特集 ベンチャー企業で活躍する公認会計士

石原 圭氏
Profile

石原 圭氏

株式会社div
取締役CFO 公認会計士

1987年、神奈川県生まれ、幼少期を石川県の自然環境で、中学高校を神奈川県で過ごす。大学3年末から公認会計士受験をスタート。
大学を卒業した2011年8月に公認会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツに入社し、上場企業の法定監査とベンチャー企業のIPO支援業務を経験。2016年、トーマツを退社。同年11月、株式会社div入社。管理部門をゼロから立ち上げ、全社の経営戦略を担う。
2018年1月、取締役CFOに就任、現在に至る。

 公認会計士試験に合格すると、多くの合格者は監査法人で上場企業の法定監査を経験し、その後、広い選択肢の中から進むべき道を選んでいく。公認会計士の石原圭氏は、大手監査法人勤務の後、社員15名のベンチャー企業に飛び込む道を選んだ。入社後、管理部門をゼロから立ち上げ、全社的経営戦略を立案。たった3年半で総勢500名の組織に成長させる立て役者のひとりとなった。ベンチャー企業で働く魅力とはどのようなものか。石原氏に公認会計士をめざした経緯から転職の決意、ベンチャー企業での公認会計士の可能性についてうかがった。

企業経営への興味から公認会計士をめざす

── 現在ベンチャー企業で働く石原さんは、幼少期から学生時代までどのように過ごされましたか。

石原 生まれたのは神奈川県でしたが、小学校の時に両親の都合で石川県に引っ越し、自然の中で育ちました。住んでいた村は絵に描いたような田舎で、小学校の全校生徒は13人、私の学年は私1人だけで、村には信号が1個しかなく、家は薪風呂でトイレは家の外にありました。中学生になって神奈川県に戻るとサッカー部に入りましたが、もともと運動神経がよくなかったことに加えて、全校生徒が13人しかいない田舎でサッカーや野球の試合ができずに育ったこともあってか、球技は全般的に苦手でしたね。
 ただ、高校生になるとブレイクダンスにのめり込みました。文化祭などの行事で人前に立って踊れることがカッコいいという感覚があったのです。中学時代、スポーツの才能がなくてまったく活躍できなかったコンプレックスの裏返しですね。「何をするにも活躍したいし、主役でありたい」という思いが、その頃に芽生えたのだと思います。
 高校時代には、ホリエモンさん(堀江貴文氏)らが登場して起業ブームが起こりました。「カッコいいなぁ」と思い、企業経営や、起業して会社を作るということに興味を持ち始めたのはその頃です。大学受験もその軸で臨みました。といっても公認会計士(以下、会計士)になろうと思ったのは大学3年の就職活動が始まる頃で、それまではほぼダンスに明け暮れる毎日でした。

── どのような経緯で会計士をめざしたのですか。

石原 私の父は陶芸家、母は画家と、芸術系の両親のもとで育ったので、中学時代はデザイナーになりたいと考えていました。反面、芸術の世界の厳しさも目の当たりにしていたので、高校に入ると自然に芸術系の道は考えなくなりました。そこに起業ブームが起きて経営に関わる仕事がしたいという思いが生まれ、以降、その思いは一貫して持っていましたね。
 そして2009年、大学3年当時はちょうどリーマン・ショック後の就職難の時代でした。大学の前半はダンスに明け暮れていたので、就職活動がうまくいくイメージはありません。そこで、将来的に経営に関わる仕事がしたいと思っている以上、何か経営につながるスキルを身につけたほうがいいのではないかと考えました。そして資格を取るのであれば、そのジャンルにおける最難関といわれる資格を取りたいと思い、弁護士(司法試験)と会計士の二択で考え、いろいろ調べた結果、経営に進むならよりビジネス色が強い会計士をめざすべきと考え、受験を決心しました。

── 会計士試験にはどのように取り組みましたか。

石原 2009年2月から勉強を始め、2010年5月の短答式試験が最初の受験でした。そこで不合格となって、同年12月の2回目の短答式試験も不合格。翌2011年5月の短答式試験に合格し、続いて8月に行われる論文式試験も合格しました。大学3年の終わりから受験勉強を始めて2年、いわゆる卒一での合格です。裕福な家庭ではなかったので大学にも奨学金で通っていた私は、大学の仲間たちの就職が決まっていく中、卒業後も受験を続けていたので「これで失敗したら仕事はないぞ」と背水の陣で臨みました。おかげで、雑念にとらわれず、とにかく合格することだけを考え、受験に集中することができました。

大手監査法人から社員15名のベンチャー企業へ

──合格後の進路について教えてください。

石原 もともと起業に興味があったのでベンチャー企業に関わる仕事がしたいと考えて、ベンチャー企業を対象にしたIPO支援業務に特化した部署がある有限責任監査法人トーマツに入りました。入社後は希望通りの部署に配属され、上場企業を中心とした法定監査と、ベンチャー企業の会計監査とIPO支援を担当し、上場する前の規模の小さなベンチャー企業から売上数千億円規模の一部上場企業までバランスよく担当でき、いろいろチャレンジングな機会も与えてもらいました。

── 起業に興味があったということで、ご自身で起業しようという思いはありませんでしたか。

石原 トーマツに入ったときから、監査よりも企業経営をしたいと思っていたので、3年をひとつの区切りにしようと考えていました。プログラミングスキルを身につけて自分で何か事業をやるか、ベンチャー企業に行くことをイメージしていたのです。まずはプログラミングを学ぼうと、本を読んだり無料のサービスを利用したりしてみたのですが、独学では思うように学習が進まず挫折しかけてしまいました。そして2015年8月からTECH::CAMP(テックキャンプ、現テックキャンププログラミング教養)というプログラミング講座に通ったことが、現在私が勤めている株式会社divとの運命的な出会いでした。

── 起業に向けた準備の中で、divと出会ったのですね。

石原 明確に起業しようと思っていたわけではないですが、当時はプログラミングを習い、ブログを開設して収益を得るなど、色々と模索していました。そしてTECH::CAMPを受講した際にdivの採用担当者と話す機会があって、「今、管理部門のメンバーを募集しているがやってみないか」と誘われたのです。TECH::CAMPのサービスはとてもよかったし、何より会社として掲げている理念にものすごく共感できたので、「起業することにこだわらず、この会社に入ってもいいんじゃないか」と閃いたのです。
 その頃は監査法人の繁忙期前だったこともあり、退職までの半年間、週末はdivに行って経理を手伝いながら社内の様子を見ていました。その中で、一緒に働くメンバーも魅力的で、ぜひこの会社で一緒に働きたいと感じ、2016年11月、正式に入社しました。

── 入社当時はどのような環境でしたか。

石原 正社員15名、アルバイト100名と、まだまだ社員が少ない状態でした。そこから3年強で社員500名、売上は10倍になっているので、飛躍的に大きくなりました。

── 数千名規模の監査法人から、たった15名のベンチャー企業に飛び込むのは勇気がいりませんでしたか。

石原 周囲を見ても、その規模のベンチャー企業に飛び込む会計士は少なかったですね。実際、ベンチャー企業に会計士が必要となるフェーズというのはもう少しあとの、IPOが具体的に見えてきて、やることも固まってきた段階です。自分自身、意図してあのフェーズに飛び込もうと思っていたわけではありません。たまたまサービスを自分で使い、社内の人々に接してみて、そこに運命的なものを感じ、「もう飛び込んでしまうしかない」と思ったのです。リスクは考えませんでしたね。

管理部門をゼロから立ち上げ

──入社後は、どのような業務を行ってきたのですか。

石原 管理部門は私ひとりで、ゼロからシステムを導入し、メンバーを採用して立ち上げてきました。入社当時、実質の経理は振込業務担当のパート社員だけで、記帳などはすべて顧問税理士に依頼していました。そこでまず経理の内製化を進めるために会計システムを導入し、自社で記帳することから手をつけました。さらに給与計算や勤怠管理システムも導入し、それまでエクセルで管理していたものを、半年間でシステムに載せました。加えて、経理、労務、法務などの人材を採用して管理部門の体制を整えました。
 資金調達については、私が入社してから借入と株式での資金調達を行い、最初の半年間で数億円を調達しました。上場準備に関しては監査法人や証券会社を選ぶ段階からですね。
 こうしてバックオフィス全般の構築、システム化、人材採用を行い管理部門としてひとり立ちさせて、入社して1年2ヵ月で取締役CFOに就任しました。

──資金調達や上場準備に関しては、どのような戦略を立てたのですか。

石原 資金調達は初めての経験なので、最初は手探りで進めました。まずは先輩の知恵を借りましたね。ベンチャー企業では、ビジネスモデルが違っても、フェーズごとに管理部門がやることはある程度共通する部分が多いので、先輩会計士に話を聞きながら、「資金調達は何をやればいいのか」「借入はどう進めればいいのか」「事業計画の立て方はどうするのか」といったことから「金融機関を紹介してほしい」といったことまで、いろいろ意見をもらいながらキャッチアップしていきました。
 何か困ったことがあると、すぐにトーマツの先輩に連絡を取りましたね。先輩に聞けば、その先につながるネットワークが必ず広がっていますし、あらゆるネットワークを使って助けてもらえます。この人脈はトーマツで働いて本当によかったと思うことのひとつですし、今後は自分が後輩を助ける側になりたいと思っています。

入社3年半で急成長

──divの業務内容について教えてください。

石原 もともとTECH::CAMPというプログラミング教育でスタートした会社です。入社当初はプログラミング教育、現在の「テックキャンププログラミング教養」だけでしたが、今日では「テックキャンプエンジニア転職」「テックキャンプ法人研修サービス」が加わり、3つのサービスラインになりました。
 当社は、事業別・サービス単位で責任者がつくのではなく、機能別組織になっている点が特徴です。企画部門、運営部門、管理部門、採用人事部門の4部門が3つのサービスを一気通貫で見ています。例えば、集客や商品サービス設計、コンテンツ内容立案といったクリエイティブな領域は企画部門のマーケティングユニットが、その後実際にお客様に対する教室でのサービス提供は運営部門の事業推進ユニットが、すべてのサービスにおいて担当していきます。
 管理部門は、経営管理ユニットの中に経営企画グループ、労務グループ、総務グループ、法務グループの4グループがあって、この4グループで会社の管理を一括して行っています。
 現在の管理部門のメンバーはほとんどが2018年以降に採用した人で、そこから徐々に安定してきました。経理、労務、総務、法務と、どの部門もその領域においては私よりも能力の高い人を採用し、すべて任せています。私は経営管理ユニットでは直接的な実務を持たず、大枠の方針決定や全社的戦略などに集中するようにしています。

──ということは、経理や資金調達は石原さんの手から離れたのでしょうか。

石原 経理は手が離れたといっていいでしょう。ただ資金調達に関しては、事業計画とセットでどういった資金が必要かが決まってくるので、そこは計画を立て、それに合わせた資金を私が調達しています。事業運営は他の役員が担当していますが、全社の計画を立てるのは私なので、全社的な絵を描き、そのために必要なリソースを集めてくるのが私のメインの仕事ですね。

──現在のdivの課題はどのようなことですか。

石原 状況は刻々と変わりますが、今は人材採用や育成です。先ほどお話ししたように、私が入社した時点で全社で15名だった社員数が、2020年4月現在で500名と、すごいペースで増えています。このような勢いで組織が拡大しているので、採用にはかなり力を入れています。 当社は教育事業なので、まずはいかに教える人の質を担保するかが重要なファクターです。今は全社的にどの部門も人手不足ですが、採用人数が多いのは講師ですね。それに伴って管理部門も必要ですし、将来の投資的に新規事業を作っているマーケティング部門も必要なので、まんべんなくどこの部署も人の補充が必要です。

「人生にサプライズを」

──監査法人とベンチャー企業、それぞれのよさと違いについてお聞かせください。

石原 トーマツは勤務時代からとても好きでしたし、やめてからわかったよさもたくさんあります。トーマツのよいところは、監査の質や、デロイトトーマツの世界規模の情報がきっちりあるところです。またトーマツにはチャンスを与える文化があって、例えば海外赴任を希望すればチャンスを与えてもらえる可能性がありますし、挙手すればだいたいのことはやらせてもらえます。そして何より優秀な人、レベルの高い人がとても多いので、刺激が多い環境でした。やめるときも「外に出るなら活躍してこいよ」と、気持ちよくポジティブに送り出してくれました。
 いまだに当時の上司や同期で情報交換できる人がとても多く、人のネットワークはトーマツの圧倒的な魅力だと思います。

── 監査法人での経験とネットワークが今日も活きているのですね。

石原 はい。一方、ベンチャー企業は何も整っていないからこそのおもしろさがあります。すべてを自分で作っていくことの大変さとおもしろさがあって、刺激という意味では圧倒的にベンチャー企業のほうが楽しいですね。監査をしていたときは、経営に関して思うことがいろいろあったとしても、私はそのビジネスを行う当事者ではありませんので、助言はできても、自分で変えることはできませんでした。でも今は自分で考えて変えることができるし、実行することもできる。だから、単純に楽しいんです。加えて人の増え方にも現れているように、圧倒的なスピード感があります。トーマツには4年半いて、divはまだ3年半しかいないのに、体感している時間はdivに来てからのほうが圧倒的に長く、もう10年ぐらいいるんじゃないかと思うほど、日々の時間が本当に濃いですね。
 また監査は、担当する企業によってビジネスの前提はまったく違うものの、基本的には年間のルーティンです。自分が担当するクライアントを何年も見ていき、企業の成長とともに新しいことが増えていく形ですね。一方divでは、1ヵ月前と後でまったく違うことをやっています。divに入ってからの私は、ゼロから管理部門を作って、上場に向けた体制整備をして、資金調達をやって数十億円を調達しています。トーマツでは経験してこなかったことが今できるようになっているし、人を教育する組織開発部も持っているので教育もできる。それまでまったくやっていなかったことを、ゼロから作っていけるのが本当におもしろい。日々新しいことがあって、変化が多いからこそ、自分が成長できている部分がすごく多いなと感じています。

── 会計士として、監査を経験することなく一般事業会社に入るよりも、監査法人の経験があったほうがいいと思いますか。

石原 それは自分が何をめざすかによると思います。私の場合は、今ベンチャー企業の経営者をしている中で、トーマツでいろいろな会社の監査を経験し、IPOにも関われた経験が大いに活きていますし、監査法人のネットワークも活用させてもらっています。それから、いい意味でのハードワークが経験できたことも、監査法人に入ってよかったことのひとつだと思っています。人の働く意識や仕事への姿勢は、新卒の最初の数年で価値観ができると思います。トーマツでハードに鍛えられた経験が、全部今につながっています。自分のキャリアの選択としては非常によかったと思います。

──石原さんが強く共感したというdivの理念とはどのようなものですか。

石原 当社の理念は「人生にサプライズを」です。教育を通じて人の人生にチャンスを与えて、最終的に誰でも幸せな世界をめざしています。「誰でも幸せな世界」とは、誰でも望んだときに変われる機会を持っていることだと捉えています。それを叶えるために事業をやっている意識が非常に強いので、管理部門、バックオフィスをやっていても、誰かに貢献できているという実感がものすごくあります。
 理念に関しても、監査法人とdivではまったく違います。監査法人のあるべき姿として、資本市場の番人として適切な監査を行う意識は普通にあっても、当時は監査法人という組織の理念やビジョンを実現するために行動しているという意識はありませんでした。一方、divではメンバーみんなが会社の理念とビジョンについて非常に強く意識していて、その実現のために、本気で行動しています。理念とビジョンを共有しているということはとても大きいですね。

自分の「軸」を見つける

──divで今後取り組みたいと思うことはありますか。

石原 今は社会人向けのプログラミング教育を行っていますが、例えば幼児教育のようなまったく別の教育事業もやっていきたいと個人的には思っています。人の人生をよくするためにできることは無限にあるはずで、それを会社として実現していくために私がやれること・やりたいことも山ほどある。そこに携われる限り、私はこの会社にいるでしょう。
 一方で、CFOという立場にはまったく拘っていません。将来的に人に委ねるのもありかなと思っています。どの仕事もそうですが、自分の仕事はなるべく誰かに任せられる状態にしておいて、必要なときに必要な場所に動けるようにしておく必要があります。CFOや管理部門責任者という立場をずっと守り続けるより、会社で自分が一番必要とされることを必要な場所でやることが大切だと思います。

── 高校生の頃に抱かれた「起業に関わりたい」という思いについて、今はどうお考えですか。

石原 自分の中にあった「起業したい」という感情は、突き詰めれば、他人の作った枠組みの中で与えられたものをやるというのではなく、「自分たちで作っている」という感覚、その実感なのだと今は気がつきました。振り返れば幼少期の夢だったデザイナーもそうですし、のめり込んだダンスもそうですが、課題の通りに模写をするとか、決められた振り付けを踊るよりも、自分でゼロから作品を造ったり、振り付けを考えて踊ったりしたい、という思いが一貫してあったように思います。自分がそこに求めていたのは「自分の手で作るという実感」だったのです。
 仕事や会社に置き換えれば、「自分たちでこの会社を作り、世界をよくしたんだ」と感じられることこそが、私のやりたいことだったのです。その実感が得られさえすれば、「自分で会社を立ち上げて社長になる」というプロセスは必ずしも必要ありません。divという会社は、私の入社当時はまだ大きくなかったし、ビジョンを持ってその実現のために一歩を踏み出した段階でした。であれば、この会社に飛び込んで自分の仕事ができれば、結果的に目標を達成できると考えました。それが今もdivにいる理由、ここにいたいと思う理由になっています。

── 「起業したい」という思いの背景には、もっと根本的な思いがあったのですね。

石原 そこにたどりつくまで、徹底的に自己分析をしましたね。「起業したい」という漠然とした思いから、「なぜ起業したいのか」と、自分の感情を分析していったのです。起業とはそもそも何なのかと考えれば、それは「自分で会社や事業を作ること」です。「では何のために会社や事業を作りたいのか」と分析していくと、実際は「社長であること」というファクターはそれほど必要ではなく、ただ「ゼロから何かを成し遂げたい」という思いがあった。中学・高校の頃は体育祭や文化祭でイベントを作っていくのも大好きでしたね。「なぜそんなことがしたいのだろう」とさらに分析していくと、「何かカッコいいことをしたい」と子どもの頃から思っていたこと、「体育祭などで人の前に立つのがカッコいい」という感覚が自分の中にあったことに気がつきました。中学生の頃、スポーツの才能がまったくなくて活躍できなかったというコンプレックスのようなものがあって、何をするにしても「活躍したいし、主役でありたい」という深層心理があったのだとわかったのです。
 こうした思いを抽象化したのが「カッコいい大人になりたい」とか、「カッコいい人生を歩みたい」という自分の「軸」で、その軸が見えたときに、起業家をカッコいいと感じる自分を理解することができました。ですからどんな仕事をするかを考えるときにも、この「軸」に合致してさえいれば、お金がなくても自分がカッコいいと思える仕事であればいい。divへの入社を決めたときも「この会社がやろうとしていることはすごくカッコいい。年収が下がったり組織がまだ不安定だったりというリスクも当然あるけど、こっちを選んだほうが自分はカッコよくなれる」と思ったんです。

資格取得で可能性の幅が大きく広がる

──ベンチャー企業への転職を決意したとき、ご家族の反応はいかがでしたか。

石原 妻は監査法人の同期で、入社時期も退社時期もほぼ同じです。妻がわりと堅実な路線を選ぶので、私は「相手が堅実なら自分はリスクを取っても大丈夫、いいポートフォリオだな」と思っていたのですが、結局、彼女もベンチャー企業に入ったので、思っていたよりもリスクを取るポートフォリオになりました(笑)。
 でも私も妻もお互いに自分の人生を大切にしているところがあって、私が何をやろうと一切反対しないし、逆もそうです。そこは彼女にとても感謝しています。背景には、どちらかが失業したとしても、自分の力でなんとかやっていけるという感覚があるのだと思います。仮に妻が失敗しても自分がフォローできるし、向こうもそう思っているところがあるので、過干渉せずにやっていけるんです。そんな感じなので、私が給料を確認する前にdivへの転職を決めてしまって、あとから「お給料、これくらいだったよ」と伝えたときも、「思ったよりはもらえるじゃん」とライトな反応でした(笑)。
 また、妻のいるベンチャー企業は、妻が転職して1年後に上場しています。あとから私も上場をめざすフェーズに入ったので、「上場したとき何をやったか」「投資家にどんな話をしたか」「上場後の今、何をやってるか」など、妻の経験も参考にしています。これは、お互いが会計士という資格を持ち、尊重し合っているからこそできることですね。会計士同士のカップルはとてもいいと思いますよ(笑)。

── 会計士資格は、石原さんのキャリア構築にどのような影響を与えたのでしょうか。会計士をめざして勉強している方々へのメッセージもお願いします。

石原 ひとつ言えるのは、自分の人生において会計士試験に合格したことはとても大きかったということです。単純に、資格を取った瞬間から可能性の幅が一気に広がりました。中学生の頃、私は普通の公立に通っていました。でも高校受験に向けがんばって成績を上げたことで、そのエリアで比較的偏差値の高い学校に合格でき、「チャンスの階段を一つ登れた」と実感することができました。大学の入学試験に合格したときも、同じように階段を一つ登れた感覚がありましたね。さらに、会計士試験に合格し、その後会計士資格を得たことで選択肢は一気に広がって、30代前半から会社経営に関われ、とてもやりがいのある仕事ができるようになりました。もし、会計士をめざすことなく大学を卒業して普通の就職をしていたら、ありうる選択肢は結構限定的だったと思いますね。
 皆さんも、会計士をめざすのであれば、まずは試験合格に向けて全力でやりきるべきです。そしていざ合格したあとは、選択肢がすごく広がっていますから、自分が何をしたいのか、何を叶えたいのかについて、しっかりと考えることが大事です。自分にとって最も大事な「軸」を見つけるのが早ければ早いほど、それだけチャンスを活かすことができるはずです。がんばってください。

[TACNEWS2020年7月号|特集]