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中岡 静香(なかおか しずか)
Profile

中岡 静香(なかおか しずか)氏

You's社会保険労務士事務所 代表

You's合同会社 代表社員

社会保険労務士 社会福祉士

1987年、高知県生まれ。2011年、獨協大学法学部法律学科卒業。2024年、日本社会事業大学通信教育科社会福祉士一般養成課程卒業。2011年、新卒で神奈川県の薬局に入社、人事部配属。2013年、社会保険労務士法人に転職。2017年、社会保険労務士試験合格。2019年、社会保険労務士登録、独立開業。2021年、You’s合同会社設立、代表社員就任。2025年、社会福祉士試験合格。障害者地域生活支援施設勤務、ボランティア活動も実践中。

挫折が多かった人生で自信を持てたのは、
社会保険労務士試験合格がきっかけでした。

 受験5回目で合格し、30歳で独立開業。自らの経験から障害者支援に奔走する社会保険労務士の中岡静香氏。コンサルティングをメインに、この5年間、様々な企業の労務管理などに携わってきた。2025年には社会福祉士試験に合格し、人事・労務と福祉の2本柱で自らの夢の実現に向かう。中岡氏の強みと今後の展望をうかがった。

特別支援学校での出会い

 幼児期に「思春期早発症」と診断され、中学時代に「過敏性大腸炎」を患い、高校2年生の夏からは、仲のよい友人の不登校などが要因で自身も不登校になり、県立特別支援学校に転入。高知県生まれの社会保険労務士・中岡静香氏の人生は、幼いころから波乱に満ちていた。

 「ピアノが好きで、唯一ピアノ教室にだけは通い続けていました。でも、引きこもった時期は昼夜逆転してしまい、ピアノが弾けなくなりました」

 節目を迎えたのは特別支援学校に転入し、障害のある子どもたちとの出会いだった。

 「小学部から高等部まで年齢もバラバラ。障害のある生徒、家庭に事情がある生徒…。みんな普通に人と接することができて、正直に自分の気持ちを言えて、相手を思いやることができる。本当に素直でやさしい子たちが大勢いました」

 「自分もこんなふうに自由に表現していいんだ」と、初めて「自分が自分らしく生きられる感覚」を感じられたという。

就職活動で感じた社会の壁

 2年浪人して獨協大学法学部に進んだ中岡氏だが、当初は大学にもなじめなかったという。

 「最初は年齢のギャップと言葉のギャップがありましたね。土佐弁が出て標準語がうまくしゃべれず、なかなか友だちができませんでした。当時はmixi(SNS)全盛期で、昔の友人と連絡を取り合っていました」

 連絡を取り合う中に、中学・高校時代の友人がいた。彼女は難聴で、筑波大学に通いながら手話サークルに参加していた。

 「私も大学の手話サークルに入ってみようかな」
 こうして中岡氏の4年間は、アルバイトと手話サークル、そしてゼミの日々になった。

 学生生活が軌道に乗ると、プライベートも軌道に乗ってきた。やっとできた友だちや彼氏。中岡氏は、生まれて初めて思い切り青春を楽しんだ。

 しかし、就職活動では再び現実に引き戻された。学歴で少なからず偏見を持たれ、人に対する壁を感じた。リーマンショック後の就職難の中、神奈川県内の調剤薬局に就職を決めた。

 「調剤薬局の募集職種は総務・人事でしたが、当時は人事が何をするのかもわかりません。同じ文系だからできるかもしれないと考えました。その職場で勉強しながら実務を覚えました」

5回目の受験で社会保険労務士試験に合格

 調剤薬局では、60店舗の拠点に出向きコミュニケーションを取ったり、大学や企業説明会で会社説明を行ったりした。店舗に欠員が出ると、その補充のため採用活動も行い、社員の入退社があれば、依頼している社会保険労務士(以下、社労士)に連絡を取り、手続きを進めてもらった。こうして人事の仕事をすることが、中岡氏が社労士をめざすきっかけとなった。

 「人事にいて、社労士の知識を持って働けば、もっと会社の役に立てるし、社員の役にも立つのではないかと考えたのが、社労士の勉強を始めたきっかけです。個人的には法学部時代に勉強した法律の中で、労働法が一番おもしろかったことも後押ししました。何より、社労士になってもっと人の役に立ちたいと思いました」

 2012年秋、25歳でTAC社会保険労務士講座(通信)を受講。講義を音で聞き、テキストを読み込み、問題集を10回以上、間違いがなくなるまでひたすら解きまくった。中岡氏が晴れて社会保険労務士試験合格を手にしたのは5回目の受験だった。

30歳で独立開業

 初受験した2013年、中岡氏は社労士法人に転職。独占業務の1号・2号業務だけでなく、さまざまな人事・労務コンサルティング業務を任され、顧問先企業に出向する機会まで得た。社労士試験合格の約半年後、「社労士としてキャリアアップするため」に転職。しかし、転職先の社労士法人になじめず、社労士としてやっていける自信を失いつつあった。

 不安に駆られて「社労士以外でも食べていけるようにしないと」と、コールセンターで働いてみたり、派遣社員として大手企業子会社の人事部にも勤務したりした。

 その人事部の仕事で従業員の相談を受けた際、自分の持っている知識で話をすると、「すごくよくわかりました」「すごく助かりました」と感謝された。

 「やはり、社労士の知識は人の役に立つのだな。それなら人事・労務的なことをやりたい」と先輩社労士に相談すると、「それならいっそ独立したら」と言われた。30歳という若さも背中を押した。

 「とりあえずやってみよう。失敗したらまたやり直せばいい」
 2019年、30歳の中岡氏はYou's社会保険労務士事務所の看板を掲げた。

何もかもゼロで独立開業

 中岡氏の開業は、顧問先もゼロで資金もゼロに近かった。なにしろ銀行口座の残高は10万円。社会保険労務士登録費用も準備できず、両親にお願いして半分負担してもらい、なんとか登録を済ませた。社労士だけでは食べていけないと判断した中岡氏は週3日、紳士服専門チェーンでアルバイト、週2日、社労士法人の業務委託を掛け持ちしながら自身の社労士業務も行い生計を立てた。

 創業直後は、営業活動の一環として交流会に参加していた中岡氏は、あるとき参加した交流会でふたつの出会いを経験した。

 「ひとつは、最初の顧問先となる人材派遣会社の方との出会いです。もともと大阪に本社機能がある会社だったのですが、東京に本社機能を移してきて社労士を探していました。改めて声をかけていただいたのは出会って3ヵ月後くらいのとき、私も顧問先がほしいなと考えているときでした。東京で依頼できる社労士を探しているからとのことで、会社にうかがってお互いの考え方などをすり合わせて、顧問契約を交わしました。私としては、人材派遣会社の『雇用を創出したい』という考え方にも共感できたので、顧問契約を結ぶことができて、まさに望み通りでした。そのあと、出会いや紹介などで少しずつ顧問先が増えました」

 もうひとつの出会いは、NKCS合同会社代表の新原克弥氏(社会福祉士)との出会いだ。創業間もない中岡氏は、まだ社労士事務所のWebサイトを立ち上げておらず、当時Webサイトの販売をしていた新原氏と知り合ったことをきっかけに、Webサイトの制作を依頼した。そして、新原氏がいくつもの企業でトップセールスだったことを知り、顧問料を支払って士業の営業方法のコンサルティングを受けた。この士業の営業コンサルティングはその後、士業向けの営業塾へと発展し、中岡氏もその運営に関わっている。

 人材派遣会社の顧問として社労士の第一歩を踏み出した中岡氏。開業1年目はアルバイトも掛け持ちしてフル稼働で働いた。

 開業2年目は、2020年4月の労働者派遣法改正による「同一労働同一賃金」が追い風になり、法改正対応の問い合わせが増えた。さらに、厚生労働省の法定講習「派遣元責任者講習」「職業紹介責任者講習」の講師を務めて、現在まで続いている。

 2020年はコロナ禍の年でもあり、顧問数は横ばい。アルバイトも続けながら、講師業、雇用調整助成金、税理士事務所のサポートなどのスポット案件で乗り切った。

人に関わることをトータルサポートしたい

 開業3年目の2021年、中岡氏は新原氏のサポートも受けながら、You's合同会社を設立した。You's合同会社は多様な企業の研修事業やコンサルティングを展開することで、人に関わることをトータルにサポートする目的で作られた。

 「私は社労士で、新原さんは社会福祉士。ふたりとも組織の課題解決に特化した専門家として、人に関わることをトータルサポートしたいと思い設立しました。実は、新原さんも親からの虐待や不登校も経験しています。ある意味で当事者である私たちだからこそできる、障害のある人のための就労支援や雇用の実現に向けたお手伝いをしていきたいと考えました。私は社労士と出会い、この仕事が大好きになりました。新原さんはセールスやコンサルティングに出会い、実力が発揮できました。
 合同会社では、さまざまな障害のある方や引きこもりなどにより一歩が踏み出しにくい方の支援をしていきたいと考えています」

 2022年から中岡氏は障害者施設でボランティアを始めている。

 「グループホームで中度から重度の知的障害のある子たちの食事の介助をしたり、洗濯をしたり。平日は作業所へ行く送り出しをするまでの2〜3時間の朝のボランティアです。それまでは人のためと言いながら、社労士としては稼がなければいけない、という考えが根底にありました。でも、障害者施設で働いてみたら、ささいなことにも『ありがとう』と言ってもらえて、洗濯物をたたむのにも喜びを感じるようになったんです。ああ、こういう仕事もあるんだな、と心から実感しました」

 中岡氏は、社会の偏見や壁を感じたことから、労働に関する専門家である社労士をめざした。しかし、法律を学び、知識を蓄えただけでは心は満たされなかった。

 「社労士業務の枠を超えて、さまざまな障害者が一歩踏み出す就労支援をしたい。障害者支援についてもっと知りたい」
 そう考えた中岡氏は2023年、日本社会事業大学通信教育科の社会福祉士一般養成課程に入学した。

 「大学に通いながら、さまざまな人と関わることで、自分が満たされていくのがわかりました。私の根底には、やはり『人が好き』という気持ちがあるのを思い出したんです」

 2024年9月、同大学を卒業し、2025年2月に社会福祉士試験に合格。社労士だけでなく、社会福祉士としても歩み始めた。

「現場に行く」のが強みの社労士

 社会保険労務士と社会福祉士。現在も週に数回、朝は障害者施設で10時までサポートし、自宅に帰り、社労士業務。そのあとは経営戦略を練ったり、営業活動をしたりするほか、さまざまな経験を反映した、企業に対する研修やコンサルティング、また講師業の準備もする。

 社労士業務では1号・2号業務、付随する給与計算はほとんど請け負わずに、労務相談やコンサルティングをメインに活動している。

 「社労士としての顧問先は15件前後です。いたずらに数を増やすのではなく、よい関係が築ける顧問先を引き続き受けていきたいと考えています。障害者支援に関して言えば、現場に入る機会が多いことが強みです。最初に勤務した薬局時代にも、薬の袋詰めをやってみて、とても大変なことを知りました」

 可能であれば、まずは現場に行く。それは顧問先企業だけでなく、例えば、教育現場では増えている、小学生の不登校や教室に来られない子たちのサポートルーム支援を週2回行っている。

 講師業では、先の厚生労働省の法定講習は5年目に入っている。2025年はハローワークの採用セミナーでも講師を務め、その関係で労働局の雇用改善コンサルタントも拝命している。さらに、一般社団法人日本経営協会で4年間、労務監査セミナーの講師を務めた経験から、労務監査によって「何をすればよいか」、経営上の課題のあぶり出しもできるようになった。

 最近では、某地方自治体から、エンタメ性に富んだ認知症の対策講座の依頼を受け、演技のできる看護師や介護士とともに講座を開くなど、バラエティに富んだ活動を展開している。

 「講師業を続けてきたことがブランディングにつながり、業務のひとつの柱になっています。そのおかげでいろいろな事業所と話ができるようになりました。社労士会では教育委員会に所属し、東京都立葛飾総合高等学校の福祉科目で、実際の高校2年生、3年生への授業も経験しています」

バックには約2,000人の士業チーム

 中岡氏が新原氏から士業の営業コンサルティングをしてもらったことからスタートした士業営業塾は、現在では士業経営塾にも発展している。よくある営業塾では高額な授業料が設定されがちだが、新原氏は「士業は自分たちの味方だ」という考えで、授業料はタダ同然の金額設定にしているのだという。いままでに弁護士、公認会計士、税理士、社労士、司法書士、行政書士等が参加し、さらに医師や看護師までもが参加するひとつのチームのようになっている。

 「だから、私たちのバックには約2,000人の士業がいます。チームとして団結して社長を助けることができます。その約2,000人の有資格者チームによって、企業の課題は基本的にすべて解決できると言える点が、ほかとの違いです」

 中岡氏の社労士としての顧問先は派遣業、建設会社、IT企業、福祉関係がメインとなる。業務はコンサルティングが中心のため、基本的には中岡氏ひとりで対応している。ただし、年度更新の時期を迎えるとパート社員を雇い、ときには新原氏にも手伝ってもらうという。

 「人を雇うタイミングが来たら、障害者を雇用していきたいと考えています」

 現在、事業所と連携して障害者の就労支援に動いている。

挫折を乗り越えた社労士試験合格

 「本当に人が生きやすくなる世界、そして、人が自立・自律して働ける社会を作っていく、お手伝いをしていきたいと考えています。その中で社労士として人事・労務を、社会福祉士として福祉を担いながら、他士業とも連携しつつ、組織を大きくしていきたいですね」

 そのために今後もいろいろな現場に入りながら、より事業に集中していくフェーズに入る。

 「社労士資格を取得して本当によかったと思いますし、私は社労士が本当に好きなんだとつくづく思います。人の役に立てるし、親にも国家資格を取得して、東京で独立してやっていることで、安心してもらえています」

 振り返ると、社労士受験で4回不合格になったときはかなり落ち込んだという。

 「私は幼少期からいろいろありましたし、大学でも大事な人が亡くなるなど、つらいことがたくさんありました。『それに比べたら試験に落ちるなんて、たいしたことじゃない』と、自分に言い聞かせたんです」

 世の中に壁を感じて沈んでいた中岡氏の姿は、もはやそこにはない。人生の立て直し方も熟知している。そのきっかけは、社労士試験に合格したことにほかならない。そんな中岡氏から社労士をめざす方たちにアドバイスをいただいた。

 「挫折が多かったので、資格を取得したことが非常に大きな自信になりました。実は何かをやりきる経験って意外とないものです。その経験自体が、大きな付加価値になりました。皆さんも自分との戦いに負けそうになったら、『これをやりきったら、将来絶対自分の糧になる』と信じて、がんばってほしいと思います。日本は出産や育児などのライフイベントでキャリアが一度途絶えると、その後の復帰が難しい面がまだあります。そのような社会では、女性が活躍できません。私はだれもが働くことができる環境を作りたいし、そのためには、まず自分がロールモデルになるような働き方を確立して、長い人生の中で本当の意味でのワーク・ライフ・バランスを体現できる人間になりたいと思っています」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年5月 ]

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