特集 キャリアチェンジで資格を活かす!

小さな会社を大きくする手助けをしたい。
その思いを実現するために税理士をめざしました。

小城 麻友子さん
Profile

小城 麻友子さん

小城麻友子税理士事務所
税理士

小城 麻友子(おぎ まゆこ)さん
1974年2月、東京都出身。1997年3月、慶應義塾大学環境情報学部卒業。1997年4月、日本アジア投資株式会社入社。ベンチャーキャピタルの投資事業組合の決算業務及び資産管理運用業務に携わる。2001年9月、株式会社KPMGピートマーウィック(現:KPMG税理士法人)等に勤務。法人・個人に関する確定申告業務、月次決算業務、計算業務、事業再生や企業買収にかかるデューデリジェンス業務に携わる。2007年11月オリックス株式会社入社。投資銀行本部管轄のSPやファンドの計数管理、運用報告作成に携わる。M&A、MBOや事業承継が絡んだプリンシパル投資業務に、ヴァイスプレジデントとして携わる。2005年12月、税理士試験合格。2006年11月、東京税理士会登録。2008年3月、租税訴訟補佐人制度大学院研修修了(筑波大学大学院)。2008年10月、小城麻友子税理士事務所開設。

 学生時代はまったく資格取得を考えていなかった女性が、就職した一般企業での業務をきっかけに税理士を志すようになり、税理士法人や会計事務所、金融会社を経験した後に独立開業する。そんなドラマのようなキャリアチェンジを経験してこられたのは、税理士・小城麻友子さんだ。小城さんは「なぜ、その時そうしたのか」。小城さんのキャリアチェンジにスポットを当てながら、独立開業時と開業後約10年経った現在までを追ってみた。

──小城先生はどのような学生時代を過ごされましたか。

小城 高校時代は、臨床心理士になって病院のカウンセラーになりたいと思っていました。進学時もミッション系の大学をめざしたのですが受験に失敗しまして…。それでも心理学を勉強したくて慶應義塾大学環境情報学部に進学しました。ただ、授業が自分が思っていたものとは違っていたので「何をしたらいいんだろう」と考えて、同じキャンパス内の総合政策学部のゼミで経済や金融を学んでいました。周囲に比べ自分はあまり積極的ではなかったので、普通に授業を受けてアルバイトをしてという感じの学生生活です。だから就職活動の時期まで「私はこういうことがしたい」というものもなかったんです。当時は「私には○○はできない」という思い込みがあって、なかなかそれを破ることができなかったんです。もちろん資格取得もまったく考えていませんでした。

──就職先はどのようにして決めたのですか。

小城 社会人として何をしたいかを考えた時、「小さな会社を大きくしていく手助けがしたい」と思いました。そこで銀行ならたくさんの会社を外部から見ることができるし、融資や審査を通じて自分の思いが実現できるのではないかと考えたのです。ところが、私が就職活動をした1996年当時は超就職氷河期でした。銀行の総合職は、男性100名の採用枠があっても女性は1~2名しかなかったのです。
なかなか内定をもらえず、大学の就職課に相談したら「それならベンチャーキャピタル(以下、VC)を受けてみたら?アーリーステージの熱い会社を見られますよ」と勧められました。それまでは知らなかったけれど、VCはおもしろそうな仕事だなと思って入社することにしました。

──VCに勤めている時に資格取得を考えるようになったのですか。

小城 そこで知り合った公認会計士(以下、会計士)の方に「あなたは会計士に向いているから試験を受けてみたら?」と勧められたのが資格取得を考えた最初です。ただ会計士は大手企業を監査するのが仕事ですが、私は小さい会社が成長するのをバックアップしていける税理士のほうがいいと思ったんです。それに税理士は1科目ずつ、全部で5科目取ればいいので、性格的にも能力的にもオールマイティではない私には向いていました。
 そこで会社を辞めて、2年間税理士受験に専念しました。試験が一段落したところで株式会社KPMGピートマーウィック(現:KPMG税理士法人。以下、KPMG)に入りました。その後、法律会計事務所に職場を移し、死に物狂いで実務経験を積むことと受験勉強に励んで、2005年には金融会社のオリックス株式会社(以下、オリックス)の投資銀行本部に転職しました。職場では常に新しい仕事を覚え、受験指導校では膨大な量の税法を学ぶ日々が数年ほど続きましたが、苦労の甲斐あってオリックスに入社した2005年に5科目すべてそろい、翌2006年に税理士登録をして、2008年10月に小城麻友子税理士事務所を開設しました。

「VC→税理士法人→会計事務所→金融会社」とキャリアチェンジ

──独立開業前の業務についてお聞きしたいと思います。VCではどのような仕事をしていましたか。

小城 VCは自社資金での投資だけでなく、他の会社からお金を集めてファンド(投資事業組合)を作って投資をするのですが、そのファンドの管理や運用と決算書作成をする部署に配属されました。本当は審査や融資、投資先事業部に行きたかったのですが…。

──税理士業務の実務経験を積むためにKPMGを選んだ理由について教えてください。

小城 当時は日本経済新聞の一面に出てくるような会社にアドバイスをするのがすごくいいなと思っていて、それなら大きなところのほうができるのではと思い、国内最大級のKPMGに入りました。ただ業務としては外資系法人の内国法人の申告業務が中心で、思い描いていた世界とは違い、1年で退職しました。
その後、会計事務所に転職して3年ほど勤めています。こちらでは、通常の法人や個人の申告業務の他にデューデリジェンスといった企業評価の仕事も経験できました。その後、オリックスの投資銀行本部に転職しました。

──なぜ会計事務所から金融会社のオリックスに転職したのですか。

小城 会計事務所にいると、資格を持っている人と持っていない人がいて「自分は持っていないんだ」と引け目を感じるような気がしたんです。「それならいっそ資格とは関係ない会社のほうが、気にしないで仕事ができるのではないか」と思ってオリックスに転職を決めた途端、5科目に合格することができました。
転職のもうひとつの理由は、法律会計事務所がとても忙しくて繁忙期になると休日出勤もあったことです。当時、法人税法を勉強していたので勉強もかなりきつくて、しなければいけないことがたくさんあって、そこで仕事でミスをしてやり直しをしたり…。いっぱいいっぱいになりました。これは精神的に無理だなと感じたんです。勤務時間がもう少し短いところに移らないと合格できないと思って転職しました。
 オリックスの投資銀行本部では当初ファンドの管理業務として、計数管理、運用報告作成に携わりました。ただ仕事内容としては、VC時代の仕事と同じように数字を作る仕事だったので、もうちょっと違うことがしたくて、異動希望を出したところ、同じ投資銀行本部の中で投資先、買収先を見つける営業部の事業投資グループに移ることができました。これはVC時代からやりたかったことでした。そこで買収先を見つけてきて企業評価をして格付けを上げる業務、いわゆるM&A、MBOや事業承継が絡んだプリンシパル投資業務に携わるようになったのです。オリックスには独立するまで3年間勤務しました。

4科目、5科目に苦しんだ6年間

──小城先生は2年間受験に専念されていますが、それは集中して一気に合格しようという判断だったのですか。

小城 そうですね。2年間で合格できるのだったら専念して、そこから次の仕事を探したほうがいいという考えでした。ビギナーズラックで1年目に簿記論、財務諸表論、消費税法に合格して「これなら楽勝だ」と思ったんですが、2年目からはなかなか合格することができず、3年目からは会計事務所に務めながら何年も受験を続けることになってしまいました。

──2年目の不合格で、もう1年受験に専念しようとは思わなかったのですか。

小城 私は大学受験でも浪人しているので、そこまで親に迷惑かけるのはいかがなものかと思ったんです。きっと働きながらでも勉強できるだろうと判断して、仕事を始めました。
 でも実際は9~17時で働いていると時間がなくて…。勉強はやはり楽しいものではないので、時間を強制的に作るのはとても難しかったですね。結局3年目は法人税法と国税徴収法を受けて落ちて、4年目に法人税法だけ受けて合格。5年目に国税徴収法だけ受けてダメで、6年目にやっと合格したんです。だから2年目以降はつらかったですよ。6年目は、ここまで何年も仕事が忙しい中で受験してきたので、「これで合格できなければあきらめよう」と腹をくくって受験した感じでした。

事務所見学会で独立を即決

──税理士をめざしながら会計事務所に勤務され、オリックス勤務時に税理士登録をされました。大きくキャリアチェンジされたわけですが、いつ頃から税理士としての独立を意識されたのでしょうか。

小城 オリックスの事業投資グループに異動してからは非常に忙しくて、終電を過ぎてタクシーで帰ることもしばしばありました。それだけ忙しい思いをして、チームで案件をあげても上に通らず、「自分の仕事の意味ってなんだろう」という思いが募っている時に、たまたま株式会社TKC(以下、TKC)の事務所見学会に参加してみたんです。
 TKCのセンター長代理、事務所の大御所の先生、もうひとり税理士の方と3人いました。そこで「質問をどうぞ」と言われたんですが、開業したいと思っていないので私には質問がないんです。そこで「すみません。私はまだ会社に勤めているので、どういう質問をしていいかわらないんです。いろいろ教えてください」と言ったら、大御所の先生が「私はいま売上が○億円あります。でも、もう一度事務所を新しく作る機会があれば、今の自分の資産を全部捨ててもう一度やってみたいと思う。そうしたら、もっと良い事務所が作れると思うからです。事務所の運営は大変だったしつらかったけれど、今から思うとすごく楽しかった。もう一度できるならやってみたい」とおっしゃるんです。
 私はその時「こんな何億円もの売上がある人がそれを捨てて、もう一度やりたいと思うくらい独立開業は楽しいんだ!」と衝撃を受けました。私もその先生と同じ資格を持っているのに、精神的に充実した毎日ではなかった…。その時「自分も資格があるわけだから、がんばれば先生と同じ世界にいけるんだ」と閃いて「私もやってみたいと思います」とその場で宣言したんです。向こうもびっくりされてましたけど、それぐらい大きなインパクトを受けました。

──つまり事務所見学会に行くまではまったく独立を考えていなかったのに、その場で即決。決断に迷いはなかったわけですね。

小城 なかったですね。それに今は元気なのですが、その頃母が手術を受けたこともあり、私は一人っ子なので、会社員でいるよりも、何かあった時に自由に時間が使えるので、ちょうどいいかもしれないと思いました。それが2008年6月で、オリックスには9月まで在籍して10月に独立開業しました。

──会計事務所をサポートする会社は他にもありますが、TKCを選ばれた理由はありますか。

小城 正直なところ、独立はまったく考えていませんでしたので、他社との比較はしていません。見学会で独立を決め「入ります」と言っちゃったので(笑)。でも、税理士の知り合いが多くはなかったので、困った時に相談できるのはありがたいなと思いました。会計ソフトという意味からすれば、どこのものであっても、基本操作にはそれほど差はないはずで、TKCのソフトを使ったことがなくても、慣れればすぐに使えるようになるだろうと思いました。

──独立を決意してから、実際の独立まではたった3ヵ間ですが、その間に準備はされましたか。

小城 最後の1週間は有給休暇の消化のために休みましたが、それまでは普通に勤務していたので、特に何もしませんでした。9月からTKCに入会してそこから少しずつホームページや名刺を作り始めましたが、あまり時間がなかったので時々声をかけていただいたTKCの研修に行く程度でした。

──独立開業をする、自ら事業を起こすことに対しての不安はありませんでしたか。

小城  記憶があいまいですが、何とかなるだろうと思っていました。大きな決断をする時には結構楽観的なんです。小さい決断をする時にはかなり迷うんですが(笑)。
オリックスでは投資前提で良い会社にしていくためのコンサルティングを学んでいたので、やり方の大まかなポイントは何となくわかっていました。そのアプローチで差別化などにつなげていけば何とかなる気がしました。
 TKCの新入会員向けのセミナーに出席したことがきっかけで、先ほどお話しした大御所の先生に、毎月の関与先拡大の営業報告を提出していました。そこに「なかなかお客さんが増えない。どうしよう」と悩みを書いたら、「とにかく寝る時間も惜しんで仕事をしなさい。営業方法も自分が思うすべてを試してみなさい。全部やって、それで私が『それならしょうがないよね』と思うことがあったら、何とかしてあげます。だから一生懸命やりなさい」と言われたんですね。
 逆に言えば「もうこれだけやったんだから何とかして、と言えるんだ。じゃあがんばるしかないよね」と思ったんです。営業報告は今でも出していますが、今のところは「何とかしてください」と言わずに済んでますけど(笑)。
不安は今でももちろんありますが、「不安でどうしたらいいんだろう」ということはありません。開業当初はお客様もゼロ件で「このまま増えなかったらどうするんだろう」という不安はありましたし、やり方での反省も多いですが、今できることはすべてやり切っていると思っています。

──プライベートで結婚などがあって独立が予定通りいかないこともあると聞きます。そのあたりはどう考えていましたか。

小城  女性の場合そこがネックになることもありますよね。私の場合、独立する時は独立してやりたいことをやるほうが重要でした。私はたまたま結婚していませんが、独立するから結婚はしないと決めた訳ではないですし、結婚や子育てと独立は、必ずどちらかしか選択してはいけないという訳でもないと思います。開業するといっても、すごく大きな事務所を借りて何百件もの顧問先がなくても、今できる範囲内でやるということも可能なので、プライベートのほうに少し重きを置きたいのであれば、それでも別に構わないと思うんです。そこはやりようで、「こういうかたちでなければいけない」ということはないんです。TKCでは顧問先の件数が多く拡大していくのが良いと言われていますが、それはひとつの路線・ロールモデルであって、件数が少なかったとしても1社あたりの顧問料を多くいただければ、件数が多いところと同程度の利益は上げられます。いろいろなやり方があると思うんです。
 独立したばかりの頃は、TKCの新入会員同士の関与先拡大の自主勉強会に参加していて、そこでは今月何件増えたかを全部報告するので、「何であの人は簡単に増えるのに、私は増えないんだろう」という思いがありました。最近になってようやく比較するものではないんだ、とわかってきましたね。比較しても相手は私と同じことはできないかもしれないし、逆に私は相手のしているサービスができないかもしれない。基本は同じですけど、やり方やどう見せるかは性格や考え方、それまでのキャリアで違うので同じようには絶対できない。だから比較しても仕方ないと学びました。

2年目に受けた相続案件が転機

──顧問先ゼロ件からスタートして、どのようにして増やされたのですか。

小城 考えられるありとあらゆる方法を試しました。セミナーや勉強会、情報交換会に参加したり、自分でセミナーを開いて「来てください」とビラをまいたり、金融機関からお客様を紹介してもらうために挨拶に行ったり。私はそういうことがすごく苦手なんですけど、背に腹はかえられないので、そのような取り組みもしました。あとは新設法人に勧誘のDMを出したり、メディアやネット、紹介会社と、先輩方が「こうやりました」と教えてくださった方法は一通りやりました。

──ゼロから1になるまでどれぐらいかかりましたか。

小城 3ヵ月ぐらいかかりました。最初のお客様は業歴の長い印刷関係の経営者の方でした。関与が決まった時はすごくうれしくて、1件でもお客さまができたら買おうと思っていた手帳を記念に買いました(笑)。

──開業3ヵ月で1件目ができて、2年目はどのようなペースになりましたか。

小城 私はペースが遅いので少しずつ増えてきた感じで、2年目に10数件になりました。この2年目に元同僚のお父様が亡くなって相続の相談を受け、これが資産税関連業務をやってみようと思ったきっかけでした。それまでまったく相続税を勉強したことがなかったのですが「わかりました。やります」と受けてから、自分でも勉強して、業務を進めると共に、学校に相続税法の勉強に通いました。やってみると相続は「仕事としてやりがいがある」ことがわかりました。いろいろな評価の工夫や、財産の分け方によって、税金の金額が変わるんですね。法人決算の場合、決算書が間違っていない限り税金は基本的に同じですが、相続はアドバイスの仕方によって税額は変わってきますので、今の財産をどのように次世代に遺したいかという相続人の方の意向を汲んで進めていくことにやりがいを感じました。相続案件を早い時期に受けることができたのは、とても大きなメリットだったと思います。

税理士になって良かった

──現在の顧問数を教えてください。

小城 開業10年目の今年、法人・個人の月次顧問30件弱です。業務内容は月次で監査をし、決算申告までというオーソドックスな部分と、一部の関与先では経理部の業務フロー改善なども行っています。その他は、相続申告や対策のアドバイスです。どちらも基本的に紹介でいらしたお客さまがほとんどですね。

──今後の方向性についてどのようにお考えですか。

小城 顧問数を100~200件にしていきたいかというとそこまでは考えていませんが、もう少し件数がほしいと思います。ある程度自分の目が届く件数、自分が巡回監査に行かなくとも、関与先の近況を把握できる件数で、お客様から高いフィーをいただければいいなと考えています。となると月次監査だけではなく事業計画や経営アドバイスをして付加価値を高めることをしていかなければなりません。つまり1社ごとにより深く関わっていく。すると支払う側にとっても価値あるお金になるのではないかと思います。
 できれば自分の顧問先は全部、私の好きな社長で固めたいですね。「私の好きな社長」というのは「その人のためだったらどんなことでもしてあげたいと思える社長」。この人のためなら、徹夜して何か資料を作ったり、アイデアを考えたいと思うくらいの人です。

──組織の今後についてはどのように考えていますか。

小城 今、正社員1名とパート1名で、基本的に私も皆も巡回監査に行く分担制ですが、巡回監査業務を大方はスタッフに任せて、私がレビューして要所要所で社長と話をしていくのが理想です。まだ私がやっている部分が多いので、そこをもう少し改善して自分の時間が作れるようにしていきたいですね。そうすれば付加価値となる部分を考える時間ができます。
 ただし、税理士の資格は個人に与えられるもので事務所に与えられるものではないので、要所要所か、数件なのかは分かりませんが、多少の会計税務の実務は自分でも続けたいと思います。

──税理士になって良かったと思いますか。

小城 良かったです。何より自分のやったことが即相手に伝わるので、「助かった。ありがとう」と言ってもらえます。組織の中では自分がこうしたいと思っても、上の判断でできないところがありますが、すべてを自分の裁量でできることもやりがいですね。

──プライベートとのバランスはいかがですか。今は仕事中心の生活なのでしょうか。

小城 そうなってしまってますね(笑)。それがいいと思っているわけではないんです。もうちょっと自分の時間も充実させないと良い仕事もできないので、本来はもう少し休めればいいのですが、自分に課されている責任を考えると「ごめんなさい、期日までに終わりませんでした」では済まされないので、どうしても仕事を優先してしまいます。

──では目下の目標はプライベートを充実させることですね。

小城 そうですね、夏休みをできるだけ長く取れるようにすることでしょうか(笑)。そのためにもう少し人を増やしたいです。任せられるスタッフを増やしてマネジメントや、事務所全体の水準を上げるための仕組み作りに時間が割けるようにして、プライベートも大切にしたいですね。

──税理士会やTKCの活動には参加していますか。

小城 税理士会では普通の会員ですが、TKCでは所属の地域会で研修所長を務めているので、研修の企画やアテンドをしたり、会議出席も定期的にあり、会務に時間を割くことも多いです。一方で職員研修の付き添いをすると、他事務所の職員さんの言動から「スタッフにこうしてあげればいいんだ」とわかるので、事務所にフィードバックできます。それはとてもプラスになりますね。

「ダメだったらどうしよう」は考えない

──学生時代に税理士の勉強を始めていたら、違っていたと思いますか。

小城 もっと早く合格していたかもしれないですね。やはり年を重ねると資格取得の勉強をするのは大変になるなと感じました。20代から30代になる頃にかけて勉強していたのですが、20代の頃であれば我慢して机に向かうことができても、段々辛抱する精神力がなくなってくるんです。仕事だったらいくらでも机に向かっていられるのに、同じことを覚えたり結果がすぐには目に見えないことを続けていくには、精神的にも肉体的にもきつくなるんです。そういう意味では早く始めたほうが合格する確率は上がると思いました。

──今から税理士をめざして、先生のようにゼロから開業することは可能でしょうか。

小城 できると思います。税理士はAIによってなくなる職業と言われることもあるようですが、それは記帳代行や申告書作成に限ったことだと思います。TKCにも今はそうした作業を自動で仕訳してくれるシステムがあって、経理がいらなくなると言われています。
 でもAIが作った試算表をたたき台にして、新しいことを一緒に考えてあげたり、悩んでいる経営者の相談相手になる、あるいは経営分析をして経営者の希望を反映して「もっと良くするにはどうしたらいいか」と問いかけができる存在になる。そうした経営者のためになることができれば、顧問料が高いといわれることもないでしょうし、仕事がなくなることもないはずです。

──小城先生は思い悩んで途中で道を変えたりしながら、独立の道を進む今があると思います。『TACNEWS』の読者とこれから資格取得をめざそうとしている方にメッセージをお願いします。

小城 まず自分の今の仕事や、やるべきことを一生懸命やってみてください。それでもやはり違うなと思うのであれば方向転換するのもいいでしょう。そして決めたら「ダメだったらどうしよう」とは考えない。やるしかないので、決めたらそれをやり通すことですね。