タックス ファンタスティック! 第98回テーマ 税理士試験に出ない問題 ― 正解は、まだない ―


 ■ 今回の登場人物

 ・大輔:天野大輔。このコラムの作者。NHK放映後も何も変わっていないと言い張る。

 ・マダナイ:デジタル遺言アプリ「AIユイゴンWell-B」のマスコット猫。

田久巣会計事務所の代表の田久巣だ。多くの受験生にとって、今年の税理士試験が終わった。長い受験勉強の成果を答案用紙に書き切った人もいれば、来年こそはと早くも次の一歩を考えている人もいるだろう。本当にお疲れさまでした。
税理士試験では、問題を読み、法令や理論、計算に基づいて正解を導く。しかし仕事となると、問題そのものが書かれていないことも多い。特にAIやデジタルサービスの開発では、「何をつくるべきか」から考えなければならず、巻末に模範解答もない。今回は、税理士試験には出ないかもしれない、幻の科目「AI開発論」について考えてみたい。



税 太 終わりました!今年の税理士試験、すべて出し切りました!


監 子 お疲れさま!解答速報、見る?


税 太 今日は見ません。しばらくは正解のことを考えたくありません。


襟 糸 甘いな。税理士を目指したる者、試験が終わった瞬間から次の試験が始まっている。


税 太 襟糸先輩、受験生が一番聞きたくないことを爽やかに言わないでください。


田久巣 では税太君、早速だが第12科目を始めよう。


税 太 第12科目?


田久巣 幻の第12科目、「AI開発論」だ。早速問題だ。高齢のお母さまが、遺言をつくりたいと思っている。しかし、死を考えるのは怖い。スマートフォンも得意ではない。長男に会社の株式を継がせたいが、ほかの子どもたちにも不公平感を持たせたくない。この方を支援するAIサービスを設計しなさい。


税 太 税法だけでなく、法務、家族感情、UX、セキュリティまで入っていますね。


監 子 試験時間は?


田久巣 無期限だ。


税 太 配点は?


田久巣 利用者の安心100点、法令遵守100点、事業としての継続性100点。


監 子 300点満点!


襟 糸 吾輩なら301点だ。


監 子 余計な1点は自己評価です。


税 太 ところで、この問題の模範解答はどこにあるんですか?


田久巣 マダナイ君、どうだね?


マダナイ 正解は、まだないにゃ。


監 子 名前を最大限に活用した!


マダナイ でも、何もないわけではないにゃ。税務の知識、相続の経験、利用者の声、AIの技術を組み合わせて、少しずつより良い答えをつくるんだにゃ。


税 太 でも、僕は元SEですが、普通の税理士はコードを書けない人も多いですよね。


田久巣 コードを書くことだけが開発ではない。利用者が何に困っているかを見つけ、税務や相続のルールを整理し、エンジニアやAIに伝わる仕様に変える。AIの出力に危険な誤りがないか確かめる。それも重要な開発だ。


監 子 つまり、税理士は税務とテクノロジーの通訳になれるということですね。


襟 糸 吾輩は英語、フランス語、税務語、AI語の四か国語に対応している。


監 子 自慢語を入れれば五か国語です。


襟 糸 模範解答がないのではなく、毎日、解答を更新するということか。


(ガチャ)


大 輔 いい話をしていますね。


監 子 また作者がノコノコ出てきた!


大 輔 実は、こういう税理士と一緒に働きたいと思っているんです。


監 子 急に採用広告になりました!


大 輔 そこは否定しません。でも、求人票だけでは伝わらないんです。税理士がAIユイゴンのようなプロダクトづくりに参加し、専門知識を社会に届く形へ変えられる会社にしたい。


税 太 税務申告もして、プロダクトもつくるんですか?


大 輔 どちらか一方でなくてもいい。相続実務で感じた課題を開発チームに持ち込み、AIで試作し、利用者に使ってもらい、改善する。そういう仕事にワクワクするという人と出会いたいんです。


襟 糸 なるほど。作者が今月出てきた理由は、採用のためか。


大 輔 採用だけに、話を「採用」していただければ。


監 子 そのダジャレは不採用です。


税 太 試験では「答案」を書きました。でも、これからは「提案」を書くんですね。


田久巣 その先には「実装」もある。


マダナイ 答案の次は提案。提案の次は実装だにゃ。


監 子 でも、その先の正解は?


マダナイ まだないにゃ。だから、一緒につくるんだにゃ。

【今回のポイント】

税理士試験では、与えられた問題を正確に読み、法令や理論に基づいて正解を導く力が求められる。その力は、実務に出ても大切だ。しかし、AIやデジタルサービスの開発では、そもそも何が問題なのか、誰がどんな場面で困っているのかを見つけるところから始まる。
コードを書くことだけが開発ではない。顧客の悩みを理解し、専門知識を仕様へ変換し、AIの出力を検証し、専門家につなぐべき場面を判断する。税務や相続を知る人だからこそ担える役割がある。
AIがコードを書く時代になれば、むしろ「何をつくるのか」「なぜつくるのか」「誰を幸せにするのか」を考えられる人の価値が高まる。税理士は制度を説明するだけでなく、制度とテクノロジーを組み合わせ、未来のサービスをつくる人にもなれるのだ。
試験では答案を書き、仕事では提案を書き、開発では未来を実装する。正解は、まだない。だからこそ、AIと仲間と利用者と一緒につくっていこう!


[『TACNEWS』タックス ファンタスティック!|2026年9月|連載 ]

Profile

筆者 天野 大輔(あまの だいすけ)

1979年生まれ。公認会計士・税理士。税理士法人レガシィ代表社員。慶應義塾大学・大学院修了(フランス文学を研究)。情報システム会社でSEとして勤務。その後公認会計士試験に合格し、監査法人等で会計監査、事業再生、M&A支援等を行う。その後、相続専門約60年の税理士法人レガシィへ。相続・事業承継対策の実務を経て、プラットフォームの構築を担当。2019年に士業事務所間で仕事を授受するWebサービス「Mochi-ya」、2020年にシニア世代向けの専門家とやりとりするWebサービス「相続のせんせい」、2024年に士業のためのSNS「サムシナ」、2025年8月にデジタル遺言アプリ『AIユイゴンWell-B』をリリース。主な著書に『相続でモメる人、モメない人』(2023年、講談社/日刊現代)、『100億円相続事典』(2024年、日経BP)がある。2025年より中央経済社『税務弘報』にて「文学で学ぶ相続の知恵」を全12回連載。2026年より全国賃貸住宅新聞社『地主と家主』にて「名作に学ぶ地主と相続」を毎月連載中。YouTubeチャンネル「相続と文学」を配信中。

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