中小企業診断士 過去問に挑戦!(2020年度 第2次試験 事例Ⅰより) 

二次試験過去問2018

本試験で出題された問題を体験し、「どのような問題が出るのか」「どのような知識・スキルを求められているのか」試験問題を見ながらイメージを高めてみましょう!

1.問題

「事例Ⅰ」

【与件文】
下記の「解法プロセス」の都合上、段落番号Ⅰ~Ⅵを設けています。

Ⅰ A社は、わが国を代表する観光地として知られる温泉地にある老舗の蔵元である。資本金は2,000万円、売上は約5億円で、中小の同業他社と比べて売上が大きい。

Ⅱ A社の売上のうち約2億円は昔ながらの酒造事業によるものであるが、残りの3億円はレストランと土産物店の売上である。現在、この老舗の当主は、40代前半の若いA社長である。A社の4名の役員は全て親族であるが、その中で直接A社のビジネスに関わっているのはA社長一人だけである。A社長、従業員40名(正規社員20名、非正規社員20名)、それにA社の社員ではない杜氏を加えて、実質42名体制である。

Ⅲ 実は、江戸時代から続く造り酒屋のA社は、現在のA社長と全く血縁関係のない旧家によって営まれていた。戦後の最盛期には酒造事業で年間2億円以上を売り上げていた。しかし、2000年代になって日本酒の国内消費量が大幅に減少し、A社の売上高も半分近くに落ち込んでしまった。そこで、旧家の当主には後継者がいなかったこともあって廃業を考えるようになっていた。とはいえ、屋号を絶やすことへの無念さに加えて、長年にわたって勤めてきた10名の従業員に対する雇用責任から廃業を逡巡していた。近隣の金融機関や取引先、組合関係者にも相談した結果、地元の有力者の協力を仰ぐことを決めた。

Ⅳ 最終的に友好的買収を決断したこの有力者は、飲食業を皮切りに事業をスタートさせ次々と店舗開拓に成功しただけでなく、30年ほど前には地元の旅館を買収して娘を女将にすると、全国でも有名な高級旅館へと発展させた実業家である。

Ⅴ インバウンドブームの前兆期ともいえる当時、日本の文化や伝統に憧れる来訪者にとっても、200年の年月に裏打ちされた老舗ブランドは魅力的であるし、それが地域の活性化につながっていくといった確信が買収を後押ししたのである。

【第1問】
以下は、老舗蔵元A社を買収する段階で、企業グループを経営する地元の有力実業家であるA社長の祖父に関する設問である。各設問に答えよ。

【設問1】
A社の経営権を獲得する際に、A社長の祖父は、どのような経営ビジョンを描いていたと考えられるか。100字以内で答えよ。

2.解説・解答

解法解説

(1) 要求内容の解釈

まず、第1問全体のテーマが、「企業グループを経営する地元の有力実業家であるA社長の祖父」であることが示されている。“企業グループを経営”とあり、さらには、「老舗蔵元“A社を買収”する段階」とある。このことをしっかりと踏まえた上で検討していくことになる。
直接の問題要求は「経営ビジョン」である。一般に経営ビジョンは、企業のトップ・マネジメントによって表明された、自社の望ましい未来像といったものである。自社が中長期的に目指すイメージや到達点といった言い方もできるであろう。

そして、冒頭文を踏まえると、ここで問われている経営ビジョンは、基本的には「企業グループとしての経営ビジョン」が問われている可能性が高いと想定される(A社の経営ビジョンではなく)。
そして、「A社の経営権を獲得する“際に”」という点については、2つの解釈が考えられる。具体的には、①A社の買収とは無関係に、この当時に描いていた経営ビジョン、②A社の買収を想定した際に描けた経営ビジョン、ということである。①であれば、A社を買収することが、経営ビジョン達成に寄与するといった構造であろう。②であれば、A社を買収すると、○○のような経営ビジョンを描くことができる、といった構造であろう。

以上から、特に「どのレベルの経営ビジョンなのか(A社単体、企業グループ全体)」「経営ビジョンとA社買収との関連性」については、問題本文の記述も加味して解釈を固めていくことを想定しながら読み取りと組み立てを行っていきたい。

(2) 解答の根拠さがし

まず、買収の経緯については、問題本文Ⅲ、Ⅳに描かれている。そして、その流れを受けて、続くⅤに経営ビジョンに直接関連すると思われる記述が書かれている。

<問題本文Ⅴ>
インバウンドブームの前兆期ともいえる当時、日本の文化や伝統に憧れる来訪者にとっても、200年の年月に裏打ちされた老舗ブランドは魅力的であるし、それが地域の活性化につながっていくといった確信が買収を後押ししたのである。

A社長の祖父が買収にあたって考えたこととして、「インバウンドブームの前兆期」という経営環境がある。このことを踏まえると、「200年の年月に裏打ちされた老舗ブランドは魅力的」だと考えたこと。さらに、「地域の活性化につながる」と考えたということである。

このことが経営ビジョンの骨子であるなら、問題要求の解釈時点で想定していた、「A社の買収を想定した際に描けた経営ビジョン」という解釈の妥当性が高いであろう。

そうであれば、結論は「地域の活性化に貢献する企業グループ(あるいは企業)となる」といったことであろう。そして、その経営ビジョン達成のための要因が、「インバウンドブームの前兆期であったこと」「日本の文化や伝統に憧れる来訪者が存在すること」「老舗ブランドが魅力的であること」といったことである。問題本文Ⅲに「屋号を絶やすことへの無念さ」と表現されており、この屋号は200年の歴史であることから、代々続いてきたものを自らの代で絶やすことに対する申し訳なさ、といったことであろうが、このことは、絶やすにはあまりに惜しいという意味合いも感じられる。このように、この老舗ブランドは魅力的なものであることが強調されていることからも、これがビジョン達成の大きな要因になる可能性は高いであろう。

さて、他の視点として、問題要求の解釈の時点でも想定したように、本問で問われている経営ビジョンが、「A社としての経営ビジョン」と「企業グループとしての経営ビジョン」のいずれであるかであるが、企業グループを経営する立場として描いていた経営ビジョンであるので、基本的には企業グループとして考えたい。よって、グループの状況を確認する。

<問題本文Ⅳ>
最終的に友好的買収を決断したこの有力者は、飲食業を皮切りに事業をスタートさせ次々と店舗開拓に成功しただけでなく、30年ほど前には地元の旅館を買収して娘を女将にすると、全国でも有名な高級旅館へと発展させた実業家である。

グループとしての事業は、A社の他に、「飲食業」「旅館」である。今回の解答の方向性として、日本の文化や伝統に憧れるインバウンド客の獲得が想定されるのであれば、飲食業については、どのような食事を提供する店であるかが描かれていないためはっきりしない部分はあるが、旅館に関しては日本の文化や伝統に触れることになるであろうし(女将という表現もそれを感じさせる)、インバウンド客であるので、そもそも宿泊する可能性が高い。つまり、老舗ブランドの蔵元が組み合わさることで、相乗効果(シナジー)が生まれることは想定される。このように考えると、やはり、グループとしての経営ビジョンという解釈の妥当性が高くなる。

(3)解答の構成要素検討

問われているのは「経営ビジョン」であるので、それに沿った表現でまとめたい。記述する解答要素の想定はしやすい設問であるが、その要素からすると、「買収の目的」のような文脈になってしまいがちである。経営ビジョンは、要求解釈の時点でも示したように、自社の望ましい未来像、中長期的に目指すイメージや到達点といったものであるため、そのような文脈でまとめたい。

今回であれば、「地域経済の活性化を牽引する存在」としてまとめる。そして、そのような未来像となるための要因であり、買収することで実現できることを説明する要素として、「インバウンドブームの前兆期であったこと(獲得できる)」「日本の文化や伝統に憧れる来訪者が存在すること」「老舗ブランドが魅力的であること」「相乗効果」といった点を記述していく。

模範解答例

老 舗 ブ ラ ン ド で あ る 蔵 元 を 加 え れ ば 、 日 本 の 文 化 や 伝 統 の 発 信 力 が 高 ま り 、 高 級 旅 館 や 飲 食 店 と の 相 乗 効 果 も 生 じ て グ ル ー プ と し て イ ン バ ウ ン ド 客 の 獲 得 力 が 高 ま る 。 こ れ に よ り 地 域 経 済 の 活 性 化 を 牽 引 す る 存 在 に な る こ と。

(100文字)

ご自身の解答と比較してみて、いかがでしたか?書けそうと思っていたのに、意外と書けなかったかもしれません。TACのカリキュラムでは、独学では得られない豊富な演習量と手厚い添削指導で2次試験対策への対応力を万全なものにしていきます。

3.解説動画

動画で解説します!
2020年度 2次試験「事例Ⅰ」第1問(設問1) 解説

ご自身の解答と比較してみて、いかがでしたか?書けそうだけど、意外と書けなかったかもしれません。
上記の解説文と合わせて解説動画を視聴していただくと、さらに理解が深まると思います。TACのカリキュラムでは、独学では得られない豊富な演習量と手厚い添削指導で、2次試験対策への対応力を万全なものにしていきます。

中小企業診断士への第一歩はココからスタート!

資料請求

この講座のパンフレットを無料でお届けいたします。

無料でお送りします!

資料請求

無料講座説明会

まずは「知る」ことから始めましょう! 無料セミナーを毎月実施しています。

お気軽にご参加ください!

無料講座説明会

中小企業診断士講座のお申込み

申込み方法は4種類

申込み方法は4つ

TAC受付窓口/インターネット/郵送/大学生協等代理店よりお選びください。

申し込み方法をご紹介します!

詳細を見る

インターネットから申込む

インターネットで
すぐに申込む

インターネットで、スムーズ・簡単に申し込みいただけます。

スムーズ・簡単!

申し込む

電話やメールで、受講相談を受け付けています。

TACの受講相談で疑問や不安を解消して、資格取得の一歩を踏み出してみませんか?

TAC受講相談

>TAC受講相談