日本のプロフェッショナル 日本の司法書士

片野 洋介(かたの ようすけ)氏
司法書士法人クレスタ
代表司法書士
1984年、千葉県印西市生まれ。2008年3月、青山学院大学文学部英米文学科卒。同年4月、東証一部上場メーカー入社。約10年間、法人営業部にて営業に従事。2020年2月、司法書士試験合格。同年12月、簡易訴訟代理等関係業務認定。2021年12月、都内司法書士法人入所。2022年1月、東京司法書士会入会。2023年1月、千葉司法書士会入会、独立開業。2024年8月、司法書士法人クレスタとして法人化。
新しい時代にふさわしい、新しい司法書士法人をめざします。
千葉県柏市で成長を続ける司法書士法人クレスタを運営する司法書士の片野洋介氏。開業わずか3年で売上高1億5,000万円を達成した。そんな片野氏に司法書士をめざした理由、独立開業の経緯、そして、新しい時代の司法書士法人の運営についてうかがった。
法律の力で「困っている人を助けたい」
千葉県柏市にある創業45年以上の土地家屋調査士事務所。それが司法書士の片野洋介氏の実家だ。片野氏は同じ柏市で総勢26名の司法書士法人を率いている。
学生時代は資格どころか、法律より英語や異文化コミュニケーションに関心が強かった。大学卒業後は「実体のある製品を売る仕事で、ビジネスの基礎を身につけたい」と、千葉県松戸市にある一部上場メーカーで営業職に。法人営業に携わる中で、お客様の要望を聞き、社内の技術・製造・品質管理部門と調整をしながら取引を進めていくと、「相手の話を聞く力」や「分かりやすく伝える力」が身についた。それは、現在の仕事につながるスキルになっている。
営業職10年目、4年間の海外駐在の話が浮上した。
「英語を活かして、海外で仕事ができるチャンス。そう思ったのですが、帰国後の人生プランを明確に描けませんでした。会社勤めを続ける限り、働き方は大きく変わりません。やはり、自分は専門知識を使ってお客様にサービスを提供し、経営も含めて自分で物事を決めていきたい。それなら父のように資格を持って独立したほうがおもしろいのではないか。
そう考えたとき、数ある資格の中で司法書士が思い浮かびました。決めたのは、独立のしやすさと法律の力で困っている人を助けられるからです。なにより父の姿を見てきたことが、士業をめざしたきっかけになっています。司法書士資格は父の持つ土地家屋調査士資格と親和性が高く、補完関係にある資格でもあります」
こうして片野氏は、司法書士をめざしてTAC司法書士講座で受験勉強をスタートした。
4回目の受験で司法書士試験に合格
司法書士受験は、それまで法律に触れる機会がまったくなかった片野氏にとって、かなり厳しい道のりだった。
「司法書士試験は範囲が広い。教科書を見ても、講義を聞いても、まったく頭に入ってきません。とにかく情報を浴び続けて一周終わらせるまでに、8〜10ヵ月かかりました。終わったら本試験は目前。初年度の受験は絶望的でした。
いつ終わるのか、いつ覚えられるのかと思いながら、とにかく1日1日を積み重ねていくと、1年、2年と経つうちに、それまでまったく未知のものに触れる感覚だったのが、記憶して答えられるようになりました。毎年、来年受かろう、今年こそ受かろうと思いながら、4回目の試験でようやく合格することができました」
厳しい受験を終えた片野氏は、合格後は燃えつきてしまい、机に向かって勉強する気力を使い果たしていた。
「試験中に衰えた体力をつけるためにジムに通ったり、10ヵ月間好きなことをして気力と体力回復に励みました」
10ヵ月後、都内の司法書士法人に入り、不動産登記・決済、商業登記、相続と、現在の基礎となる実務を学んだ。独立のための修業期間を意識していたので、吸収も早かった。
こうして実務経験を積んだ片野氏は、2023年1月、千葉県柏市で司法書士として開業に踏み切った。

開業2年で売上1億円達成
「独立開業を考えたのは、自分の理想とする司法書士事務所を作りたかったからです。堅苦しい専門用語を使わずに、相談しやすくてわかりやすい、親身になって伴走する事務所をめざしたいと思いました」
柏市に事務所を構えたのは、父の事務所があるゆかりのある地であったこと。加えて、相続・生前対策、不動産登記のニーズが高いエリアだったからだった。とはいえ不動産、相続案件を打ち出したところで、開業当初は仕事がこない。営業とWebサイト、有料サイトへの掲載に力を入れ、新規獲得できたお客様をリピーターにつなげるために、業務自体もお客様の満足度が高い内容を意識しながら進めていった。
1人での開業は、営業だけでなく、人材採用、資金繰り、業務フロー構築と、あらゆることを1人で進めなければならない。独立開業の苦労の中で、片野氏は「単なる個人事務所ではなく、将来的には組織として成長する事務所をめざそう」と決めていた。
そこで開業してすぐに女性スタッフを採用。
「仕事がない中、1ヵ月でスタッフを採用したため、どのような仕事をしてもらえばいいのか悩みました。実務から経理まで、スタッフが対応可能な業務は可能な限り担当してもらうようになったのは、そこからです。私は99%営業に注力しました」
軌道に乗り始めた半年後には、毎月1名ペースで採用してきたスタッフは6名に増えた。開業から1年目にはスタッフ7〜8名、売上高3,000万円まで成長し、2年目には司法書士法人クレスタ(以下、クレスタ)として法人化を果たした。Webサイトからの集客が安定的に入るようになり、提携先、既存の顧客がリピーターで増え、2年目の終わりには売上高も1億円を達成。3年目の2025年には売上高1億5,000万円、スタッフ数20名に達し、現在では総勢26名の司法書士法人となった。

分業制による26人体制
短期間にスタッフが増えた組織体制をうまく機能させることも、代表である片野氏のミッションだ。
現在のスタッフ26名の中には、司法書士2名のほか、行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士が含まれる。法人内は専門分野によって不動産チーム、相続チーム、家族信託チームに補助者を分けて体制を組んでいる。
「もともと私は細かいこと、厳しいことを言わないタイプ。当初から基本的にスタッフの自主性に任せてきました。自分たちで考え、調べ、答えを導き出して、確認を取って進める。それができない人には厳しい環境かもしれません。言われた通りやるだけで給料がもらえたらうれしい人は、難しいでしょう。自分の思い通りに仕事ができるのを喜んでくれる人には、向いていますね」
40代が多かったスタッフの平均年齢は、最近20代、30代が入って若返った。
「採用では、コミュニケーションがしっかり取れる人かどうかを見極めています。加えて落ち着きがあるか、過去の仕事の経歴を見て責任感があるかどうかも見極めます。最近はやる気があっていろいろ吸収しようという、モチベーションの高い方が多く入ってきています」
旧態依然とした司法書士事務所では、補助者の仕事は限定的で、司法書士がほぼすべてを回す体制が多い。一方クレスタは、司法書士は司法書士にしかできない仕事に集中する。補助者は担当可能な範囲の業務を可能な限り進める。この文化によって司法書士2人、総勢26名体制は保たれている。だからこそ片野氏は面接で「うちは自ら切り拓いてやっていく事務所だよ」と包み隠さず伝え、違和感なくやっていけそうかどうかを確認している。
規模に合わせた柔軟な組織作り
補助者の採用については、クレスタの文化に馴染めるか。コミュニケーションを取れるのか。素直さと責任感、成長意欲、チームで仕事をする姿勢を重視している。資格を要件にした募集でない限り、資格の有無は重視しない。
「クレスタの仕事は事務処理だけではありません。現在の業務比率はおおよそ不動産登記・決済3割、相続4割、家族信託2割、商業登記1割。中でも相続、家族信託案件では依頼者の人生や財産に大きく関わります。そのため相手の立場に立って考える力、わからないことをそのままにしないこと、最後まで責任を持って取り組む姿勢が大切です。
よい人がいれば採用したいので、毎週のように面接をしています。補助者は松戸市や柏市周辺の方が来てくれることが多いです。有資格者は都内とバッティングしてしまうし、若い方は都内の大手法人に向かう傾向があるため苦戦気味。採用面では課題が残っています。そういった環境下で、司法書士が最小限の人数で回す組織ができあがりました」
組織作りの確固たる答えがあったわけではない。1人のとき、2人のとき、3人のとき。すべてその場その場で、ひとつずつ答えを探りながら解決してきた。
「与えられた環境でどこまでできるか」、その発想の中で出てきた答えが、今のクレスタのやり方だ。

「日本一働きやすい司法書士法人」をめざして
事務所のコンセプトは「お客様第一」と「変わらぬ想いと進化する姿勢」。
「お客様に寄り添う姿勢はそのままに、新しい技術も積極的に導入し、より迅速で正確、わかりやすいサービスを提供したい」、それに加えて「『日本一働きやすい司法書士法人』をめざしたい」と、片野氏は話す。
「日本一働きやすいとは、単に楽な職場という意味ではありません。成長できること、やりがいを持てること、正当に評価されること、仕事のしくみが整っていること、無駄な属人化が少ないこと。それが本当の意味での司法書士法人の働きやすさだと思っています。だからこそ、業務フローの標準化、AIの活用、チーム制、教育体制の整備を進め、業界にありがちな個人に過度な負担が集中することのない組織を作りたいと考えています」
所内では資格取得をめざして大勢のスタッフが、司法書士や行政書士、相続関連資格の受験勉強に励んでいる。本人のキャリアに必要な学びについては事務所として支援し、試験前は休暇を用意したり、書籍の購入補助もしている。
「まだ、所内から誰も受かっていないんです。2026年の本試験で1人でも合格して欲しいですね」
一人ひとりが専門性を高めながらチームとして成果を出せる組織をめざすために、片野氏はスタッフの学びにもサポートを惜しまない。

AIによる自動化で業務量を現在の人員で1.8倍に
片野氏が常々口にするのは、「相続、不動産、家族信託。だれに相談すればいいかわからない人生の大きな場面で、『クレスタに相談すれば問題解決まで道筋を示してくれる』といわれる事務所になりたい」という言葉だ。
その中で現在特に注力しているのが、相続と家族信託だ。クレスタは、社会保険労務士事務所、相続・生前対策相談所をグループ内で運営している。並行して、土地家屋調査士、弁護士、税理士など各分野の専門家と提携。司法書士だけでは解決できない問題も、他士業と連携することで窓口ひとつでスムーズに解決する。このワンストップ体制で「困ったときにまず相談してもらえる事務所」の実現をめざしている。
「単に手続きをするだけでなく、お客様の背景や感情、家族関係、将来のリスクまで考えた提案ができる事務所でありたいと思っています。特に相続や家族信託は、法律だけで割り切れない問題が多くあります。だからこそ、法律内でできる限りの、合意形成や調整をなにより大切にしています」
お客様に寄り添う事務所をめざして、少数精鋭で高い生産性を実現する組織にする。そのために片野氏が注力しているのが、AI活用による生産性アップだ。
「司法書士業務でAIを使うとベンダーの申請ソフトに依存しがちですが、すべては自動化できず、申請ソフトに自分でタイピングしないと申請書ができない仕様になっています。そこは現在、改善に取り組んでいますが、その他の押印書類、準備してほしい書類リスト、見積書作成などはすでにAIで作成できるレベルになっています。
AIを活用することで、今いるスタッフ数は変えずに、こなせる業務量を1.8倍にする。同じ人数で利益を上げて、スタッフに還元できれば、会社の利益構造もよくなり、競争力のある組織になります」
AI活用では最先端を走っている司法書士。片野氏にはその自負がある。
「近い将来、AIによって定型業務は大きく効率化されます。今までやっていた書類作成業務も減少していきます。司法書士の一般的定型業務は価値を失うという前提で動いています。では、有資格者は何をするのか。私たちは今後どのように業務を回していくべきなのか。
今後はAIによる自動化を推進しつつ、お客様の感情に寄り添ったり、難しい調整業務に集中していくのが、司法書士の仕事だととらえています。
例えば、相続、遺産分割協議でもめたとき、弁護士が介入すると対立軸になって争う構図になってしまいます。でも、司法書士ならそこで中立の動きができます。人間の感情や状況、人間関係といったすべてを総合的に把握した上で、法律の範囲内とはなりますが、皆が納得できる落としどころに持っていけるように動く。AIにはできない、非常に大きな役割です」
新しい時代に合った新しい司法書士法人へ
AIを積極的に導入し、より迅速で正確、わかりやすいサービス提供をめざしているが、キャパオーバー気味のため、現在クレスタでは相続と不動産に関しての営業はしていない。
「今は、家族信託のセミナー依頼のみ受けています。私自身、そうした自分ひとりで処理できる部分とAIを使った業務をメインにやっています」
家族信託はまだまだ知らない人が多く、開拓の余地があり、今後もセミナーなど積極的に取り組みたいと、片野氏は言う。Webサイト、有料掲載サイト、セミナー、税理士など他士業からの紹介と、いろいろなチャネルから年間30件程度の依頼がくる家族信託のボリュームを倍にしていくのが、片野氏の今後の目標だ。
「さらに生産性を上げられれば、相続と不動産にも営業をかけていく」と、強気の構えの片野氏。
「3年後には千葉県内でも相続と家族信託でまず名前が挙がる司法書士法人になりたい」、「5年後には司法書士法人を中心に、不動産、相続・信託コンサルティング、他士業連携を含めた総合専門家グループへと成長させたい」と、構想は遠大だ。
「司法書士業界も大きく変化しています。今後は単に書類作成する司法書士ではなく、お客様の課題を整理し、他の士業と連携し、解決まで導ける司法書士が求められます。
加えてAIの進化で司法書士の定型業務がどんどん効率化される中で、人にしかできない判断、調整、提案、信頼関係作りの価値がより高まっていくと確信しています」
信頼関係を大切に、新しい時代に合った新しい司法書士法人をめざす。顧客にとっても、働くスタッフにとっても、安心して長くつき合える事務所を作っていく。それが片野氏の究極の目標である。
「司法書士試験は決して簡単な試験ではありません。私も心が折れそうな思いを何度もしました。ただ、私の経験から言えば、特別な才能がなくても正しい方向で努力を続ければ道は拓けます。大切なのは、日々少しずつでも前に進むことです。
司法書士の仕事は、人の人生の大切な場面に関わるとてもやりがいのある仕事です。社会で必要とされる場面がたくさんあります。合格後にどのような専門家になりたいのか、どのように人の役に立ちたいのか。思い描きながら、苦しい時期を乗り越えてください。努力した時間は合格後の実務でも必ず活きてきます」

[『TACNEWS』日本のプロフェッショナル|2026年9月 ]















