特集 キャリアの選択肢を広げる英語学習のススメ

上田 怜奈氏
Profile

上田 怜奈(うえだ れいな)氏

さくらリンケージインターナショナル社
(Sakura Linkage International Sarl-S)
創業者兼CEO

大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部卒。官公庁、外資系会計事務所で通訳及び国際業務(米国税務)を経験後、独立。国際コミュニケーションの総合コンサルティングファーム「さくらリンケージインターナショナル社(ルクセンブルク法人)」の創業者兼CEO。TACにおいては、TOEIC® L&R TEST対策講座900点コース(通信講座)講師。著書に『ビジネス英語のツボとコツがゼッタイにわかる本』(秀和システム)がある。
保有資格:実用英語技能検定1級 TOEIC®L&R TEST 990点(満点)
USCPA(米国公認会計士/ワシントン州)
E-mail▶︎info@sakuralinkage.com URL▶http://sakuralinkage.com/

 官公庁での通訳業務、そして外資系会計事務所での国際業務(米国税務)にたずさわった経験を活かして、現在は日本と欧州をはじめとする国々の企業の国際コミュニケーションを支援する事業を行っている上田怜奈さん。「大学に入るまで、ネイティブスピーカーと英語で話す機会もなかった」というが、TOEIC®L&R TESTスコア990点、USCPA(米国公認会計士)というスキルを学習によって獲得した。だからこそ今、日本人に適した、効率良く確かな学習法を伝えることができるという。ビジネスの現場における英語スキルの重要性と、確実に英語を身につけるためにすべきことをうかがった。

ビジネス英語は信頼を得るためのツール

──上田さんが代表を務める「さくらリンケージインターナショナル社」について教えてください。

上田 さくらリンケージインターナショナル社(英文名:Sakura Linkage International Sarl-S)では、「国際コミュニケーションの総合コンサルティングファーム」として、企業向けの翻訳とコンサルティング、異文化・語学研修を主な事業としています。また、欧州と日本のビジネス仲介も行っています。翻訳では「法律」「金融」「マーケティング」の3つを専門として扱っていて、法律分野の翻訳では、契約書などを扱っています。金融分野の翻訳では、決算やIR関係の書類などを、そしてマーケティング分野については、企業のウェブサイトやIT関連の翻訳業務を得意としています。企業の方へご説明する際にはわかりやすく、「オンライン翻訳サービスでは翻訳できないものを扱っています」と申し上げています。
 例えば皆さんの中にも、ウェブサイトなどでおかしな日本語を見かけたことのある方がいらっしゃるかと思いますが、企業広告や宣伝の中で怪しい言葉の使い方や表現を見ると、「この会社は大丈夫だろうか」と不審に思ったりしませんか? 言語というのは、相手の信頼を獲得するための手段です。そういった企業の評価や評判に直結する部分の翻訳は非常に大事です。

──法律や金融の翻訳となると、さらにシビアになりそうですね。

上田 契約書や決算資料などの中で不適切な表現をしてしまうと、ビジネスに大きなダメージを与えかねません。文脈的に、解釈が間違ってしまうと危ない翻訳もあるのです。私がビジネスに特化した翻訳の仕事を始めたのも、外資系会計事務所にいた頃に手が足りず、翻訳をアウトソーシングしたときの経験が元になっています。当時、発注先から戻って来た翻訳文を訂正する必要があることは少なくありませんでした。そのとき「専門分野の翻訳となると、一般的な英語翻訳ができるだけでは難しいのだ」と痛感したのです。

──一般的な英語翻訳と、ビジネスで使われる専門分野の翻訳はかなり違うのでしょうか。

上田 そうですね。例えば、「アンクオリファイド(Unqualified)」という単語があります。この単語は、一般的には「資格がない」というような訳になると思うのですが、監査用語として「アンクオリファイドオピニオン(Unqualified Opinion)」と言った場合には「無限定適性意見」という意味になります。プロの翻訳者として活躍されている方にお願いしても、会計の専門知識がない方の場合は「資格がない意見」「適格ではない意見」のように訳されてくるケースもありましたね。

──正反対の意味になってしまいますね。

上田 ええ。その翻訳を目にしたときは「これでは全然意味が違う!」と驚いたのですが、もし私にUSCPAの知識がなかったら、私も同じようにそういう翻訳をしていたかもしれません。専門分野の英文というのは、その分野の知識がないと訳せない部分があります。ですから、当社で行う翻訳に関しては、法律の資格を持つ方や大手IT企業でエンジニアをしていた方など、ビジネス上の専門分野や言語別の翻訳者を30名程度そろえて、案件によって振り分けて依頼しています。

──専門分野を踏まえた語学力が大切なのですね。語学研修に関しては、どのような企業を対象にしているのでしょうか。

上田 語学研修では、本当にあらゆる企業へおうかがいしていて、多い年ですと年間200件ほどの研修を実施してきました。業種としては、金融機関のほか、一般企業のファイナンス部門や財務経理部門が多いですね。金融・会計系の研修は、実際に企業の決算書類を見ながら会計専門用語を学ぶような内容になっています。その他ご要望が多いのはスピーキングセミナーで、その中でも会社役員の方向けの英語研修が多いですね。

──どのような内容の研修でしょうか。

上田 お客様によっても様々ですが、会社役員の方であれば、「スモールトークを会得したい」というご要望が圧倒的に多いので、これに対応する内容にしています。スモールトークというのは「ちょっとした雑談」といった意味です。例えば企業の社長などは、パーティーに出席したり各国機関のCEOの方とお会いしたりされる機会も多いですが、そうした場面で通訳者を介さずに最初の挨拶やディナーの歓談をしたいというご要望も少なくありません。そうした場合は、握手の仕方から会話の選び方まで、お話しさせていただいています。

──会話だけでなくビジネスマナー的なことも教えるのでしょうか。

上田 ビジネスマナーに関しては別に専門家がいますから、私は言語コミュニケーションに関係する限りにおいて、マナー的なお話もさせていただいております。
 例えば日本のように、「初対面の相手に会ったら、まずは最初にお辞儀をしながら名刺交換」というのは、海外では一般的ではありません。その代わり「握手をする」ということが非常に重要なマナーになってきます。多くの方が勘違いなさっていますが、初対面の相手に、顔を合わせた瞬間“Nice to meet you.”と言うのは、実は英語圏では少し変なのです。どうしてかというと、「meet(会う)」という行為は、顔を見て、相手の名前を知って、初めて「会った」ことになるわけですから。名乗りもせずに「会えてうれしい」と言うのは、言葉だけ上滑りに使ってしまうことになります。一般的な日常会話ならともかく、重要なビジネスの場で信頼関係を構築するコミュニケーションとしては、十分な形ではないことになります。

──どのような挨拶が理想的なのでしょうか。

上田 まずは、アイコンタクトと笑顔ですね。これらはノンバーバル(非言語)コミュニケーションですが、非常に大事です。相手を受容し、歓迎しているという表現ですから、まずしっかり相手を見て、笑顔で“Hi.”等と言い、自分の名前を名乗って握手します。そこで初めて“Nice to meet you.”という流れが理想的ですね。
 以前官公庁で通訳をしていた頃にも、目が合って最初のひと言が“Nice to meet you.”という方がとても多くて、なんともったいないことだろうと思っていました。ですから研修では、そういった部分を大切なこととしてお話ししています。

──ビジネス英語で大事なのは、言葉だけではないのですね。

上田 国内外を問わず、ビジネスでは相手との間に信頼関係を構築すること、相手に「自分はウェルカムな気持ちを持たれている」と感じてもらうことが大切です。そのために何ができるかということを研修ではお話しさせていただいています。

ビジネスパーソンの多くは「基礎的な英語」で困っている

──語学研修を依頼する企業からはどのようなニーズがありますか。

上田 金融系や会計系企業での研修を別にすると、何か高度な英語ができないというご相談よりも、日常的に起こる、ビジネスの基本的な部分に関する英語ができないというお悩みが圧倒的に多いです。例えば、英文のメールが届いても返信ができないとか、海外から短期駐在員を受け入れている企業で、社員食堂やエレベーターでその方と一緒になった時に日本側の社員が何も話せず相手に淋しい思いをさせてしまうとか、本当にちょっとしたことですね。そうしたコミュニケーションに必要な英語は、実は文法的には中学校や高校で習うレベルで対応できるのですが、多くのビジネスパーソンが、そうした「基礎的な英語」で困っておられます。電話口の相手が英語で話し始めても、「英語がわかる者に代わります」が言えなくて、「アイキャントスピークイングリッシュ」で切ってしまうとか。そこに対応するため、研修では「少々お待ちください」「~へ転送します」といった簡単な言い回しからお教えしています。

──日本人は英語教育を受ける期間が長いのに、なぜ英語を話せないのでしょうか。

上田 それにはいくつか理由があると思います。長い期間英語を学んでも、日常的な英会話の機会が少ないのがひとつ。それと私が感じるのは、日本人の国民性として、変化への消極性ということがあると思います。具体的に言いますと、日本人は「今の自分の状態から変化するのがとにかく怖い」という気持ちが強いように感じます。外国人ばかりの中へ入るとどうしていいかわからないとか、外国の方を前にすると頭ではわかっていてもどう話せばいいのかわからなくなってしまうとか。「新しいものを得るために、変化を享受してやってみよう」と思う方が少ないように感じます。
 でも、ぜひそこを一歩踏み込んでいただきたいなと思っています。現状を維持することによって得られる安心感はわかります。ただそこを一歩踏み出して、「よりよい未来のためにあえて変化を受け入れる」「リターンのためにリスク(=変化。投資の世界では、リスクとは変化の振れ幅のことを指します)をtakeする」という気持ちを持つと、日本という国全体が、英語を話すという場面においても変わってくると思います。

──必要性が低いためになかなか英語が話せないのですね。

上田 「必要性」というのは非常に大きいモチベーションとなります。発展途上国の方々などが語学に強い背景には、内需での稼ぎが限られていたりするため、英語や日本語を勉強して国外へ出ていくしかないという事情があります。一方、日本はまだ人口も1億2千万人以上いますし、名目GDPも世界第3位と、一応経済大国の地位を守っていて、それに甘んじている面があると思います。でも、人口は確実に縮小傾向にありますし、産業界を見れば中国や他の国にシェアを取られている現実がありますから、リスクを取らずに安住していられる状況ではないと思います。
 私なりにいろいろ研究したのですが、英語を身につけるために大事なメンタリティというのは、突き詰めると2つに集約されます。1つは、切羽詰まった場合。例えば、勤務先が外資系企業に吸収されたために半年以内に英語ができるようにならないと役員を下ろされてしまう、というケースや、営業のトップセールスマンが海外の販路開拓を命じられて東南アジアへ赴任することになった、というケースなどですね。そういう方は身につき方が全然違います。もう1つは、英語が楽しいと思えた場合、あるいは英語を楽しく学べるサイクルを見つけられた場合です。

正しく学べば、英語は必ず身につく

──どのように学べば英語が身につくのでしょうか。

上田 企業研修をしていてすごく感じてきたことですが、「英語を勉強しても上手にならない」とおっしゃる方の多くは、「基礎を、正しい形で、一定期間継続してやる」ということをしていないのです。我流で、近道というか何か夢を見させてくれるような方法、素晴らしい勉強法を求めて飛びついては挫折しているのでしょうね。いろいろな教材に手を出しては続かない。ですが本当に身につけるべきは、基礎的な部分であることが多いのです。

──ビジネスパーソンの多くが困っているのも基礎的な英語ということでしたね。

上田 そうです。研修では口を酸っぱくして言っているのですが、「文法・単語を知る」「正しい音読」「英語で話す練習」という3つを、一定期間、地道に続けるだけで英語は絶対に話せるようになります。私はTACのTOEIC®L&R TEST対策講座の通信講座の講師も担当させていただいていますが、その講座でも文法・単語を扱いますので、それらをきちんと学習すれば、確実に話すためのベースとなるのです。

──音読が効果的なのですね。

上田 「正しい」音読ですね。ネイティブスピーカーの音声教材をまねて音読することで、正しい発音と会話のテンポ、イントネーションなどが身につきます。それを一定期間続けることで、聞き取りもできるようになります。
 英語はSVO言語(文章が主語・動詞・目的語の語順をとっている言語)、日本語はSOV言語(文章が主語・目的語・動詞の語順をとっている言語)です。例えば“I like ice cream.(私はアイスクリームが好きです)”という文章について見てみましょう。英語では「 I (主語:私は)、like(動詞:好きです)、ice cream(目的語:アイスクリームが)」の順ですが、日本語では、「私は(主語)アイスクリームが(目的語)好きです(動詞)」の順になっていますね。音読を続けていると、こうしたSVO言語とSOV言語との置き換えが自然にできるようになってきます。それに、声に出して英語を読むことで発語に対するハードルが下がり、実際に会話が必要な場面になった場合にも言葉が出やすくなります。私は英語をほぼ日本国内で学習したのですが、その際に有効だったのが音読でした。

──正しい音読とは具体的にどのようなものですか。

上田 それは「正しくない」音読を説明するとわかりやすいかと思います。日本語では、言葉の発語には常に「a、i、u、e、o」の母音がつきますね。これが英語の発音をするときにも、くっついてきてしまうのです。これを言語学の用語で「転移」と言うのですが、例えば「dog(犬)」と発音する際も、「ド・ッ・グ(gu)」と「u」がついてしまうのです。「cat(猫)」なら「キャッ・ト(to)」と「o」がつく。でも英語の「g」や「t」には、「u」や「o」はくっついてきません。こういった事例のような、英語と日本語それぞれが持つ音の違いをまず音読によって自覚してもらいます。日本語がどれだけ英語に転移されているかを意識することが、正しい音読の第一歩になります。これがわかってくると、あとはご自分でもモチベーションを維持しながら正しい音読ができると思います。

──どれくらいの期間でできるようになりますか。

上田 大学受験やセンター試験対策まで英語を学習してきたような方であれば、音読を毎日一定時間、3ヵ月もやれば、社員食堂やエレベーターでの会話はできるようになります。また半年間しっかりやれば、会議でも大分聴き取れている感覚になってくると思います。私がこのことを把握したのは、企業研修の場でした。企業研修は継続型が多いので、週に一度、半年間といった単位で、受講生の状態をチェックして追うことができます。半年くらい経ってくると、「会議で聴き取れた」など、目に見えたビジネス英語としての上達が反応としてあがってきます。

──半年でそれ位のスキルが身につくならやってみようかと思えますね。

上田 繰り返して言いますが本当に、我流でがむしゃらに、ランダムにやるよりも、基礎を正しいメソッドで一定期間継続することが、上達の一番の近道です。英語が身につけば、ビジネスでも大きなスキルアップになります。

──TOEIC®L&R TESTのスコアでいうと何点くらいの評価になりますか。

上田 TOEIC®L&R TEST600点というのは「基本的なことがわかる」というレベルです。ちょっとしたメールを打つとか、会話や電話で一般的な受け答えができる、というレベルですね。ここまでできてしまえば、自分の中に自家発電装置みたいなやる気が形成されていることが多いので、その先の700~800点へ進みやすいと思います。

英語で広がるビジネスとプライベートの可能性

──上田さんはもともと英語に親しい環境におられたのでしょうか。

上田 いいえ。高校まで田舎に住んでいて、英語塾に通うお金もなく、音読しか実践的な勉強手段がありませんでした。大学へ入り、ネイティブスピーカーの先生によるコミュニケーションの授業で初めて欧米人を実際に見て驚いたくらいです。出欠の点呼のときに何と言ったらいいかわからなかったので、クラスメイトが「出席」という意味で“Here.” “Present.”と言っていたのを真似て“Present.”と言おうとして、 “President (大統領)!”と言ってしまったこともありました。その期はMs. Presidentとして覚えられてしまいましたね(笑)。

──現在、語学でビジネスをされている上田さんにもそんな時代があったのですね。

上田 もともとおっちょこちょいなところがあるのです(笑)。資格でいうと、僭越ながら実用英語技能検定1級、USCPA、TOEIC®L&R TESTスコア満点といった形でこれまで取得してきましたが、今のビジネスも含め、実際は泥臭い、毎日の小さな積み重ねを続けてきたところが大きいかと思います。不器用ながら1から学習を重ねて英語や会計スキルを身につけたからこそ、より効果的な学習方法をお伝えできるかと思っています。

──上田さんがUSCPAを取得したのはなぜですか。

上田 大学3年時に1年休学してカナダのビジネスカレッジに留学したことがきっかけです。その学校では私以外のクラスメイトはカナダ人で、みんな英語はペラペラでプレゼンテーションも上手です。そんな劣等感を日々感じる中でも、アカウンティング(会計)は地道にやっていればできるし、日本人は比較的数字に強い傾向があるように感じたので、会計に力を入れて勉強しました。その後社会人になってから、自分にできることは何かと考えたときに、努力すればできるかもしれないこととして、再び「会計」が頭に浮かびました。そうしたらUSCPAに1科目合格できて、のちにこれが大きなきっかけになりました。

──大学卒業後は公務員としてお勤めでしたね。

上田 法律関係の通訳官の仕事でした。ここで通訳の経験を積み、部分的ではありましたが法律知識を得ることができました。でも私はもともと日本と外国をつなぐようなビジネス通訳がしたかったので、ビジネス界へ移りたい希望が強くありました。そこで転職することにしたのです。ただ、時はリーマン・ショック以後の不景気で、どこの企業にも採用してもらえず、面接にさえたどり着けないこともしばしばでした。そこで、USCPAに1科目合格したあと試しに会計事務所へ応募してみたら、入社できたのです。資格の力は大きいと実感しましたね。

──会計事務所で働きながら、残りの科目を勉強されたのですね。

上田 その会計事務所での仕事は忙しく、残りの科目に合格するのはかなり大変でした。ですからUSCPAをめざすのであれば、早めに取得することをおすすめします。私が勉強していた当時は、USCPAの資格は渡米しないと取れませんでした。そのため日本から最も近い米国領内の受験地であるグアムへ行き、みんながバカンスでくつろぐなか、自分だけプールを眼前にして勉強しました(笑)。それでも私が勤めていた会計事務所は資格取得に理解があって、多忙な業務の中でも受験させてもらえたのですから、本当に感謝しています。

──会計事務所ではどのようなお仕事をされましたか

上田 アメリカの税法の翻訳や、コンプライアンスに関する申請書作成業務です。法人のお客様を訪問して、税法に関するアドバイザリーの仕事をすることもありました。
 私がいた会計事務所は英語研修を積極的に行っていたのですが、そのとき税理士の同僚から英語の質問や相談を受けることが多くありました。私は業務内容や用語をある程度知っているからというのもあるかと思います。そういうことが続くうちに、税理士や公認会計士などのプロフェッショナルの方に、現場で使う英語を教えるというニーズがあると気づきました。そこから独立を決意して、東銀座に「さくらランゲージインスティテュート」という、翻訳と語学研修の事務所を構えたのです。

──「さくらランゲージインスティテュート」で5年間活動した後、2019年に拠点をルクセンブルクへ移し、名称も「さくらリンケージインターナショナル」と変えられましたね。

上田 個人事務所として設立した「さくらランゲージインスティテュート」を、ルクセンブルクに法人として設立した「さくらリンケージインターナショナル社」の一事業部門にしました。今後は海外と日本の間の企業のコミュニケーションを、翻訳、コンサルティング、研修と、多様な手段でサポートしていきたいと思っています。
 本社をルクセンブルクにした理由は、プライベートなことになるのですが、パートナーと結婚してルクセンブルクに居住しているからです。現在は欧州を拠点とし、日本と行き来しながら仕事をしています。

──英語スキルが、仕事もプライベートも大きく変えましたね。

上田 そうですね。ビジネスでもプライベートでも、英語ができると「生き方の選択肢」が増えると思います。日本では、王道のような生き方が良しとされているような面があると感じています。同調圧力と言いますか…何歳までに結婚すべきとか、この歳を越えたら転職できないとか。でもそういう考え方や、人と同じであることを良しとする文化がまったくない国もあります。もちろん日本には日本ならではの良さがありますが、英語ができることで、いろいろな国の常識や考え方に触れることができるようになりますから、より自分に合った国に住むとか、好きな国を働く場所にするといったように、選択肢を増やすことができるのです。

有資格者が英語スキルを身につけることのメリット

──税理士などの士業の現場では、英語に対するニーズが高まっていると感じますか。

上田 極めて強く感じます。士業の方が英語スキルを身につけると、非常に大きなメリットがあると断言できます。今は英語のできる士業の方が少ないですから、大きなチャンスのときです。
 実際、私のほうにもそうした人材を求める要望が寄せられています。例えば「外国人労働者の雇用問題で、英語対応できる社会保険労務士の方や弁護士の方はいませんか?」といったご相談などです。ビジネスはもちろん、プライベートでもグローバル化が進んでいますので、遺産関係や相続などでも、各国にまたがるケースが増えています。相続案件では当然税務がセットになってきます。国際税務となると、BIG4と言われる大手監査法人などは扱っていますが、それ以外の事務所などではなかなか対応が難しい現状です。一方で、国際税務というトピックはどんどん増えていますから、英語対応のできる有資格者に対する需要は本当に大きいと思います。

──これから英語学習を始めてみようとする方へのメッセージをお願いします。

上田 国際的なビジネスコミュニケーションは、まず英語で行えることが、まだまだ世界的なスタンダードですから、今後日本における英語の必要性は大きくなるばかりかと思います。英語というスキルを身につけると、誰でも、とにかく対象となる市場が広がります。事業者であれば、日本で売れたものを海外に持って行くことでさらに販路を広げられますし、日本では売れなかったものが海外でヒットするという可能性もあります。個人であれば、英語スキルと資格や営業力を活かして海外で働くことも可能です。恐れずに「英語」という圧倒的なコミュニケーションの手段を手に入れてほしいと思います。私も、日本の皆さんの活躍を海外から祈るつもりで、毎日仕事しています。一緒にがんばっていきましょう!

[TACNEWS2020年 3月号|特集]