特集 教養を武器にした保険営業教育
~ホスピタリティで差をつける~

生命保険のセールスパーソンを営業の力のみならず、
人間力、品格、倫理観、教養を備えたホールパーソンに育てていきます。

小口 直行さん
Profile

小口 直行氏

株式会社LUAC 専務取締役

小口 直行(おぐちなおゆき)氏
1954年生まれ。北星学園大学経済学部卒。 1977年株式会社ヤナセ入社。 1991年 1月、プルデンシャル生命保険株式会社に入社。札幌支社長、沖縄支社長を経て、2008年3月、東京本社戦略担当本部室長に就任。2013年4月、プルデンシャル・ジブラルタエージェンシー株式会社執行役員に、その後2016年10月、株式会社LUAC専務取締役に就任。

 株式会社LUAC(ルアック)は、生命保険営業社員の質と地位向上を目的とし、2008年にTACの関連会社として設立された。一時は一般企業や学校などにおけるヒューマンスキル系研修全般を中心に事業展開してきたが、2016年10月に小口直行専務の入社を機に、再び生命保険の営業社員研修に軸足を置くことになった。生命保険営業社員のスキルはどのように磨かれるのか、その使命とは。小口専務の話から、生命保険営業には士業と通底するファクターがあることが見えてきた。

──最初に生命保険とはどのような商品なのか、ご紹介いただけますか。

小口 生命保険といえば「死亡時に死亡保険金が出る。けがや病気で入院した時に入院給付金が出る。商品によっては解約返戻金としてお金が貯まる」、一般的にはこの3つくらいしか知られていないのではないでしょうか。ところが生命保険は金融庁の認可商品で、若干各社で差はありますが、使い方によっては20通り以上の使い方ができるのです。今、銀行預金はゼロ金利でまったく利息はつきませんね。生命保険なら、生命保険会社がお金を運用してくれて、その運用利率も銀行よりはずっと高い。たとえば解約返戻金のある保障に入っていれば保険料払込終了後、解約返戻金を年金のように毎月もらえるようにもできるのです。それをご存じないので「生命保険に入っても無駄」という方がたくさんいるんです。でも、生命保険は金融商品で、有能な営業担当がいることによって、あらゆる状況で使い勝手のよいものになるのです。生命保険ほどすばらしい金融商品はありません。

──そのような使い方ができるとは、まったく知りませんでした。

小口 知らない方が多いと思います。実はそこが一番の問題点なのです。被保険者が亡くなられなくても保険金は途中でももらえるし、例えば交通事故で両目を失明したり、両足を失った場合は高度障害ということで死亡保険金と同額が支払われます。また、身体障害状態になった場合は保険料を支払わなくても保険は継続される。ところが身体障害状態になっても保険料を支払っている人が世の中には大勢いる。なぜ今まで払っていたかと聞くと「5年前に保険会社の担当者が辞めて居ない。今の担当者がわからない」と言うのです。それ自体、生命保険を有効に活用していないということですね。
 例えば子どもの場合、小中学生になってから難病に罹ってしまうと生命保険には入れなくなります。だからアメリカでは子どもが誕生したら7日以内に洗礼を受け、その日に0歳児で保険に入ります。そうすればそのお子さんが50歳、60歳になっても支払う金額は0歳児の保険料ですし、小さいお子さんはリスクがほとんどないので無条件で入れる可能性が高いのです。アメリカでは保険会社の担当者が教えてくれるのに日本では誰もそういったことを教えてくれない。そこがアメリカと日本の大きな相違点なのです。

ライフアンダーライター教育をめざす

──小口専務がこれまで積んでこられたキャリアを紹介いただけますか。

小口 新卒でヤナセに入社して、営業として新人賞から連続14年間、優秀社員賞をいただいたのが営業に関わった最初でした。14年間勤務した後、プルデンシャル生命保険株式会社(以下、プルデンシャル)に入社して札幌支社長12年、沖縄支社長2年を経て東京本社勤務となり、社長と直結した戦略担当本部室長となって、支社の立て直しや業績改善等、多くのプロジェクトに携わりました。2013年4月からはプルデンシャル・ジブラルタエージェンシー株式会社の執行役員として、生産性をグループトップクラスにまで押し上げました。ということで、私は生命保険の営業に関わるあらゆることをやってきています。そして2016年10月より人材能力開発事業を手がけるTACの関連会社・LUACの専務取締役に就任しました。

──生命保険の営業スキルはどのようにして磨くのですか。

小口 アメリカの生命保険会社の営業社員は、一生営業でいくのか、途中から管理職に進むのか、2つのルートに枝分かれしていきます。そしてスタートの営業社員のステージからすべてのステージごとに、様々な教育研修プログラムが揃っています。プルデンシャル生命保険株式会社では、質と付加価値の高い内容のセールスパーソン用の教育を実施してきました。この教育は脈々と受け継がれ、プルデンシャルに入社した私にも引き継がれたのです。

──長年の営業としてのキャリアとアメリカの質の高い保険営業スキルの洗礼を受けた小口さんに、LUACから白羽の矢が立ったのですね。LUACという社名はどのような意味なのですか。

小口 LUACは「ライフアンダーライターズアカデミー」つまり「生命保険に携わるセールスパーソンの学校」という意味です。わかりやすく言うと「生命保険を欲しいと思っているお客様のリスクを実情調査して、どの程度の経済的保障が必要なのか。きちんと分析して根拠のある生命保険を提案してくれるセールスパーソン」ですね。
 LUACは保険の営業研修を転用して一般企業などにヒューマン系研修(新人研修から管理職研修まで)やコンサルティングを展開してきました。 しかし、本来のライフアンダーライターの教育育成がやりたいという思いはずっと社長の福田にあって、「当初の目的の生命保険の営業社員研修を、ぜひ一緒にやりましょう!」と、私に声をかけてくれたのです。

──生命保険の営業社員教育として、どのような展開をお考えですか。

小口 生命保険の営業社員対象のセミナーは全国各地のセミナー会社やなどが主催していて、理論的なことについては対応されているようですが、実際にその知識を使ってどうやって相手に生命保険のニード喚起をし、相手の満足に至るような契約に結びつけていくのか、実践の部分はあまりできていないのが現状です。
 そこで、プルデンシャルで25年以上培った経験とスキルを持つ私が、契約者や見込み客に対してどうやってニード喚起ができるのか、実践を活かしたセミナーで教育していこうと考えています。
 もう一つは、営業管理職、特に人材採用に関して皆さん苦戦しておられるようなので、リクルートについてもきちんとしたやり方をセミナーで伝授し、良い人材採用につなげていただきたいと考えています。営業管理職の仕事は採用と育成、この2つです。採用がうまくいかず適性のない人を採用すると育成はできません。
 以上が、まずやりたいこと2点です。さらに言えば、同じ営業社員に対するセミナーでも、特定の見込み客に対してのスキルアップも考えています。例えば、ドクターマーケットをターゲットにするのであればドクターの基礎知識を学べる勉強会を開き、相続をやりたければ相続でどのような基本的な知識を身につけていなければならないかを勉強していきます。

質の高い営業社員を育てる

──生命保険の営業の課題とプラン設計方法を教えていただけますか。

小口 生命保険の場合、自ら保険を買いにいくかといったらおそらく誰も買いにはいきません。毎日忙しく暮らしていると、自分の生活の中にリスクがあって、自分に何か起こった時にどのような保障が必要になるかなど、考えたくないからです。
 そこで、生命保険の営業社員は見込み客が現在抱えているリスクと将来かかえるであろうリスクを明確にするために、実情調査をします。それにより生命保険のニードを気付かせてあげることが重要です。ニード喚起した後にニードの特定をすることで、いろいろな保険を組み合わせてリスクカバーされるプランを設計します。つまり「オーダーメイドの生命保険」を設計するのです。

──これまで「オーダーメイドの生命保険」を完全に提供している会社は少ないですよね。

小口 そうなんです。一般的に売られているのは保険会社が作るパッケージ化された商品です。パッケージの場合、誰にでも同じ商品を勧めるので合うか合わないかわかりません。
 ソニー・プルデンシャル生命保険株式会社が日本で初めてオーダーメイド商品を作りました。その後プルデンシャルが独立し、各業界の優秀な大卒の営業をヘッドハンティングしてライフプランナーに転職させたのです。
 家族構成も経済環境も全部違う。もっと言えば将来の夢も違う、将来独立開業しようという人とサラリーマン、公務員や医者になろうという人では必要な保障内容がまったく違いますね。そうした将来の夢まできちんと捉えた上で、役に立つ保障をその人その人に合わせてオリジナルの保険プランとして作るのがオーダーメイドのやり方なのです。

──オーダーメイドの生命保険を売るためにはどのような能力が必要ですか。

小口 生命保険は色や形が見えないし、その効力というのは自分が入院したりしない限り見えてきません。 生命保険はニード喚起をしない限り、つまりその人が本当に生命保険の必要性を感じない限り、欲しがらない商品なのです。良い洋服だったら買いたいし、おいしい食事は食べたいと思うけれど、生命保険をどれにしようかと朝から晩まで考える人はあまりいないでしょう。
 それが生命保険という商品なので、「短い時間でいいですから少しだけ現在と将来に関して生命保険の必要性を考えてみましょう」とニード喚起する能力が、営業社員には大いに必要とされるんですね。

──色も形もないものにお金を払って、サービスが終わってから初めて必要性や良さがわかるのですね。

小口 そうですね。オーダーメイド保険を作るには個人的なことをいろいろと聞かないと作れません。しかも、いろいろな会話を通して信頼を得て、「この人だったら話してもいいな」と思われない限り、詳細な個人情報は提供していただけません。信頼関係をいかに短時間で築けるかが重要なのです。

──オーダーメイド保険ではどのような対応をするのですか。

小口 プルデンシャルは最低年1回はお客様にお会いします。お客様の家族構成や経済環境を確認するためです。新たに考えられるリスクがあればそれに対応する保険をお勧めします。そうした形で毎年毎年その時の情勢に合ったクオリティサービスを提供していかないと、いざという時に生命保険は役に立たないのです。
正しい生命保険の加入の仕方、使い方をきちんと教えるのは誠実で信頼できる営業にしかできません。その売り手となる優秀な営業社員を育てるためにLUACがある。私どもが生命保険営業に関わる研修を実施することによって、質の高い生命保険を全国のお客様に提供できると信じています。

──オーダーメイド保険を勧めてくれる営業社員は現状ではほとんどいないように思うのですが。

小口 プルデンシャルとソニー生命保険株式会社(以下、ソニー)の営業社員なら、オーダーメイドの保険に堪えうる商品構成と営業力を持っています。この2社はトップ営業マンをヘッドハンティングで採用しているので、営業能力も高いし、お客様からの信頼度も高く、生命保険以外の知識も豊富で生産性も高い。この2社のエグゼクティブライフプランナーの営業社員になるには、まずFP1級を持っていなければなりませんし、 TLC(生保協会認定FP)会で行われている生命保険業界の共通教育制度の一番上級コースである生命保険大学課程まですべて取っていなければなれません。ですので、かなりハイレベルな知識と経験値を持ったプロフェッショナルと言えます。

──LUACがターゲットとしているのは、どのような営業社員ですか。

小口 プルデンシャルやソニー、あるいは他の外資系生命保険会社で保険営業に携わっている方々が中心になりますね。つまりアメリカのように営業社員から入って営業所長、支社長、営業部長、本部へとキャリアアップして営業管理職になっていくとしても、少なくとも最低数年間は自分で死に物狂いで生命保険を売ったという経験のある方が対象です。
 プルデンシャルもソニーも営業社員は最初は男性だけでしたが、現在は2社とも大卒の女性社員を採用していて、現在プルデンシャルでは営業社員約3,800人のうち300人くらいが大卒女性です。将来営業管理職となっていく彼女たちもターゲットになりまる。
 今では日本国内の大手保険会社も一生懸命追従しようとしているので、これまでの保険営業社員のスタイルは徐々にプルデンシャルやソニーのやり方に変わっていくでしょう。
 そこでLUACは数ある保険営業社員研修とは違ったスタイルの打ち出し方、つまり売り方まできちんと教え、さらに言えばもっと細かくマーケットごとにセグメントした研修を実施していこうと考えています。

── 小口さんがLUACに入られて、これからやってみたいと思われていることは他にありますか。

小口 実はプルデンシャル時代でひとつ、やり忘れていたことがあります。営業教育はさておき、倫理観や品格、教養の教育が充分になかったことです。
 営業社員としてスキルは身につけてきたけれど最終的に優れた人格で教養や品格があり倫理観を持った完璧な人、これを英語ではホールパーソン(whole person)と言いますが、そのホールパーソンを醸成するのが最終目標です。例えば日本画や洋画をぱっと観て誰の描いた絵かわかる、クラシック音楽や演劇、能や文楽といった日本の古典芸能も理解し、最低限のテーブルマナー、話し方から所作マナーが備わっている。そういった教養が備わっていればいるほど幅広いタイプのお客様と付き合っていけるのです。LUACでは営業能力だけでなく、教養や倫理観、品格、話し方、所作マナーとすべてを教えていきます。
 究極的には、営業能力は高く、一般教養から品格、倫理観まで持っている非常に素晴らしいホールパーソンを育成するリベラルアーツアカデミーにすることが私の最終目標です。2年ほどで、卒業できる学校のようなアカデミーができたらいいですね。実現したらLUAC出身であることがプライドになり、そこに絶大な信頼感がある。それがLUACのめざす将来像です。
 優秀な営業社員がこの生命保険の仕事をやっていて良かったと思う時は、保険事故が起きてお客様に保険金や給付金をお届けし「ありがとう」と感謝される瞬間だといいます。LUACは数ある研修会社の中できちんと人を育てるという大きなミッションを大切にアカデミーの発展をめざしていきます。

──組織人として、倫理観はとても重要なファクターになってくると思います。

小口 今、倫理を教えることを忘れている企業が多いのではないでしょうか。倫理観がベースにないと「いいや、お客さんが何も言ってこないなら放っておこう」といった状況になってしまいます。こんな時代だからこそ、倫理観やモラルを教える重要性があると思います。
 倫理観とともに大事なのは品格です。それが男性でも女性でも一定の年齢になったら魅力になる。ただ高収入があるだけではお客様に信頼されないし、マーケットは広がっていきません。最終的にこうしたことをLUACでできれば最高ですね。そうした将来像を描きながら発展させていきたいと考えています。

士業に通ずるリベラルアーツと信頼

──一般企業向けに生命保険の営業社員研修を応用するにはどのようなテクニックを使いますか。

小口 生命保険の営業は究極の営業なので一般の営業職に応用できるスキルと考え方がたくさん含まれています。今後余裕ができたら一般企業向けに内容を吟味したプログラムも組みたいと考えています。
 例えば採用面接のテクニックですが、一般企業でも面接に時間をかければ良いというものではありません。どういう質問を投げ掛けるか、どういう答えを求めるかというテクニックをしっかりと持って面接をしないと、だらだらと時間ばかりかかって相手の人物像がわからないままになってしまいます。生命保険会社の営業面接はまさに一瞬でその人の能力を見極めようというもので、そのノウハウは一般企業でも充分使えます。
 その他、お客様の信用を得るためにはどういうニーズがあるかを聞き出すこと。カタログ販売なら営業との信頼関係などなくてもその製品に信頼性があればいいのですが、生命保険の場合は営業社員に対する信頼がないとお客様の情報を引き出すことはできません。信頼されてお客様の情報やニーズを引き出せれば本当にこれで良かったと言える商品を勧められます。
 こうしたスキルは一般企業にも大いに転用できるセールススキルなので、そういうものを選んで研修を組み立てていきます。

──保険の営業社員が倫理観、教養、知識と信頼を武器に今までにはないサービスを打って出るという話は、弁護士、公認会計士、税理士といった士業にも相通ずるものがありますね。

小口 そうですね。オーダーメイドでそれぞれに対応しようという部分は本当に同じだと思います。オーダーメイドでするにはいろいろなニーズを引き出さなければなりません。そしてそれを売るには質の高いサービスがなければ売れません。ぜひとも質の高いサービスを提供するため、士業の方にもLUACに通って研鑽していただき、クオリティサービスを勉強して、お客様の幅を広げていただきたいと思います。顧客満足度が上がれば、そこからまた新しい見込み客が広がって商売につながっていきます。

──資格試験や会社の中でのスキルアップをめざしているTACの受講生に向けて、アドバイス をお願いします。

小口 最終的にLUACが求めているのは、サービスではなく、さらに上の「ホスピタリティ」です。「相手がこうしてくれるだろう」ではなく、「こんなことまでしてくれるの!?」という驚きと感動、そしてお客様が想像もしていないようなクオリティサービスをめざしています。
 私は今の時代にいかに競合他社に差をつけるかは、ホスピタリティだと思っています。そこに品格や倫理観、教養がつながってくる。それを知らないで営業スキルだけ磨いてもだめだということです。これからは「人間力」が勝負です。
 TACで資格取得をめざして勉強している方もぜひそこをめざして欲しいと思います。資格試験に合格して終わりになってしまう人が意外に多いと聞きますが、その後独立開業しようと思った時に、「どうやって営業したらいいんだろう?」となるはずです。そうした開業したい人や営業をしたい方たちをTACで募集してLUACの営業スキルアップセミナーで私が教える。そんな事業としての広がりも期待しています。
 私はプルデンシャル時代に全国で小口塾という塾を開いて営業の基礎を教えてきました。その塾をLUACでも活かしたいと思っています。まず営業の基本を教え、概論から具体策を教えて、実効性ある戦略と戦術を指導し、リベラルアーツまで広がる話をしていきます。戦略としてどこを攻めるか。どうやって攻めるか、戦術はどうするか。目標と戦略と戦術をきちんとひもといてあげれば、士業の方たちが開業する際に、マーケットはどこを狙うのか、どういう展開でいつまでにどのぐらいの売り上げと利益をだすのか、ひらめくと思います。LUACとTACがつながっていけば、さらに士業の世界は広がっていくはずです。

──ご興味深い話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

[TACNEWS 2017年1月号|特集]