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Profile

伊藤 達也(いとう たつや)氏

伊藤達也税理士事務所
代表税理士

1989年6月生まれ、慶應義塾大学経済学部卒。2012年、公認会計士試験合格。2013年、EY新日本有限責任監査法人入所、金融事業部に配属。26歳で転職し、創業手帳株式会社、弁護士ドットコム株式会社、キャディ株式会社にて、バックオフィス全般及び資金調達業務に従事。2021年、副業として伊藤達也税理士事務所設立。2023年、完全に独立開業。株式会社Koselig Partnersにてフリーランス・副業者に特化した確定申告サービス「ChatTax」をリリース。

サービスも社内環境も、すべて「仕組み」で解決。
AI、システムを駆使した事業に楽しく取り組んでいます。

 公認会計士・税理士の伊藤達也氏は、26歳からスタートアップ3社で経営管理、バックオフィス全般を経験してきた。2021年に副業として税理士事務所を始め、2023年には本業に転換。AI、システムを含めた仕組みで効率化と業務軽減を実現し、フルフレックス、フルリモート可の自立した組織を作り上げつつある。伊藤氏の経歴を追いながら、得意とする事業の仕組みづくり、そして、今後の方向性について話を伺った。

会計士受験はリスクヘッジとレバレッジ

 小学校からバスケット部に所属していた伊藤達也氏は、「前に引っ張っていくより、チームの中で困っている人がいれば『大丈夫?』と声を掛けるタイプ」だった。高校で千葉県有数の進学校に進むと、勉強で優秀な成績を修められなくなり、バスケットもスタメン落ち。そこで生まれて初めて自信を失う体験をした。

 英語と数学が得意だった伊藤氏は、大学は戦略的に「英語と数学で最大出力を出せる」慶應義塾大学経済学部を選び、現役合格を果たす。そんな伊藤氏が公認会計士(以下、会計士)をめざしたのは大学2年から。理由を次のように語っている。

 「自信がない自分でも、がんばってきた英語と数学を何か仕事につなげられないかと考えました。幼いころからの弱きを守りたい性格が半分、自信のなさが半分。将来へのリスクヘッジと、自分のレバレッジが効くのではないかという強みの部分で、会計士をめざしました」

CFOをやってみよう!

 1回目の短答式試験で不合格だった伊藤氏は、受験環境をTACに変更。2012年、2回目の受験で公認会計士試験に合格した。2013年、EY新日本有限責任監査法人(以下、EY)に入所。金融事業部に配属されたことが、その先のキャリアを決定づけた。

 「金融事業部では、大手証券会社1社を任された部署に配属されました。意識の高いメンバーが揃っていて、他チームは早く帰るのに、うちのチームだけは残業やハードワークも当たり前。そこで自分の人生観が変わりました」

 金融事業部は証券会社の法定監査だけでなく、IPO支援、内部統制構築支援にも携わる。伊藤氏はそこで初めて「事業というものは何か」に触れた。

 「直属の先輩から『今の世の中ITスタートアップがブーム。そこでCFOとして活躍している会計士もいるし、事業を作る会計士もいる』と聞かされました。『○○という会社が何億円で買収された』といった情報も入ってきました」

 チームのメンバーからは事業会社のCFOを務める者や、ロンドンの投資銀行で活躍する者も出てきた。同じチームで働いた経験から、「自分も通用するかもしれない。社外でも通用するのではないか」と、初めて自信が持てるようになった。

 「遠回りせず、まずは1回CFOをやってみよう!」と考えた伊藤氏は、2年半でEYを退所し、スタートアップでキャリアを積むことにした。

スタートアップで経営管理、企画を経験

 転職時、伊藤氏がめざしていたのは「中小企業を応援したい」という思いを実現すること。そのためのCFOと考えていた。

 「1社目は、そのミッションに近かったのが決め手でした。26歳だったので、失敗しても何度でもやり直せるという思いで飛び込みました」

 2社目は、一から経営管理をしっかり学べる環境がある企業、弁護士ドットコム株式会社を選んだ。まずは、請求書の封入作業、現金の仕訳といった経理1年生の仕事から始め、半年ほど実務を学んだあと、マネージャー業務に移った。さらに、当時スタートしたばかりの電子契約サービスにも携わることができた。

 「弁護士ドットコムで経理、総務、労務など、バックオフィス全般の仕事を経験することができて、経営管理業務のノウハウを学ぶことができました。また、電子契約サービスにも携り、しっかり成長させた経験は、自身のキャリアにとって大きなメリットでした」

 この仕事に2年10ヵ月従事した後、3社目の製造業のスタートアップ、キャディ株式会社に転職。キャディ株式会社はライジングスタートアップとして注目される企業で、伊藤氏の「中小企業を応援したい」という思いがよりダイレクトに叶えられる会社だった。

 「未上場から上場して、さらに大きく育てる」というスタートアップの面白みを感じての転職だった。

 入社すると管理部門だけでなく、法務、資金調達まで任された。入社当時30名だった社員は退職時に600名以上に増加。採用活動では何百人もの面接を担当した。拠点も日本、タイ、ベトナム、アメリカと増え、成長著しいスタートアップを目の当たりにすることができた。

 「コンサル出身の優秀なメンバーが揃っていたので、プロジェクトマネジメント、チームマネジメントといったソフトスキルを体系立てて学ぼうという機運が高く、教え合い、学び合うことが多く、幅広い経験を積むことができました」

 3社のスタートアップでバックオフィス全般と資金調達を経験した伊藤氏は、キャディ株式会社勤務中の2021年、副業で伊藤達也税理士事務所を立ち上げた。

副業2年で完全独立

 「3社のスタートアップで会計、税務、内部統制に関わっていく中で、直接会社にサービスを提供するコンサルティングサービスをやってみたくなり、副業で始めました」

 伊藤氏は、税理士事務所を始めた経緯をそう話す。前職の弁護士ドットコムが税理士紹介事業を持っていたので、スムーズに仕事を紹介してもらえたことも後押しした。副業とはいえ独立開業して気づいたのは、税理士業界の旧態依然としたやり方だった。

 「キャディ株式会社で学んだITツールを駆使したビジネスのやり方を踏襲すれば、高い利益率のビジネスチャンスがある」と確信した。

 一方、勤務しているキャディ株式会社が急成長する中、辞めるに辞められない状況が1年ほど続いていた。それでも「やるだけやったら、次は自分で起業しよう」と、入社時に決めたことは忘れていなかった。伊藤氏は2023年5月にキャディ株式会社を退職。2023年7月に副業から本業に転換し、本格的に税理士として歩み始めた。

BPO+コンサルティングの2軸

 「BPOはお客様から資料を預かり決算書を作成していくところまで。コンサルティングはその決算書をベースに提案していく業務。私は税理士業を、BPOとコンサルの2軸に分けました」

 開業に当たり伊藤氏がまず考えた戦略は、2軸展開だ。その理由は、税理士業務未経験でいきなり法人顧問を引き受けるリスク、そして、最初から税務業務担当の人材を採用すると、人材要件も給料も高くなることにあった。また、伊藤氏の経験が活かせるコンサルティング業務の依頼を多く受けたら、伊藤氏のキャパシティーが事務所の限界になってしまうという現実もあった。

 「そこで着目したのは、フリーランスや副業を行う人の増加です。個人事業主の申告であれば出てくる資料もシンプルなので、大量に数をこなすビジネスモデルが作れます。採用する人材要件も下がり、採用もしやすくなる。まずは、個人事業主のBPOでしっかりとビジネスの基盤を作った上で、法人顧問を伸ばしていこうと考えました。
 そこで2023年10月、BPO事業を展開する株式会社KoseligPartnersを立ち上げ、フリーランスや副業者に特化した確定申告サービス『ChatTax』をリリースしました」

 大量受注で再現性の高い業務にフォーカスした結果、副業時代の2021年から2年間の売上が1000万円(個人20〜30件、法人10社)だったのが、本格稼働した2023年は売上2000万円(個人100件)、2024年の売上は4000万円強(個人200件、法人20社)、2025年は税込の売上1億円(個人500件、法人50社)に到達した。

個人から法人へのシフト

 加速度的に売上を伸ばす伊藤氏は、2026年度からコンサル領域を強化し、個人事業主のマイクロ法人化を後押しする計画を立てた。

 「法人化すると出張旅費規定などを使った節税対策ができますが、そのためには煩雑な書類を残さなければなりません。そうした節税のための煩雑な工程を解消する節税ミニアプリを2026年7月にリリースしました」

 併せてAIによる節税レポートを毎月提供し、法人化の後押しをする。さらに、法人業務へのシフトを進めていくという。

 「2026年は個人事業主向けにはマイクロ法人化を後押ししつつ、節税や金融商品の提案をしていきます。対個人事業主の基盤はすでにできていますし、法人対応の経験も十分に積んできたので、2027年に向けて軸足を徐々にシフトし、2028年までに法人寄りにしていく方向です。
 この段階から自分のキャリアが活きてくるサービス提供が始まっていきます」

 伊藤氏が考える法人向け経理BPO事業の集客方法は、BPO業務の中核となるCRMシステムの導入会社とパートナーシップを組み、経理BPOの下請け的立ち位置で増やしていく方法。財務コンサルでは、自社の財務状況をよくしたいと考えている企業にアプローチすべく、FacebookやInstagramなどSNSに広告を打っていく戦略だ。

 「マーケティングは2社目のマーケティング部長だった方に参画してもらい、カスタマージャーニーを作っています。アプリやシステムの開発は元会計ソフト会社のエンジニアの方と組んで、ベトナムにオフショア開発を頼みながら進めています。培った人脈を活かしながら、各機能を補って、事業、会社を大きくしていきたいと考えています。
 事業を作るのがすごく楽しいし、作った仕組みがうまくいって、結果として売上が上がるのが理想です。どちらかといえば売上より結果としてうまくいったらいいな、という感覚です」

高自由度、高報酬での採用に特化

 伊藤氏の事務所が採用を始めたのは2024年9月。その時からスタッフは自立して働くスタイルが前提で、フルフレックスとフルリモートで時間や場所に縛られない働き方をしている。オフィスに週一は出社するスタッフもいれば、すべてオンラインで働く北海道や栃木県在住のスタッフもいる。
 事務所では短時間正社員制度を導入している。正社員の週の所定労働時間は35時間だが、20時間以上で短時間正社員としており、スタッフ20名のうち7割が正社員・短時間正社員になる。

 「BPO業務なので専門性の高い方より、お客様とチャットできちんとコミュニケーションが取れる方を求めています。時給は相場より高い水準、フルリモート、時短勤務可、未経験者も応募可に設定しています。この要件で主婦の採用に特化した媒体に募集を出すと、多くの方の応募があります」

 今後は税務業務を任せられる税理士試験合格者等、より専門知識を持った人材の採用に力を入れていく方向で、組織のフェーズがまた新たな段階に入る。

 「相性がいい専門人材は、税務知識がしっかりあって、幅広い税務業務に対応でき、マネージャー業務を一部担っていただける方です。一方で家庭を大事にしたい方は、フルリモートも可能です」

 事務所としての課題は、1つ目は社内の情報活用を進め、属人化の解消をめざすこと。2つ目はAIを活用した記帳と品質管理のコストダウン。3つ目が「人の依存を脱却」することにある。

 「今、税理士が私しかいないので、まずは自身への依存の脱却です。税理士を採用して、自分はよりマネジメント側に回っていくことを目標にしています」

 課題解決に向けて、お客様対応ではチャット専任チームを作り、1次回答は1時間以内に返すという取り組みを始めた。2026年4月からは国税庁OBの顧問がついて社内の税務上のリスク対策を始め、7月からは労務担当スタッフが参画した。

 「働いているスタッフも子どもや家庭の時間を大切にしながら、しっかりと相場より高い時給で仕事ができて、かつ仕事がおもしろいと言ってくれています。人も辞めていないし、全員で事業を一緒に作りだしていく体制は、次々と整いつつあります」

AIとWebで効率化と業務軽減

 コンサルティングは、その分析結果や意見がどうしても属人化しやすいリスクがある。2028年を目標に法人寄りの体制を組む伊藤氏は、そこに対してもAIでのアシストを考えている。

 「外部ツール、自社ツールを使いながら、サービス品質があまり変わらないかたちでお客様に提供し、かつ社内コストは低くしていく。よりBPO的なところもしっかりベースにありつつ、コンサルがしっかり表に出るような会社をめざしていきます」

 提供するサービスも社内環境も、AI、システムを含めた仕組みで効率化と業務軽減を実現し、すべて仕組みで解決していく方向で動いている。

 プライベートでは2026年2月に子どもが生まれ、今まさに子育ての真っ最中だ。家庭内の育児はシフト制で、朝5時から12時は伊藤氏が担当。抱っこ紐であやしながら仕事もこなす。12時からは奥様に交代して、午後は打ち合わせに出かける。

 仕事もプライベートも充実している伊藤氏は、「学生時代は自信もなかった自分が、現在のように会計士として独立し、社会で活躍できるとは想像もしていなかった」と、振り返る。

 「私は資格によって、自信がなかった部分を払拭できました。一歩踏み出したいときに、何かあっても食いつなげるセーフティネットの役割を果たしてくれるのが資格です。少しでも挑戦マインドを持っている方なら、思いっきりチャレンジできます」

 税理士人口自体が減ってきている一方で、若者がどんどん起業し、企業数が増える中、「これからは税理士の奪い合いの時代になるのではないか」とも予測する。

 「特にBPO業界は今ものすごい成長率です。ITやAIを活用して効率化するビジネス目線を持っている方であれば、大いにビジネスチャンスがある業界です。20代、30代はキャッチアップも早いので、会計士・税理士資格を持って起業すれば、他のマーケットで起業するより成功確率は断然高いはずです」


[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年8月 ]

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