日本のプロフェッショナル 日本の行政書士|2020年5月号

Profile

田中 秀人氏

行政書士法人建設ブレイン
代表社員 行政書士

田中 秀人(たなか ひでひと)氏
1958年、福島県生まれ・青森県育ち。帝京大学法学部卒業。大学1年生時に行政書士試験に合格。大学卒業後、医薬品メーカー勤務などを経て、1994年5月、行政書士として独立開業。2006年4月、法人化して、行政書士法人建設ブレインとなる。現在、日本行政書士会連合会理事、許認可業務部建設・環境部門次長、東京都行政書士会副会長を務めている。社団法人北多摩建設業協会監事。

許認可申請は行政書士の王道といえる業務。経営者と深く長くつき合うおもしろさを若手にも知ってほしい。

 大学1年生のときに行政書士試験に合格した田中秀人氏は、現在、建設業許可申請を業務の中心とする行政書士法人建設ブレインを率いている行政書士である。これまでの道のりは決して平坦ではなく、そこには紆余曲折と絶えざる努力があった。現在は行政書士会の役職も務める田中氏に、その歩みと建設業許可申請業務の魅力とおもしろさ、業界の今後などについてうかがった。

忘れていた行政書士試験合格

 東京都三鷹市で建設業許可申請をメイン業務として取り扱う行政書士法人建設ブレインを率いる行政書士の田中秀人氏。事務所名からも建設業許可申請業務専門とわかるが、この名前にしたのは2006年の行政書士法人化のときからだ。それまでは自身の名を冠した田中行政書士事務所だったという。

「法人化する前は、行政書士は何をしてくれる士業なのかわからない、と言われることがよくありました。そこで、法人化にあたり得意業務をアピールする名前にしたいと考え、『建設業者の皆さんのブレインになりたい』という思いを込めて、ベタですがこの名前にしました。法人化と名称変更の挨拶に地元の建設業協会会長のもとにうかがったところ、とてもいい名前だとほめていただき、私の話を熱心に聞いてくださった上に、別れ際には『われわれの仲間として協会に入ってほしい』と言われました。本来は、建設業者とその関連業者しか会員になる資格はないのですが、会長の推薦で特別に賛助会員にしていただいたのです」

 田中氏は建設業協会の会長推薦により、現在では多摩地域の中でも、武蔵野市、府中市、立川市など北多摩地区17市の建設業者が加盟する社団法人北多摩建設業協会で監事を務めている。

「建設業許可関連の仕事をしているとはいえ、行政書士はまったく別業種ですから、普通は建設業協会に入ることはありません。しかし私が協会に入ることで、協会の役員会で建設業法改正の内容をご説明することができますし、私も建設業者ならではの悩みというものを直接知ることができますので、お互いにとってメリットがあると考えています」

 このように建設業界の一員として業務を行っている田中氏だが、スムーズにここまで歩んできたわけではない。田中氏の行政書士としての登録・開業は1994年5月だ。

「大学卒業後、医薬品メーカーに就職し、総務・経理・人事などの管理部門で働いていました。ただ、私は自分が納得できない仕事をするのが嫌でした。会社が右と決めれば右に進むしかないのですが、それが納得できなくて、もっとこうすればよいのではと何度も提案したのですが受け入れてはもらえませんでした。他にも、会社で長く働いていくためには根回し上手な人間になる必要があるし、上司はこう考えるだろうと忖度もしないといけない。すると、本当の自分と仕事をしている自分とがどんどん離れていくのです。それに嫌気がさしたので、突然辞表を出してやめました」  穏やかではないかたちで会社をやめた田中氏だが、必死に引き止めてくれた当時の上司には今でも感謝しているという。

「会社をやめたあとは、管理部門で総務・経理・人事を担当してきた経験を活かして、中小企業の管理部門をサポートするコンサルタントになろうと思って起業しました。中小企業は管理部門の人材が乏しく、困っている零細企業は多いはずだと考えたのです。ただ、何の実績もなく起業したばかりの若造に仕事が来るはずもなく、その上、子どもが産まれたばかりで『パートにも行けない』と妻に言われる状況でした」

 そんなとき、手を差し伸べてくれたのが前職の経理課長だった。総務と人事の仕事ができる人をほしがっているからと、知り合いの建設会社を紹介してくれたのである。

「建設会社の雇用形態に合わせて日雇労務者として、総務・人事の仕事のお手伝いをしました。その中で、初めて建設業許可に係わる申請書類の作成を行いました。もちろん、会社の人に教えてもらいながらです。

少しずつ他の会社のお手伝いもするようになったところ、ある建設会社の方から『うちの社員になってほしい』と誘われました。ただ、前職をやめた理由から、『勤め人にはなれません』と固辞したところ、『それなら行政書士の資格を取って独立してくれれば、うちから仕事が依頼できるし、他の建設業者ともつき合えば継続的に仕事の依頼があるはずだよ』と教えられたのです。

そう言われて急に思い出したのです、自分は行政書士試験に合格していることを」

 田中氏によれば、高校時代は勉強が嫌いで勉強をほとんどしないまま大学受験に臨み、なんとか合格したのだという。大学に入学してすぐ、同級生たちから「将来就職で苦労しないように、何か資格を取っておいたほうがいい」と言われて、友だちに引きずられるように1年生の夏に必死で勉強をして、行政書士試験に合格していたのである。

「正直なところ、合格していたことなんてずっと忘れていました。どこかにしまい込んでいるはずだと合格証書を探し出して、『これは有効でしょうか』と試験団体に問い合わせたことを覚えています」

 こうして1994年5月に田中氏は行政書士として独立開業したのである。

人間味があり努力を認めてくれた建設業界

独立開業したとはいえ、何の実績もない田中氏に仕事の依頼はなかった。

「開業のお知らせを友人や親戚に送ったのですが、何ひとつ反応はありません。父親からも『どうせ食えないだろうから会社勤めをしろ』と言われました。実際に、独立開業して3〜4年は苦しかったですね。売上がほとんどないのに家賃などで出費はかさむばかりですから、当然赤字続きでした。お客様も、新人の行政書士に簡単に仕事を依頼してはくれません。相談レベルの案件はいくつもありましたが、新規の許可申請などの具体的な業務依頼にはなかなか結びつかなかったのです」

 小さなマンションの1室で開業した田中氏のもとに、開業間もない頃、紹介で建設会社の社長が訪ねてきた。社長が「いくらでやってくれる」と聞くので田中氏が金額を答えると、「高いよ」と即座に言われた。

「その社長から『まだ駆け出しでしょう。それじゃあ仕事が来ないよ』と言われました。正直、おもしろくなかったけれど仕事がないので引き受けたんです。そして仕事が終わり、書類の返却と集金のため社長のもとににうかがうと、私が最初に提示した報酬金額が目の前に。『多いですよ』と言うと『いい仕事をしてくれたから』と言うので私も意地になって『先日決めた金額で領収書を用意してありますから』と断ったら、『俺の気持ちだから取っておけ』と。駆け出しの私の努力をきちんと見て、評価してくださったわけです。同じようなことがそのあと何回もありました。建設業界は、自分の努力が報われる、一生懸命にやったことをきちんと評価してくれる業界なのだと知り、とてもうれしかったですね」

 行政書士として開業するきっかけが建設会社の方からのアドバイスだったことと、建設業界が人間味があり努力を認めてくれる業界であることに感銘を受けたことで、田中氏は自然と建設業者をメイン顧客にするようになったのである。

 開業当初、さまざまな営業活動をした田中氏は、何回も心が折れる経験をしたという。ひとつは金融機関への営業活動。前職の経理時代、金融機関はいつもニコニコと対応してくれた印象があったのだが、行政書士として挨拶に行くと、門前払いに近い対応を受けた。また、地元の商工会議所に入会申し込みに行った際は、窓口の方に入会を断られた。

「以前の商工会議所は入会希望者に対して厳しかったですね。地域で成功した人だけしか入会は許されないのだな、と当時は感じました。自分は自宅での開業で収入も不安定なので、すぐに退会するのではと思われたのでしょう。誰ひとりとして行政書士で入会している人はいないとも言われました」

 この話には後日談がある。入会を断られた数年後、商工会議所の会頭から電話があり、田中氏の事務所まで挨拶に来てくれたのだ。来訪の用件は「商工会議所に入会してほしい」というものだった。事務所の成長を実感したできごとだった。

 さて、このように周囲から評価されるようになるまで、田中氏はどのような仕事をしてきたのだろうか。

「独立開業当初は、自由業となったのでこれで平日も遊びに行けると思った反面、精神的にはきつかったですね。仕事がないことがどれだけ苦しいか、夜も眠れなくなるほど落ち込みました。たまに紹介があっても仕事にならないことばかりでしたから。ですから、建設会社での日雇の仕事はそのまま続けていました。他にも、時間だけはあるので、創業支援セミナーの講師登録をして全国を回らせてもらったこともありました。また、恩師でもある有名な建設業許可申請業務専門の先輩行政書士のお手伝いもさせてもらい、いろいろなことを教えてもらいました。そのおかげもあってか、徐々にスポットで許可申請の依頼が入るようになり、一生懸命にお応えしているうちに定期的な依頼につながっていったり、顧客を紹介してもらえたりするようになりました。
5年目からですね、きちんと仕事が回るようになったのは」

 そこからは、建設業の許可申請業務を中心に今日まで歩んできたのである。

IT系企業、家具メーカー、精密機械メーカーなど、幅広い顧客層

 独立開業から12年が過ぎた2006年、田中氏は事務所を法人化し、名前を行政書士法人建設ブレインとした。

「独立開業当初は法人化の必要性を特に感じていませんでした。しかし、お客様の立場で考えると法人化するメリットがあるのではと考えるようになりました。

 建設業の認可を得ると、その後は毎年決算終了後4ヵ月以内に『事業年度終了報告書』を提出しなければなりません。この提出が滞ると5年ごとの許可更新ができない場合があります。長年許可を取り扱っていると、明日、来月、再来月ごとに提出する書類が必ず、しかも大量にあります。  個人で事務所を経営していると、仮に私が事故で死んでしまったら、その書類が提出できない事態になることも考えられます。お客様に迷惑がかかることですから、それだけは絶対に避けなければなりません。そのためには、常に複数の有資格者が責任を持って事務所を支える体制、すなわち法人化が必要でした。法人化後は、大手企業からの依頼が増えたと感じています」

 現在、建設ブレインの職員は総勢8名、うち5名が行政書士有資格者である。お客様の数は、常時つき合いがある会社が約350社、そのうち上場企業とそのグループ会社が20数社あるという。お客様の企業規模は、個人事業主から数千名規模までと幅広い。

「建設業許可は、工事代金が500万円(建築一式工事は1,500万円)以上の工事を請け負う場合に必要となり、2つの一式工事(土木、建築)と27の専門工事の計29業種に分類されています。そして、工事の請負契約を締結する拠点が2つ以上の都道府県にある場合は「大臣許可」、1つの都道府県の場合は「知事許可」になります。さらに元請会社として請け負う場合、下請会社へ外注する金額の合計が4,000万円以上(建築工事業の場合は6,000万円以上)になる工事を請け負う場合は、特定建設業許可が必要となります。つまり許可の区分が細かく分かれているので、一度許可を取得したあとも企業の成長にともなって、許可業種の追加や、知事許可から大臣許可、一般建設業から特定建設業などの許可換え申請が必要になるケースが多々あるのです。

 また、建設業許可がメインというと、お客様は建設業者だけと思われる方も多いのですが、実はIT系企業からのご依頼も多いのです」  建設業者だけでなく、IT系企業も建設業許可が必要になるのはなぜだろうか。

「IT系企業だけでなく家具の製造・販売会社、機械製造・販売会社、運送会社などもお客様に多いですし、建設業許可を必要としています。  まず、家具や精密機械は売れた商品を相手に届ければ完了、とは限りません。機械であれば据付工事が必要になることもあります。家具の場合も、単に家具を販売するだけでなく、壁や床面まで含めたトータルコーディネートを行うとなれば、工事も必要になるのです。

 また例えば、IT系企業が監視カメラを販売する場合、監視カメラ単体ではなく、監視システム全体の設備を一式で販売する契約となることが多いのですが、この際は、監視カメラの設置工事に加え、監視システム全体を把握するための機器やディスプレイなどの設置工事が必要になります。ときにはクライアントが所有している複数の建物を一元的に監視するシステムを設置するための工事が必要な場合もあります。そうした工事を行う際に、建設業の許可が必要になるのです」

 プラント設備の製作企業など、メインが建設工事ではない会社の場合、現場ごとの工事費用が500万円にならない場合もあるのではないだろうか。それなのにやはり建設業許可が必要となる理由は、工事代金の考え方が関係している。例えばプラント設備の製作費が10億円で、そのプラント設備全体の設置工事に係わる工事費用が100万円だとしたら、一見、工事代金は100万円に見える。ところが設備の製作から設置工事までの請負契約をする場合、プラント設備は材料とみなされるので、建設業法上の請負金額の総額は10億100万円になる。よって建設業許可が必要になるのである。

「先のIT系企業も家具会社も、自社内に工事の施工までできる人材を保有しているわけではありませんので、実際の工事は施工に係わる専門工事業者が担当しています。しかし、機器の販売、納品から設置工事まで全体を請け負うためには建設業許可が必要になるのです。

 また、建設業界の場合は重層下請構造になっています。つまり、元請になる会社はもちろんですが、実際に下請として現場で施工する会社も建設業許可が必要になります」

事業承継やM&Aの相談にも対応

 行政書士にとって建設業許可申請という仕事にはどんな魅力があるのだろうか。

「今お話ししたように、工事の際は、元請の会社だけでなく下請として実際に施工する会社も、工事代金が500万円以上であれば建設業許可を取得している必要があります。このため、元請会社が下請会社に工事を発注しようと思っても、もしその下請会社が許可を持っていない場合は依頼することができませんので、この下請会社の許可を取ってほしいと紹介してもらえます。そして無事に許可を取得したら、今度は毎年『事業年度終了報告書』を提出しなければなりませんので、スポットではなく継続した仕事になります。さらに5年に一度は許可の更新もあります。このように、一度お客様になっていただき許可を取得すると、その後も長くおつき合いが続きます。何か問題が起きない限り、継続したお客様になってもらえる可能性が高いわけです。

 こうした流れで、当法人では、営業活動を行わなくても紹介だけで仕事が増えています」

 建設業のお客様から紹介で広がることはわかったが、その他の紹介ルートにはどういったものがあるのだろうか。

「私は開業当初から、行政書士に限らず、地元で活躍する士業の皆さんとはできるだけ仲良くするようにしてきて、地域の士業が集まって行う無料相談会にも積極的に参加してきました。そうした機会に他士業の皆さんと顔を合わせておくことで、お客様からの相談で他士業の力を借りなければならないとき、すぐに誰が適任かを思い浮べることができます。このような関係からご紹介をいただいたり、反対にこちらから弁護士、税理士、社会保険労務士の方々にご紹介することも多々あります」

 お客様である建設業に加えて、他士業とのネットワークからも紹介が生まれてきているというわけだ。

 ではお客様からの相談は建設業許可に関するものだけなのだろうか。

「経営に関わるご相談も多いですね。例えば、建設業者がある一定金額以上の公共工事案件を入札する資格を得るためには、経営事項審査を受ける必要があるのですが、その際は実際に公共工事を請け負わせてもらえるよう、審査の総合評定値(P点)を一定の点数以上にしなければなりません。

 この点数をどうやって上げるかについて相談を受けた際は、社長の経営方針、業績予想、資金繰りなどをヒアリングして、会計事務所と意見交換をしながら、経営内容の改善をするためにはどうしたらいいかという提案をすることになります。

 単に建設業許可を得ることだけを考えれば、書類をきちんと作成して提出するだけでよいのですが、お客様にとっては許可はあって当然で、そこからどう経営をしていくか、いかに売上を上げていくか、公共工事であればさらに金額が大きい工事を入札するための戦略や対策が大切なのです」

 つき合いの入口は書類作成かもしれないが、そこからお客様がどう成長していけるかについても提案していくのが行政書士の仕事なのだろう。 「当社のお客様には上場企業とそのグループ会社もありますが、皆さんコンプライアンスを大切にしており、そのための相談が多くなりました。日本の建設業法は欧米の規制と比べてとても厳しい法律だと言われています。国内でも中小零細の建設業者が建設業法を遵守するのは大変なことです。仮に法令に違反して処分されると、約5年間にわたって企業名が国土交通省のWebサイトに掲載されてしまいます。このリストが原因で実際に発注者との契約が破棄されたケースもありますから、コンプライアンスは重要な課題です」

 さらに上場企業ならではの課題もあり、その点を指摘しアドバイスできるのも行政書士ならではだという。

「許可を受けるにあたっては経営業務管理責任者の設置が必要になりますが、その要件として、法人である場合は常勤の役員をひとり以上置かなければなりません。要件を満たしていないと許可を維持できない可能性もありますから、取締役の人事にも注意を払いアドバイスすることが必要になるのです。また、経営業務管理責任者と聞くととても責任が重いと感じる方が多く、就任を固辞される場合もありますが、大切な任務であることを正しく伝えるのもわれわれの重要な仕事です」

 また、最近増えているお客様からの相談には、事業承継の問題もあるという。

「経営者の子どもが事業を継いでくれない、あるいは従業員に任せたいと考えていても引き受けてくれないのだがどうしたらいいかという相談が増える傾向にあります。後継者がいないので会社を売却したいというM&Aの相談もありますし、複数の会社が合併をして企業規模を大きくすることで、公共工事の入札機会を増やしたいというものもあります。

 こうした相談で重要になるのは、M&Aなどを行うことで建設業許可の効力が失効しないようにすることです。許可を有する複数の企業が合併したとしても、合併の方法によっては事業を継続する新会社が許可を維持できるとは限りません。許可が失効してしまってはM&Aなどは意味をなさなくなってしまいます。過去の実績を新会社へ移し替えるための手続きや、M&Aなどに伴って許可が失効したり、公共工事の入札参加資格に係わるP点が下がったりしないようにするための提案が、とても重要になるのです」

若い方に行政書士の魅力を伝えたい

 建設業許可を中心に業務を展開する田中氏だが、一方では多くの会務にも携わっている。現在、日本行政書士会連合会の理事と許認可業務部建設・環境部門次長を務めるとともに、東京都行政書士会副会長なども務めているのである。

「会務を行うことで、多くの先輩、後輩など同業者と話す機会が増え、刺激を受けることが多くなりました。他士業者の情報や仕事の進め方なども参考にさせていただくことがあります」

 そんな田中氏は行政書士業界をどう見ているのだろうか。

「先ほど事業承継やM&Aの相談も多いという話をしましたが、お客様を含めた一般の方には、行政書士が幅広い相談に対応していることがまだまだ知られていません。書類作成という面が見えやすいとは思いますが、幅広い相談に対応していることをもっと知ってもらいたいですね。そのための啓蒙活動も必要だと考えています」

 若手の行政書士に対しては厳しい意見も持っている。

「若い方に行政書士の魅力が伝わっていないのではないかと心配しています。若手の行政書士に聞くと民事法務をめざす方が多いようですが、許認可申請は今でも行政書士の主要な業務で、大変奥が深い仕事であることをもっと知ってほしいし、ぜひ取り組んでもらいたいと思います。多くの許認可申請業務は継続性が高いので、経営者との信頼関係がより深くなる仕事ですから、長くおつき合いをしていればさまざまな業務を依頼されるようになるはずです。

 また建設業許可申請業務は、今後仕事が減小するのではないかと心配する声を聞くことがあります。しかし、今まで話してきたように許可を取ったら終わりではなく、会社が存続する限り長く続いていく仕事です。もし仕事が減ることがあれば、それはお客様から見て自分に足りない点がある、つまり、許可が取れさえすればいいというだけで、お客様が自分に仕事を依頼した理由や自分に期待していることは何かということをきちんと捉えていない可能性があります。例えば、許可を得たあとは毎年『事業年度終了報告書』を提出する必要がありますので、決算書を会社からお預かりしますが、それを見たときにもし急激に売上や利益が減少していたとしたら、私はすぐに社長に電話をして理由を聞きます。何か不測の事態があったかもしれないし、こちらから提案できることもあるかもしれません。ただ単に書類を作成すればいいということであればそんな電話は必要ありませんが、こうしたお客様の変化についての気づきと、経営相談に積極的に対応することがとても大切なのです」

 自身が代表を務めている建設ブレインの今後についてはどう考えているのだろうか。

「現在職員は8名ですが、業務の依頼内容などを考えると12名にはしたいですね。有資格者はその半数の6名くらいでしょうか。また、私の年齢を考えるといつかは引退を決める必要もあります。これをきちんとしないとお客様に迷惑をかけることにもなりかねません。私のあとは今のスタッフに引き継いでもらえればと考えています。ただ、実務的なことは委ねたとしても、私と同世代の経営者の相談対応は続けたいと思います。やはり同世代の人間に対してのほうが話しやすいですからね」

 スタッフの採用についてはどのように考えているのだろうか。

「行政書士試験では実務に関する出題がありませんので、特に許認可申請業務ができるようになるまでには、合格後3年程度は実務経験を積むべきだと思います。単に『試験に合格した』というだけでは仕事になりませんから。そして書類の作成は、簡単なものであればお客様自身でもできるレベルのものもありますので、行政書士としてやっていくためにはプラスアルファのアドバイスや提案ができなくてはいけません。そのためには情報や知識を吸収する能力が必要なので、そうした能力がある方に来ていただきたいですね。仕事は年々複雑化していますから、一人前になるには時間がかかりますが、事務所としてきちんと人材を育てていきたいと考えています」

 最後に、資格取得をめざしている読者へのアドバイスをいただいた。

「資格にはどんどんチャレンジしてほしいですね。特に行政書士の仕事は長く深く会社とつき合うことができる魅力的な仕事ですので、若い方の挑戦をお持ちしています」


[TACNEWS|日本の行政書士|2020年5月号]

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