特集 中小企業の事業承継を支える新資格「経営承継アドバイザー」

TACの経営承継アドバイザー講座

大山 雅巳氏
Profile

大山 雅巳(おおやま まさみ)氏

合同会社ゆわく 代表社員
ジュピターコンサルティング株式会社 代表取締役
一般社団法人 日本金融人材育成協会
TAC経営承継アドバイザー講座・経営承継編講師

1987年、筑波大学卒業後、三井信託銀行(現:三井住友信託銀行)入行。個人相談業務、事業会社業務を経て、投資銀行部門にてDIPファイナンス、MBOファイナンス、M&A等の事業再生・事業再編・事業承継支援に従事。2007年、同行退社。2008年、ジュピターコンサルティング株式会社設立、代表取締役に就任。同年、独立行政法人中小企業基盤整備機構事業承継コーディネーター就任。2016年、日本証券アナリスト協会PB資格試験委員就任。2018年、合同会社ゆわく設立、代表社員に就任。2019年、千葉商科大学大学院客員教授就任。

 一般社団法人 日本金融人材育成協会は、金融面から社会的課題を解決するために、実践力を持った人材を育成し、その人材に場を提供することを目的に、2017年9月、TACが全額拠出して設立した組織だ。2017年に「企業経営アドバイザー」、2019年に「相続検定」「年金検定」、そして2021年に「経営承継アドバイザー」認定資格を創設した。この「経営承継アドバイザー」とはどのような資格なのか。誕生の背景から活躍分野、士業との関連などについて、経営承継アドバイザー講座・経営承継編講師の大山雅己氏にうかがった。

中小企業経営者の半数は承継期

──今回誕生した「経営承継アドバイザー」とは、どのような資格ですか。

大山 「経営承継アドバイザー」は、「小規模・中小企業の事業承継をどう支えるか」という目線に立って、技術やテクニックではなく、経営支援そのものを通じて、経営者に伴走して支援できる人材を育成することを目的として創設された資格です。
 以前から言われ続けているように、日本国内では多くの小規模・中小企業で経営者の高齢化が進み、事業承継への早期取り組みが喫緊の課題になっています。さらに2020年からのコロナ禍による経済停滞により、事業の持続可能性に本気で向き合う必要性が急激に高まっています。
 一方で、事業承継に対する支援については、ほとんどが「専門領域での支援」、つまり税理士や弁護士といった専門家による税務面・法務面の支援だという認識にとどまっています。言い換えると、事業そのものの承継・持続性に焦点を当てた支援についての議論は、まだまだ少ないのが現状です。今回誕生した「経営承継アドバイザー」は、この「事業そのもの」の承継に対してサポートを行う人材の育成・輩出をめざしています。

──変化が激しく先の見えない今だからこそ、手続き的な事業承継のサポートだけではない、事業そのものの承継をサポートする人材が求められるのですね。

大山 その通りです。日本の経済は、全企業の99.7%を占める小規模・中小企業が支えています。にもかかわらず、ここ数年、毎年約4万社の小規模・中小企業が休業あるいは廃業、解散に追い込まれています。また、経営承継に関する相談に応じる機関が2020年度に受けた相談件数も、過去最高だったそうです。
 この背景には、多くの経営者が跡継ぎ問題を抱えているという事実があります。実際、小規模・中小企業経営者の2人に1人が60代後半で、60歳以上の経営者の半分には後継者がいません。さらに、後継者となる人はいたとしても、引き継ぐための具体的な準備は何も進められていないという企業も同数程度と見込まれます。

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──経営者の半数が60歳以上のいわゆる承継期にあるにもかかわらず、後継者がいない、後継者はいても準備ができていない方が大半というのは、あやうい状況に思えます。

大山 そうですね。特に親族内承継、それも自分の子どもに継がせようと思っている場合は「小さい頃から自分の背中を見せているのだから、会社のことはわかってくれているはず」という思いを持っている経営者が非常に多い。ですが、親子なので普段から対話をしているようでいて、肝心の“承継そのもの”について踏み込んだ話はできていないケースが多々あるのです。従業員に承継させる場合もこれと似た傾向が強いですね。

──後継者がいるからと安心している経営者も、実際は承継についての準備は何も進んでいないという場合があるのですね。

大山 その通りです。経営承継で見落とされやすい問題は他にもあります。例えば製造業の場合の材料の仕入先や材料の加工を依頼する先といった、取引先企業のことです。
 創業当初は経営者の方もあれこれ悩みながら取引先企業を選ばれます。ところが取引を軌道に乗せて、一定の年数が経って、次の代に引き継ぐ頃には、仕入れさせてくれて当たり前、加工してくれて当たり前になっています。本当はそうなるまでにはお金を介した取引だけではなく、時間をかけて少しずつ築いた人間関係や信頼関係があるわけですが、後継者に承継した途端、そうした信頼関係がリセットされてクオリティが落ちたり取引が打ち切られたりすることがあります。そうしたケースも珍しくないということをしっかり認識しておかないと、承継後の事業の安定性と後継者の経営力発揮のハードルになってしまいます。またこうした取引関係のある先にも同様に、事業承継・技術承継等が生じていることを念頭に置いて考えることも必要です。

事業承継全体を俯瞰する「経営承継アドバイザー」

──小規模・中小企業の経営承継には多くの課題があるということですね。

大山 そうですね。さらに、現状、多くの支援機関や金融機関は、小規模企業の支援までは十分には手が回っていないという問題もあります。
 大手企業・中堅企業が自社だけで製品・サービスを仕上げているなら、これはそこまで大きな問題とは言えないかもしれません。けれどもどんな大企業も、小規模・中小企業が作る部品がなければ、ものを作り上げることはできません。小規模・中小企業の承継ができないことの弊害は、実はその企業だけの問題ではなく、取引先やクライアントにも大きな影響を与えているのです。

──小規模・中小企業から大企業までが関わっていく製品・サービスの生産から消費に至るまでの一連の流れの中で、課題があるのに支援対象からこぼれてしまっている小規模・中小企業を経営承継アドバイザーが支援して、バリューチェーン(ここでは「企業を中心とした地域における価値連鎖」の意)をつないでいこうということですね。

大山 その通りです。そもそも、税務や法務の課題を解決することが事業承継支援であると長らく言われてきましたが、大切なのは、事業そのものをスムーズに次世代へ引き継ぎ、その後も安定して継続させることであるはずです。
 今回誕生した経営承継アドバイザーは、税務や法務など専門特化した特定領域の支援ではなく、事業者が抱えている事業面の継続に必要なすべてを見る、全体を俯瞰して支援をするのが大きな特徴です。小規模・中小企業と接する機会がある方はぜひ経営承継アドバイザーを取得して、事業そのものの承継と持続性向上に向けて積極的に支援していただきたいと考えています。

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経営承継に必要なスキルが総合的に身につく

──経営承継の流れはどのようになっていますか。

大山 経営承継は、引き継ぐ相手によって、「親族内承継」「役員・従業員承継」「M&Aなど社外への承継」の3種類に分けられます。近年は親族が承継しないことが多くなっており、役員や従業員が承継するケースや、M&Aなどによって社外へ承継するケースが増えています。
 そして、それぞれの承継パターンの特徴を踏まえて、人(経営)の承継、資産の承継、知的資産の承継という3つの観点から経営課題を見える化し、経営改善などによって企業価値を高める取り組みを進めつつ、事業承継計画を作成し、承継を実行して、承継後の事業の成長をめざします。
 経営承継アドバイザー資格の取得を通じて、こうした経営の承継を支援するにあたって必要なスキルが総合的に身につくようになります。

──これまでの手続き的な事業承継支援に比べ、経営承継アドバイザーの支援はより経営に近い立場でサポートするということですね。

大山 そうですね。例えば、廃業することが決まった企業をサポートする場合にも違いがあります。弁護士などであれば、法務の専門業務として滞りなく廃業手続きを進めていくという支援をすることになります。けれども経営承継アドバイザーは、廃業にあたって「事業のどの部分を残せるのか」という目線、あるいは「一企業の廃業」という「点」としてではなく、その企業から供給を受けていた消費者やバリューチェーンも含めた「面」として俯瞰的な目線で次世代への経営承継を捉え、全体最適をめざした支援をしていきます。

持続的成長をサポートしていく役割

──ハード面ではなくソフト面からのサポートというイメージの経営承継アドバイザーですが、講座ではどのようなことを学びますか。

大山 知識を与えるだけの講義は行いません。経営面や事業面の承継には、いわゆる事業承継期前の「プレ承継期」、まさにオンタイムの「承継期」、承継期が終わったあとの「ポスト承継期」という流れがあります。それぞれの時期において常に経営改善の視点で承継をとらえ、円滑に承継を実現させていくために、事業者あるいは後継者に知識を提供するのではなく、希望や考えを引き出し、どうすればそれを実現できるのかという視点で支援を行うことがポイントになりますから、そこを踏まえたカリキュラムになっています。

──経営承継アドバイザーの役割は「知識の提供」がメインではないのですね。

大山 その通りです。カリキュラムは「経営承継編」と「制度理解編」の2つに分かれていて、前者は事業面の承継について学ぶメインプログラムで、私が担当しています。後者は、専門家と事業者をつなぐ“通訳”の役割を果たすために必要となる、相続、会社法、株関係などの最低限必要な知識を身につけるものです。
 わかりやすく言えば、経営者から「経営者・当該会社自身が何をしたいのか」という課題を引き出し、自走できるようにコーチングしていくことがメインプログラムの「経営承継編」の目標です。そしてそこに最低限の知識をミックスしていくのが「制度理解編」ですね。
 そのために「経営承継編」では「4つのテーマ」と「15の対話の視点」を持って、これまでの事業面の良いところを活かしながら、あるいは環境変化へ柔軟に対応しながら、経営をサポートしていく手法を学びます。つまりプレ承継期、承継期、ポスト承継期のほぼすべての期間で経営を継続させ、持続的成長をサポートしていく役割を果たせるよう、留意すべきテーマやコミュニケーションなどについて学習します。

【経営承継アドバイザー講座のカリキュラム】

(1)経営承継編
①事業承継概論
 事業承継の現状と課題
 ・事業の持続性を支援する事業承継人材
 ・事業承継の課題
 ・中小企業の事業承継をめぐる現状と問題点
 ・つながりあう地域社会や産業に与える影響
 ・事業承継2.0
②事業承継の5つのステップ
 プレ承継期
  事業承継の5つのステップ
  「対話」を通じた支援の取り組み
 承継期
  支援機関等の役割と機能
  「対話」を通じた支援の実践
 ポスト承継期
  事業承継実行後に必要な支援
③承継各論と関連知識
  事業承継のQ&Aのインデックス
④支援者としての心構え

(2)制度理解編
①事業承継総論
 中小企業の事業承継を取り巻く環境、事業承継の類型、事業承継対策の概要(共通・個別)など
②親族内承継と関連法規
 経営権の承継と民法、遺留分と遺留分への対策、経営権の承継と会社法(議決権数増加、総議決権数の減少と権利強化)など
③親族内承継と税務
 税務の基礎知識、贈与税・相続税対策、自社株式の評価と対策、納税対策など
④企業内承継と第三者承継
 企業内承継、第三者承継(M&A)の流れ(事前準備~事業評価、譲受企業の選定~クロージング)、M&Aの手法と特徴など
⑤第三者承継
 企業価値と企業価値評価(ネットアセット・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカムアプローチ)・デューデリジェンスなど

──「知識を学ぶ」というよりも、「コーチング技術を習得する」というイメージに近いでしょうか。

大山 そうですね。また、事業承継にしてもM&Aにしても、事業を譲り渡す側と譲り受ける側の二者間の目線が食い違わないようにすることも重要です。ひと言で「事業を継続させることをめざす」といっても、過去から現在までを見てきた現経営者と、現在から将来を見ようとしている後継者とでは、見ている内容と情報、条件が違います。例えば、現経営者が現状とまったく同じ形で引き継いでほしいと考えていても、後継者は時代に合わせて変えなければいけないと思っていることが多々あります。事業を継続するための前提が違っているわけですから、前提が合わないまま承継させようとしても、うまくいかないわけです。

──現経営者と後継者の意識を揃えるためのファシリテーションが重要なのですね。

大山 これを合わせていかないことには、そのまま継ぐにも、形を変えるにしても、M&Aの場合でも、違う文化をひとつにしていく上で無理が生じてしまいます。
 例えば「より良いパフォーマンスを発揮していこう。働いて楽しい場を作ろう」という目標があっても、言葉の定義も含めてその基準が違ってしまうとマッチしないのです。ものの見方が違うという非常に根本的な差がネックになって、現経営者と後継者とのコミュニケーションがうまくいかず、ガバナンスが維持できない、良いパフォーマンスが発揮できないといったことになるのです。
 そこに経営承継アドバイザーが介在することで、経営の方向性を明確にし、整理することができます。これは、どちらかというと顧問的なスタイルに近いかもしれませんね。何か具体的な手続きや実務をしてくれる人ではないけれど、会って話していると経営者の頭に様々なヒントが生まれ、考えていることが言語化できる。それを図表化したり整理したりすることで、経営の方向性が明確になっていく。そんな役目ですね。大企業の場合は社内にそうした機能があることが多いのですが、小規模・中小企業の場合はなかなかそうはいきませんので、ここに経営承継アドバイザーの存在意義があると思います。

事業者と専門家をつなぐハブ機能

──物理的な事業承継は一時的なことでも、本当の意味で経営承継を成功させるとなると、時間がかかりそうですね。

大山 一般的に、後継者の育成には5~10年かかると言われています。経営者の平均引退年齢が70歳であることを考えると、遅くとも60歳の頃には承継の準備を始める必要がありますね。けれど実際に60歳の時点で承継の準備を始めている経営者は半数未満です。
 なぜ準備を始めないのか。それは「何から始めればいいかわからない」「誰に相談すればいいのかわからない」と感じている経営者が多いからです。経営承継アドバイザー講座では、そんな経営者に寄り添い、相談に乗れる人材を養成することをめざしています。

──講座の中で重点を置いているのはどのようなことですか。

大山 「経営課題を把握し、時代の流れを見据えて、承継計画を立てる」プロセスです。ただ事業を承継するだけでなく、さらに成長させていくためには何をすればいいのか。講座の中では、そこを考えて実行していく力を磨きます。そして資産の承継、税負担対策など守りの部分も押さえ、経営承継に欠かせないポイントを習得していきます。
 どのような目的意識で経営者に話を聴くのか、ヒアリングの結果をどう経営承継の成功のために使っていくのかという軸をしっかり持つことができますから、例えば地域金融機関や商工団体の担当者なら、お客様である経営者の方々が抱える課題のすべてを対話によって引き出して、テーブルに並べることができるようになるでしょう。
 そこから法務面の相談であれば弁護士に、税務面の相談であれば税理士に橋渡しをしていくのが経営承継アドバイザーの役割です。さらに事業面では、地域商工団体との連携による支援のハブ的人材となることも大切です。
 こうした人材がプレ承継期のところでしっかりと関わっていければ、承継するタイミングで実際の課題に気づけるようになります。相続や事業承継の課題はある程度時間をかけて準備しなければならないものがあります。経営承継アドバイザーが早い段階で関わることで、早めに専門家に繋いだり、専門家と一緒に対応を進めたりすることができますので、承継はスムーズに進みます。

──経営承継アドバイザーがハブとなり、専門領域はそれぞれの専門家に繋ぐということですね。

大山 その通りです。ハブという立場には、専門領域や資格がなくても動ける、現場のお客様に一番近い支援者としてサポート業務の初期の段階から携わることができるという強みがあります。
 さらに、自らが核になりながらサポートのネットワークを広げていくこともできれば、他の専門的な知識を取得することで自らが実務的な支援を行うこともできるので、ご自身のキャリアビジョンに合わせて活躍できる自由度があると言えますね。

経営者と接点の多い方に学んでほしい

──資格の認定要件はどのような形式になっていますか。

大山 認定講座の中に、学習用の動画コンテンツと学んだことを確認する修了試験が含まれていて、講座を修了することで資格を付与されるしくみになっています。修了試験は択一式試験ですが、落とすための試験ではなく、学んだことを理解できているかを確認するものです。

──どのような方に経営承継アドバイザー資格を取得してほしいですか。

大山 一番は、小規模・中小企業経営者との接点が多い方です。その意味では地域金融機関と商工団体の担当者が最も接点を持っていて、資格取得を通じて学んだことをすぐにでも発揮する場がありますので、ぜひ挑戦していただきたいですね。もしくは、中小企業診断士や税理士、弁護士などをめざしている方の場合、経営承継アドバイザーのハブ機能の意義を意識することで、合格後に開業する際など、地域金融機関や商工団体との協業でも動きやすくなるでしょう。

──企業の後継者候補の方や、会社に勤務している人などはいかがですか。

大山 どのような企業でも、業務プロセスの中でつながっている取引先や関係当事者が必ずいるはずです。もしその相手企業が廃業になってしまうと、製品・サービスの提供が止まってしまうのは明白です。そうならないためには、自社だけでなく取引先や関係当事者の経営承継についても併せて考えていなくてはいけません。築き上げてきたバリューチェーンを強く太く途切れさせないために、経営承継アドバイザーのスキルが役立ちます。繰り返しになりますが、今、小規模・中小企業の2社に1社は経営承継の課題を抱えています。自社の取引先まで含めて考えれば、経営承継は決して他人ごとではなく、自社の事業に関わる問題なのです。
 また最近話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、ITという道具を使いながら会社のしくみをより良い形に変化させていくことですが、小規模・中小企業にとって、事業承継はDXの大きなきっかけとなります。ですから例えばIT戦略を担うITストラテジストやIT企業担当者が経営承継アドバイザーの講座で学べば、お客様と一緒に事業承継にからめてDXを語れるので、非常に大きな強みになるでしょう。

士業にも活かせる経営承継アドバイザー

──有資格者についてはいかがでしょうか。

大山 有資格者、特に税理士の方にはぜひ学んでいただきたいのですが、税理士事務所の職員の方にも学んでほしいですね。学ぶことで、日々の巡回監査でひと言声をかける際にお客様から信頼を得たり、情報を引き出したりすることができるようになるので、経営承継について早い段階から対応することもでき、「毎月来てもらわないと困る」と言われるような頼れる存在になれると思います。

──社会保険労務士はいかがでしょうか。

大山 人事・労務面を見ている社会保険労務士には、労務デューデリジェンスの需要がかなり高まっています。その際、経営承継アドバイザーであれば俯瞰的な支援ができるでしょう。労務だけが単独であるわけではなく、必ず業務全体の流れとともに人事・労務課題があるからです。例えば労務コンサルティングの際も、従業員により興味を持って仕事に臨んでもらうためのアプローチに、経営承継アドバイザーのスキルが役立つと考えています。

──弁護士も事業承継を打ち出す方が増えています。

大山 そうですね。弁護士は通常、顧問弁護士として入るケースが多く、「何か問題があったときしか声がかからない」という場合が多いです。例えば事業承継手続きが発生しても、法務的な部分での必要がないと、弁護士は登場しないで終わってしまうことがあります。大手・中堅企業であれば株式分割など弁護士が必要となる場面はあるでしょうが、小規模・中小企業の場合はそうではありません。
 しかし経営承継の視点があれば、法務的な見地から、より営業面の強化を踏まえた話ができます。それまでは「困ったときだけ相談する相手」というやや遠い存在だった弁護士も、会社全体を俯瞰的に見てくれる必要な存在として身近に感じてもらえるでしょう。また、監査役などを務めることが多いですから、事業面全体を俯瞰し、会社全体のガバナンスがうまくいかない際の課題の摘出や解決をする際に、経営承継という背景がわかることは大きなメリットです。

──最後に、資格取得をめざして勉強している方に向けてメッセージをお願いします。

大山 私は、経営承継アドバイザーとなる人には「知識で選ばれる専門家」ではなく、「お客様の事業を理解できる専門家」をめざしていただきたいと考えています。IT化・ AI化が進む今日、経営者の方との接点が減り、オンラインで様々な手続きが完了してしまう時代に、「なくてはならない存在」となるための1つの切り口に経営承継アドバイザーがあると思っています。
 講義では「自らが学んだことを通じて動いてみる」というアウトプット感を持っていただくことをめざしています。そして日本金融人材育成協会は「地域の人を元気に、自走できる力をつけてあげて、日本の未来を明るくしていこう」というコンセプトで動いています。資格を取得して、実際にお客様と向き合い、話し合いながら未来を引き出すことにチャレンジしたい。そんな意欲を持っている方は、ぜひ経営承継アドバイザー講座で、時代が求める経営承継を支援し、明日に向けて発展するスキルを身につけていただきたいと思います。

[『TACNEWS』 2022年1月号|特集]