特集 「大学時代はクラブDJ」仲間とシェアする士業の仕事

鈴木 幹央氏
Profile

鈴木 幹央氏

司法書士・行政書士ベル総合事務所
司法書士 行政書士

鈴木 幹央(すずき みきお)
1978年生まれ、埼玉県立伊奈学園総合高等学校卒業。2001年、駒澤大学経済学部卒業。2003年1月、行政書士試験合格、7月に都内の事務所に入所し、以降、計3ヵ所の司法書士事務所に在籍。2012年10月、司法書士試験合格、11月に都内の事務所に入所、12月に宅地建物取引士試験合格。2013年11月、司法書士ベル総合事務所を開所。2014年10月、行政書士ベル総合事務所を開所。
司法書士業界歴16年、司法書士歴6年。
プライベートではレコード収集歴22年、2人の娘の父。

司法書士・行政書士の鈴木幹央氏は、「司法書士の仕事は天職だ」という。自分の仕事を天職と言い切れる人が、果たして世の中にどれくらいいるだろう。高校までは甲子園をめざして野球に打ち込み、大学時代は音楽に傾倒してクラブでDJをしていた鈴木氏。失敗を含め、経験してきたことのすべてが司法書士の仕事に活きていると笑う鈴木氏に、司法書士という仕事の魅力をうかがった。   

※WセミナーはTACのブランドです。

「法律」は、自分の周りにあふれている

──鈴木さんは大学時代、どのようなキャリアプランをお持ちでしたか。

鈴木 大学時代の私は、学部も含めて法律とはまったく無関係な世界にいました。学生の頃は音楽にのめり込んで、クラブでDJをしていました。青山や渋谷、六本木などのいろいろなクラブに夜な夜な通い、様々な方と一緒にDJをさせてもらったのですが、DJでは食べていけないので、就職活動をすることにしました。

──どのような企業をめざしたのですか。

鈴木 レーベル会社やレコード会社、ラジオ局など、音楽関連の企業です。DJミキサー機器の製作をしている会社は最終面接までいったのですが、内定には至りませんでした。将来のことを考えた時、人生の中では仕事をしている時間が一番長いので、自分が本当にやりたいと思える仕事に就こうと決めていたのですが、就職活動をする中で自分の好きな音楽がやれるわけではないことに気づいたあとは、なかなかピンとくるものがありませんでした。
 ちょうどその頃、身の回りでいろいろと法律に関わる出来事が起こり、法律というものに目を向けるようになりました。例えば、青山のクラブの店長が許認可のことで悩んでいたのをきっかけに、「風営法」について調べたのが最初です。その時初めて、飲食店やバー、クラブなど、風俗営業店の営業許可申請業務は行政書士が行うのだということを知りました。それから、友人がCDをリリースすることになって、今度は音楽著作権の問題にも興味を持ちました。どういう風に登録するのかや申請方法などを調べる中で、行政書士が著作権問題を扱えるということを知りました。風営法に続いて著作権も行政書士が関われるのだとわかり、これが行政書士という資格に興味を持つきっかけになります。また、同じ頃に実家の両親が脱サラしてフランチャイズのスーパーを始めたのですが、上手くいかずにあやうく実家が無くなるところだったという出来事もありました。
 クラブを営業する。CDをリリースする。脱サラしてスーパーを経営する――。こうしたことのすべてに法律が関わっていることに今更ながら気づき、「自分の周りにはこんなにも法律があふれているのに、法律を理解している人は周囲に誰もいない。それなら、自分がアドバイスできる人間になればいい」と思ったのです。

──行政書士受験に際しては、どのように勉強しましたか。

鈴木 学習期間は4ヵ月くらいでした。受験指導校に通いましたが、私はどうも黙って講義を聞くことが苦手なので、とにかくテキストを読んで、内容を覚えて、問題を解くという勉強法が中心でした。過去の試験問題は徹底的に解きました。思えば、大学受験の時も同じような勉強のやり方でしたね。

──高校では野球をやられていたのですよね。

鈴木 小学校から高校まで、野球ばかりやっていました。高校は当時強豪校といわれた学校のスポーツコースに進んだので、真剣に勉強した記憶がありません。結局、甲子園には手が届かず、受験勉強を始めたのは高校3年の9月頃です。
 それまで全然勉強をしていなかったので偏差値も低く、塾へ通っていては間に合わないと思い、家でずっと勉強していました。夜中の3時ぐらいまで勉強して、朝起きられずに学校を休んで受験勉強をしていたら出席日数がギリギリになってしまい、先生に「お前、学校に来ないで何をしているのだ?」と聞かれましたね(笑)。でも高校のスポーツコースでは1日4時間ほど体育の授業があるので、大学受験することを考えれば、学校には行っていられなかったのです。

──そのような状況でも、大学は現役合格、行政書士の資格も取得したのですからすごい努力ですね。

鈴木 ずっと野球に打ち込んできたので、「目標」とか「打ち込めるもの」がないと駄目みたいです。大学では野球の代わりに打ち込めるものを探していた時に、ポンと「音楽」が入ってきた。そして将来を考えた時には、「行政書士試験」が目標になった感じです。やるとなったら、体育会系的に全力で向かう性格なのかもしれませんね(笑)。

大手事務所のイレギュラー案件で経験を積む

──24歳で行政書士資格を取得、25歳で大手総合事務所へ入所したのですね。

鈴木 最初に入った事務所は、行政書士と司法書士を抱える総合事務所でした。風営法や著作権を扱う行政書士の仕事をやりたかったのですが、行政書士業務がメインの事務所にはなかなかめぐり合えず、行政書士と司法書士の両方をやっている総合事務所に入所しました。実際入ってみると司法書士の仕事が多かったのですが、現場で働いてみると、司法書士の仕事はとても楽しいものでした。困っている方にお会いして、話を聞いて信頼関係を築き、実際に問題を解決するというやりがいのある仕事に、これは自分の天職だと実感し、この仕事を一生の仕事にしたいと強く思いました。

──主にどのような仕事を経験したのでしょう。

鈴木 事務所全体の仕事としては、不動産決済が中心でした。50人ほどの総合事務所で、膨大な不動産案件を4課に分かれてこなしていましたが、その中で、各課にひとりくらいイレギュラー案件ばかり担当するスタッフがいました。私が所属していた課では、私がそのひとりでした。事務所にはルーティンの仕事をしたい人が多くて、変わった案件は誰もやりたがらないのですが、私は同じことを繰り返すのが苦手で、変わった案件やひと癖あるような案件にやりがいを感じるタイプでしたから、ある意味この事務所は、私にとってよい環境だったと思います。

──イレギュラー案件が好きなのですか。

鈴木 誰もやりたがらないくらいですから、やっている間はしんどくて大変ですけどね(笑)。でも、そうした案件を自ら進んで担当したのには、自分なりの明確な考えがありました。いずれ独立するのだから、定型的な案件はできて当たり前。ひと癖ある案件でさまざまな経験を積んで、自分の引き出しをどれだけを増やすかが大事だと考えたのです。しかも、事務所の看板で多くの案件に携わることができるので、勤めているうちに少しでも多くの案件をみて経験を積んでおくほうが絶対に得だと思いました。ルーティンの仕事をやりつつ、イレギュラー案件を数多くこなすということを正社員として4年間やれたのは、よい経験になりました。

──最初から独立志向だったのですね。

鈴木 そうですね。でも司法書士試験は合格率約3%という試験です。29歳くらいの時に、本気で司法書士の業界で飯を食っていくのかどうか、真剣に考えました。いろいろ考えて、この業界にいるなら司法書士の資格がないと意味がない、資格を取らないなら転職したほうがいいと思いました。ダラダラといられるような業界ではないからです。
  受験すると決めたあとは、事務所に「アルバイトにしてほしい」と伝えました。仕事が忙しいので、正社員だと試験勉強ができないからです。そうして正社員からアルバイトにしてもらい、そのタイミングで妻と結婚しました。

──正社員になるのを機に結婚という話は聞きますが、アルバイトを機に結婚ですか。

鈴木 司法書士をめざして勉強するのは大変です。正社員として働かないのであれば、ある程度、経済的に支えてもらわなくてはいけない。そうしたら彼女が「それなら入籍してくれ」って(笑)。結婚してもいない相手をサポートはできない、ということでしょうが、今思えば妻はすごいと思いますね。向こうのご両親も、先の分からない状態での結婚をよく許してくれたと思います。

5回目の受験で司法書士試験を突破

──司法書士試験の勉強はどのように進められましたか。

鈴木 Wセミナーの答練(答案練習)を中心に進めました。成績は良かったですよ。1日15時間くらい勉強したのですが、1年目は成績が伸びず、あまり成果が出せませんでした。2年目の年明けくらいから急に成績がアップして、答練ではいつも成績上位者に名前が載っていました。
 2年目の試験結果は、午前の部が35問中27問正答、午後の部が31問正答くらいでした。ほぼ合格圏内まで来たので、「これなら来年合格できる」と思いました。ところが3年目、午前の部の始めの3問の憲法が難しくて頭の中が真っ白。パニックになってしまったのです。結果は午前の部の正答数が23問と、前年より大幅に点数が下がってしまいました。

──受験が何年にもなるとモチベーションを保つのも大変ですね。

鈴木 精神的には3年目に駄目だったのが一番きつかったですね。午前の部の正答数が28問、27問、23問と年々下がってしまって。午後の部の成績は良いのですが、推論問題がどうしても苦手でした。それをどう克服するかがずっと課題でした。
 今まで解いた過去の試験問題・答練・模擬試験の推論問題を全部コピーしてファイリングし、ずっと繰り返し解いていました。コツをつかんでいくしかないですよね。ひたすらやり続けていたら、4年目くらいから推論問題の点数がグンと伸びました。苦手な推論をクリアできるようになったので、4年目は「いける」と思いました。試験の手応えもあったので、妻と旅行に行ったくらいです。そして合格を確信して東京法務局の本局まで発表を見に行ったら、自分の受験番号がなくてびっくりしました。どうしたらいいのかわからず、そのまま事務所にも帰れなくて、しばらく法務局の中をウロウロしていました。

──そこからもう一度気持ちを作るのは難しかったのではないですか。

鈴木 結果が出ないのは落ち込みます。でも、あと少しのところまで来ているのだからやめられない。何年も時間をかけて努力してきたことが、やめてしまったらゼロになるわけですから。5年目で合格した時は、本当にほっとしました。

──司法書士試験に挑戦している間に、いくつか事務所を変わっていますね。

鈴木 最初の事務所は大手で、4年間正社員として在籍し、3年間程アルバイトをさせてもらって、次はもっと小規模な事務所に入りました。そこはオールラウンドにいろいろな案件を扱う事務所でした。そのあと債務整理をする事務所に少しだけいて、最後に勤めたのは弁護士事務所兼司法書士事務所です。資格を取ったら独立すると決めていたので、最後の事務所の給料は独立用の資金として貯蓄していました。

独立して司法書士事務所を開設、人脈が仕事につながっていく

──どのように独立開業したのですか。

鈴木 いつ事務所をやめようかと考えていた時、ありがたいことに今の事務所を貸してもらっている司法書士法人の代表に誘われたのです。私はいつも本当に周りの方に恵まれています。彼は、以前私が勤めていた債務整理専門の事務所の同僚でした。私よりも年下ですが彼のほうが独立は早く、債務整理のノウハウを持って平成25年5月に高知で開業したのです。開業からわずか1ヵ月でたくさんのお客様からの依頼があり、「東京に支店を作りたい」という話でした。私には債務整理のノウハウはありませんが、この時すでに業界歴が10年以上あり、商業登記、不動産登記、企業法務、相続系のスキルがありました。同じ場所で事務所を出せば業務範囲もバッティングしないし、不足しているスキルをカバーし合うことができると思ったので、誘いがあってから2週間くらいで「やろう!」と独立を決めました。独立すると妻に告げた翌日に、長女が生まれました。突然の独立だったから、妻もびっくりしたのではないでしょうか(笑)。長女誕生と事務所の開設が一緒なので、開設の年は忘れません。

──事務所を開設した時、顧客はいたのですか。

鈴木 ゼロでした。最後に勤めた事務所は弁護士事務所兼司法書士事務所だったのですが、そこは私がいなくなったら司法書士部門は閉める状況でした。それでも、お世話になった事務所のお客様を持って出ることはできないので、自分から「お客様を持っていきたい」とはとても言えませんでした。
 すると取引先の税理士事務所の方が、「鈴木さんと仕事をやりたいのですがいいですか?」と事務所のほうへ直接お話をしてくれたのです。こうして税理士事務所が1社、お客様になってくれました。本当に、周りの方に恵まれていると実感しますね。でも、これは独立したあとのことです。独立前に見込みがあったわけではないので、本当にゼロからのスタートでした。

──どのように顧客開拓をしたのですか。

鈴木 紹介です。士業の方から仕事をいただくことが多くて、弁護士の方や、同じ司法書士でも専門性の異なる方、それから行政書士の方などですが、やはり一番多いのは税理士の方からの案件ですね。

──そうした人脈は、交流会などで作ったのでしょうか。

鈴木 交流会には何回か行ったこともありますが、ピンとくることが少なかったので今は行きません。私はなるべくなら同じくらいの年齢か年下の人と一緒に仕事をしたいと思っています。「大先生」のような上の方と一緒にやっても、その方のコミュニティがもう出来上がっていますから。自分に近い年齢で、感性の合う人と仕事をして、お互い成長していきたいのです。この人と一緒に仕事がしたいな、と思う税理士や弁護士、行政書士の方々には、自分からお仕事をお願いして信頼関係を構築するようにしています。また、仲良くしている士業の方からのご紹介はとても大事にしています。例えば、税理士の方からご紹介いただく弁護士の方などですね。皆さん感度が高いので、同じような志やスタンスの方については惹かれあうのだと思います。「あ、この人いいな」とすぐに分かりますね。
 また、学生時代の友人や、プライベートでの友人や知人など、仕事以外でもともと自分が持っている人脈というのがありますよね。私の場合は音楽をしていたので、そのグループの人脈もあります。同じくらいの年齢で、バーや飲食店を経営している人も多いです。経営をしていれば、大体税理士の方とつき合いがありますから、そういう方が紹介してくれたりします。

──DJをなさっていた鈴木さんならではの開拓方法ですね。

鈴木 そうかもしれませんね。でもこの方法は、絶対に効率がいいと思います。紹介の場合は「この人が紹介してくれる人なら」と、ほぼ話が決まります。ファーストコンタクトのお客様と何回もやりとりして信頼関係の構築から始めるより、ずっと効率的なのです。紹介で一度ご利用いただいたお客様がリピートで仕事をくださったり、他のお客様を紹介してくれたりもします。私は一度仕事したお客様からのリピート率は、かなり高いと自負しています。

──よいお仕事をしているのですね。

鈴木 「士業の方らしくないですね」と言われることが多いのですが、私はそれを誉め言葉だと思っています。自分は法律の専門家というよりも、法律の知識を持った「営業マン」のスタンスで仕事をしたいと考えています。
 お客様の話をしっかり聞き、最後まできちんとケアして、相手ときちんとコミュニケーションを取るようにしています。そうするとまたリピートしてくれますから。

ワンストップで問題が解決するチーム作り

──顧客や取引先からはどのようなご相談が多いですか。

鈴木 内容は本当に様々ですが、「これって鈴木さんのところでできますか?」といった形で相談を受けることがとても多いです。問題を抱えている人は「法律に詳しい誰か」に相談したいんですよね。とはいえ、抱えている問題がどの専門家の担当分野なのかを把握した上で相談に来られる方はほぼいません。税理士の方でも、司法書士と行政書士の業務の範囲をはっきり把握していないことも多いですよ。ですから私の分野外の相談を受けることもありますが、「その案件は取り扱っていないのでできません」というような断り方はしないようにしています。お話を聞いて、他の専門家の守備範囲のものであればそちらにお願いするなど、お互いに足りない知識を補い合って高度なサービスが提供できるようにしています。そのためには、一緒に仕事を回しあう「仕事仲間」がとても重要になってきます。私の場合は、税理士、弁護士、司法書士、行政書士、不動産業者、保険、金融機関等の方々です。
 ベル総合事務所は司法書士と行政書士で登録していますが、行政書士の仕事を受任することはあまり多くはないです。看板を出していることで行政書士の範囲の相談を受けることもありますが、その場合は専門の行政書士の方へお願いするようにしています。そうすれば、その行政書士の方からは司法書士の仕事を紹介してもらえて、風通しがよくなって仕事が回転していきます。全部自社で処理しようとすると流れが止まってしまいますが、シェアすれば紹介で案件が増えていく感じがしますね。
 税理士や弁護士といった士業の方とは、取引先というよりも一緒に仕事をするチームのような感覚でつき合いたいと思っています。士業の仕事は高度で詳細な知識が求められるケースが多いです。医者にも内科や外科があるように、同じ司法書士業務でも分野が違うと分からないことがあるくらいです。ですから、何でも自分で抱え込むのではなく、チームで仕事を解決できるような流れを作りたいですね。専門性の違う方と一緒に組むほうが、クオリティの高い仕事ができると思います。

──現在はどのようなお仕事をメインにしていますか。

鈴木 案件として多いのは、相続です。司法書士といえば「登記」のイメージだし、司法書士の相続業務といえば「不動産の相続登記」なのですが、最近は、平成14年の司法書士法改正により認められた、司法書士法施行規則31条業務と言われる遺産承継・遺産整理業務を受けることが増えています。相続の様々な手続を一括して受任し、まとめて処理することを「遺産整理業務」と言います。相続人の確定、相続財産調査(積極財産、消極財産の双方)、遺産分割協議書の作成、遺産分割協議の提案及び中立的調整、不動産の名義変更(相続登記)、会社の登記、銀行の預貯金等の解約、株式等の相続・売却、生命保険その他保険の請求、税理士・弁護士等の各種専門士業等の手配、相続した不動産の売却による現金化等々の相続業務をまるごと受任して処理することによって、相続人の負担を大幅に軽減することができます。士業と言われる業種のうち、この遺産整理業務(財産管理業務)を行うことができると法令で明記されているのは、司法書士と弁護士だけです。総合力を問われるので難しいケースも多々ありますが、その分やりがいがありますね。
 また私は商業登記や企業法務といった会社系に強いので、そうした案件も多く扱っていますし、民事信託などの新しい業務にも積極的に取り組んでいます。一般的な不動産の相続登記だけでなく、相続と会社系を一緒にやれる強みがあります。

──その場合のお客様は中小企業の経営者などでしょうか。

鈴木 そうですね。東京で個人の相続相談を受けると、会社を持っている方が多くいらっしゃいます。つまり事業承継問題がからんでくるケースが多いのですが、そうしたケースが得意ですね。会社の合併や分割も、税理士の方と組んで対応しています。お客様としても、相続と会社の問題を一緒に解決できるのは便利ですよね。ですから相続を1件受けると、ご紹介で他の案件が入ってきます。経営者の方同士は横のつながりも多いですから。

──企業法務のノウハウはどこで得たのですか。

鈴木 合併・分割など組織再編に関しては、ほぼ自分で勉強しました。結構難しいのですが、税理士の方から頻繁に仕事がくるので、対応しているうちに覚えました。分割・合併といっても親族間が多いので、第三者が入ってくる敵対的関係のものはほぼありません。そのような案件がきた場合は、M&Aに強い弁護士の方がいるのでそちらへお願いしたいと思っています。

──記憶に残っている仕事、大きな達成感のあった仕事を教えてください。

鈴木 お医者さんの相続でしょうか。医療法人の代表理事で資産総額が何億円もあって。この遺産承継業務は本当に総合力を問われる仕事でした。一般的な相続では、銀行預金の解約や有価証券の処分、不動産登記の相続登記などで終わるのですが、この案件は、被相続人が医療法人社団の代表理事であったため、医療法人のM&Aや複数ある不動産の売却を行いながらの相続人の調整がなかなか大変でした。財産の種類も相当多かったので大分時間もかかりました。医療法人社団の行政への届出もあれば、死亡退職金など税理士の先生と連携した節税のスキームなど盛りだくさんでした。そういうものを全部セットで受けたのはやりがいがありましたね。
 また、親がフランチャイズのスーパーをやめた時のことも記憶に残っています。10年契約のフランチャイズを途中解約するというので、私も交渉の場に同席しました。この時の私は、まだ司法書士の資格を持っていないとはいえ、勉強をしていて法的知識はあったので、交渉して賠償金をゼロにしてもらうことができました。負債は残りましたが、親は他の仕事をして負債を全額返済したのです。その時は私が抵当権の抹消手続きをしました。手続き自体は簡単なものだったのですが、親の負債の抵当権を自分が抹消できたのはとても感慨深かったです。  同時に、自分がもっと法律を知っていたら、もっと別の手が打てたのかもしれないという思いも残りましたが、だからこそ、法律を知らないばかりに不利益を受けることのないように、困っている個人の方や、中小企業の方の味方でいたいと思っています。

──今後の方向性についてお聞かせください。

鈴木 事務所を構えて6年目になりますが、経営的にはずっと右肩上がりに推移しています。今は3人の事務所ですが、ゆくゆくは10人程度の少数精鋭の事務所にしたいですね。給与面でも、社員には夢のある数字を提示してあげられればと思います。
 それから2019年のテーマとしては、意識的に休暇を取ろうと思っています。自分が好きで選んだ仕事なので、楽しくてつい休まず働いてしまうのですが、そろそろ意識的に休まないと身体を壊すなと思ったので(笑)。ちょうど娘たちも外遊びが楽しい年齢になったので、家族でキャンプへ出かける時間を持つつもりです。

──資格の取得をめざす方々にメッセージをお願いします。

鈴木 資格は取って終わりではありません。試験の合格は、その先の未来へ走り出すスタートラインです。ゴールでなく「その先」があるのだから、資格を取ったあとにどうしたいかを十分考えることが大事だと思います。「その先」がきちんとイメージできれば、困難があってもがんばれますよね。試験突破は簡単ではありませんが、こんなに勉強する機会はもう一生ないと思うくらい勉強した人が合格しています。実務に入ると忙しくて勉強する時間はなかなか取れませんが、今は私自身、長い勉強時間は必要だったのだ、と思うことがとても多いですね。司法書士試験は実務家養成の側面が強い試験なので、勉強した知識は実務で必ず役に立ちますよ。
 そして、もし司法書士の世界へ進むなら、法律の知識だけでなく、前職での経験やプライベートでの趣味など、何でもいいからのめり込めるようなものがあるほうがいい。それを活かせば、独立する時に上手なスタートが切れると思います。
 司法書士の仕事はとても楽しくやりがいがありますよ!多くの方が司法書士をめざし、いつか一緒に仕事ができることを楽しみにしています。

[TACNEWS2019年10月号|特集]