日本のプロフェッショナル 日本の不動産鑑定士

塚本 潤子(つかもと じゅんこ)山縣 明日香(やまがた あすか)
Profile

塚本 潤子(つかもと じゅんこ)氏

一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch- 代表理事
塚本不動産鑑定事務所 代表
不動産鑑定士 宅地建物取引士 公認 不動産コンサルティングマスター


山縣 明日香(やまがた あすか)氏

一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch- 代表アドバイザー
山縣・山下不動産鑑定士事務所 代表
不動産鑑定士 不動産証券化協会認定マスター

「まち全体の価値」の可視化、次世代の育成支援、
不動産鑑定士の社会的役割向上に、
不動産鑑定士5名で取り組んでいきます。

 2026年1月に5名の不動産鑑定士で活動を開始した、一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch-。まちづくりやエリアマネジメントによって創出される「まち全体の価値」の可視化、次世代育成、不動産鑑定士の社会的役割の向上をめざしている。主要メンバーである不動産鑑定士の塚本潤子氏と山縣明日香氏に、自身の不動産鑑定士としての歩み、Archの設立とめざす方向性についてうかがった。

「まち全体の価値」を可視化したい

 2026年1月に活動を開始した、一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch-(以下、Arch)は5名の不動産鑑定士(以下、鑑定士)により設立された。その5名は、塚本潤子氏(代表理事、鑑定士)、小澤孝明氏(理事、鑑定士)、雨宮竜介氏(理事、鑑定士・中小企業診断士)、山縣明日香氏(代表アドバイザー、鑑定士)、大谷典之氏(アドバイザー、鑑定士)である。なお5名のうち大谷氏は企業勤務(三菱地所株式会社)だが、他の4名は独立開業や事業承継し、自身が代表を務める鑑定事務所を経営している。

 Archの活動目的は、もともと鑑定士が行ってきた単独不動産の鑑定評価にとどまらず、人々の活動を支える「まち全体の価値」をより可視化し、鑑定士の社会的役割をさらに高めていくことにある。

 「土地や建物は単体で存在するのではなく、地域のつながりやエリアマネジメント、そこで営まれる人々の活動によって、『まち全体』にプレミアム価値が生まれています。私たちは、その価値を鑑定士としてロジカルに説明し、社会に伝えていきたいと考えています。人々の活動の基盤となる『まち全体』を適切に評価することは、これからの社会にとってますます重要になるはずです。そして、そのプレミアム価値を鑑定士が評価することで、鑑定士の社会的な役割がより大きく、より重要なものになっていくのではないでしょうか」と、設立の思いを語るのは代表理事の塚本潤子氏だ。

 さらに、Archの目的には、次世代の育成が掲げられている。この次世代の育成は、社会全体の次世代、つまり子ども・若者のキャリア形成支援だけでなく、鑑定士の次世代の育成、実務修習生・若手鑑定士への支援という意味でもある。

 「子どもや若者たちに、まちの中で活躍する魅力的な人々・魅力的な働き方と生き方に出会う機会を提供して、自分らしい進路を考えるきっかけを届けたいと思っています。そして、実務修習生・若手鑑定士には、実務に触れながら学べる機会づくりを進め、鑑定士はクライアントの課題解決をダイレクトに支援する『伴走者』にもなれる存在であることに気づき、めざしていけるようサポートしていきたいですね。もちろんTACで学ぶ鑑定士受験生のサポートまでできれば理想的です」と次世代育成について、代表アドバイザーの山縣明日香氏が語ってくれた。

 代表理事の塚本潤子氏と代表アドバイザーの山縣明日香氏は、鑑定士としてどのような歩みを経て、Archの設立にいたったのだろうか。まずはそれぞれの歩みについて見ていきたい。

大学在学中に宅地建物取引士資格を取得

 代表理事の塚本氏は静岡県沼津市で自身の鑑定事務所を経営している。塚本氏の実家は祖父が始めた不動産仲介会社で、物心がついたときには父親がその会社を経営していた。また、叔父が鑑定士をしていたこともあり、小さいころから不動産のことに触れる機会が多く、何かしらの不動産関係の仕事に就きたいと考えていた。

 大学は中央大学文学部で学び、将来は不動産関係の仕事にとの思いから、在学中に宅地建物取引士(宅建士)の資格を取得している。学生時代は週末や長期休暇には、父が経営する不動産仲介会社の手伝いをしていた。

 「将来を考えるようになり、不動産仲介の仕事をするか、鑑定士をするか迷いました。不動産仲介は景気の動向により、売買の数が減ることもあります。一方で鑑定士は地価公示や地価調査といった国や県の仕事が定期的にあるので、いずれひとりでやることになった場合、鑑定士のほうが安定しているのではと考え、鑑定士をめざすことにしました」

 受験期間中は実家の不動産仲介会社の世話になり、受験勉強の傍ら仲介や管理物件の報告書作成などを行っていた。

 塚本氏は2015年の不動産鑑定士論文式試験に合格し、株式会社中央不動産鑑定所(東京本社)に入社。2年目に実務修習(1年コース)を受け、2018年に修了考査に合格し、不動産鑑定士登録を果たした。

塚本 潤子(つかもと じゅんこ)氏
静岡県沼津市生まれ。2012年、中央大学文学部卒業。2012年〜2015年、大橋土地株式会社勤務。2015年、不動産鑑定士2次試験合格。2018年、不動産鑑定士登録。2015年〜2024年、株式会社中央不動産鑑定所(東京本社、横浜支所)勤務。2024年3月、塚本不動産鑑定事務所設立。2026年1月、一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch-、代表理事。

あえて中堅の鑑定事務所に就職

 「中央不動産鑑定所は中堅の鑑定事務所で、当時は鑑定士が20名ほどでした。鑑定業務の幅は広く、J-REIT(ジェイリート)の大きな案件の評価もしましたし、国や自治体の大規模な土地の貸付の評価もしました。小さな案件だと親族間売買の税務対策の評価など、本当に幅広い鑑定業務を経験しました。出張も日本全国、北海道から沖縄まで行かせてもらいました」

 実は塚本氏は、あえて大手鑑定事務所ではなく中堅の鑑定事務所を就職先に選んだ。

 「将来的には独立も視野に入れていましたので、幅広い業務を経験したかったし、全国への出張もしてみたかったので、中堅を選びました。部署が細分化されていないので、受託した案件なら何でもやらせてもらえます。逆に大手に行くと配属された部署によって、例えば、証券化なら大半が証券化案件になります。また、大手は各地に支社がありますので、支社がある地域の鑑定の仕事は支社で行い、出張エリアが偏ると聞いています。中央不動産鑑定所では、鑑定士として非常によい経験をさせてもらいました」

Uターン開業で鑑定事務所を設立

 2024年、塚本氏は地元の沼津市に戻って独立開業し、塚本不動産鑑定事務所を始めた。この独立開業は予定していたものだったのだろうか。

 「2022年に子どもが生まれ、産前産後・育児休業を取得しました。そのとき、これからどうやって働こうかと考えました。鑑定士の仕事は出張がつきものですから、保育園のお迎えの時間までに絶対に戻れるかといったら、かなり難しいでしょう。事務所に残り、時短勤務で働くという選択肢ももちろんありました。でも、時短で働くのなら、自分で開業してしまったほうがよいと判断しました。いわゆるUターン開業ですが、夫も同じ地元ですし、それぞれの両親や親族もいます。地元に帰ったほうが働き方の融通が利くと考え、独立開業を決めました」

 何も知らない土地で始めるより、自分自身がそこで生まれて育っており、父親からはどこの地盤が良いか悪いか、どのような歴史のある土地かなど、地図では見えない情報を教えてもらっていたので、地元での開業はメリットがあったと塚本氏は振り返る。独立開業後の業務は順調に推移しているのだろうか。

 「最初はもちろん仕事がありませんでした。でも1〜2年先に開業している先輩鑑定士から仕事を割り振ってもらったり、東京勤務時代に培った人脈からのご依頼もあって、地元だけでなく東京や千葉の鑑定依頼もいただいたりしました。
 鑑定士には、1月1日時点の地価公示という国土交通省・土地鑑定委員会の仕事、7月1日時点の地価調査は都道府県の仕事、相続税路線価・国税評価(財産評価)という国税庁・税務署の仕事、固定資産税標準地評価という市町村の仕事など、公的評価といわれる仕事があります。地方で独立開業する場合、都道府県によってやや差はありますが、この申込み・申請をきちんと行っておけば、受託しやすい仕事です。地方での開業は、公的な仕事に真摯に対応すれば、安定しやすいと思います」

 開業3年目、自身の人脈を中心に徐々に広がる鑑定の仕事と、公的な仕事を着実に行うことで、鑑定事務所の基盤はできつつある。

母娘鑑定事務所を開業

 一方、代表アドバイザーを務める山縣氏は2026年1月、母親とともに独立開業し、山縣・山下不動産鑑定士事務所を始めた。母娘二代での鑑定事務所開業はかなり珍しいが、先に鑑定士試験をめざしていたのは山縣氏の母親だという。

 「新卒で都市銀行に勤務していたころ、東京都主税局に勤務する公務員の母が不動産鑑定士試験をめざして勉強していました。すごくがんばって楽しそうに勉強する母の姿を見て、そこで初めて鑑定士という資格を知り、仕事内容も奥深くて興味を持ちました。2次試験に合格した母に背中を押された私も、銀行をやめ不動産鑑定士試験の勉強を始めました。専業受験生だった私は、ほぼ丸1日勉強をし、約半年の受験勉強で2004年に不動産鑑定士2次試験に合格しました」

 公務員として働く傍らの受験だった母親は、鑑定士登録までそこから長年を要したという。

 「受験時代から、そして、母が実務修習で明海大学へ通っていたころも、いつか一緒に鑑定事務所をやりたいね、と話していました。私は試験合格後、鑑定会社に就職しましたし、4人の子どもの子育てもありましたので、なかなか実現することができずにいましたが、ようやく2026年1月に念願の母娘鑑定士事務所をスタートすることができました」

 母と娘のコンビの鑑定事務所を始めた山縣氏だが、鑑定士としてはどのような業務を経験してきたのだろうか。

 「鑑定業務を始めたころは不動産の証券化が多かったですね。勤務先が大手鑑定事務所でしたので、J-REITやプライベートリート、私募ファンドなど証券化が業務のメインでした。証券化が落ち着いてきたころには、不動産M&Aや一般鑑定の案件も少しずつ増えてきました。ただ、勤務先が大手鑑定事務所でしたので、クライアントは基本的に大企業で、個人からの依頼はありませんでした。個人のお客様の鑑定評価を行うようになったのは、独立してからです」

山縣 明日香(やまがた あすか)氏
東京都日野市生まれ。成蹊大学文学部卒業。新卒で都市銀行に入社。2004年、不動産鑑定士2次試験合格。青山リアルティー・アドバイザーズ株式会社勤務を経て、2006年、大和不動産鑑定株式会社に転職。2008年、不動産鑑定士登録。2012年、同社退職。7年間の子育てを経て、2019年春に復職。2026年1月、実母とともに母娘二世代鑑定士として、山縣・山下不動産鑑定士事務所を設立。一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch-、代表アドバイザー。

ライフステージの変化に合わせ4人の子育て

 山縣氏は鑑定士実務だけでなく、4人の子どもの母親として子育てを行っている。

 「実務修習の修了考査のときに長女を授かっており、鑑定士登録後に育児休業を取得しました。そのあと復職したのですが、2人目を授かり再度育児休業を取得し、再度復職しました。当時も時短勤務の制度はありましたが、周りに子育てをしながら働くママ鑑定士はほとんどおらず、フル出社でのワンオペ育児との両立は想像以上に厳しかったですね。2012年に退職し、そこからは専業主婦として子育てをしてきました。そして2019年、4人目の子どもが保育園に入るタイミングで大和不動産鑑定株式会社に復職しました」

 大和不動産鑑定はカムバック採用に力を入れていて、山縣氏のように子育てのために退職した方や、他社に転職して経験を積んだ人材の採用を積極的に行っている。

 「ライフステージの変化に合わせて育児休業の取得、そして復職、退職して子育てに専念してきましたが、不動産鑑定士資格を取得しているから、前職への復帰ができたと思います。もし、資格を取得していなければ、社会に復帰することは大変難しかったと思います」

 母親に刺激されての不動産鑑定士資格取得と大手鑑定事務所勤務、そして、ライフステージに合わせた柔軟な働き方ができるのも、不動産鑑定士資格があればこそと語る。

一般社団法人で活動を可視化

 鑑定事務所勤務を経て独立開業した塚本氏と山縣氏は、鑑定士協会関連の業務やセミナーへの登壇などで知り合った鑑定士仲間とともに、「まち全体の価値」をもっと可視化するという取り組み、そして、次世代の育成支援を行うべく、Archの活動を開始した。

 「まちの価値の可視化もそうですし、次世代へのサポートにしても、みんなで集まっての取り組みは、任意で行うこともできます。ただ、一般社団法人を設立することで活動が可視化できる、みんなに見えるかたちでやっていけるので、Archを設立して活動を始めました」(塚本氏)

 法人化し活動を可視化することで、一個人の活動ではなく組織としての取り組みを行うことができる。さらに対外的な交渉や連携もやりやすくなるというメリットが生まれる。

 「その一例として、国土交通省、一般財団法人日本不動産研究所、スーパーゼネコンとの対話も行えました。内容はそれぞれですが、相互連携に向けて次の対話へと進展しています」(山縣氏)

 「次世代の不動産鑑定士を育てる『Arch研修』を本格始動し、実務修習生の集合研修(基本演習)でArch研修を実施しました。また、若者支援活動として、学生向けに『まちづくり講義&ツアー』を提供予定です。『Arch研修』については、当面は関係者を対象としますが、今後はより多くの若手鑑定士に参加してもらえるよう、体制の整備を進めていきます」(塚本氏)

 もちろんそれらの取り組みを通じて、「まち全体の価値」の可視化、ソフトのまちづくりが生む価値を、賃料や地価などの経済的価値にどう結びつけるか、という取り組みも続けている。

将来的に鑑定士の新しい業務に

 次世代の育成に関しては、Archのメンバー全員で熊本市に訪問し、熊本で「鑑定士奨学金制度」を立ち上げた若手鑑定士にインタビューし、Webサイト「note」のArchページで紹介している。全国にいるそれぞれの事情に合わせ、新たな取り組みを行っている鑑定士を応援していきたいとの思いからだ。

 「雨宮さんのように自身の事務所で実務修習生を受け入れているメンバーもいます。ただ、独立している鑑定士の誰もができることではありません。一方で地方では、そもそも鑑定士のなり手が少なく、地元に就職しないという課題を抱えています。そこで奨学金制度で自ら育成・支援していこうという取り組みです。こうした取り組みが、熊本市だけでなく九州全体、そして全国へと広がっていったらうれしいですね」(山縣氏)

 このようにArchの活動だけでなく、鑑定士全体で取り組むべき課題に関しては今後も積極的にコミットし、鑑定士の社会的役割をさらに高めていこうとしている。

 「鑑定士の知見を使って、まちづくりの価値を定量化していく取り組みについては、行政などとも深掘りをしている段階です。鑑定士は個別の不動産、建物について鑑定することはシステム化、しくみ化できています。ただ、まちづくり、エリア全体の価値を評価することに関しては、まだこれからでしくみや制度ができていません。エリア全体でどれだけバリューが生まれているのか評価することを、将来的には鑑定士の新しい業務にできればと考えています。そのためには、Archでの研究や関係機関との協議がさらに必要になると思いますが、メンバー全員で進めていきたいです」(塚本氏)

 鑑定士の新たな取り組みでもある「まち全体の価値」をより可視化すること、そして、次世代の育成をすること。これらにArchとして取り組んでいる塚本氏と山縣氏。資格を取得し実務に就くだけでなく、自身のライフステージに合わせた働き方を模索し、仕事との家庭生活との両立にも取り組んでいる。さらに、鑑定士として将来の業務の方向性の開拓、次世代の育成にも取り組む姿勢を、資格取得をめざしている読者にぜひ知ってほしい。


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年7月 ]

・事務所

一般社団法人エリアアプレイザル丸の内-Arch-

URL:https://arch-tokyo.com/

note URL:https://note.com/arch_marunouchi

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