を言ってくれたり、自分で仕事を組み立てられる方なら、税理士資格の有無には固執しません。未経験でも大歓迎です」

 未経験者を社内で育てるのが理想のかたちだ、と福嶋氏は話す。
「スキルに関しては未経験でも、地頭さえよければなんとでもなると思っています。未経験者の場合はポテンシャル採用ではなく、ある程度のコスト意識とビジネス的な目線を持った人がいい。コスト意識とビジネス的目線がなければ、会計事務所に限らずビジネスとして成功しないからです」

 独立して成功している税理士はそうした意識を持っている反面、会計業界はコスト意識、ビジネス感覚を持っている人が少ない業界だと福嶋氏は指摘する。
「会計業界はサービス業なんです。『お客様と接したくないから税理士になる』というスタイルが成り立つと思っているようではダメなのです。今の時代はお客様のニーズをくみ取って、満足のいくサービスを提供することが税理士というサービス業に求められています。お客様目線に立てなければビジネスとして成り立ちません。
 お客様からの質問に対して、四角四面に『法律でこう決まっているから、法律違反です』と回答したら、お客様は不快感でいっぱいになります。そんな返事なら、直接税務署に聞けばいいのですから。『そこを何とかしたいから頼んでるんじゃないか』というのがお客様の本音でしょう。リスクがあるならどの程度のリスクなのか、どうすればリスクヘッジできるのか、というアドバイスを求めているのです。お客様の意図をくみ取り、どれだけのアドバイスができるのかが、税理士というサービス業に求められています。
 もちろん脱法行為は論外ですが、適法の範囲内でサービス業としてお客様に満足していただくことが大切です。お客様の意図をくみ取ったり、何を求めているのかをきちんと知る。そのために最後に行き着くのは、やはり人間関係ですね」

 そう話す福嶋氏自身、実は人と接するのを嫌がっていた時期があったという。様々な経験を積みながら、税理士としての歩みを積み重ねることにより、「税理士業はどうあるべきか」という気づきを得た。それが今の福嶋氏を形成している。

働くことの満足度が高い事務所に

 規模拡大よりも定着と安定をめざしたいと話す福嶋氏が、戦略的にやっていこうとしているのが高収益化と人を育てる教育だ。ドクターマーケットのような富裕層をターゲットに高単価、高収益に結びつく仕事を開拓していきたいが、そこはまだ道半ばの状態。
「高単価な仕事を受けて高収益を上げ、社員に分配していくことは得意なので、今、そこだけはきちんとやっていきたいと考えています」

 また、独立するまでは2〜3名の部下がいた程度で、何十名もの部下を持つ経験がなかったため、人の育て方も課題のひとつになっている。
「一般企業に入ってプロジェクトマネージャーを務めるような会計士であれば、何十名と部下を持つことがあるかもしれません。しかし税理士の場合はOJTで先輩から教わることがほとんどで、大規模な組織で何十名もの部下がいて、教育指導していた経験のある人は少ないと思います。正直なところ、私も数名の部下を持った経験しかなく、どうやって人を育て、どうやって定着してもらえるのか、トライ&エラーを繰り返しています」

 今は安定と定着をめざして、地道な基礎固めを行っているという。
 働くときはしっかり働いて顧客満足度の高いサービスを提供する。そしてプライベートでは人生を楽しむ。そうしたメリハリのある働き方で、自分の夢を追いかけてほしいと、福嶋氏は話している。
「夢を追いかけてもらいたいから、うちは代表の意見、トップダウンで物事が決まる組織ではありません。スタッフみんなの意見を取り入れて、働くことの満足度が高い事務所にしたいと考えています」

 そんなポラリス税理士法人では、育児や介護支援のための制度作りなど、様々な取り組みをスタッフが中心となって進めている。また、働きながら税理士をめざす受験生には、業務量を調整して勉強時間を確保できる体制が整っている。ある程度の規模があるからこそ、制度やサポート体制も構築できるのだろう。
 理想のワーク・ライフ・バランスをめざして多様な働き方にも対応している。新型コロナウイルス対策で時差出勤やテレワークなどの労働体制は万全だが、それ以前からノー残業デーや育児フレックスタイムなどをすでに導入してきた。こうした働きやすい環境があるため、女性比率が高いのも特徴のひとつ。育児フレックスタイムは、出産立ち合いや幼稚園送迎などで男性社員の活用もあるという。

危機感を持ち、立ち位置を考える

 これからの会計業界は本当の意味での人間力が試されると、福嶋氏は語る。今の時代の趨勢を踏まえ、受験生に対して警告を込めたメッセージをいただいた。

「どんな世界でもそうだと思いますが、成功するには他との違いや特色を持たないと難しいでしょう。まずは勉強して資格を取得しなければなりませんが、ただ勉強だけしていればいい業界ではありません。
 AI、IoT、RPA(Robotic Process Automation)の到来で、記帳代行や申告業務といった仕事はどんどん減っていくと考えています。奪われる業界でもあるからこそ、どうやって違いを作り出すか、差別化が重要になってくるのです。今はまだ年配の経営者から『パソコンは使いこなせないからお願いします』という依頼が入ることもあるし、会計ソフトも知識なしで誰でも使いこなせるレベルではないことによる需要もあります。
 しかし10年後、20年後、確実にそうした仕事はなくなるでしょう。これまで会計ソフトの入力ができなった経営者が、スマートフォンのボタンひとつで、月次入力から申告までができるようになったらどうなるのか。近い将来、業界のしくみが根底から覆されたとき、私たちのような一般的な会計事務所は危機にさらされます。その危機感を持って、近い将来どのような立ち位置に立って収益化していくかを考えるために、私自身、常にアンテナを張っています」

 士業とIT、AIはどのようにつき合っていくべきか。今後の会計業界にとって大きな課題であるのはいうまでもない。そんな時代だからこそ、「人を大切にしたい」と福嶋氏は強調する。
「人とのつながりさえあれば、おそらく何とでもなります。つながりで仕事を作り上げ、紹介し、紹介してもらうだけで収益につながる。皆さんもいろいろな人の話を聞いて、いろいろな経験をした上で、独立を決めたほうがいいですよ」

 10代から、人生の酸いも甘いも経験してきた。だからこそ決して楽観的なものの見方はしない。ストレートにど真ん中を直球で狙ってくる。それが福嶋氏の生き様だ。今の時代、「未来はばら色だよ」と言われて、誰が信じるだろう。停滞や憂い、山積みの課題は、厳しい人生をかいくぐってきた福嶋氏だからこそ見えている真実でもある。ピンチをチャンスに変えられるか。未来は自分たちの手にかかっている。


[『TACNEWS』日本の会計人|2020年9月号]

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