日本のプロフェッショナル 日本の会計人|2018年9月号

Profile

小林 直樹氏

wish会計事務所 代表 税理士

小林 直樹(こばやし なおき)
1974年生まれ。新潟県出身。2010年税理士試験合格。2000年、税理士法人深代会計事務所勤務。2004年、同社退社。2005年、税理士法人ジャスティス会計事務所入所。2014年、同社退社。2014年、40歳でwish会計事務所を開業。

受験時代に培った粘り強さと経験は実務にも活きている。
皆さんも最後まで諦めずにチャレンジしてください。

 これからなくなる職業、AIに取って代わられる職業というと、必ず挙げられるのが税理士だ。しかし、ここに登場される税理士の方たちは、みな口を揃えて「税理士の仕事はなくならない!」と言う。東京都板橋区にあるwish会計事務所の代表税理士、小林直樹氏もそう話すひとり。「どんなにAIが発達しても、最後は人と人とのつながりですから」と強調する。小林氏は、不動産オーナーや不動産投資家の悩みに丁寧に耳を傾け課題を見つけて解決する、資産税専門の税理士だ。小林氏が税理士となった経緯から、長かった受験生活とそのとき学んだ人生の教訓、そして資産税に特化した税理士としてのあり方をうかがった。

苦節15年の受験時代

 新潟県出身の小林直樹氏が税理士をめざそうと思い立ったのは、父親が銀行員だったことからだ。「父のような金融系、財務系の仕事がしたい。何があるだろう」と考えたとき、「やるならプロになったほうがいいな」と思ったのが、税理士をめざしたきっかけだった。
「専門的な知識があれば良いサービスが提供できる。月並みだけれど、仕事をきちんとすることで喜んでいただき、社会貢献したかった。そこで税理士がいいんじゃないかと思いました」
 こうして税理士をめざし始めたのが21歳。まだ大学経営学部に在籍中のことだった。しかし、そこからが長かった。
「受験時代、長かったですね。15年かかって、35歳でやっと税理士試験5科目を取ることができました。大学卒業後はアルバイトをしながら受験を続け、26歳のときに最初の勤め先である池袋の深代会計事務所(以下、深代会計)に入りました。そこに3年ほどいて、その後深代会計にいたメンバーが創設したジャスティス会計事務所に転職します。10年間ほどいる中で、税理士試験合格を手にすることができて、40歳で独立開業に至りました」と、ざっくりと話してくれたが、これは途方もなく長い道のりだ。
 実は10年前にこの「日本の会計人」シリーズでジャスティス会計事務所を取材している。小林氏に聞いてみると、「知ってます。取材にいらっしゃいましたよね。ですから、お会いするのは今日で2回目ですね(笑)」と、しっかり覚えてくれていた。
 さて、会計事務所に勤めて仕事を覚えてくると、資格がなくてもバリバリ仕事をして稼いでいる職員もいる。受験期間が長引くと、そんな人を見て「資格がなくてもいいかな」と思うのが人間である。
「そうなりますよね。私も思いました。けれども転職する時期や人生の節目で、やはり自分が変わらなきゃと思うわけです。がっちりやって税理士試験に受かろうと思う。だからブレませんでした。それでもなかなか受からなかったんですけどね(笑)」と、小林氏は柔和な笑顔で答える。
 苦節15年、簿記論、財務諸表論に合格し、次は法人税法、消費税法。最後に相続税法で合格を手にした。最後の相続税はTACの全国公開模試で1位にもなった。しかしその年の本試験では不合格の判定が下された。
「最後の相続税法はきつかった。だからね、勝負時には勝たなきゃダメなんです。慢心してはいけない。10年以上受験していると、もう3科目合格している、4科目合格していると言って引けないところがある一方で、受験に対する熱さがどんどんなくなってくるんです。受験を始めた頃はすごく力強く熱くやっていたのに、10年も経つと何か安易な感じになっちゃうんですよ。TACの全国公開模試1位で不合格。そこでガツンとやられて……初心に戻れたことが、合格できた秘訣かもしれませんね。
 いろいろ手は打つんだけれど、世の中はうまくいかない。でも諦めずにやり通すことで、最後はうまくいくという実体験を、税理士試験を通じて手にしました。とりあえずチャレンジしない限りは正攻法はわからない。5つぐらい挑戦してみて1つ当たればラッキー。 1~2個当てるには挑戦しないとダメだって、受験を通して学びました。時間はかかったけれど、そこで学んだことは本当に今にすごく活きています。だから僕は粘り強い。開業してからも、受験時代に培った粘り強さと経験が活きてるんですよ」
 受験時代を語る小林氏はとても熱かった。

顧問先の9割が大家さん

 長い受験期間を経て独立開業したのは40歳。もちろん、前職に10年間勤務していたのだからそのまま勤務税理士として勤める道もあった。けれども「何のために税理士試験を頑張ったか」を考えれば、独立して自分でやる、自分の力を試してみたいという思いが強くなる。
 2014年4月、小林氏はジャスティス会計事務所を退職して東京都板橋区で看板を掲げる。年間5万円の契約1件からのスタートだった。
「もともと住んでいたアパートの大家さんがお客様になってくださって、それがスタートでした。その他、最初は不動産会社の無料セミナーや無料相談会をかなりやりました。無料だからといって手を抜かずにきちんと対応していったら、半年ぐらい経った頃から結果が出てきました。地道にやっていけばお客様も増えるものなんだなと思いましたね。
 最初はそれしかやっていなかったので、4月に開業して初めて申告したのがなんと11月。それまでずっと申告業務はありませんでした。先々月もない、先月もない、ああ今月もないって、毎月確認しながらやっていましたよ(笑)」
 ここでの粘り強さも受験で学んだものなのだろう。こうして半年かけて顧問先は8件に増えた。それが2年目に入ると芽が育って個人の確定申告も受けるようになる。その時小林氏は、勤めている時は感じなかった「税理士は求められているんだな」という感覚を初めて感じたという。無料相談からの申告業務の依頼も次第に増えて、2年目には顧問数50件に。その時点で、顧問先の9割は大家さん(不動産オーナー、不動産投資家)が占めるようになっていた。
 小林氏が不動産税務に強かったのは、実は15年近く勤務してきた会計事務所が不動産、資産税中心の事務所だったことがある。「資産税はかなりやった」と本人も自負しているように、いわゆる大家さんの税金対策・相続対策が得意分野になっていたのである。特にそこに固執して開業したわけではなかったが、フタを開けてみるとやはり不動産オーナーや不動産投資家の個人確定申告、相続税・贈与税といった資産税の仕事がどんどん増えて、自然に不動産関係、資産税中心になっていった。現在も顧問先の9割が不動産投資関係のオーナーや投資家、残りの1割が一般法人になっている。
「大家さんとひと口に言っても、最近では地主さんだけでなく、サラリーマン大家さんが増えています。地主さんは顧問税理士がいて税理士に会う機会もあるのですが、サラリーマン大家さんは税理士と接する機会がほぼないわけです。それでも、思い切ってアパート一棟買っちゃったという場合には申告はしなければなりません。そのとき、本で読んだ知識しかないので『プロの意見はどうだろう』と知りたい人が多いのです。そこで無料相談で対応すると、『じゃあ顧問をお願いします』となる。ですから入りやすいですね。初めて会う税理士が私ですから(笑)」
 小林氏はこのアプローチで不動産投資家の顧客を積極的に拡大していった。

「人と人とのつながり」を大切に

 法人税・所得税・贈与税・相続税の適正な節税をトータルで考えアドバイスする。中には総資産額15億円を超える相続税申告や、マンションを建築した場合の消費税還付スキーム、不動産管理会社設立による年間500万円以上の節税といった実績もある。
 ここが小林氏のストロングポイントだ。
「地元板橋区では、土地の数が50数件の大型相続税申告をした経験もあります。実務を通じて感じるのは、多めに税金を支払っている方が比較的多いということ。税金が高いとか安いとか、一般の方には相場がわからないため、実は損しているケースがままあります。それを防ぐために、個人確定申告、相続税・贈与税等の資産税申告を安心して頼める事務所になりたいんです」
 無料セミナーを開催しているのは、横浜方面や町田市と、地元板橋ではなく神奈川県がメインだ。そこでセミナーを主宰する不動産会社と相談に来た個人の両方から依頼を受ける。実はこのスタイルがwish会計事務所の営業の柱となっている。
「1社20人ほどいる不動産会社の営業担当が、直接私に依頼の電話をかけてきます。ですから所内には営業がいないのに、実質は何十人もの営業担当がいるというわけです。
 開業前は手作りのWebサイトを立ち上げてみましたし、実際、問い合わせによるお客様第1号はそこからでした。でも、Webサイトからの問い合わせはほとんどが営業の電話ばかり。バスに広告を出したこともありますし、メールマガジンもやってみました。いろいろ営業的な手は打ってきましたが、やはり無料相談やセミナーが一番集客できます。
 なぜかと考えたら、やはり人と人とのお付き合いなんです。お客様と直接会う。うちはそこを売りにしようと決めました。税理士事務所の中には直接会わないでメールでやりとりしたりWebサイトで集客しているところもありますが、私は会って伝えたい。そこで事務所の理念も、『人と人とのつながりを大切にします』にしました」
 人と人とのつながりを大切にしたいという願いを込めて、不動産オーナーや投資家の方々の悩みを聞き、課題解決し、笑顔をつくりたい。そんな思いから事務所名も「wish会計事務所」と命名されたのである。

異業種から来たメンバーが活躍

 現在事務所は総勢25名、そのうち税理士を含む正社員が9名だ。2017年に12人採用し人員が倍増。開業わずか5年でこの人数になった。
「仕事がかなり入ってきて、それに見合うサービスを提供しようとするとマンパワーが必要になってきます。2014年に開業して最初はワンルーム1人で始めたんですが、7ヵ月で引っ越し、さらに10ヵ月後にまた引っ越しになりました。器がいっぱいになる前に引っ越す。それを繰り返しているので1年で2回も引っ越しをしたり。おかげで引っ越しのノウハウが貯まりました(笑)」
 今の前の事務所へも、収容人数10人のところを9人になった段階で引っ越した。
「今の事務所ももういっぱい。うちは職員のアイディアでビリヤード台を置いてるので、働くスペースが狭くなってしまう。9月にJR板橋駅から徒歩ゼロ分の事務所に引っ越します。ビリヤード台は持っていきますよ(笑)」
 昨年人員が倍増したのは仕事量が増えたため。それに追いつくために人を増やさなければならなかった。
「先手を打って人を採用しているつもりなのに、後手後手にまわってしまうこともあります。必要としているマンパワーよりも仕事量がオーバーしているんですね。それでは職員も苦しいし、お客様に対するサービスの質も落ちるし、誰もハッピーじゃないんですよ。ですから最近は少しだけ仕事量をセーブしています。
 税理士事務所は仕事柄数字で見てしまうから、この利益だとまだ人を採るには早いと考えがちです。プロだからこそ自らも経営分析してしまうんですね。私はとりあえずやってみて、その結果で考えたほうがいいかなと。だって経営分析をして、この利益だから大丈夫という時は既にアウトです。先にWebサイトを展開したり、広告を打ったりするなど、まずは人が必要になったり、お金が出ていったりして、より良いサービスをお客様に提供すれば、それに見合うものがあとからついてくるんですから」
 wish会計事務所のおもしろい点は、異業種から転職してきた多様な職員だと小林氏は胸を張る。
「ある職員はガソリンスタンドで22年間店長を務めてきました。店長だからなかなか休みも取れなかったようで、かなり根性が据わっています。ガソリンスタンドの激務を22年間務めてきたので大変努力家であり忍耐力があります。彼は今申告書を作っています。40代になると素直に人の話を聞くのは難しいじゃないですか。それなのに彼はわずか3ヵ月で作成できるようになりました。元劇団俳優の職員もいて、金髪で税理士事務所勤務には見えないけれど既に4科目合格しています。介護系から転職してきた職員も多いです。要は会計事務所の勤務経験のある人は少ない。でも他で苦労して肝の据わっている人なら、うちは大歓迎です」
 一体どのような採用をしているのだろう。気になるところだが小林氏はにべもなく「採用選考していったら、たまたまそうなった」と言う。観点は、素直さ、厳しく自分を見られること、そして人の目を見て話せること。そんな当たり前の基準だ。
「とにかく仕事に対して真面目にやってきた方です。日商簿記2級レベルの知識さえあればいい。あとは知識を超えた経験です。他業種で長年やってこられた方のほうが社会人的に真面目な方、良い人材が豊富だなと感じています。その他には、20代でガッツある方を生え抜きで育てていきたい」
 とはいえ、昨年から月1人ペースで職員が増えていると、受け入れ態勢を整えるのは大変だろう。
「本当にその通り。成長痛ですよ。過度の成長はあまりいいことないですね」
 何を隠そう小林氏自身、前職のジャスティス会計事務所の正社員第1号だった。10年勤務しながら身をもって事務所の成長を経験してきたときにも、人の問題はあったという。
「だから成長の流れがわかるんです。人の問題は絶対に出てくると思ったので、まず開業と同時に就業規則だけは作っておきました。あとは人と組織の成長に合わせていろいろなルールを整備してきました。幸いなことに、成長の過程を一緒に経験している職員は、自分の意見がルールになるとわかっていて、どんどん意見を出してきます。大きな組織では下の意見は汲み上げられにくいけれど、うちは『こうしたらどうですか』と下から意見が出やすいんです」
 2018年中には30人規模、2019年は40人規模をめざす。3年後の組織は想像がつかない。wish会計事務所の成長スピードはものすごい勢いで加速している。

土曜・日曜・祝日も対応する会計事務所

 wish会計事務所には他にも特徴がある。特筆すべきなのは税理士事務所でありながら土日・祝日営業していることだ。不動産会社・サラリーマン大家さん・地主さんでも安心して相談に訪れることができるように配慮している。
「土日を省いてしまうと、極論ですが、平日休みのことが多い不動産会社の方とは残りの週3日しか会える日がありません。そこで不動産会社・サラリーマンや地主さんに合わせることにしました。土日に開いている会計事務所はほぼないので、ちょっと変則的だけど差別化できるという思いもありました。職員にはシフト制を導入して土日どちらかは出社してもらい、他は週休2日の範囲で自由に休みを取ってもらっています」
 土日営業の会計事務所。それだけでも充分話題性が高く窓口が広がりそうだ。お客様とのつながり、職員とのつながり。小林氏はとにかく人と人とのつながりを大切にしてきた。つながりを大切にするというのは誠実な対応をすることにもつながる。例えばメールが来たらきちんと返す。電話が来ても丁寧に応対する。所内では「ほうれんそう」も大切にしている。
 さらにもうひとつ、wish会計事務所には特徴がある。
「私たちは、基本的に訪問しない来客式です。お越しいただいて担当者が対面で対応します。わからないことがあればすぐそばに上司や私がいるので、助けてもらいながらもきちんと対応してもらえればいい。その場で解決したほうがお客様にとってもいいですよね。ほとんどのお客様は基本的に来訪してもらうので、うかがうことはほぼありません。
 セミナーや相談会は神奈川県方面が多いので、実は地元より都内都下や神奈川県の大家さんが多く、わざわざ往復2時間かけてお越しいただくわけだから、お越しいただいたからには何か有益な知識情報を持って帰っていただきたいと思っています」
 来客式になったのは、単純に開業当初小林氏がひとりで相談対応をやっていたころの慣習だ。
「事務所を出て動き回っていると、効率が悪くなる。その分お客様に会えない。お越しいただければ1日に5~6人は会えます。会いに来てもらうようにしていたら、それが定着してお客様から来ていただけるようになりました」
 ビリヤード台を持って引っ越すのも、実は訪問客に一興を与えるため。何やら会計事務所というより異世界に入り込んだような感覚が、またwish会計事務所らしさなのである。

今だからこそ税理士になるチャンス

 マンション新築による消費税還付対応によって1億円のマンション建築で800万円の消費税還付を実現。あるいは、次の物件購入時期と売却時期の検討材料となる購入予定物件のキャッシュフロー試算も10年分行うことができる。これは消費税還付申告やアパート経営のキャッシュフロー改善対策の一例だ。wish会計事務所は、小林氏の豊富な実績と経験をベースに、一般の税理士との差別化をすべくこうしたサービスを提供する。この「他ではできないこと」を強みに、今後も不動産会社、不動産オーナー、不動産投資家をメインターゲットにしていくという。
 ただ、小林氏は不動産オーナー専門特化で終わる気はない。
「実は一緒にやっている税理士が医療系が得意で、将来的には事務所の法人化も見据えて医療と相続の両面から専門特化していける組織にしていきたいと考えています。具体的な時期はまだ決めていませんが、医師の事業承継や相続まで視野に入れています。
 とにかく特徴のある専門性の高い分野、ちょっと他ではできないけれど、うちならできるということをやっていきたいんです。特化していればこそ情報はたくさん入ってくるので、不動産投資についていろいろな戦略が打てます。私も勉強していますが、お客様も勉強しているんです。だからお客様からも情報が入ってくる。それをかみ砕いて、サービスにつなげる。その意味では、税務だけではないんです。税務ではないけれど、次に買う物件はどれがいいか、そこにはうちで判断材料を提供し、それ以外のわからない分野、例えば投資として最近話題のビットコインについては専門の税理士とともに対応します」
 小林氏は、自分の専門分野以外を頼むネットワークを持っている。ベースとなるのは「ななこま(七独楽)」の会。「みなさまの幸せを専門分野で社会に貢献する」という理念のもとに集った他士業のトータルネットワークシステムによるワンストップサービスの提供をめざす組織だ。
 このネットワークを駆使して、弁護士、司法書士、社会保険労務士、不動産鑑定士などの専門家と提携し、不動産経営における家賃の長期滞納やサブリースによるトラブルなど、不測の事態に円滑に対処する。
「ずっと家賃滞納されて困っているけれど、自分で弁護士をインターネット検索しても、安さはわかるがちゃんと話を聞いてくれるのか不安だ。弁護士を紹介してほしい――。そんな依頼をされたときに、いい人を紹介してあげれば喜ばれます。他にも、今加入している火災保険が良い保険かどうか見てほしいと言われれば、保険のプロを紹介していく。そんな流れですね」
 投資家や不動産オーナーは、不動産絡みの火災保険やリスクヘッジなど知りたいことがたくさんある。アパートを持っていれば、税金だけでなく家賃滞納もあるし年月が経ったら改修・修繕もある。物件になかなか入居者が集まらないのであれば、よい管理会社を知りませんか、と知りたいことがたくさん出てくる。
「でも自分で探すのは結構大変です。そこで私たちがひとつの提案として人を紹介したり解決策を提示するだけで喜んでいただけます。だからこそ本当に良いと思った人を紹介します。私たちはつなぐことも大切な仕事なんですね」
 開業5年目、さらに5年先の10年後については、まだ何も想像できないという。
「今想像できるのは8年目には40人規模かなぁ、ということ。おそらく8年目、40人になったときに足踏み状態になるでしょう。そこで内部で組織化の動きが出てくれば合格点です。つまり、ここから3年で10人以上増えるだろうけれど、逆にそこから内部の組織作りや人材育成に比重が移ってくるでしょう」
 女性が7割を占める職場でもある。組織化の過程で、女性のためのサポート体制も今後ぬかりなくやっていかなくてはと、気持ちを引き締める。
 現在事務所内には税理士受験中の職員が4~5人いる。受験指導校に通って勉強している職員には、平日講義のある日に休みを与えたり、前もって申請すれば通学に間に合うようにフレックスで柔軟に対応できるので、働きながら受験できる環境は整っている。
 税理士をめざしている読者に、小林氏は15年間に及ぶ受験時代を振り返ってこう伝えている。
「過酷な受験勉強を勝ち抜き税理士試験に合格した方は、刀に例えれば『良い刀』を手にしたわけですから、ただ置いておくだけではもったいない。使ってもらいたい。その使い方は仕事をしないとわからないのです。刀を持っているのに大切に飾っておく人、結構多いです。それではゲーム機は持っているのにソフトを持っていないのと同じです。」
 受験では法人税法は法人税、所得税法は所得税、相続税法は相続税だけと棲み分けて勉強しますが、実務の中では資産税は法人税法・所得税法・相続税法などが絡んでいます。そこはうちのような資産税専門の事務所で仕事をすればできるようになります。
 税理士は非常に商売しやすい職業です。何よりやればやるほど人のためになります。頑張ることで喜んでもらえる。しかも税理士という職業に対する世間の認識が良いので、本を執筆したいと思えばできるし、セミナーをやりたいと言えばぜひお願いしますと言われます。税理士だというだけで、いろいろなことをやりやすいというメリットがあるんですね。
 税理士業界は縮小傾向にある、AIに取って代わられると言われていますが、開業するという視点に立てばそんなことはありません。対人の仕事ですし、資格があるからできる仕事です。皆がそうやって敬遠するから逆にチャンスなんです。
 私は40歳で開業しましたが、とてもやりやすいと感じています。閉鎖的な部分も残る業界なので、一般企業的なことを少し取り入れるだけで抜きん出ることもできる。例えば飲食業界的なサービスを税理士業界でやると、それだけで事務所の特色になります。ですからアイディアがあって開業したい方にはすごくいい時代環境です。最近は受験生が減少傾向にありますが、だからこそ今がチャンスです。今取られる方は、開業し成功するチャンス、環境がありますよ」
 諦めない心が人生を切り開く。粘り強い会計人からの力強いメッセージである。


[TACNEWS|日本の会計人|2018年9月号]

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