日本のプロフェッショナル 日本の行政書士

長谷部 美子(はせべ よしこ)氏
行政書士オフィス ハナウタ 代表
行政書士
1974年、東京生まれ。日本女子大学人間社会学部卒業。1997年、バンダイビジュアル株式会社(現:株式会社バンダイナムコフィルムワークス)入社。2004年、松竹株式会社に転職。2018年、同社退職。子育て、趣味、学び直し、フリーランスでライター編集業などを経て、2021年、個人サイト「おはかんり」開設。2022年度、行政書士試験合格。2023年3月、行政書士登録し、5月より行政書士オフィス ハナウタを開設。2024年12月、株式会社おはかんりを設立。
第二の人生を、行政書士として歩み始めました。
2021年、お墓をテーマにしたブログからお墓の情報収集活動を始めた長谷部美子氏は、改葬手続き代理業務、遺言書、相続業務などの専門家が行政書士であると知って、行政書士試験に挑戦。2022年度試験に合格し、2023年、行政書士オフィス ハナウタを開設した。開業3年目の現在、相続・遺言書・お墓・終活・著作権関係を軸に無料相談会などを開いて地域に貢献している。長谷部氏がさまざまな壁に直面しながら、行政書士として開業するまでのいきさつをうかがった。
産休・育休からの職場復帰
「中学1年生のとき、バレー部で厳しい指導を受けた経験が強烈で、中学時代の他の記憶がほとんどありません。当時はまだ、体罰も問題視されない時代でしたので、友人が理不尽な指導を受けるのを見るのがつらくて…。結果として、友人2人と一緒に秋に退部しました」
そのとき芽生えた「許せないモノは許せない!」という正義感が、行政書士としての長谷部美子氏の現在につながっている部分もあるという。
東京都港区で5人兄弟の4番目として生まれた長谷部氏は、4歳で東京都杉並区に引越し、地元中学から恵泉女学園高等学校、日本女子大学人間社会学部に進学している。大学は「何でもできそう」という理由から文化学科で学んだ。
アルバイトとサークル活動に明け暮れる普通の大学生。そんな長谷部氏が興味を持ち始めたのが映画だ。「当時はミニシアター全盛期。映画に関わる仕事がしたい」との思いから、新卒でバンダイ系映像専門子会社、バンダイビジュアル株式会社(現:株式会社バンダイナムコフィルムワークス)に入社し、社会人の第一歩を踏み出した。
「6年半の間、アニメやキッズ向けビデオソフトの宣伝、クリエイティブなど、制作畑を経験しました。すべてが目新しくて楽しかった反面、周囲と比べると私はあまりにもアニメ愛が足りなくて。アニメーションのプロデューサーをめざさなければ、映画に関わるのも難しい環境で、少し違和感を覚えていました」
29歳で多忙な日々を一旦リセットするために退職。約半年の間は自由に、ニューヨークや沖縄へのんびり一人旅をした。
その後、30歳の節目で映画会社の松竹株式会社へ転職。あらゆるジャンルのDVD制作に携わった。国内外の映画、新旧作品、ときには歌舞伎まで、優れたエンターテインメント作品や現場に幅広く携われる松竹はとても楽しかった。プライベートでは2008年に結婚、2010年に35歳で一児の母となり、産休・育休を経て2011年に職場復帰した。
「そこからが大変でした」
遭遇した3つの壁
第1の壁は、中途入社の壁だった。新卒入社は部署ローテーションでいくつも部署を経験し、最終的なキャリアを築くルートを探せるが、中途入社にはそのルートがなかった。
「都合13年間勤務しましたが、10年以上経っても入社時から人事的ポジションは1つしか上がっていませんでした。新卒入社で10歳以上年下の人が自分よりも上になっていて、40歳過ぎても私はアシスタント扱い。自分自身の将来のキャリアが描きにくくなっていました」
第2の壁は、産休・育休取得後、復帰してからの働き方だった。
「復職後は、二次利用版権管理や契約関係を担当しました。私が部門初の育休取得者でしたね。大企業なので制度は整っているのですが、周囲に取得した先例がありません。当時はまだ時短勤務が一般的ではなく、周囲に前例もなかったため、私自身も手探りで働き方を模索していました。今のように時短勤務への理解が進んでいる時代ではなかったのが、第2の壁です。そのころから転職を考えるようになりました」
とはいえ40歳超、マネジメント経験なし、子持ちで時短勤務希望では、業界での転職は難しかった。
「娘は小学校3年生。1時間の時短勤務で勤務証明書を出したら、拘束時間が8時間に満たないという理由で、3年生まで通えるはずだった学童クラブは落とされました。それがまさかの小3の壁、第3の壁でした。娘は活発に友だちと遊び回るタイプでも、1人で留守番できるタイプでもなかったので、今がやめどきかなと思い、子育てしながらゆっくり次の働き方を考えようと退職を選びました」
2010年に出産して、2011年に復帰して6年半、長谷部氏は時短勤務を続け、2018年、松竹をあとにした。

お墓への興味から行政書士へ
退職後、企業への就職は違うかもしれないと、長谷部氏は自分の持つ強みを模索して、ライター編集講座に通った。しかし、ライター業は、大変な割に自分には合っていないと感じたため続かなかった。
そうこうしているうちに2019年、父が亡くなった。ある日、母が「茨城にお墓参りに連れて行って」と言う。「え?茨城?」。父は母方の都心のお墓に埋葬したし、熊本にある父の実家はすでに墓じまいをしている。思わず聞き返すと、どうやら病気の父に代わり、母が熊本のお墓を茨城に改葬したらしい。
「遺骨を移さなければ墓じまいはできません。母が行きたいと言ったのは、改葬先の茨城県霞ヶ浦のお寺。そこに私の祖父母の遺骨が納まっていたんです。娘を連れて母と3人でドライブがてら霞ヶ浦まで。お墓参りに観光を兼ねた楽しい1日でしたし、母は肩の荷が下りたようでスッキリとした表情を浮かべました。そのとき、『お墓っておもしろいなぁ』と関心を持ちました」
「お墓について調べたことを記録し、それを発信したらおもしろいかもしれない」とひらめいた。
2021年、個人の活動としてお墓にまつわるブログをスタート。記事を書き、お墓を調べ、偉人のお墓巡りをする活動を細々と続けていくと、お墓は誰にでも関わりがあり、いろいろな切口があって奥が深いと痛感。
「この経験を仕事につなげられないかな」
そう考えたとき、浮かんできたのが行政書士だった。墓じまいの改葬手続き代理や相続に関わる業務ができることから、長谷部氏は行政書士をめざすことにした。
行政書士オフィス ハナウタ誕生
2021年、行政書士をめざして受験勉強をスタート。それまで法律の勉強をした経験も、行政書士実務をやったこともない初学者だ。興味を持ったら全部おもしろいと思ってしまうタイプの長谷部氏。通信講座を申し込むと、自分のペースで勉強を進められるのが楽しくて、月1回のオンライン質問会がモチベーションになった。
「知らないことを知るのは単純におもしろいし、いろいろな科目のバランスがよくて『飽きたらこっち』ができる。行政書士は理想的でした」
試験本番。自己採点したところ、一般知識の得点が非常に高く、記述式の得点を待たなくとも合格ラインに達していた。
こうして長谷部氏は2022年度の行政書士試験に合格した。
「行政書士を名乗れないとお墓の代理業務はできません。そこで、開業準備は合格前から始めて、2023年1月の合格発表後すぐに行政書士登録を済ませました」
行政書士事務所を始めるにあたって長谷部氏が考えたミッションは、「想いを形にして届ける」「心を軽くするお手伝い」「人生にゆとりと創造を」の3つ。音楽が好きで楽天的な性分の長谷部氏は、推しのエレファントカシマシの楽曲から、事務所名を「行政書士オフィス ハナウタ」に決めた。
「7のつく日」は行政書士相談会の日
「どんな人にも家族と築いてきた大切な人生と、つなげていきたい未来がある。変わりゆく社会の中で不安や後悔なく、明るく人生を全うしてほしい。ハナウタを口ずさむような楽しい気分で」
2023年5月、「行政書士オフィス ハナウタ」は、そんなキャッチフレーズでオープンした。とはいえ、行政書士の仕事は、意外にも幅広い。実務経験なしの長谷部氏がお墓だけでやっていこうというのは無謀な話と言える。
「お墓だけでは難しいので、相続手続き、遺言書作成、お墓・終活の周辺業務、そして、松竹での経験、著作権関係もひとつの柱にして、まずはやってみようと考えました」
事務所は、東京都杉並区にある実家の1部屋で開業することにした。しかし、ほどなくして「これはまずいな」と感じることになった。
「2008年に江東区に引っ越していたので、自宅から事務所まで片道1時間。リモートで何とかなると思ったのですが…。それに地元に住んでいないと積極的な営業活動ができません。『いつでも行きます』と言えないんです」と、苦い経験を思い返す。
「それでも何かやらねば」。長谷部氏は西荻窪にあるシェアカフェでテーブルを借り、無料相談会を始めた。「7のつく日」は行政書士の無料相談会。月3回、7の日に必ずやっています』とキャッチフレーズをつけてスタートした無料相談会を定期的に開いていると、徐々にいろいろな人が来るようになった。シェアカフェなので出店者も代わる。地域の人とのつながりが広がって、「7のつく日」は次第に認知されるようになった。
「カフェで行政書士の相談窓口をやっているんだ。そのような空気が定着していったことはよかったです。そこから西荻窪の仲間たちが増えて、終活をテーマにしたイベントに発展することもありました。今もつながるご縁がとても心強いものになっています」
2024年8月、事務所を自宅近くの江東区白河(清澄白河エリア)に移転。拠点は変わっても、「7のつく日」は引き続き事務所とオンラインでの相談室をオープンしている。
2026年1月からは江東区にある砂町銀座商店街のコミュニティスペース「そよ風テラス」で相続・終活のセミナーと無料相談会を月1で開催している。
「敷居の低いところから少しずつ、できる範囲でやっています。地域の皆さんと触れ合う機会は貴重ですし、自分の顔を見せることは西荻窪で学んだ経験です。対面での相談では圧倒的に相続関係が多いですね。オンラインでは著作権やビジネスのちょっとした困りごとを相談してくださる方もチラホラ増えてきました」

お墓の会社を作りました
相続や遺言相談を受けている中で2024年12月、株式会社おはかんりを設立。約5年前に始めたお墓をテーマにしたブログを、お墓専門のサービスを扱う会社として法人化した。
「行政書士という個人事業から、お墓のサービスを切り分けて事業化することにしました。お墓は、目に見えない先祖とのつながりを感じ、命に感謝できる大切な象徴です。お墓参りの習慣に見られるような文化風俗は、たとえ形を変えても未来へつなげたい。そのような思いから、お墓の情報管理ツール『おはかんり』の開発に着手しました。ただ、お墓を巡る社会課題は想像以上に深く、多様です。だからこそ、形を急ぐのではなく、今の時代に本当に求められる支援のあり方を、丁寧に模索しています」
2025年秋に小規模事業者持続化補助金の申請が通り、ここから弾みをつけたい。
「事業計画を提出し、評価していただけたことは大きな自信になりました。個人事業主や小規模事業者を援助するしくみを知ることも、ひとつの学びです」
2026年は行政書士としての知見とネットワークを最大限に活かし、お墓の承継に悩む個人向けのサービスの本格展開とツールの具現化というフェーズに挑む。
ハナウタとおはかんりのこれから
「おはかんりを始めたらやりたいことがクリアになってきて、ハナウタも軌道に乗ってきた」と話す長谷部氏。この両輪でやっていくのが楽しいと笑顔を見せる。
行政書士オフィス ハナウタを開業してから3年。行政書士とお墓事業で、今後どのような展開を考えているのだろう。
「よくばりかもしれませんが両方やりたいんです。『おはかんり』はお墓の社会課題に貢献できるサービスをきちんと形にする。行政書士としては、相続で事前にわかっている課題に対して終活できちんと対応していきたい。遺言書の大切さは知っていても、ほとんどの方が手を付けていません。事態が深刻化してから相談にいらっしゃる人が多いので、事前の啓蒙活動が本当に大切。無料相談もセミナーも小さな種まきですが、いつか仕事につながればいいですね」
若手のアントレプレナーのように、会社を大きくしてどんどん売上を上げていくことは狙っていない。
「事業として育てるなら『おはかんり』のほうになると思います。ただし、自分が行政書士として信頼できる成果を上げていることが、『おはかんり』の運営の第一条件。そこはわかっているので、どちらもがんばらなきゃと思います」
行政書士オフィス ハナウタは水曜日定休なので、今は水曜日に出張セミナーや「おはかんり」の活動をしている。
「休むときは休みたいし、仕事というよりやりたい活動が自由にできる日。それが水曜日」と、楽しそうに話す。
情報系含む複数の資格を取得
行政書士資格取得以前の2019年、長谷部氏はFP3級(3級ファイナンシャル・プランニング技能士)資格を取得している。
「松竹を退社するときは早期退職制度に応募してやめましたので、退職金を多めにいただけました。その資産運用のためにFP資格を取得しました。今自由にできているのも、その退職金に手を付けずに運用に回している安心感があるからです。勤務時代に取得していたビジネス著作権検定®に加え2023年に知財検定(知的財産管理技能検定®)2級、FP2級(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)、2024年にITパスポート、2025年は個人情報保護士資格を取得しました。相続周りやお墓管理は個人情報を扱うので、個人情報保護士は非常に役立つと思います」
次はITリテラシーの強化を目的に、情報セキュリティマネジメント資格の取得をめざす。
「デジタル化に対応できる行政書士をめざし、行政のデジタル化と市民の間をつなぐ何らかの役割を果たしたいと考えています」

先が読めないからこそワクワクする
行政書士として開業3年目。前述の3つの壁に直面していたモラトリアム時代からは、ずいぶんと遠いところに来た。
「今は行政書士としてこうなりたい、経営者としてこうなりたいよりも、フレキシブルに活動できることを楽しんでいます。行政書士資格を取得して一番よかったことは、人との出会いが広がったことですね。 会社員をやめたあと、いろいろなコミュニティに参加して、フリーで働いている方や若い経営者など、今まで会ったことのないジャンルの人がいるんだという発見に勇気をもらいました。今は葬祭カウンセラーという民間資格のコミュニティや、行政書士の中でも同じ方向性を志している仲間とのネットワークを通じて、自分の方向性も見えてきました」
行政書士をめざす人には、幅広い領域をカバーする行政書士資格で、自分にフィットする業務を探すことを勧める。
「動かないと何も始まりません。失敗はもちろんたくさんありますが、それもすべて糧になる。先が読めないからこそワクワクするんです。
私は40代半ばのモラトリアムを経て、第2の人生を行政書士に定めました。この年齢から何かをやるのはこわいと思う人もいると思います。でも、始めてみると楽しいんです。かつてのもやもやした思いや経験は全部無駄になっていないなと、最近つくづく思います」
人生は振り返ることはできても、先を見ることはできない。今年52歳を迎える長谷部氏。培った様々な経験を糧に、人生の後半をワクワクしながら迎えようとしている。
[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年3月 ]
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URL:行政書士オフィス ハナウタ https://office-hanauta.com
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