特集 マネジメントの知識が身につくビジネスマネジャー検定試験®

  

マネジメントの基本的知識を網羅的に学べるビジネスマネジャー検定試験®。
昇進を控えた企業人だけでなく、士業を含むあらゆる方にとって必須となる知識の習得が可能です。

山口 健氏
Profile

山口 健氏

東京商工会議所
検定事業部 副部長
検定センター 所長

山口 健(やまぐち たけし)
1993年東京商工会議所入所。入所以来、経営相談部門や会員サービス部門等に従事。近年では事業承継のためのM&A事業、会員事業所対象の共済・保険事業を担当し、総務統括部副部長を経て2018年4月より現職。

企業人にとって、昇進して管理職になることは、一般社員の立場から経営サイドの立場に変わる大きな節目となる。しかし一方で、立場が変わることに不安を覚えたり、自分にマネジメントができるのかと戸惑ったりもする。今回ご紹介するビジネスマネジャー検定試験®は、マネジメントの基礎知識を網羅的に学ぶことができる検定試験である。東京商工会議所 検定センター所長の山口 健氏に、創設の目的や身につくスキル、活かし方までをうかがった。

企業の声から生まれたビジネスマネジャー検定試験®

──ビジネスマネジャー検定試験®は、どのような目的で創設された検定試験なのでしょうか。

山口 ビジネスマネジャー検定試験®は2015年に創設され、今年で4年目を迎えました。検定試験は毎年7月と11月の年2回実施しています。第8回は9月28日が申込登録締切で、11月11日に実施されます。
 創設のきっかけとなったのは、東京商工会議所の会員企業様からの声でした。一般社員から管理職への昇進にあたり「年次や年齢ではなく、管理職としての知識や能力があるのかを見極めた上で、昇進をさせたい」という要望が多数寄せられていたのです。そうした声をもとに検討を重ね、創設されました。
 従来、企業で管理職に昇進する場合は、上司がその人の働き方を見て、管理職として必要な能力が備わっているかを判断していたと思います。そして昇進の前に研修やセミナーを受講してもらい、そこで得た知識を昇進後に現場で活かして能力を養ってもらうのが一般的でした。
 ただ、上司の判断は上司自身の経験によるところが大きく、客観的な指標があるわけではありません。また、研修やセミナーを受けた結果、果たしてどれだけの知識を習得できているのか、現場でどれだけ活かすことができるのかは、実際に昇進して管理職として働いてみないと企業側では判断することができませんでした。残念ながら、研修で得た知識を十分に活かせていない人も散見されるという声をお聞きしたことがあります。
 そこで東京商工会議所として、業種を問わず管理職として必要となる基本的な知識の習得ができているかを客観的に確認するために、ビジネスマネジャー検定試験®を創設し、会員企業そして全国の企業にご活用いただくことになったのです。

──企業にとっては、社員が有する管理職として必要となるスキルを測る目安になるわけですね。では、試験を受ける本人にとってはどのような意味があるのでしょうか。

山口 受験準備をすることが、管理職として活躍するために必要となる知識を体系的に学ぶことになります。試験は必要となる基本的な知識の理解度を確認することを目的にしています。ですから難しい試験ではありません。この点からこれから管理職になるという方に受験していただきたい試験ですし、管理職としての知識の土台を築くものと考えています。
 そしてこの検定試験に合格することで、客観的に管理職として必要となる知識を有していることが証明されますし、社員の方が企業に対して自らの能力をアピールする機会にもつながるのではないかと捉えています。

業種・職種を問わないすべての管理職が対象に

──検定試験の前提となる管理職(マネジャー)の役割について、どのように捉えているのでしょうか。

山口 マネジャーは企業と社員の間に立ち、経営ビジョンの浸透や事業戦略の策定・遂行、チームのモチベーション向上、人材の育成など、多様かつ重要な役割を担う存在と捉えています。しかも、経営環境が絶え間なく変化する近年、課題ごとにゼロから理論や手法を学び始めるマネジメントでは対応が遅れ、取り残されかねません。マネジメントの成果(アウトプット)を出し続けるためには、常に知識・理論の習得(インプット)が不可欠となります。
 マネジャーとして活躍が期待されるビジネスパーソンに対し、その土台づくりのサポートとマネジャーとしての役割を理解してもらうことを目的とし、「あらゆるマネジャーが共通して身につけておくべき重要な基礎知識」を効率的に習得する機会となるのがビジネスマネジャー検定試験®です。

──検定試験の具体的な内容を教えていただけますか。

山口 ビジネスマネジャー検定試験®は、企業活動の要となる中間管理職の人財育成を支援するものです。私たちはマネジャーのミッションを「チームとして成果を出すこと」と定義し、そのために必要なマネジメントの知識を整理し、「人と組織のマネジメント」、「業務のマネジメント」、「リスクのマネジメント」という3つの学習項目にまとめました。ここでは業種・職種の区別なく、すべての管理職に共通して必要な知識を網羅しています。
 「人と組織のマネジメント」では、コミュニケーションや人材育成、チームビルディングなどを学び、「業務のマネジメント」では事業管理や課題に応じた戦略の立案などを、「リスクのマネジメント」ではリスク管理やコンプライアンス、メンタルヘルスやハラスメントの職場管理を学ぶようになっています。

──東京商工会議所では会員企業向けに人材育成を目的とした研修プログラムの提供も行っていますが、研修プログラムではなく検定試験にした理由はどこにあるのでしょうか。

山口 研修プログラムは、受講される方を一定時間拘束し、それに伴う費用の負担が必要になります。一方で検定試験は、テキスト代と受験料だけと安価でありながら習得度合を測りやすいという特徴があります。
 ですから企業においては、社員の育成にビジネスマネジャー検定試験®を活用することで、管理職として土台になる基礎知識の習得を費用的にも時間的にも少ない負担で学ばせることができます。その結果、各企業が重視する実践的な教育・研修に、費用と時間をシフトすることが可能になります。つまり、ビジネスマネジャー検定試験®を活用することで、効率的かつ効果的な管理職の育成につなげられるものと考えています。
 またこの検定試験では業種・職種を限定していませんから、幅広い企業にご活用いただける人材育成支援事業のひとつと考えています。

──これまでに検定試験を受験されたのはどのような方でしょうか。

山口 2017年度には年2回の試験で合計11,828名が受験されており、合格者は5,845名、合格率は54.9%でした(実受験者は10,652名)。検定試験の合格ラインは他の受験者の成績に影響を受けない絶対評価で決まっており、100点満点中70点以上で合格となっています。
 受験者を業種別で見ると、製造業の方が若干多いものの、サービス業、金融・保険業、卸売・小売業、情報通信・ソフトウェア業等、幅広い業種の方が受験されていることがわかります。
 役職別では、課長クラスが38.2%、係長クラスが21.0%となっており、中間管理職である課長・係長クラスが6割を占めています。一方で一般社員も23.9%おり、来るべく昇進に向けて準備されていることがうかがえます。部長クラスが11.3%、役員クラスも2.4%が受験されているのは、ご自身の経験、知識の確認という意味からではないでしょうか。

──大学生の受験者はいるのでしょうか。

山口 学生は0.8%ですね。ただ、最近は企業に勤めながら大学で学んでいる方もおられますので、10代後半から20代前半の大学生となると、あまり多くないのではないかと考えています。

立場の変化に対応できるスキルが身につく

──どのような方にビジネスマネジャー検定試験®を受けていただきたいとお考えですか。

山口 まずは、今後マネジャーとしての活躍を期待されているビジネスパーソンですね。ご自身のアピールポイントとして、この検定試験でマネジャーの基礎知識を習得していただきたいと思っています。
 そして、既にマネジャーとして活躍されている方が、改めて知識を整理されたり、不足している部分を習得されたりする場合にも役立つと思います。管理職として意識せずにマネジメントをしている、経験を頼りに実務にあたっている方が多くいると思いますが、今まで行ってきたマネジメントの裏付けとなる考え方について学んだり、経験と知識をすり合わせたりするには最適ではないでしょうか。
 また、マネジメントの知識は管理職だけに求められるわけではありません。チームをまとめながら、一定の成果を求められるリーダーの方にも必要となりますので、管理職ではなくても、チームリーダーの役割を担う方、担おうとしている方も対象になるものと考えています。

──学習する中で、どのようなスキルが身につきますか。

山口 まず先にお話しした3つの学習項目の前に「マネジャーの役割と心構え」という項目があります。ここでは、マネジャーとして直面するビジネス環境、管理職として求められるミッションと役割、マネジャーの資質、そして心得を学びます。その後、以下、3つの学習項目の内容に入っていきます。
 まず「人と組織のマネジメント」の項目では、自分自身のマネジメント、コミュニケーションの重要性、部下のマネジメント、上司・外部とのコミュニケーション、人材の育成と人事考課、チームマネジメントと企業組織論を学びます。
 管理職になると、判断を仰ぐ立場から、判断をする立場になりますので、どういう観点で判断をすればいいのかを学ぶ必要があります。また、立場の変化によって、今までは人事考課を受ける立場だったものが、人事考課をする立場にもなりますし、育ててもらう立場から部下を育てる、育成する立場にもなります。以上のような立場の違いによる考え方の違い、判断の観点などについても、テキストを通してきちんと身につけられます。
 次に「業務のマネジメント」の項目では、経営計画、事業計画の策定、求められる業務のマネジメント、成果の検証と問題発見およびその解決、経営にかかわる基礎知識などを学びます。
 先にお話しした立場の違いにも関連しますが、管理職は経営者側の立場になります。経営者側から組織を見ると、今までとは違った景色、より俯瞰的な景色が見えてくるはずです。その違いや経営者側の見方について身につけていきます。
 そして「リスクのマネジメント」の項目では、リスクマネジメントの考え方とその実践、職場におけるリスクマネジメント、業務にかかわるリスクマネジメント、組織にかかわるリスクマネジメント、事故・災害時などにかかわるリスクマネジメントなどについて学びます。
 一般社員の立場では、リスクについて考える機会は少なかったと思いますが、管理職になるとリスクマネジメントを常に意識して行動することが求められるようになります。また、コンプライアンス、メンタルヘルスやハラスメントの職場管理もマネジャーの役割のひとつですので、こうした内容についても学びます。
 これらの3つの学習項目に連なる知識は、どこかが欠けてしまってはうまく機能しませんので、バランスよく身につけることが大切です。

個人と企業、双方にあるメリット

──この検定試験を受験するメリットについて教えてください。

山口 まずは、マネジメントに必要な総合的な知識を効率的に学習できる点です。管理職に必要な知識を網羅的に学ぶことができますから、マネジャーとしての第一歩を踏み出す方にとっては最適です。また業種や職種を問わない内容ですから、ご自身の仕事内容との関連を気にすることなく勉強ができます。
 次に、多くの管理職が抱く不安や戸惑いが軽減される点です。管理職に就任する不安もなく、管理職として何の失敗や戸惑いもなく、チームをリードし結果を出し続けているという人はまずいないのではないでしょうか。ビジネスマネジャー検定試験®の勉強をすることで、不安や戸惑いが軽減され、そこで得た知識が目標の達成や課題解決までのスピードアップに役立つことと思います。
 そして最後は、キャリア開拓の土台作りができるという点です。管理職が身につけるべき知識を有していることを客観的に示すことができますので、昇進や転職の際、ご自身の武器になることでしょう。また、部下に対しても一定の基準や知識を持って接することができますので、職場環境の改善や成果創出に役立つ面があります。

──社員が受験することによって、企業側にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

山口 ビジネスマネジャー検定試験®を受験することは企業側にもメリットがあります。わざわざ企業側が研修の場を設けなくても、検定試験を受験してもらうだけですので、管理職の育成にかかる費用・時間・労力の軽減が図られるだけでなく、社員の日常業務への影響も最小限で済ませることができます。また、繰り返しになりますがマネジメントの基礎知識を検定試験で身につけてもらうことができますので、企業としてはその先の実践的・実務的な研修に時間を割くことができます。さらに受験のための学習によって、社員のマネジメント知識の標準化が図れ、社内の共通言語化を進めることにより、業務効率の向上につながります。そして学んだ知識の定着度についても、マネジャーとしての基礎知識を有しているか否かを上司の経験に基づいた判断だけでなく、検定試験の合否による客観的な基準を用いて判断することができます。
 また、ビジネスマネジャー検定試験®を昇進のひとつの目安、基準にすれば、昇進の公平さを担保することにもつながります。このように社員と企業双方にメリットがある検定試験なのです。

──どのような企業がこの検定試験を活用しているのですか。

山口 製造業、金融機関からサービス業まで、幅広い業種の企業に採用していただいています。企業によっては団体受験でお申込みいただくケースもありますから、1回に数十〜100名単位で、中には1企業で年間300名以上が受験された例もあります。また、企業だけでなく八王子市役所など地方自治体での導入も進んでいます。今後、さらに全国のあらゆる企業・団体での導入が進んでいくものと考えています。
 ビジネスマネジャー検定試験®を導入された企業の中には、検定の合格をマネジャー職への昇進要項に組み込む検討を予定している企業や、資格・スキル習得状況などの体系にビジネスマネジャー検定試験®を組み込んでいる企業、受験を推進することによりマネジメント力を更に高めて管理職の「働き方改革」につなげていこうとお考えの企業もあります。

昇進、就職・転職でのメリット

──社内での昇進や転職などの際にはどのように役立つのでしょうか。

山口 管理職になると、それまでの部下として指示を受けて行動するという立場から、部下に指示を与えるという立場になります。そのための基礎知識を有していることや、経験などにより培われてきたマネジメント能力の裏付けを、客観的に企業に示すことができます。企業側も客観的な指標を持って昇進などの判断をすることができますから、人事に対する公平さも増すものと思われます。
 転職に際しては、「前職ではこの部署でこの肩書・役職でした」などとアピールすることはできますが、その肩書・役職でどのように役割を果たしてきたのかをすべて伝えることはなかなか難しいと思います。転職先企業の立場でも、転職者の語る内容だけで理解したり判断したりすることは難しく、次の選考に進めるべきか迷ってしまうこともあり得ます。
 検定試験に合格すると「ビジネスマネジャー」の称号を得られますし、合格していることで客観的に一定レベルの知識を有していることが判断できるため、ひとつのポイントになるでしょう。その上で実績をアピールすれば、どんな役割を果たしてきたかも伝わりやすくなるのではないでしょうか。

──学生が受験することについては、どうお考えですか。

山口 お話したように受験される方はそれほど多いわけではありません。ただ、自己啓発という観点で受験をされるのはとてもいいと思います。試験では、実際に企業内で行われていることが出題されますから、学生にとってはイメージがしにくかったり、内容的にピンと来なかったりする部分もあると思いますが、将来的に社会人として働く際にはプラスになることが多いと思います。
 また、大学在学中に若くして企業を立ち上げる方が増えていますが、ビジネスのアイディアとマネジメントは別物ですので、起業を考えている方が勉強されてもメリットは大きいと思います。仲間と一緒に会社をやっていこう、マネジメントをしていこうという時に、まさにこの検定試験で身につくような知識が必要になるでしょう。忙しいベンチャー企業のトップがビジネスマネジャー検定試験®の勉強に割く時間があるかはわかりかねますが、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

士業にもすすめたいビジネスマネジャー検定試験®

──TACのOBには国家資格を活かして独立開業されている方が大勢いますが、士業の方にとってはいかがでしょうか。

山口 私の友人に、弁護士資格を持ち、自ら事務所を運営している方がいます。以前話を聞いた際、「人を採用しマネジメントしていくのが大変だったし、ずいぶんと悩んだ」と語っていました。
 士業の方の場合、最初は事務所に就職し、顧問企業や取引企業を見つけて独立を考え、事務員を採用しようと考えるのではないかと思います。ただ、資格取得のための勉強や専門知識の勉強はしていても、マネジメントについては学んでいないため、人を採用することに不安を覚える方も多いと聞きます。そうした方々も、結局は一人では忙しいので人を採用すると思いますが、ご自身が忙しいために、採用したスタッフに適切なサポートやケアが十分にできていないことも多々あるようです。
 事務所を大きくしたい、さらに成長していきたいと考えるのであれば、マネジメントの基礎知識は必要不可欠です。ビジネスマネジャー検定試験®は、その必要な知識を網羅的に学ぶことができますから、士業の方にもおすすめしたいですね。勉強することには皆さん慣れているでしょうから、きっと短期間で必要な知識を身につけていただけると思います。また、実務の中でお客様に経営のアドバイスをする際に必要となる、経営に関する知識の土台にもつながっていくのではないでしょうか。

不安を力に変えるために

──現在、資格取得やスキルアップのために勉強されている『TACNEWS』の読者に向けて、メッセージをお願いします。

山口 これから管理職をめざす方は「果たして自分にマネジャーが務まるのか」と漠然とした不安をお持ちの方も多いと思います。管理職になる際には、誰しも悩みや不安を持つものです。ビジネスマネジャー検定試験®は、その悩みや不安を、マネジメント能力に変換することができる検定試験です。管理職になる悩みや不安がある方は、ぜひこの検定試験を活用していたただければと思います。
 よく、「優秀な選手が必ずしも優秀な監督になるわけではない」と言われます。企業でも同様で、プレーヤーとして営業成績の高い社員がリーダーを務めるチームが、必ずしも優秀な営業成績をあげているわけではありません。営業職としての優秀さと、リーダーとしての優秀さは別物なのです。営業成績が優秀な方は、営業のノウハウはお持ちですが、それをどう部下に伝えて課題を与えていくのか、どうチームをマネジメントすればいいのかが必ずしも分かっていない場合があります。そんな方がビジネスマネジャー検定試験®を学習することで、いろいろな気づきを得て、マネジャーとしてご活躍いただくことができるかもしれません。
 TACで資格の取得をめざして勉強中の方には、将来、マネジメントを担う立場になる方も多くいらっしゃることと思います。めざす資格の本試験後、キャリア開拓の礎となるビジネスマネジャー検定試験®にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

◆ビジネスマネジャー検定試験®Webサイト
http://www.kentei.org/bijimane/

[TACNEWS 2018年10月号|特集]