人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第89回 トレンドマイクロ株式会社

星野 寛子(ほしの ひろこ)氏(写真中央)
人事総務本部 本部長
根岸 泰宏(ねぎし やすひろ)氏(写真左)
人事総務本部
ビジネスパートナリンググループ
シニアマネージャー
大場 光(おおば ひかる)氏(写真右)
人事総務本部
ビジネスパートナリンググループ
シニアマネージャー
企業も個人もAIを活用する時代に、
事業はもちろん、人材も最適化するため、
キャリア採用に注力しています。
1989年の設立以来、一貫してサイバーセキュリティに取り組んでいるトレンドマイクロ株式会社。企業が、そして個人もAIを活用する時代となり、同社の事業はもちろんのこと、採用方針にも大きな影響が出ているという。AI時代におけるサイバーセキュリティベンダーとしての採用方針、育成方針について人事総務本部、本部長の星野寛子氏、シニアマネージャーの根岸泰宏氏、大場光氏にお話をうかがった。
AI時代におけるサイバーセキュリティベンダー
──トレンドマイクロについて教えてください。
星野 トレンドマイクロはAI時代におけるサイバーセキュリティベンダーとして、1989年の設立以来、インターネットの黎明期から一貫してサイバーセキュリティに取り組んでいる企業です。「ウイルスバスター」という製品はご存知の方もいることでしょう。以前のソリューションは、ウイルスを侵入させないこと、そして、侵入した際にどう対応するかでした。ところが、お客様のIT環境はどんどん変化しています。オフィスの中のクローズドのネットワークがインターネットに接続され、その後クラウド環境へ変化していったようなIT環境の変化に合わせて、私たちのソリューションは変化します。また、コンシューマー(消費者向け)だけでなく、コマーシャル(商業向け)のビジネスも拡大しています。
現在では、セキュリティに対する考え方がコンシューマーとコマーシャルとでは異なっており、2026年からビジネスユニットを2つに分け、コマーシャルは「TrendAI™」、コンシューマーは「TrendLife™」として展開しています。
TrendAIは、企業でAI活用が進んでいく中、AIの活用を前提として、いかにお客様の大切なデータ資産を守れるか、そしてサイバー攻撃が行われることを前提として、入ってきた脅威に対応できるソリューションをご提供するかたちとなっています。
TrendLifeに関しては、現在では個人でパソコンを保有しない方が増え、使用する端末はモバイルフォンやタブレットになっています。そして、以前はウイルスそのものが脅威でしたが、今一番の脅威はいわゆる詐欺です。AIを使ったディープフェイクなどの新しい脅威に対して、お客様のデジタルライフをいかに守れるかにフォーカスをあてています。
また、個人でもAIの活用が進んでいますので、コマーシャルだけでなくコンシューマーでもAIを使う前提で、お客様のデータ資産、デジタルライフをいかに守っていくかに注力しています。
星野 寛子氏
外資系企業2社で人事領域の経験を積んだあと、2020年末にトレンドマイクロ株式会社へHRエキスパートとして入社。本部長直下で各種人事プロジェクトの推進を担う。その後、総務部長としてコロナ禍以降の新しい働き方に関する取り組みや、本社オフィス移転を含む組織基盤整備をリードするとともに、HRビジネスパートナー業務に従事。ビジネスパートナーグループのリーダーを経て、2026年、人事総務本部長。
新卒採用を休止し、キャリア採用に注力
──2026年6月現在、トレンドマイクロでは新卒採用を休止し、キャリア採用に注力しています。その理由を教えてください。
星野 新卒採用は2025年卒で休止しました。新卒採用を休止した理由は、AIを含めデジタル環境の変化するスピードが以前の何十倍にもなったからです。例えば、1つのソリューションを一定期間提供するのが従来のビジネスだとしたら、現在は今できたものを今お届けするというように、ビジネスのスピード感がまったく変わってしまいました。新卒を採用して3年間かけて育成して現場で活躍してもらうというやり方では、変化に対応しながら即座にビジネスに貢献する体制には対応できなくなったのです。そこで、キャリア採用で今すぐ結果を出せる経験者に入ってもらうやり方に、大きく舵を切りました。
大場 私は以前新卒採用を担当していました。2025年入社は4名ですが、その社員の育成はデジタル環境の変化という要素はありますが、従来通りきちんと育成を進めています。
大場 光氏
大手人材総合サービス企業で採用サービス営業、人事制度・人材開発関連のコンサルタントを経験後、2016年、トレンドマイクロ株式会社へ人事として入社。現在はHR ビジネスパートナーとして、主に採用や人材育成、人事制度設計等に従事。
──AIを含めたデジタル環境の変化への対応なのですね。
星野 そうですね。新卒採用に関しては、いつとはいえませんが再開したいと考えています。そのときは新卒採用という言葉ではなく、例えば、未経験者採用というような大きな枠組になるかもしれません。ただ、以前の新卒採用のようにポテンシャルだけで採用し、会社の中でじっくりと経験を積みながら育て上げていくモデルには戻らないでしょう。
日本の大学生の夏休みはあまり長くないので難しい面はありますが、長期インターンとして長期間実際のお仕事をしてもらい、お互いに相思相愛な状態になっているのかを確認するような、プログラムを通じての採用に変わっていくのではないかと今は考えています。
根岸 私は2009年に新卒で入社し、コマーシャルとコンシューマーの営業を務めたあと、コマーシャルに戻り、営業人材の育成を担当しました。育成業務を人事が引き受ける際に一緒に人事に移りましたので、いろいろな部門経験があり、会社全体がわかっているのは、新卒入社で育ててもらった強みだと感じています。
星野 根岸の場合、社内の人脈がしっかりとあり、今のAIの時代に一番重要な社内のコンテクストがわかっているのが強みです。他の新卒入社の社員も社内のコンテクストがよくわかっているので、活躍しやすいという面はあると思います。こうしたことはキャリア採用にシフトしてみたからこそ、新卒入社を休止したからこそわかってきたことでもあります。
根岸 泰宏氏
2009年、トレンドマイクロ株式会社へ新卒入社。営業職、HRスタートアップへの1年間の在籍出向を経て、営業人材の育成や育成施策の企画・推進に携わる。現在はHR ビジネスパートナーとして、主に採用や人材育成、人事制度設計等に従事。
グロースポテンシャル
──キャリア採用において、トレンドマイクロの求める人物像を教えてください。
星野 グロースポテンシャル、これだけは経験の如何にかかわらず、選考プロセスの中で必ず確認しています。理由は、セキュリティというビジネスは、特定のソリューションを作って提供すれば完結するというビジネスではありません。今起きていることに対してどうアダプトしていくか、というビジネスです。常に環境が変わる前提で学び、すぐにそれを身につけていくことがとても重要になります。そのため、常に新しいことを学ぶ、学ぶことが好きな人に来てほしいですね。キャリア採用では、学んだことをすぐにアウトプットに変えていける人材、走りながら学んで身につけて、それを実際にアウトプットしていける人材が、今トレンドマイクロで求められています。
──キャリア採用の選考プロセスを教えてください。
星野 応募の入口は3つあります。1つ目は、当社のWebサイトやLinkedInなどに出稿している求人に対してご自身で応募されるパターン。2つ目は、こちらからアプローチして応募を促進するダイレクトリクルーティング。そして3つ目は、人材紹介会社からご紹介いただくパターンです。
いずれのパターンでも1回目は採用チームの採用担当が、どのような方なのか、当社が求めるところをクリアされている経験者なのかを見るスクリーニングというステージを入れています。そのあと、現場のマネージャーに書類選考を依頼し、書類選考を通過した応募者には、同じマネージャーが基本的に対面で1次面接を実施します。
続く現場での最終面接では、以前は質疑応答形式の面接でしたが、質疑応答だけでは見えない部分がありますので、具体的なシーンを想定したシミュレーション面接に切り替えています。特に営業職やセールスエンジニアといわれる、対顧客を想定したポジションにおいては有効であることが最近わかってきました。
──シミュレーション面接、つまり実技面接を採り入れているのですね。
星野 そうですね。そのあとの最終面接ではHRBP、採用該当部門を担当する人事が最後にお会いします。現場のマネージャーは経験やスキルといった部分に集中しがちですが、私たち人事は会社と部門、担当するマネージャーのタイプなどを頭の中に入れた上で、その方が本当に活躍できるのか、企業文化、カルチャーにフィットしているのか、フィットできるのか、指示を出すマネージャーとの相性はどうか、といったヒューマンエレメントを最後に確認します。
人事の目線は長期のもので、組織の成長やその方のキャリアを考え、今出してほしい力、瞬発力はもちろんのこと、持久力といったところも見ていきます。現場では今入ってくれたらこう動くという視点が強くなります。すると見えないところや若干目をつぶるところも出てきます。最終判断はマネージャーですが、長期的な目線で見て、適切な候補者かどうか、という問いかけをする場合はあります。
試用期間を大切にしている会社
──キャリア採用の場合、入社の際に研修はありますか。
星野 オリエンテーションで労務管理を理解していただいたうえで、セキュリティ会社ですのでセキュリティ研修を2日間受けていただきます。3日目から配属部門で今までの経験やスキルに合わせたオンボーディングのトレーニングやカリキュラムを実施していきます。人事からお願いしているのは、ピープルマネージャーと呼ばれるメンターを少なくとも1人、上司以外でつけてもらうことです。このメンターは3ヵ月間伴走して、当社にフィットしていくサポートを行います。営業職など顧客対応をする職種の場合、3ヵ月間の試用期間の後半にロールプレイングが必ず入ってきます。これは当社の製品を理解したうえでしっかりとプレゼンテーション、提案活動ができるか、セールスエンジニアであれば顧客の課題にソリューション訴求できるのかという実技のテストがあります。これをクリアすると試用期間は終了となります。
──試用期間終了の前にテストを行うのですね。
星野 当社は試用期間をとても大切にしている会社です。当社ではフィードバックを頻繁に行い、着実に成長していることを双方で確認できるようにしています。セキュリティは結構複雑ですので、経験していない方でもしっかりと理解してもらえるプログラムを試用期間中に用意しており、先の実技テストも含めクリアして試用期間が終わります。
2つのポータルサイトで学ぶ
──研修制度で特徴的なものがあればお教えください。
星野 日本独自の研修システムとして、Trend Universityというeラーニングポータルを運用しています。例えば、育成で悩んでいるマネージャー向けのピープルマネジメントや、キャリアの途中に入社された方に向けたセキュリティ知識、といった研修も含めた総合的な内容になっています。こちらを利用するには社内のトレーニングポイントが必要になりますが、社内の等級制度で等級が低い社員ほど手厚くトレーニングポイントを支給しています。それを使って自分が必要と思うもの、またはマネージャーと相談して必要なコースを受講ができます。
もう1つ、グローバルなエデュケーションポータルとして、「TrendAI™ University」があります。そこには常に最新の各種製品アップデートやセキュリティナレッジに対するアップデートが納められており、それを各自で受講できるようになっています。
このように、自分に今必要なものを自分で選択して受けるものと、会社が今あなたに理解してほしいものを学べるもの、2つのポータルサイトを運営しています。職種によっては、例えば、セールスエンジニアであればこのレベルまでは受講して社内認証を受けてください、という通達をするケースもあります。そうしたものは受講すると証明書としてA、B、Cといったようなバッジを付与されるので、次のバッジを手に入れようと、学習のモチベーションにしている社員もいます。
また、AIの活用にも力を入れており、社員とAIがセットで働くような活用をイメージしています。そのためのエデュケーションプログラムやAIハッカソンのような取り組みも行っています。
──福利厚生面ではいかがですか。
星野 外資系企業の場合、営業担当向けに、目標年間数字を超えた場合の報奨旅行などのプログラムを設けている企業があると思います。当社も同様のプログラムでしたが、今年からは対象は営業だけでなく顧客に関わる方、全社員が対象となります。ビジネスを拡大するというミッションを、昔は営業のみが負っていました。今では営業だけでなく、セールスエンジニアやポストエンジニア、カスタマーサクセスなど全社員が売上拡大のチャンスを持っていますし、その責任を持っているという考えに基づき、マインドセットを変える意味も込めての取り組みです。
技術資格報償金制度
──資格取得を支援する制度はありますか。
星野 技術資格報償金制度があります。当社には社内外の方に製品に関するトレーニングを提供しているエデュケーションチームがあり、そこと人事が協力して今会社として必要な資格、優先して取得してもらう資格をリストアップしています。このリストは年2回レビューをして見直しています。その資格を取得できたら、取得経費や資格の難易度に応じて技術資格報償金を支給します。対象となる主な資格は、CISSP(Certified Information Systems Security Professional)、CCSP(Certified Cloud Security Professional)、情報処理安全確保支援士試験、情報セキュリティマネジメント試験、CRISC(Certified in Risk and Information Systems Control)、AAISM(Advanced in AI Security Management)などとなっています。この他にも多くの資格がリストアップされています。
──最後にキャリアアップや資格取得をめざしている読者に向けて、メッセージをお願いします。
根岸 私は今セールスエンジニアの組織を担当していますが、多くの社員が資格を取得しています。資格の内容すべてをそのまま実務で使えるわけではありませんが、お客様との会話で役立つこともあります。1つの資格を取得して次の資格をめざす、といったように体系的に資格を取得することで実務に役立ったり、本人の自信につながったりすることもあるでしょう。資格取得を通じて得た知識や経験が、ご自身の自信やキャリアの幅を広げるきっかけになることを期待しています。
大場 私は当社に入社したあと、情報セキュリティマネジメント資格を取得しました。それによってビジネスに関わるベースを体系的に漏らさず学ぶことができ、非常にキャッチアップしやすかったと感じています。実務をする中で、何かの知識が必要になったときや、足りない知識を補いたいといったときに資格を学ぶことは非常に有益だと思います。
星野 資格は使う前提で取得するとよいと思います。私たちも活用していますが、AIを活用するといろいろな新しい知識が入ってきます。そこでご自身の新たな興味、関心が生まれたときに、資格をもっと体系的に勉強してみるとよいでしょう。でも、取得することを目的とするのではなく、取得後に何をしたいのか、どう使いたいかを勉強されるとよりよいかと思います。面接の際、資格の有無だけでなく、資格取得を通して得た知識を確認しています。今、勉強されている方は資格取得に向けてぜひがんばってください。
[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2026年7月 ]
会社概要
社名 トレンドマイクロ株式会社
設立 1989年10月24日
代表者 代表取締役社長 (CEO) エバ・チェン
本社所在地 東京都新宿区新宿4-1-6 JR新宿ミライナタワー
事業内容
コンピュータ及びインターネット用セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売
社員数
6,717名 (2025年12月31日付)
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