特集 日本公認会計士協会
初の女性会長誕生

  
関根 愛子さん
Profile

関根 愛子さん

日本公認会計士協会 会長 公認会計士

関根 愛子(せきね あいこ)
1958年生まれ、東京都出身。1981年早稲田大学理工学部数学科卒業。外資系銀行勤務を経て、1985年青山監査法人入所。1989年公認会計士登録。1995年同法人社員、2001年中央青山監査法人代表社員、2006年PwCあらた有限責任監査法人パートナー就任、2016年7月同法人退所。2007年7月日本公認会計士協会常務理事、2010年7月日本公認会計士協会副会長、2016年7月日本公認会計士協会会長就任。

 2016年7月の日本公認会計士協会定期総会の終了後、関根愛子氏が新会長に就任した。初の女性会長の誕生である。大企業での会計不祥事を受け公認会計士監査の信頼回復に業界を挙げて取り組む一方で、公認会計士試験の受験者数減少への対応や女性公認会計士の増員も重要な課題として取り組まなければならない。山積した課題に、初の女性新会長はどのように取り組んでいかれるのか。その意気込みとともに、公認会計士をめざす受験生にメッセージをいただいた。

女性には拠って立つ「資格」が必要

── 関根会長は早稲田大学理工学部数学科のご出身なのですね。理系出身でありながら大学卒業後、外資系銀行に入られ、公認会計士(以下、会計士)をめざされたのはなぜですか。

関根 そもそも数字が好きだったことが大きかったと思います。でも数学科で学ぶ内容は理論式が多く数字そのものが出てくることが少なかったため、少し違うと感じていました。そのため、大学での専攻とは異なるフィールドで就職先を探しました。ただ、私が大学を卒業した当時はまだ男女雇用機会均等法が施行される前でしたので、女性については出身学部で採用試験への応募を制限する企業が珍しくありませんでした。そのため、そういった制限を設けていない外資系企業を中心に就職先を選定し、外資系銀行に就職しました。

──なぜ外資系銀行から会計士への選択が生まれたのでしょう。

関根 男女同等に仕事ができると聞いていたのですが、男性はジョブトレーニングで数ヵ月ごとに部門を異動していたのに対し、女性にはそのような機会がありませんでした。「仕事を続けていく上で、女性には何か拠って立つ資格があったほうがいいな」と痛感したのはこの時です。また、銀行で初めて「簿記」を知って、実務でのその重要性を認識していましたが、銀行に勤めて3年目の秋頃に、ちょうど知人が会計士第2次試験(当時)に合格しましたので、この知人に会計士の資格について話を聞き、自分も会計士という資格の取得をめざそうと思い、銀行を辞めて勉強に専念しました。

──難関の会計士第2次試験に、わずか1年半の受験期間で見事合格されました。

関根 ゼロからのスタートでしたので、まず簿記を1ヵ月間学び、その後会計士講座を受講しました。銀行を辞めたのが25歳のときなので最初の受験は27歳。20代のうちは落ちてもチャレンジし続けようと決めて挑戦したところ、運良く1年半で合格できました。
 何しろ仕事を辞めての挑戦でしたので、受験中は合格できる可能性を高めるために、「どのようにしたら合格できるか」というよりも「どのようにしたら不合格にならないか」を考えました。といっても、不合格になる要因を明確に知るのは難しいので、これはやめたほうがいいだろうな、と消去法で考えて実践していきました。

監査法人に30年以上勤務

──第2次試験合格後は、青山監査法人で会計士補として第一歩を踏み出されました。監査法人時代はどのような経験をされましたか。

関根 青山監査法人に入所し、その後合併して中央青山監査法人となり、2006年に現在のPwCあらた有限責任監査法人(以下、あらた監査法人)が設立されましたが、30年以上ずっと監査法人に勤務してきました。入所した1985年から2000年までの15年間はほぼ監査の現場での業務が中心でした。
 前職で外資系銀行に勤めていたこともあって、監査法人ではまず最初に外資系銀行の監査を担当しましたが、勤めていたときにはわからなかった部分がいろいろわかって面白いと感じました。企業の中で仕事をすると担当する分野は深く知り、実際の業務を経験することができますが、監査人として担当すると、外部から業務全般を把握していくことになり、監査業務を通じて様々な人から話を聞けるので、とても貴重な経験ができると思いました。しかも自分よりずっと年上で地位の高い方ときちんと向き合って話をすることになります。普通ではできない経験ができることが新鮮でしたね。入所してすぐは大変ですけれど、とても貴重な体験で「こんな職業はそうそうない」と思ったものです。

──2000年以降は仕事内容が変わってきましたか。

関根 当初は、現場でスタッフ、シニア、マネージャー、社員として監査を中心とした業務に携わりましたが、2000年頃から日本公認会計士協会(以下、協会)の仕事に携わるようになり、代表社員となった頃から、監査法人の内部の仕事にも携わるようになりました。協会では、監査実務指針を策定している監査基準委員会の委員を務める一方で、監査法人内部では、グローバルのネットワークでの会計・監査や品質管理に関わる会議に参加したり、学者の方々とともに会計・監査についての研究に携わるなど、監査現場以外の仕事が増え始めました。協会の仕事は常務理事になった2007年からさらに増えていきました。

IFRS(国際財務報告基準)の日本での動向

──IFRSに関連した業務にはいつ頃から携わるようになったのですか。

関根 監査法人に入所後5年経過した頃から米国会計基準(US-GAAP)の企業の監査を多く担当するようになり、8年経過した頃には米国に上場している日本企業を担当するようになりました。その頃から日本基準以外の基準で監査を担当している方々との交流ができていましたが、代表社員になった頃から法人のグローバルのネットワーク内でIFRSの検討を行うタスクフォースに所属し、2006年にあらた監査法人が設立された際に内部での会計基準等のテクニカルな事項を扱う専門部署のリーダーを務めることになり、徐々に本格的に関わるようになりました。さらに2010年、協会副会長就任と同時にASBJ(企業会計基準委員会)の委員に就任し、2011年からは金融庁の企業会計審議会の委員にもなったので、さらに深くIFRSの議論に関わるようになりました。

──現在のIFRSの動きを教えていただけますか。

関根 今は任意適用企業が増えてきており、これを増やしていっているところです。2009年にIFRS適用のための中間報告が出て、当時、企業会計審議会では強制適用を視野に入れて議論していました。けれども、やはり日本では日本の会計基準があるので一気にIFRSに移行することに慎重論があったのだと思います。
 会計はもともと、企業活動を映すツールとして、世界共通の部分がかなりあります。とはいえ世界の中では、各国それぞれに制度や法律、文化、歴史等の違いがあり、完全に共通化していくのは簡単なことではありません。グローバル化してはいくものの、日本のやり方で対応していかないといけないのではないか、といった意見もそうしたことから出ているのではないかと思います。
 しかしながら、グローバル化した企業活動を映すツールの存在は重要であり、その意味で、一般に国際的に高品質で統一した基準をめざそうという方向性は大切にしなければならないと考えられています。そもそも会計は企業活動を映すツールですから、企業がグローバル化してくると、会計が共通であれば非常に便利なことがたくさんあるからです。
 といっても、総論では賛成でも各論になると議論を詰めなければいけないことがあるので、今はそれを皆さんと考えながら徐々に固めていく段階だと思います。

──IFRSと日本基準はロジカルに考えるとアプローチが違うという見方もあります。

関根 確かにそういう部分があり、議論になっているところがいくつかありますが、全体としてはかなり似てきています。また、日本基準とIFRSの両方を勉強するのは大変かと思いますが、日本基準なら日本基準での考え方をしっかりと理解してマスターしておけば、いざIFRSをやろうとした時に、相違点についても理解しやすいと思います。
 実際、私自身も初めは日本基準を中心に実務を行っていて、その後、米国基準を担当した時には驚くこともありましたが、日本基準の考え方をベースに違いを見極め、「こういう捉え方もあるのだ」と理解することができました。違うといっても、基礎となるツールである簿記の部分などは同じですから、理解できると思います。
 なお、IFRSに限らずですが、会計基準等を深く理解するためには、最後は必ず原典にあたらなければいけないと思っています。もちろん、最初のとっかかりとして日本語で書かれたIFRS解説書等は便利ですので活用するのがよいと思いますが、特に専門家としては、重要なことは最終的には原典にあたるのは基本と考えており、その意味でも、IFRSを英語で読んで理解できるように、英語を勉強しておいたほうがいいですね。

──IFRSが世界共通言語として適用されるのは、もう世の中の流れになっているということですね。

関根 業種業態や制度によって懸念される部分はあるかもしれませんが、流れとしてはそうだと思います。先ほど、日本基準なら日本基準を完璧にマスターして、IFRSの勉強は後でもできると申し上げましたが、やはり両方を並行で進めていく流れがしばらくは続くと思っています。

女性初の会長誕生

──2016年7月に女性初の協会会長に就任されました。会長となられて、それまで務められていた副会長との違いをどのように感じていらっしゃいますか。

関根 副会長は会長を補佐するという職務であり、担当する分野も限られていますが、会長は全ての分野について把握し、自身で判断していくことが求められ、責任が非常に重いと感じています。

──会長を意識し始めたのはいつ頃からでしょう。

関根 副会長に就任してからは「いずれは会長に」と周囲から言われるようになったので意識をするようにはなりましたが、当初はあまり現実的な話ではありませんでした。それと同時に、副会長として6年務める中で、「この業界と日本を良くするためにはどうしたらよいか。それを行うのには誰が会長になったらよいか。自分が会長になったらできるであろうか」ということも考えるようになってきました。女性の副会長は私しかおりませんでしたので、それこそ女性初の会長という期待を寄せてくださる方もいて、様々なことを検討した結果、会長に立候補することを決めました。

──会長として今後取り組まれるのはどのようなことでしょう。

関根 協会ホームページにも掲載してありますが、取り組んで行かなければならないことはたくさんあり、それを大きく3つに整理して私の会務運営における取り組みとして示しています。
 1つ目は「公認会計士監査の信頼回復と向上」です。昨年発覚した会計不祥事を受け、公認会計士がしっかりと監査業務を遂行することができるように様々な対応をしていくことを考えています。
 公認会計士監査の信頼を回復していくためには、まずは会計士一人ひとりがしっかりと会計士に課せられた職責と使命を理解し、監査業務を遂行することが重要です。協会ではこれができる体制を整えていきたいと考えています。 
 例えば昨今、会計士に求められる業務が多い中でも、しっかり考える時間や期間を確保できるようにすることが重要と考えています。そのためにも、様々なITやAIを活用するなどして効率化も図り、仕事に余裕をもたせるといったことを検討しています。余裕というのはあくまで「考える余裕」という意味です。単に作業を終わらせるのではなく、考える余裕を持って業務を遂行することが監査の品質の向上につながると考えています。
 また、公認会計士監査は、企業の適正な経済活動を支え、日本経済の持続的な成長につなげるための前提となる極めて重要なインフラとして財務報告に信頼を付与するものですが、信頼性を確保するためには、企業の財務情報の作成者、それをモニターする監査委員会・監査役会、財務情報を利用するアナリスト・投資家、さらにはそれらを規制する当局、取引所、我々監査人といったステークホルダーがそれぞれの役割を認識し、適切な相互作用を果たすことが必要となってきます。我々会計士には、監査を担う専門家として、厳正な態度で監査に臨む責任があるのはもちろんのことですが、信頼回復のためには、こうした市場関係者の視点を重視し、連携を強化することも重要と考えています。
 同時に、将来的に監査をどのように改善し発展させていくのか、現状を適確に捉えて制度の在り方について継続的に研究し、それを発信する体制を強化していきます。

広がる会計士の活躍の場

関根 2つ目は「会計士が社会で貢献するための環境作り」です。今、準会員をあわせた協会の会員総数は3万5000人を超えました。皆さん「会計士といえば監査」というイメージがあるかと思います。実際、試験に合格した方の大半は、まず監査業務をされていますね。でも業界の状況は少しずつ変化していて、監査以外の業務に従事する方や組織内会計士、社外役員になる方も増えて、会計士の活躍の場は広がっています。最初は監査をしていてもその後の業務はかなり変わる方も多いので、最初の何年かで行う業務だけが会計士の業務ではないと考えたほうがよいと思うのです。
 私が入所した法人の合格同期の約20人に限ってみても、同じ監査法人に残っているのは数名だけで、あとは辞めて独立開業している人、一般企業に転職した人、会社の社長になっている人など、いろいろな場所で活躍しています。
 こうした多様化する会計士の業務範囲を持続的に広げるため、そして社会に貢献する会計士が信頼される品質を確実に提供できるようにするために、環境整備を進めていきたいと考えています。
 また会計士は上場企業等の監査を行うという役割があるため、東京をはじめとした大都市圏で多く働いていますが、今は農協(農業協同組合)、医療法人、社会福祉法人など全国各地の公的・非営利法人で監査の導入が進んでいますので、地方で仕事をする会計士も多く求められるようになってきています。地方創生を担う中小企業の支援という仕事も会計士の重要な業務のひとつです。そうした業務に携わる会計士の支援を行っていくには、協会本部と地域会との情報共有や連携が不可欠です。事務局体制の整備、IT・情報の有効活用を促進して、組織と財政基盤を強化しながら一体的な運営を進めていきたいと考えています。

多様な人材の活躍を支援

関根 3つ目は「国際性・多様性を担える人材の確保と会計士の魅力向上」です。最後になりましたが、人材の問題は大変重要なものと考えています。
 会計士試験の受験生が減っている一方で、大手企業だけでなく中小企業も急速にグローバル化が進んでいて、国際舞台で活躍できる会計士が多く求められています。けれども企業の海外進出支援には、語学や現地の法律や商習慣のみならず、その国の文化や経済環境などを深く理解した上での会計サービスが必要になります。このような能力を身につけるのは容易なことではありません。また、IFRSの適用や監査基準の共通化が進んでいく中、国内での基準のスムーズな適用のためにも、国際基準の設定過程から積極的に参加し、その本質を理解して、日本企業の置かれている事業環境や企業文化も踏まえて意見を発信して実務に適用していける人材が求められます。
 しかしながら、そうした人材はまだまだ不足しています。また、国際舞台で活躍したいと考える日本の若者で、その活躍の場として会計士になる道があると知っている方は少ないのではないかと思っていますので、グローバルな世界での活躍をめざす若い世代に対して、積極的に国際会計人材の必要性や魅力を紹介して、関係機関と連携して人材育成に取り組んでいくことも重要と考えています。会計の分野でそうした国際的視点で多様なことをやりたいという人には、会計士資格を取得することで、このようなチャンスを掴めることをお伝えしたいと思います。
 多様性という点では、女性の活躍推進は多様な価値観をもたらすもので、業界の発展に重要と考えています。諸外国では女性会計士の割合はかなり高いのですが、残念なことに日本ではかなり低く、協会の中でも女性会員は全体の約14%に過ぎず、欧米やシンガポールなどの諸外国や他の士業と比べても、圧倒的に低い水準です。ライフステージや家族の状況変化のために、ご自身から会員登録を抹消する女性会員も少なくありません。これは非常にもったいないことです。
 そこで、女性が働き続けるための施策として、「女性会計士活躍促進協議会」という常設機関を協会内に設置して、女性が働き続けるための支援を実施することといたしました。産休・育休を取得した場合も復帰はできるのか、前の職場に戻れるのか、子どもを抱えては今までのようには働けないのではないか、と二の足を踏んでいる女性が多いので、この協議会で女性をターゲットにした復帰のための研修やセミナーも開こうと考えています。
 私自身は女性が仕事を続けていくために、たとえ一時中断しても復帰できるようにと資格を取得したものの、結果的には一度も中断することはありませんでしたが、様々な事情で続けていくことが難しい場合もあると思います。また、私自身も資格を持っていることが自分の強みになったと感じており、女性の会長が誕生したことが少しでも力になればと思っておりますので、この機会にぜひ力を入れて取り組み、女性会計士が活躍できるようにしたいですね。

会計の基礎教育を導入

──若い世代には会計士の魅力をどのように伝えられますか。

関根 若い方はおそらく、会計士というと書類やパソコンを睨みながらチェックしているイメージをお持ちなのではないかと思います。でも実際には、工場に出向いたり、棚卸しに立ち会ったりと、現場にも赴きます。単に「数字を見る」ということではなく、数字を通じて会社の実態を把握したり、会社がどうなっているのかを考えたりするのが仕事ですから、若いうちからも興味を持って働ける職業だと思っています。こうした仕事が好きな方、会社の人と話をしてコミュニケーションを取るのが好きな方にとっては、とても魅力ある仕事だと思います。

──会計士志望者が減っている要因については、どのようにお考えですか。

関根 要因はいろいろあると思われ、少し前に就職が難しかったことが直接の大きな要因のひとつと思っていますが、状況が変わり、現状を伝えていこうとしてはいるものの、もともとこの職業が一般社会や子どもにとって身近なものではないことから、どのような職業かがよく伝わっていないということもあると考えています。私自身、大学在学中は会計を学ぶ機会がなく、会計士のことをほとんど知りませんでした。でも実は、社会の中枢となるインフラとして会計はとても重要で、その専門職としていろいろな場面に立ち合えるのが会計士です。他を見回してもこうした専門職はあまりありません。監査はもちろん会計士の独占業務ですが、それ以外の仕事でも監査で培った経験がとても役立つというメリットもあります。そうした会計士の魅力をアピールできていないのだと思いますね。

──子どもたちへの教育という側面でも取り組みをされていると伺いました。

関根 日本では、会計やお金の仕組みについては子どもに教えない風潮がありますよね。中学や高校の授業でもほとんど教えませんし、大学でも一定の学部でしか教えません。こうした環境で育って社会に出ますから、一般企業の経理部に配属されたり経営者になったりした時も、会計や数字がまったくわからないという方もいらっしゃいます。私自身も最初に勤めたときはそうでしたのでなおさら思うのですが、本当にそれでよいのでしょうか。社会の中でお金がどのように動いているかというのは、会社の経理の方や会計の専門家だけでなく、一般のビジネスマンや家庭の主婦も知っておく必要があるのではないかと思っています。だからこそお金のことをきちんと、子どもの頃から、もしくは生涯の中で身につけておくべきだ思うのです。
 お金のことを知らずに、経理のことがよくわからずに経営者になるより、そうした知識を身につけた上で経営するほうがより才能を発揮できます。実は、今年7月の協会の総会で、「女性会計士活躍促進協議会」とともに「会計基礎教育推進会議」の設立を決定しました。この「会計基礎教育推進会議」では、初等教育から生涯教育に至るまで、会計の素養を身につける機会を作ることを活動の目的に据えています。特に、この素養を身につけるにあたっては、子どもの頃からしっかりと会計に触れていく必要性がありますので、子どもたちに会計を教えることに主眼を置き、まずは、小学校・中学校・高等学校の学習指導要領に会計知識の習得に係る言及を盛り込むための活動を進めることとしています。

監査の重要性を念頭に

──今後、日本と世界経済における会計士の役割はさらに重要になってきますね。

関根 重要性は高まると思います。世の中がどんどん複雑化する中で、企業活動における作業の部分を機械に取って代わられることはあるかもしれませんが、要所要所で人による判断は必要になります。そうした場合、監査人として、また、会計専門家として、外部の第三者が見ても実態を反映したものとなっているのかを確認することは非常に重要になると思います。透明性が求められる今、企業に対して情報開示が求められることは多々あります。その際の情報の出し方も、ボイラープレートでなく、企業の実態を反映する形で経営者が考えていることを開示する必要がありますが、それが本当に実態を反映しているのかを客観的に第三者として確認するのが会計士の役割になります。
 企業の個性や主張を生かしつつ、実態を担保していく。これは非常に難しい判断が関わるものです。AIが進化しIT導入で作業の効率化を図っていますが、今後も人間の判断は重要と考えています。これから会計士をめざそうとしている皆さんには、こうしたことのできる会計士をめざしていただきたいと思います。

──これまでのお話を踏まえ、これからの会計士に期待することをお聞かせください。

関根 ひとつには、会計士の行う監査という仕事が、情報の信頼性を担保する非常に重要な仕事であるということがあります。これを単なるチェックと捉えるのではなくて、一人ひとりがしっかりと自分で考えて「この資本市場に対して信頼のある情報を伝えていくためには何をしたらよいのか」を念頭に置いて監査していただきたい。監査はチームで行いますが、チームの中でどのような立場であっても、常に自分で考えることを忘れないでほしいと思っています。
 それとともに、人の話をよく聞き、その話を踏まえて自分の考えを深めることが重要と考えています。私自身、会計士になる以前は自分で考えて自分で決めるタイプだったのですが、この仕事を始めてからは、自分が知らないことはたくさんあるのだから、いろいろな方の話を聞き、その考えを確認することによって多様な価値観の中から解を探り出すプロセスが大切なのだと思うに至りました。それがよりよい結果のために必要と感じたからです。
 会計士は、監査をしっかり行うと同時に、様々な場面で社会に貢献する機会があると思うので、それを自分で見極められるように、人の話をよく聞き、そうした多様性の中から自分の考えや価値観を見い出し、いろいろなことにチャレンジしてほしいですね。

──最後に、会計士をめざしている受験生と『TACNEWS』の読者にメッセージをお願いします。

関根 会計士は、スポーツ選手のように、実働期間が限られる職業ではありません。会計士になった時からキャリアがスタートし、自己研鑽と経験を積むことによって5年、10年、20年といった長期的なスパンで様々な分野で業務に携わることが可能な稀有な資格であると思います。受験勉強は決して楽ではないと思いますが、ぜひ皆さんには会計士になって、生涯を通じて活躍していただきたいと考えています。
 また、会計士が国際社会でも多く求められている一方で、残念ながら国際機関で活躍する日本人の会計士は少ないという現状があります。これは日本の会計士が能力不足ということではなくて、世界に出ていく日本の会計士がまだ少ないからです。これから会計士をめざす方には、国際舞台でも活躍するような大きな視野でチャレンジできる会計士として羽ばたいていかれることを期待しています。

── 本日は有益なお話をありがとうございました。

[TACNEWS 2016年11月号|特集]

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