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甲斐 麻莉子(かい まりこ)氏
Profile

甲斐 麻莉子(かい まりこ)氏

プカリ司法書士法人 代表

司法書士

墨田区議会議員

1995年6月、東京都八王子市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。2020年度、司法書士試験合格。約1年間の司法書士法人勤務を経て、2022年、独立開業。2023年4月、東京都墨田区議会議員選挙で4位当選。2025年12月、事務所を法人化し、プカリ司法書士法人を設立、代表社員。

生活、地方議員、独立した自営業、司法書士法人、
すべてのベースにあるのが司法書士資格です。

 26歳で司法書士として独立開業し、27歳で墨田区議会議員となった甲斐麻莉子氏。司法書士資格を取得した理由、独立開業した理由、地方議員となった理由には甲斐氏が若くして出産をしたシングルマザーであることが大きく影響している。司法書士、地方議員として活躍する甲斐氏に、資格取得の背景から直面した課題、なぜ地方議員になったのか、そして今後の展望についてうかがった。

26歳で独立開業

 2020年度の司法書士試験に合格し、2022年に独立開業した司法書士の甲斐麻莉子氏。独立当時、甲斐氏は26歳でシングルマザー。翌2023年4月には東京都墨田区議会議員選挙に立候補し、4位当選を果たしている。

 現在、司法書士としてプカリ司法書士法人の代表を務め、同時に墨田区議会議員としても活躍している甲斐氏は、どのような歩みを経てきたのだろうか。

 1995年6月、東京都八王子市で4人兄弟の末っ子として生まれた甲斐氏。転機のひとつは高校を3ヵ月でやめたことにある。

 「入学したものの馴染めなくてやめました。そのあと、アルバイトをしていた居酒屋の新規店舗が札幌に出店することになり、雪国へのあこがれと、これまでの自分を変えたいという思いから、営業兼ホールスタッフとして私もついていくことにしました。冬の札幌での一人暮らしは大変でしたね。ただ半年くらい経ったころ、やはり大学に行きたいと思い東京に戻りました。アルバイトをしながら高等学校卒業程度認定試験(高卒認定)の勉強をして、合格後は大学受験の勉強をしました」

 甲斐氏はいわゆる一浪で早稲田大学社会科学部に入学した。早稲田大学で社会科学部を選んだ理由は、幅広い学問に触れることが高校中退の自分には必要だと感じたからだ。

何よりも早く司法書士資格を取得したい

 早稲田大学で学び始めた甲斐氏に再び転機が訪れたのは大学2年生のとき。妊娠、結婚、そして大学3年生で出産をしている。

 「出産をしてミルクやおむつ替えで精いっぱいだったので、就職活動はしませんでした。じゃあ将来どうしようかな、ずっと専業主婦でもないだろうと思い、もともと法律に興味があったので司法書士をめざそうと決めました」

 司法書士をめざした理由は1〜2年で試験に合格できること、そして、早く働きたいという気持ちが強かった。何よりも早く司法書士資格を取得したいとの思いで受験勉強を開始した。

 「子どもが0歳から1歳になるころに受験を始めて、2歳のときに合格しました。合格は大学を卒業した2020年度の司法書士試験です。子どもを保育園に預けて勉強していましたが、コロナ禍で保育園は閉鎖。そのころには夫とはうまくいかなくなっており、ワンオペで24時間育児をしながらの受験勉強は本当に大変でした。実家も頼れず、将来の展望も見えず、低体重で生まれた娘の夜泣きもあり、なかば現実逃避のように必死で勉強を続けました」

 本試験当日、甲斐氏は早朝に東京都の高田馬場にある24時間保育園に子どもを預けて試験会場へ。本試験終了後、保育園から子どもを引き取って帰宅したという。また、本試験の1週間後には公証役場に行き、離婚の公正証書を作成している。

 「合格発表を見るのが怖くて…。缶チューハイをグッとあおってから、Webサイトに受験番号が掲載されているのを確認して、子どもを保育園に迎えに行きました」

子育てのために独立開業

 合格を確認した甲斐氏は司法書士法人で勤務を始めた。

 「まずは、仕事をきちんとできるようになりたいと思い、司法書士法人に勤務しました。勤務先では、初めての時短勤務の資格者だったと思います。勤務条件などにはいろいろと配慮していただき、感謝するとともに本当にお世話になりました」

 とはいえ、実務では勤務時間内に仕事が終わらずに、残業や休日出勤の必要も出てきた。

 「まだ子どもが小さく体調を崩すこともあるし、この状況なら自分で独立開業して仕事をしたほうがよいと思い、約1年間の勤務のあと、独立開業しました」

 甲斐氏が独立開業を考えた背景には、シングルマザーとして子育ての問題に直面したことも小さくない。

 「勤務当時は、東京都江東区に住んでいましたが、近所の保育園に申し込むと、なんと180人待ち。大変だけどちょっと足を伸ばして中央区で預けようと思い聞いてみると、来週から入れますと言われました。保育園に預けることだけでも、隣接している自治体で大きな違いがあることを知りましたね。ましてや若くして出産したシングルマザーは、行政のサポートには頼らざるを得ません。自治体間格差をものすごく感じました」

 このときの経験は、甲斐氏が区議会議員に挑戦する大きな要因となっている。

動画には手を出さない

 さて、独立開業したとはいえ、実務経験は約1年間。どうやってクライアントを獲得したのだろうか。

 「まずはWebサイトを作りました。そして、知らない金融機関や不動産会社に飛び込み営業をするのではなく、LINEの友だちリストを開きました。もともとの私の知り合い、大学時代の友だちなどには大手金融機関、ハウスメーカー、不動産会社、ベンチャー企業に進んだ人が大勢いました。その友だちに向け、司法書士として独立開業したこと、何か困っていることがあったら教えて、とLINEでメッセージを送ったのです。するとありがたいことに、『こんなことできる?』『困っているんだけど、これは司法書士の仕事に関係ある?』などと連絡をもらえました。そこから仕事につながって、また、大手やベンチャー法人の法務の方とのご縁もいただき、紹介営業でクライアントを増やしてきました」

 20代半ばの友人たちにとって司法書士は決してなじみがある有資格者ではなかった。そのため、本来なら税理士や社会保険労務士に依頼するような内容の相談も寄せられたという。

 「それが他の士業の方々と知り合ったり、つながりができたりするきっかけになりましたので、とてもありがたかったですね。幸いなことに開業1年目から、生活できるだけの売上を確保することができました」

 業務内容としては相続や遺言からスタートした。

 「友だちの実家を紹介してもらって、最初は相続、遺言の案件が多かったですね。女性のお客様の場合、Webサイトをご覧いただいて、女性の司法書士だから安心という理由でご相談いただくこともありました。独立資金も広告宣伝に充てられる予算もありませんでしたので、紹介やミニコミ紙への安価な広告出稿、コラムの連載など、結構地道な営業活動をしてきました」

 知り合いなどからはTikTokやYouTubeをやればよいのでは、と勧められることが多いという。しかし、甲斐氏は手を出さないと決めている。

 「仮に動画をやってインフルエンサーのように名前を売ることは、私がやりたいことではありません。今では地方議員としての顔もありますので、足かせになりかねないですね。かえってやりにくくなるだろうと考えて、動画には手を出さずにやっていきます」

サポートできる立場になれれば

 司法書士として独立開業した翌2023年、甲斐氏は地方議員、墨田区議会議員に挑戦し、4位当選を果たしている。現在は、司法書士だけでなく墨田区議会議員としても多忙な日々を送っている。司法書士として開業して間もなく、なぜ区議会議員に挑戦したのだろうか。

 「若い人によっては、役所イコール住民票を取りにいくところ、くらいのイメージですよね。私はシングルマザーで子育てをしている中で、行政には様々な制度や子育てのサポートがあることに気づきました。先にお話ししたように、その内容は自治体で異なり、注力している内容、分野が違います。
 子どもを育てながら一人で働くことに対して、行政の様々なサポートがあります。でも、その内容を知らなければ、サポートは受けられません。いろいろな内容を知るにつれて、小池都知事の東京大改革やチルドレンファースト、それと都民ファーストの会の活動のおかげで、保育園に入りやすくなっているなど、助けられていることがあることを知りました。
 自分が助けてもらったし、もっと多くの人に制度や自治体のサポートを知ってほしいと考え、それなら自分が伝えられる立場、制度改革ができる立場になれればと考えました」

 2023年4月の墨田区議会議員選挙への出馬にあたっては、都民ファーストの会の議員公募に応募して、最終的に公認候補となった。

 「履歴書とレポート論文を書いて公募に応募し、無事に公認候補となり、縁あって墨田区で出馬しました。ただ、供託金は自腹ですし、私は議員秘書経験がないので選挙は素人です。幸い、墨田区選出の成清梨沙子東京都議会議員という公認会計士の方に一からご指導をいただき、なんとか選挙を乗り越えることができました。毎日早起きをしてラジオ体操に顔を出したり、駅前で旗を立ててあいさつをしたり、選挙といっても本当に地道な活動の積み重ねでした」

両立ではなく両方やっている

 こうして地方議員になった甲斐氏だが、司法書士との両立はどのように行っているのだろうか。

 「生活は変わりました。司法書士の仕事はもちろん大切ですが、議員としての公務がスケジュールとしては優先です。ですから両立というよりは、両方やっているという感じでしょうか。
 例えば、2月後半から3月にかけては来年度の予算委員会がありますので、議会にかかりきりです。その間の司法書士業務は昼休みや休憩時間にリモートでスタッフに指示を出して、業務を進めてもらいます。また、8月など議会がないときは、ほとんどの時間を司法書士業務にあてています。もちろん議員としての地元周りや次の議会のために準備、勉強は行いますが、時間の割り当ては司法書士としてのほうが多いです」

 では、司法書士と地方議員の仕事の違いはどのあたりにあるのだろうか。

 「司法書士は登記というルールがあって、依頼者の希望をどのようにして叶えるかというゴールがあります。そこに向かって最善を尽くしていくのが司法書士の仕事です。
 一方で議会では、そもそも何が正しいのか、何をめざしていくべきなのか、あり方はどうあるべきなのかを考え、議論しますので、頭の使い方は違いますね。
 私は、司法書士として成年後見業務や相続業務を行っています。その経験や知識は、地方議員として入っている高齢者対策特別委員会での活動で活かせています。成年後見やノーマライゼーション、本人の意思尊重支援、老後の任意後見、死後事務といった内容に関しては、司法書士としての専門性を活かして、これができる、こうすべきではないかと提案できますので、私の強みになっていると思います」

 地方議員として自治体、東京都の政策や制度などに常に触れていることは、クライアントへのアドバイスに活きることもあるという。

 「墨田区や東京都の補助金や助成金、各種対策に関しては、クライアントに『現在、このような制度があるので役立ててください』とアドバイスをします。こうした情報は地方議員だから入手できるものではなく、議員のコネで優先的に採択されるものではありません。東京都や墨田区がきちんと発表してWebサイトにも掲載している情報です。ただ、皆さん気づかないことがほとんどで、知らないので使えていないんです。それをお伝えできるのは常日頃から議員として東京都、墨田区の情報に触れているからだと思いますし、メリットではありますね」

ソーシャルファームとしての士業事務所をめざす

 2025年12月、それまで個人事務所だった司法書士事務所を法人化し、プカリ司法書士法人とした甲斐氏。ぷかりと浮かぶ安心感を提供するべく、法律の専門家としてお客様一人ひとりに合わせた最適な解決策を、とことんわかりやすく説明し、確実な解決に導きたいとの思いからつけた名前だ。現在、司法書士法人にはパート社員2名が在籍している。

 では、司法書士法人の採用、運営に関してはどのような考えで臨んでいるのだろうか。

 「採用に関しては、スキルではなく人柄で採用したいと考えています。私がめざす事務所の方向性、司法書士法人としてのあり方に共感できる方を採用したいと考えています。そして『私は今このビジョンのために、これからこの手段を使って進めていきたい』ということを、スタッフと気軽に話せる関係にしていきたいですね」

 地方議員をしているがゆえの特殊事情として、1ヵ月間丸々事務所にいないことがあることを正しく理解してもらうことも大切だという。

 「組織としては安定した組織化をしたいと思います。この人手不足の時代、1日8時間フルタイムで仕事のことだけを考えている時代ではありません。男性にも介護はあるし子育てもある、ご自身の体調もあります。多分、一昔前、二昔前は、仕事のためにいかにフルコミットできるかだったのでしょう。
 でも今の時代、誰もが自分の健康と家族のことを守りながら、きちんとした報酬を得て働けるような事務所にしていきたいですね。最高のサービスを提供する事業者はブラック企業になりやすいものですが、私はその反対として労働者の負担が少ない形で利益を出せる方法をずっと考えています。今めざしているのはソーシャルファーム(就労を希望する誰もが個性や能力を発揮し活躍する場)としての士業事務所のあり方です」

司法書士資格は今のすべてのベース

 地方議員として活躍する甲斐氏にとって、司法書士資格とはどのような存在なのだろうか。

 「司法書士資格は、今のすべてのベースになっています。生活のベースであり、議員のベース、独立した自営業、法人のベースです。司法書士資格を取得して本当によかったと思います。
 私は、2026年で31歳になりますが、2025年度の司法書士試験合格者の平均年齢は42.05歳です。すると合格平均年齢までまだ10年以上あります。高校をやめて、浪人して、学生で出産をしてと、ちょっと遅れが出やすい人生だったんですが、司法書士資格を取得したことで、ビハインドがなくなりました。司法書士は余裕を持って新しいことにチャレンジできる土壌になっています」

 司法書士としての活躍だけでなく、約1年後の2027年には地方議員として2度目の選挙も控えている。もちろん出馬し2期目をめざすという。そんな甲斐氏に司法書士をめざす受験生にメッセージをいただいた。

 「司法書士の仕事は、人生のベースになります。お金を稼ぎたいから不動産事業に乗り出す、M&AやIPO・海外の渉外不動産登記という専門家として生きていく、全国に顧客を持つ事務所として成長することもできますし、反対に自分ひとりでゆとりをもった在宅開業でやっていく、企業のインハウス司法書士になるなど、司法書士は多様な生き方が可能です。
 私は、法律に興味がない人にも積極的に司法書士試験に挑戦してほしいです。例えば、自営業として会社経営をしたいから、手に職をつけておきたいから、満員電車に乗りたくないから、という方がその土壌として、まずは司法書士資格を取得することは非常に合理的です。いずれにせよ、司法書士になったあとはわくわくする選択肢の連続です。様々な理由やバックグラウンドがあっていいし、法律に興味がなくてもいい。とりあえず取得しておけば、後々の人生に効いてくるのが難関国家資格であり、司法書士資格です」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年4月 ]

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