特集 「子育て世代が活躍できる組織づくり」に取り組む 社会保険労務士

村松 朋恵氏
Profile

村松 朋恵(むらまつ ともえ)氏

社会保険労務士事務所
HAPワークライフサポート 所長
社会保険労務士

石川県金沢市出身。同志社女子大学を卒業後、株式会社イッセイミヤケで販売員として勤務したのち、リクルート求人会社へ転職し求人営業を担当。結婚を機に退職する際、将来への備えとして資格取得を考え、2004年、社労士試験合格。2007年、夫の転勤により関東へ引越し、出産。専業主婦として約10年間、子育てと家事が中心の日々を送る。親の病気を機に仕事を再開し、税理士事務所・社労士事務所でのパート勤務を経て、2016年9月に社会保険労務士事務所「HAPワークライフサポート」開業。積極的なRPA導入など実務の合理化に努め、子育て女性が働きやすい体制を構築。2023年現在、開業6年、スタッフ4名。
『育児介護休業法 育児休業中の就労問題と産後パパ育休の実務整理』DVD発売。

 実務家として、自身のスキルや知識を活かした仕事がしたいと考えて資格取得をめざす人は多い。だが社会保険労務士(以下、社労士)の村松朋恵さんは「自分が実務をしなくても仕事ができる」という理由で資格を取得したという。10年間、専業主婦として過ごしたのちに「コネなし・金なし・経験なし」のリソースゼロの状態で社労士事務所を開業した村松さんは現在、開業6年目で4名のスタッフを抱える事務所の所長だ。自分もスタッフも、みんなが無理せず仕事とプライベートを両立できるしくみを創り上げた村松さんに、独立開業までの経緯、事務所経営を成功させたポイント、今後の目標についてうかがった。

人材系会社で磨いた営業スキル

――10年間の専業主婦期間を経て、リソースゼロで社会保険労務士(以下、社労士)として独立開業された村松さん。学生時代はご自身の将来について、どのように考えていたのでしょうか。

村松 学生の頃は、特にやりたいことも将来の目標もありませんでした。当時は世の中に「女性は結婚して家に入るのが幸せ」みたいな風潮がありましたし、私自身も結婚したら専業主婦になりたいと思っていました。同志社女子大学に進学したのも、「在学中に結婚相手を見つけられたらいいな」といった程度のふんわりした気持ちからでしたね。

――卒業後はどのような道に進まれましたか。

村松 新卒でアパレル企業の販売職に就きましたが、4年ほど勤めたところで体調を崩してしまったので、リクルートグループの求人会社へ転職し、求人営業を担当しました。午前中はいろいろな企業宛に営業電話を200件位かけて、アポイントが取れたら午後から先方にうかがい、求人広告を出してもらう商談を進めます。なかなかハードな仕事でしたが、経営者の方々とお会いして話をする仕事は勉強になることも多く、このときの経験は現在の社労士業務にも活きていると思います。
 求人会社の仕事を2年ほどしたあと、結婚が決まったのを機に退職しました。結婚相手は当時名古屋に住んでいたのですが、名古屋に行く前にいったん金沢の実家へ帰り、職業訓練校に通いました。社労士の受験勉強をしたのはこのときです。

仕事をやめた女性には選択肢がない

――もともと専業主婦を希望されていたのに、結婚が決まった時期に資格を取ろうと考えたのはなぜでしょうか。

村松 私が大学生だった頃に、就職氷河期が始まったのです。とりわけ女性は、1度仕事をやめるともう次がない時代。職場を離れてしまったら、特別な技能や資格などを持っていない限り再就職はできない状況でした。私は退職して専業主婦になることを選びましたが、もしも今後夫に何かあったときのための保険として、資格を取ろうと考えました。当時は退職後の失業期間に職業訓練校や各種技術をつける専門学校に通える制度が用意されていて、学校へ通っている期間は失業保険の給付もあったので、その制度を利用して職業訓練校に通いながら、並行して社労士試験の勉強をしました。

――そのとき、なぜ社労士資格を選んだのですか。

村松 士業にもいろいろな特徴がありますよね。弁護士の場合はご自分で法廷に立つ必要がありますが、社労士と税理士は有資格者自身が実務をしなくても、スタッフが揃っていれば仕事ができるのです。だから私は、最初から税理士か社労士をめざそうと考えていました。そして税理士試験は5科目合格するまで時間がかかりそうだと思い、社労士をめざすことにしました。

――つまり資格選びの段階から、開業してスタッフを雇うことを想定していたのでしょうか。

村松 特に具体的に独立を考えていたわけではありません。ただ、私は仕事中心ではなく、家庭や子どものことを中心に生きていきたいという気持ちがありました。そのためには資格が役立つはず、そして時間に縛られない働き方が叶いそうな資格は何だろうと考えた結果、社労士という選択になったのです。

――TAC金沢校へ通われたそうですが、どのように勉強しましたか。

村松 当初は職業訓練校と並行して勉強していましたが、社労士試験まで残り半年になった頃から、勉強する時間帯を試験が行われる時間帯に合わせるように意識していました。もちろん、TACの講義がある日はそれ以外の時間に勉強することもありましたが、基本的には午前中の試験開始時刻から勉強を始めて、昼食も本試験の休憩時間に合わせてとり、午後も試験終了時刻まで勉強と、本試験当日と同じタイムスケジュールで生活するのです。どれだけ一生懸命勉強しても、結局は試験当日にどれだけ集中して実力を発揮できるかがポイントになりますから、毎日本試験と同じリズムで集中できるようにチューニングしていました。

――その工夫が一発合格につながったのですね。結婚後は名古屋の税理士事務所に勤務されていますが、資格を活かせる場所で働きたいという思いがあったのでしょうか。

村松 強い気持ちがあったわけではありません。結婚してしばらくは、特に資格を活かすこともなく自分の好きなことをしてのんびり自由に過ごしていたのですが、そんな私を見た夫から「子どもができるまでは働いてみたら?」と勧められたのです。私としては、ゆったり過ごす生活も気に入っていたのですが(笑)。
 就職先を税理士事務所にしたのは、もしも将来的に社労士として独立することになった場合、提携するのは税理士の方だろうと思っていたからです。税理士の仕事の現場を知っておけば、どこかで役に立つのではと考えましたね。入所先は社労士事務所も併設している老舗の税理士事務所でしたので、社労士業務にも少し携わりつつ、税務会計業務を中心にお手伝いしていました。その後、夫が関東へ転勤になったのを機に税理士事務所をやめ、子どもが生まれてからは約10年間、専業主婦をしていました。

親の病気を機に独立開業を決意

――10年間の専業主婦を経て独立開業したきっかけは何だったのでしょうか。

村松 親の病気です。介護のために度々帰省するようになったのですが、実家が遠方なので1ヵ月の帰省代が10万円位かかりました。それだけの出費が何度も重なるのはさすがに夫に申し訳なくて、税理士事務所でパートタイマーとして働くことにしたのです。でも当時子どもが通っていた学校には学童保育がなく、家事育児は私がほぼ「ワンオペ」でやっていたので、パート勤務とはいえ十分な勤務時間が取れませんでした。また、親の体調が悪くなる度にお休みをいただく状況が続くようでは、一緒に働く周りの方々や税理士事務所にご迷惑をかけてしまいます。もう、独立するしかないと思いましたね。でも社労士実務は未経験だったので、数ヵ月間だけ社労士事務所で働いて、その後2016年9月に開業しました。有資格者の中には「独立するタイミングがわからない」という方もいらっしゃるかと思いますが、私の場合はタイミングを見極めて独立したというよりも、「これ以上、どこかに勤めるという働き方は難しいから開業した」という形ですね。

コネなし、金なし、経験なし。リソースゼロのスタート

――自宅で開業されたのでしょうか。

村松 開業場所に関しては、社労士登録をする際に「女性が自宅の場所をオープンにするのは危ないから」と、先に勤めた税理士事務所の方が間借りさせてくださいました。値付けなどは、料金の相場もわからなかったので、当初はその時々によって変わっていましたね。そこから少しずつ料金表を作っていき、ファックスDMを送ったり助成金セミナーをやったりと営業活動もしていたのですが、反応は数件しかなかったですね。そこで、次第に税理士事務所にターゲットを絞って営業をかけるようになりました。

――開業時には「行政協力をしない、同業者の仕事を受けない、勉強会に行かない」と決めていたそうですね。

村松 生意気ですよね(笑)。でも、同業者といるのは楽しいのですが意識しないとそれだけで終わってしまいやすいですし、知識をインプットしても仕事に役立てなければ意味がありません。まずは仕事を取って来ることが大事だと考えていました。
 とはいえ実務経験なしの社労士にいきなり顧問契約を依頼する人はいないでしょうから、最初は助成金、それも3種類くらいに絞って、税理士の方々にアプローチしました。以前税理士事務所で働いていたときの経験がここで活きてきましたね。税理士の方々がどのようなことに困っているかを先回りして解決方法をご提案し、そこで実績を上げて、他のお客様を紹介してもらうというルートを作りました。少しずつ顧客を増やして、その後すぐにスタッフを雇っています。スタッフを入れるタイミングで事務所を借りました。

――開業してどれくらいの時期にスタッフを雇われたのですか。

村松 開業した翌年の春頃です。1年は経っていなかったですね。

――早いですね。人件費、事務所家賃などの資金はどうされたのでしょうか。

村松 借りました。銀行から借りるのは難しかったのですが、日本政策金融公庫は士業に優しく、500万円ほど融資していただきました。
 そのお金で他に何をしたかというと、開業ノウハウやマネジメントノウハウなどを有料で教えてくれるコースに参加しました。数十万円の支払いになりますが、そのぶん知りたいことを遠慮せずにいくらでも聞けます。現在の事務所のしくみ作りやスタッフ採用・教育などは、教わったやり方をほぼ再現する形で実践していますね。一方で、仲間内で集まって情報を得るとか、無料で人脈を作るようなことは極力しないようにしています。開業から数年間で払ったお金をトータルすると数百万円になりますが、有料で手に入るメソッドは、そのぶん大きな間違いもないと思います。あちこちに散らばっている無料情報を集めていては時間がなくなってしまいますので、早いうちからお金を払って有益な情報を手に入れて、実践していくことが大事だと思います。
 借入れをしたら返済が始まりますので、それまでにある程度の売上を立てる必要もありましたね。ですから事業計画を立てて、営業ルートを作っていきました。とはいえ長期的な視点で考えていたので、1年くらいは家賃と諸経費と人件費を払ったら、自分の所得はほぼなかったですね。

――その頃の村松さんの状況について、ご主人はどんな反応でしたか。

村松 私がそこまでやるとは予想していなかったみたいで、すごく怒っていました。最初に私が「自分でやってみようかな?」と言ったときは「いいんじゃないの」という反応でしたが、夫は、ちょっと行政協力などをやる程度だと思っていたようです。開業資金を500万円も借りてきて、事務所のためとはいえあれこれお金を使うものだから、かなり驚いていましたね。

――確かに、もともと専業主婦志向だった人が借金をして事務所経営を始める姿を見れば、「思い切ったな」とも感じるかもしれません。

村松 そうかもしれませんね。でも何千万円、何億円の借金となると別ですが、数百万円の借金であれば返せると思いましたし、せっかく借りたお金なので有効に使おうと思いましたね。新車を買うためにローンを組む方は沢山いますし、自宅を購入する際もほとんどの方はローンを組むはずです。私も事務所を経営するためにお金を借りました。
 また、もし開業がうまくいかなくても社労士資格があれば就職することはできるだろうし、そこで稼げば返済できるはずだと思いましたね。

全力で「働かなくていい事務所」を創る

――開業時から、効率的に事務所運営する方法を考えていたのですね。

村松 時間を無駄にしたくなかったですし、お金がほしかったという思いも大きかったかもしれません。親の介護で出費がどんどんかさんでいく状況でしたし、ほぼワンオペで家事育児をやりながら稼ぐためには、実務はスタッフを雇ってお任せし、自分は得意分野の営業面に回るという形が事務所全体にとって効率的でした。
 士業の方の多くは、基本的に実務が好きでやっておられる方がほとんどですから、良くも悪くも実務にフォーカスしますよね。でも私のように子どもがいる女性士業は、どうしても育児にかかる時間も多いです。世の中では男女平等と言いますが、実態はまだまだそうではありませんよね。家事育児の分担がまったく男女平等になるには、価値観の問題や制度面も含めて当分時間がかかるだろうと感じます。ただ、それについてあれこれ言っていても仕方がないので、私は子育てしながら働ける環境を作ることにしたのです。

――すばらしいと思います。スタッフにはどのように実務を任せていったのでしょうか。

村松 最初は事務所に私ひとりしかいませんから、実務もすべて自分でしていました。子どもを連れてハローワークや監督署に行くと、私が申請手続きをしている間に役所の方が子どもを見てくださることもありましたね。
 スタッフを雇ってからは、助成金や給与計算など、どんな仕事も必ず1回は私が自分でやってみて、業務内容や難易度を把握してから任せるようにしていました。最初に入ってくれたスタッフは本当に事務が得意な方で、労務関係の知識はあまりなくても手続きはできますから、経理と手続きをお願いしました。そして2人目のスタッフには給与計算ができる方を採用して給与関係をお願いする、という風に少しずつ実務を手放していき、開業2年目から、私は実務を離れています。6年経った今は、最初からスタッフに任せる業務も出てきました。

――今は、事務所にもあまり行かないそうですね。

村松 そうですね、私は直接外回りに行きます。スタッフとはチャットワークやグループウェアでコミュニケーションをとっていて、売上もオープンにしています。そうすれば請求に間違いがないか皆がチェックしてくれますし、月の数字を見れば、最近私とあまり連絡が取れないのは営業で忙しいからだな、などと状況を理解し合えます。
 またスタッフには日報をつけてもらっていて、毎朝のミーティングでは今受けている仕事を全部オープンにします。日報を元に大体の工数を確認して、余裕がありそうな人とたくさん仕事を抱えている人の担当割りも見直します。誰か1人が忙しいとその人が疲弊しますから、負担の重い人の仕事を巻き取るのです。みんなが働きやすいと感じてもらえるように配慮していますね。
 また、月単位の予定表には子どもの入学式や家族の大事なイベントなど、差支えのない範囲でプライベートな予定も入れてもらっています。自分が忙しい日には遠慮なく「この日はプライベートで忙しいです」とアピールしてサポートを求めてもらい、他の誰かが忙しいときはそのぶんサポートに回る。私のほかにも子育て中のスタッフが3名いますから、家庭と仕事が両立できるように、皆で助け合える体制を作っています。

――プライベートと仕事のバランスを取りながら働きたいという方には理想的な職場ですね。

村松 そう言っていただけるとうれしいのですが、忙しいとやめてしまいますよね。うちのスタッフがやめないのは、そんなに多忙ではないし、有休もほぼ100%取れるし、テレワークもOKで、好きな時間に働けるからだと思います。

――テレワークはどのように運用していますか。

村松 ずっとテレワークのスタッフもいますし、春休みや夏休みなど学校が休みで子どもが家にいる間だけテレワークというスタッフもいます。子連れ出勤OKとしていた時期もありましたが、それはそれで気を使うのでやめました。子どもを気にかけながら働く姿を見ていたらいたたまれなくなって、出勤しなくてもいいことにしたのです。子どもはいずれ大きくなります。育児には終わりがあるのだから、優秀なスタッフが定着する環境づくりは、うちの事務所に限らず、今後どの企業でも大事になってくると思いますね。
 また、例えば18時に電話で「今すぐ対応してほしい」とおっしゃるようなお客様は、申し訳ないのですがうちの事務所ではお断りしています。難しいご依頼に対応するのは私たちの成長に必要なことだと思っていますが、「物理的に対応できない」というご依頼の場合もあります。それを受けてしまうと、お客様も含めて全員が不幸になるので、申し訳ないですがお断りします。私もスタッフも、プライベートとのバランスを大事にしながら仕事をしたいと考えているので、そこは崩さないようにしていますね。その代わり、仕事はすごく速いですし対応もスピーディーです。そこはお客様にも認めていただいているポイントですし、そうしたスピード対応を叶えるために、RPAなど仕事を楽にするツールは積極的に取り入れています。

――事務所の体制を整えるために、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しているのですね。

村松 はい。RPAは、給与計算などの作業を自動化するために導入しました。一般的に、システムを導入する際はコストが見合っているか検討すると思いますが、私としてはコストを無視してでもツールを使って、スタッフにやらせたくない仕事、社労士業務を学べない作業などは効率化したいと考えています。自動化できるところはどんどん自動化することで、「そんなに働かなくてもいい事務所」にするために全力を尽くしているとも言えるかもしれません(笑)。

経営者には投資思想と事業計画が必要

――高額な研修に参加したり、コスト度外視でシステムを導入したりと、村松さんはかなり大胆に投資しますね。

村松 士業は他の事業ほど初期投資がかからない職業ですが、実務を人に任せて経営をするのであれば、「お金が用意できてから」と思う前に、投資すべきところに投資すべきだと思います。これはいろいろな経営者の方にお会いして思ったことですね。経営には投資思想が必要だと思います。私は同じ資格を持っている人で自分より劣っている人を見たことがありません(笑)。皆さん本当に優秀ですから、私は安心して実務を任せて、私自身は実務そのものとは違う部分でがんばろうとやってきました。

――違う部分とは、例えばどのようなものでしょうか。

村松 営業活動やしくみ作りといった部分です。当初は税理士の方の紹介が多かったですが、今は行政書士と司法書士の先生からの紹介も増えました。その他お客様からの紹介もあるので、仕事の9割は紹介で入って来る流れができましたね。また、開業する際には中期5年・長期10年の経営計画を立てました。士業の方々は、あまり経営計画を立てず、売上に関しても営業に関しても、1年間で何をするか特に決めずに実務をなさっている方が多い気がします。でも、計画は重要です。売上も月単位で見るか年単位で見るかで違いますし、特に小規模事務所は売上高でなく所得で見なければ本当に採算がとれているかわかりません。
 経営計画をしっかり立てれば、あとは計画通りに実行していくだけですし、私は営業活動も計画的に実施しています。社労士は春から夏頃まで業務が忙しくなりますが、実務をしない私には時間があるので、その時期に税理士事務所を中心に営業開拓をします。税理士事務所は3月の確定申告から5月の法人決算までが繁忙期ですが、そこから夏までは少し時間に余裕があるので、その間にどれだけ税理士の方々にお会いできるかがポイントですね。

――お話をうかがっていると、村松さんは「士業」というより「経営者」ですね。

村松 そうですね。所長先生が得意分野などでご自分のブランディングをして、その魅力で顧客を集めるという士業事務所は多いですが、それだとその先生がいないと業績が伸びないことになってしまいます。ですから私は、私自身ではなく、事務所全体のブランディングを心掛けてきました。「事務所にお客様がつくようにしよう」というのは最初から思っていたことです。実際、私が最初に1度お会いして顧問契約したあとは、基本的にすべてスタッフが対応しています。

――スタッフの皆さんも優秀な方々なのですね。

村松 優秀なスタッフを採用して、ずっと一緒に働いてもらうことが大事だと思っています。ちょっとずるいかなとも思うのですが、がんばったらそのぶん報われるしくみも用意しています。給与計算の検定試験など社労士実務に役立つ試験があるのですが、そういった試験を受けたら合否にかかわらず受験しただけで2万円、合格したらさらに報奨金も出すことにしています。教材費や受験料も事務所が負担します。しくみを用意することで高スキルの意欲的なスタッフが育つのですから、とてもありがたいことです。もちろん、自分の時間を使って勉強して合格したスタッフ自身のスキルアップややりがいにもつながりますから、みんなが幸せになるしくみだと思って取り入れていますね。

――確かに、お互いにとってよい影響がありますね。今後の展望についてはどう考えていますか。

村松 これまでは子育てや家庭をメインにして仕事をしてきましたが、子どもが高校生になったので少し働く時間が伸ばせるかなと思い、ギアアップしようと考えています。事務所は今スタッフ4名の体制ですが、まだ「組織」というより4人で1つの「チーム」という形にしかなれていません。そこは次の段階を考えています。今は私が営業を担当していますが、それも徐々に手放して、ロールプレイングのような練習も行いながらスタッフに任せられる形にしていきたいですね。
 また、開業時に立てた経営計画では、10年間で売上5千万円を超える事務所をめざしました。現在6年目で3千万円ちょっとですが、あと4年で5千万円まで増やしていこうと思っています。「5千万円の壁」というのは消費税の簡易課税がかかるか否かの壁で、社労士事務所はこの壁を抜け出ることが1つのポイントになります。事務所によっては開業から数年で一気に5千万円を達成するところもありますが、私たちはスタッフが無理せず働き続けられる事務所でいたいので、10年計画にしています。最終的には1億円の壁にもチャレンジしたいですね。
 「働き方」への注目度は年々高まっていますし、社労士の業務範囲は法改正も頻繁に行われます。社労士はこれからもニーズが高い士業のひとつだと思いますので、そこをしっかりサポートできる事務所でありたいと思っています。

キャリアプランは早めに立てるほうがいい

――キャリアに悩んでいる方、資格取得を考えている方へのメッセージをお願いします。

村松 今は「定年までは会社に勤めて、退職後はゆったり老後生活を送れる」という時代ではありません。定年も延びるかもしれず、「いつまで働かなきゃいけないの?」という時代ですから、自分のキャリアプランを立てるのは早ければ早いほどいいと思います。資格を取るのもひとつの対応策だと思います。私は自分の適性をあまり考えずに社労士資格を取りましたが、それでも当時の自分の選択を誉めてあげたいくらい、今の自分に役立っています。
 「何か資格を取りたいけど、何から始めたらいいかよくわからない」という方に強くおすすめするのは簿記検定です。私自身も簿記検定2級を持っているので、税理士事務所への就職もしやすかったですし、労務関係には詳しくても会計が弱くて困っている社労士の方は多いので、差別化にも役に立つ資格だと思います。
 みなさんにも、自分の強みを活かせるキャリアを歩んでいただけたらと思っています。応援しています。

[『TACNEWS』 2023年7月号|特集]