特集 東京商工会議所×資格の学校TAC合同イベント
知っているだけでこんなに違う!企業の損害賠償リスク

 2017年7月、東京商工会議所とTACの共催で「知っているだけでこんなに違う!企業の損害賠償リスク」と題し、セミナーを開催しました。今回はTACビジネス実務法務検定試験®講座の講師が、渋谷校にて実施したセミナーを抄録としてお届けします。
※ビジネス実務法務検定試験®は、東京商工会議所の登録商標です。

TACビジネス実務法務検定試験®講座講師
多賀 潤先生
ビジネス法務エグゼクティブ®(The Japan Business Law Examination、Grade1)
〔担当:1級対策・2級対策および3級対策講座の全メディア(含収録講座)を担当〕

企業の損害賠償リスク

 今回は企業の損害賠償リスクをテーマに、「債務不履行責任」と「不法行為責任」について学んでいきましょう。
 まず、民事上の損害賠償責任がどのような場合に生じるかですが、この時に重要なのが「債務不履行責任」と「不法行為責任」の知識で、「債務いわゆる契約関係にある場合は、不履行責任」になります。一方、契約関係にある・ないに関わらず、一定の要件を満たした場合に発生するのが、「不法行為責任」です。その他に、契約上の損害賠償責任として「担保責任」というものがありますが、今後施行される民法改正によって「債務不履行責任」に一本化されることになります(民法改正とは、2017年5月26日に成立した「民法の改正」をいう)。
 それでは損害賠償責任がどんな場合に生じているのか、具体的な事例で紹介していきます。

債務不履行に基づく損害賠償責任

 日常で起こりがちな事例としては、例えばA氏が所有している車をB氏に売るという売買契約があったとします。契約というのは当事者の合意内容、意思表示の合致に基づいて成り立っていて、合意内容にしたがった権利義務関係が発生します。A氏・B氏の間で車を300万円で売り買いするという同意があったとしたら、B氏は、10万円でも200万円でもなく、代金300万円を支払う義務を負うということです。A氏はタダで車をあげるという訳ではなく「売る」と言っているので、所有権(目的物)を引き渡す義務を負うということになります。問題は、約束通りの義務が果たされなかった場合です。この場合を「債務不履行の事実が生じた場合」といいます。
 この点について、まず先に「履行」の概念について説明しましょう。履行とは、発生した権利内容を実現する行為のことを言います。例えば、売買契約が成立すると、売主は買主に対して「代金を支払ってください」と請求できる権利、すなわち代金「債権」を有し、買主は売主に対して代金「債務」を負担します。また、買主は売主に対して目的物の引渡「債権」を有し、売主は買主に対して引渡「債務」を負担することになります。この場合、買主が代金を支払えば、買主は「代金債務を履行した」ということになり、売主が目的物を引き渡せば、売主は「引渡債務を履行した」ということになります。

 これに対して、「債務の不履行」というのは、契約から生じた義務が約束通りに果たされなかったということで、今回紹介した例では、B氏が代金を支払ったにも関わらず、A氏がB氏に対して、約束の期日に車を引き渡さなければ債務の不履行になり、B氏は法律上金銭での損害賠償請求ができるということになります。
 この時、債務不履行責任が生じるためには、まずは債務不履行の事実(状態)がなければならないという要件があります。  しかし、それだけではダメで、債務不履行の事実に加えて、債務を履行しないことについて責められても仕方のない事情、すなわち「帰責事由」が必要になります。
 約束の期日に車を引き渡されなかったことに対し、債務不履行責任に基づき損害賠償請求をする場合は、B氏は自己に損害が発生したということを証明しなければなりません。車を使う仕事を予定していたのに、仕事ができなくなりレンタカーを借りるはめになった」という損害が発生したような場合には、債務不履行の事実と損害の発生との間に相当因果関係が認められることがあり、「債務不履行の事実によりこのような損害が生じた事実がある」として、B氏は、その点に帰責事由があるA氏に対して損害賠償請求権という債権を取得することになります。これが債務不履行に基づく損害賠償責任です。契約で発生した債務について、債務不履行の事実があることが前提になります。

不法行為責任

 次は「不法行為責任」についてです。日常で起こりがちな具体例を挙げて紹介します。
 スマホを見ながら自転車で脇見運転していたA氏が、歩行通行中のB氏を跳ね飛ばす事故を起こしました。B氏はケガをしたため、治療費などの損害が発生します。この場合、自転車で脇見運転をしたA氏と、歩行していたB氏との間には契約関係はありません。ところが、この事故では、故意(わざとやった)または過失(うっかり不注意で)の行為によって違法に他人の権利や法律上保護すべき利益が侵害され、損害が生じました。そして、A氏の行為とB氏が被った損害との間には、相当因果関係も認められます。不法行為責任の基本的な要件は、故意または過失の行為によって損害が発生し、その行為と損害との間に相当因果関係があることなので、この要件を満たす場合、被害者から加害者に対して、「あなたの行為は法律上不法なものだ」ということで不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)という債権が発生します。
 以上をまとめると、損害賠償責任が生じる場合のひとつとして、「債務不履行に基づく損害賠償責任」があり、これとは別に、「不法行為責任」があるということです。そして、当事者A・B間に契約関係がある場合、債務を負担していますから、その債務について債務不履行の事実があれば、債務不履行責任の問題が生じます。また、契約関係があっても不法行為責任の要件さえ満たせば、不法行為責任が成立する可能性があります。これに対して、契約関係がない場合、そもそも債務を負担していませんから、原則として債務不履行という事実が起こりません。したがって、不法行為責任で要件を満たすかを考えれば良いことになります。これは損害賠償責任のもっとも基本的な知識になるので覚えておきましょう。

企業間取引における債務不履行責任

 今度は、企業間の取引での注意点を紹介します。
 A社とB社の間で、売買契約に基づき目的物の引き渡しをすることになっていました。A社が約束の期日に目的物を引き渡さないと債務不履行の事実が起こります。この時、A社の従業員a氏が、約束の日にB社に引き渡すのを忘れていて引き渡しができなかったという場合、A社は債務不履行責任を負うでしょうか。
 債務不履行責任の要件として、債務者の帰責事由が必要です。この場合、問題を起こしたのはa氏ですが、従業員a氏は会社の手足になって行動しているため、a氏のミスではあるものの、A社に帰責事由がないとは言えません。したがって、A社は、損害賠償責任を負うことになります。これは、会社が契約の当事者になっている場合における、売主側の会社の引渡債務についての債務不履行責任ということになります。
 債務不履行責任というのは、もともと義務を負っていたにも関わらず、義務を果たしていないという債務不履行の事実が発覚したときに問題になります。この場合、「私には帰責事由がない」と証明しない限り、責任を負わなければなりません。会社が契約の当事者である場合、会社の従業員の行為によって会社側が責任を負う可能性が出てくる場合があるということを覚えておきましょう。

被用者の行為に基づく使用者責任

 他のケースも紹介しましょう。
 A社という運送会社の従業員B氏が、宅配物を運送している氏が業務中に脇見運転という過失によって発生したもの」です。この場合、A社にどのような責任が生じるでしょうか。
 民法の不法行為責任には使用者責任(民法715条)という規定があります。この例では、A社を「使用者」、従業員B氏を「被用者」とし、使用者と被用者の関係、すなわち指揮監督命令関係にあります。これを「使用関係」といいます。A社という運送会社の従業員B氏が仕事中に起こした事故なので、使用者の事業の執行についての事故です。
 跳ね飛ばされたC氏に治療費などの損害が生じた場合、B氏は故意または過失によって他人に損害を与えたため、C氏は、B氏に対して、不法行為に基づき民法709条を用いて損害賠償を請求することができます。また、労働契約の関係がある場合、指揮監督命令関係があるので使用関係が認められます。ただ、その場合でも、休みの日に遊びに行って事故を起こしたという場合は、使用者の事業の執行についての事故ではないため使用者責任は成立しません。これに対して、使用関係が認められ、被用者に不法行為責任が成立し、仕事中、すなわち使用者の事業の執行についての事故という要件を満たせば、A社は従業員B氏を使って利益を上げているのだから、従業員の行為によって生じた損害も負担するのが公平であり、民法715条の使用者責任が適用されます。これによって従業員B氏が負う責任と同じ内容の責任をA社は負担する必要があります。したがって、従業員の仕事中に起こしたミスが会社の損失につながる、損害賠償責任を負担するリスクがあるということを覚えておきましょう。つまり、従業員のミスによって生じた損害については、会社に債務不履行や不法行為に基づく損害賠償責任が成立する可能性があるということです。

債務不履行責任や不法行為責任を負うかの考え方

 会社と従業員のように「使用関係」がある場合を踏まえて、他の事例についても考えてみましょう。
 レストランを経営する会社は、お客さんとの間に契約が成立しています。お客さんは一定の料金を払い、会社はお客さんが注文した料理を提供する契約です。いわゆる飲食物の提供契約で、お客さんは料理の代金を支払う義務を負い、レストランを経営する会社側は料理を提供する義務を負います。ここでの注意点は、レストラン側はただ料理を出せばいいという訳ではないということです。
 例えば提供した料理、もしくは料理する前の食材に食中毒を起こす細菌が付着していて、お客さんがそれを食べてしまい入院することになったとします。当然、治療費などの損害が生じます。この場合、会社側が負担する損害賠償責任には何があるのでしょうか。
 まず契約関係がある場合、債務不履行責任が生じる可能性があります。この場合、債務の不履行がなかったら、そもそも債務不履行になりませんので、債務不履行があるかを考える必要がありますね。また、不法行為責任が生じる可能性があります。ここで間違えてはいけないのは、「料理を出したから義務を果たした」と勘違いしないようにすることです。常識で考えてみれば、食中毒を引き起こす料理を提供された場合、売主側から義務を果たしたと言われても納得することはできないはずです。商売として料理を提供する契約を結んでいる以上、お客さんの生命や身体を害さないように配慮して料理を提供する義務があるのです。食中毒を起こすような料理を提供したら、お客さんの生命や身体を害さないように配慮して料理を提供する義務を果たしていないという「債務不履行の事実」があります。 この場合、レストランを経営する会社は、その点に帰責事由がないと証明しない限りは、責任を負う必要があります。
 また、レストランを経営するA社自身に食材の管理等に過失があり、その過失によってお客さんであるB氏の身体を害し損害を生じさせた場合、A社は民法709条の不法行為責任を負います。さらに、A社自身は食材の管理等を十分にしていたが、調理した従業員C氏の過失で料理に細菌が付着したというような場合、被用者(従業員)であるC氏は仕事中の過失でB氏に損害を与えたので、A社は使用者責任に基づき不法行為責任を負うことになります。
 このように契約関係にある場合、契約の合意内容から、どのような権利関係が発生するのかが決まります。そのため契約内容からどのような権利義務関係が発生するのかを考えた上で、その契約上の義務が果たされているかどうかを考えて、債務不履行責任が成立するか否かを考えることになります。また、不法行為責任については、不法行為責任の要件を満たすか否かを判断することになります。
 債務不履行の場合、なぜ債務不履行だったのか、すなわち、債務不履行の事実が生じたことについて帰責事由がないということを債務者が証明しなければならないのが原則です。これに対して、ある事故が起こった時には、被害者は、なぜその事故が起こったのかをしっかりと把握し、その事故が起こったことについて加害者の過失を証明する必要があります。
 今回紹介した事例では、B氏がA社自身の不法行為責任や使用者責任を追及する場合には、B氏は従業員C氏の過失を立証しなければなりません。これに対して、B氏がA社の債務不履行責任を追及する場合は、A社が自己に帰責事由がないことを立証しなければなりません。したがって、例外はありますが、被害者の立場からは、原則として、不法行為責任を追及するよりも債務不履行責任を追及するほうが楽だということを覚えておきましょう。

製造物に関する特別法

 債務不履行責任と不法行為責任というのは、民法上の一番基本的な損害賠償責任で出てくる責任ですが、実は、特別法にも損害賠償責任を規定しているものがあります。製造物責任法には注意が必要です。
 製造加工された動産は製造物責任法上の「製造物」にあたり、製造物に欠陥があり、それによって被害者の生命・身体・財産に拡大損害が生じた場合、製造業者等には製造物責任法で損害賠償責任を負う可能性が発生します。
 未加工の農林水産物は製造物責任法上の「製造物」ではないため、スーパーのジャガイモを買って食あたりが発生したところで製造物責任は生じません。しかし、飲食物の提供契約上、料理は「調理」として加工されているので、製造物責任上の「製造物」にあたります。そして、食材にもともと食中毒を起こす細菌が付いていた場合、通常有すべき安全性がないため、製造物責任法上の「欠陥」にあたります。また、料理を提供したレストランを経営する会社は製造物責任法上の「製造業者等」にあたるので、食あたりを起こしたB氏はA社に対して製造責任法に基づき損害賠償を請求することができます。
 この場合、被害者は「製造業者等」の故意・過失を立証する必要はありません。製造物責任法は被害者保護のための法律だからです。製造物を作る会社の場合には、製造物責任法に基づき損害賠償責任を負うリスクがあるということに注意する必要があります。

運行供用者責任という特別法

 もうひとつ、損害賠償責任を規定する特別法に関する事例を紹介します。
 運送会社A社の従業員B氏が配送中に事故を起こしました。この時、会社の車を使っていた場合、自動車損害賠償保障法が適用され、A社は運行供用者責任を負うことがあります。車は使い方次第で殺傷能力のある危険なものであるため、その危険性を有する車によって損害が発生した場合に、その車を管理・支配することができる所有者に運行供用者責任という責任を負わせたのです。
 通常の不法行為の場合には、被害者が加害者の過失を立証しないと損害賠償請求はできませんが、運行供用者責任では、被害者保護のためにこの要件の立証を省けることになっています。このように、自動車の運行供用者責任が適用される場合、被害者が加害者の過失を立証しなくていいので、A社は注意する必要があります。

個人情報の漏洩について

 次に個人情報と営業秘密に関して、損害賠償責任との関わりを見ていきましょう。
 A社とB社との間で契約関係があって、A社はa氏やb氏の個人情報を入手しているというケースがあったとします。そして、A社はa氏との契約上、a氏の個人情報(会員情報や顧客情報など)を取得しており、他方、b氏の個人情報は契約関係によらずに取得していたとします。契約関係によらず、何らかの形で第三者を介してb氏の個人情報をA社が入手しているという場合もあり、会社が入手した個人情報はすべて契約関係から入手した個人情報とは限らないことに注意してください。
 このようなケースで個人情報の漏洩が起こった場合、A社が負担する法的リスクにはどんなものがあるのでしょうか。まずは個人情報保護法の基本的なルールを押さえておきます。まず、個人情報取扱事業者は個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じることが必要です。したがって、個人情報を管理している場合、事業者はそれが漏洩しないように十分な安全管理をする措置をとらなければなりません。
 会社から個人情報が漏洩するケースにどんなものがあるかというと、ひとつは会社の従業員から漏洩するケースです。もうひとつは、個人情報の処理を業務委託した場合などに、委託に伴って個人情報を渡す際、委託先から漏洩してしまうケースです。個人情報保護法というのは、個人情報取扱事業者に対して「漏洩がないように従業員や委託先の監督をしなさい」ということが規定されています。
 そうすると、個人情報の漏洩によって何らかの損害が生じた場合は、契約関係にあるa氏との関係では債務不履行責任と不法行為責任が問題となり、契約関係のないb氏との関係では不法行為責任が問題となります。
 そこで、A社の従業員、もしくは、委託先であるB社から個人情報が漏洩したことで何らかの損害が生じた場合について見ていきましょう。
 A社は契約関係に基づきa氏の個人情報の漏洩がないように管理しなければなりませんから、契約の趣旨から、個人情報を漏らしてはならない義務を負っています。そして、A社は個人情報の漏洩がないように従業員や委託先の監督をする必要があるため、A社の従業員や委託先であるB社から個人情報が漏洩したとしても、A社に帰責事由がないという言い訳は使えません。したがって、A社はa氏に対して債務不履行責任を負います。
 これに対して、A社とb氏との間では契約関係がないため、b氏の個人情報が漏洩したとしても、A社はb氏に対して債務不履行責任は負いません。しかし、A社自身が個人情報の管理について十分な体制を整えていなかったという管理体制の不備について過失があったとなれば、A社は民法709条の不法行為責任を負う可能性があります。また、従業員から漏洩した場合、業務に関してなされたものであれば、A社はb氏に対して民法715条の使用者責任を負います。民法709条や民法715条は、要件を満たせばa氏との関係でも成立します。

 以上のように、個人情報については、会社が注意するだけではなく、社員、委託先から漏洩するリスクもあるということに配慮しておく必要があります。扱っているのが大量の個人情報の場合、損害額が莫大になるので、より個人情報の管理に注意する必要があるでしょう。
 委託先との契約関係がある場合、提供した情報が漏れないようにする義務を負わせる特約を結んでおく必要もあります。このような特約がないと情報管理を十分にしていたと評価されません。しかも、情報管理体制が整っていない場合に個人情報の漏洩により会社に損害が発生した場合に、この情報管理に関して会社の経営陣の責任が追及される場合があり、会社に対する任務を怠ったということで会社から損害賠償請求される可能性も出てきます。損害賠償を負うリスクについてしっかりと知り、注意しましょう。

営業秘密について

 秘密として管理されている生産方法、販売方法やその他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないものを「営業秘密」といい、不正競争防止法に営業秘密の要件が定められています。営業秘密であるというためには、単に技術上、または営業上の情報であれば良いという訳ではなく「秘密管理性」「非公知性」「有用性」という3つの要件を満たす必要があります。「秘密として管理されているという秘密管理性」、「事業活動に役立つという有用性」「公然と知られていないという非公知性」です。
 A社からB社に何らかの業務委託契約をする場合、それに伴って営業秘密を提供せざるを得ない場合があります。また、営業秘密の要件を満たさないものでも「弊社は個人的に秘密にしたい情報がある」という場合、これを提供せざるを得ない時には、契約上「情報提供を受けたほうはそれを漏洩してはいけない義務」を負うと解されます。
 具体例を挙げると、お得意様の顧客リストを整理して処理できるようなシステムを作ってほしいと業務委託する場合、顧客リスト(データベース、システム設計)を提供せざるを得ないかと思います。ところが、秘密にしたい情報がB社から漏洩するリスクがありますね。もし、B社から秘密が漏洩し、A社に損害が発生した場合、A社はB社に対して民法415条で損害賠償責任を追及できます。B社は業務を担当する従業員にこういった情報を提供せざるを得ないので、そこから漏洩してしまう場合もありますが、従業員のミスでも債務者に帰責事由がないと言い訳はできませんから、B社としてはリスクが生じます。
 この場合、債務不履行責任を明らかにするためには、秘密保持契約をしっかり結んでおく必要があります。秘密保持契約の中で、どこまでが秘密として保持すべき情報なのかなどや、B社で情報に接してよい社員を特定しておくなどの特約を入れておくことで、A社の立証の負担は軽減されます。

法的リスクへの意識

 最後にこれだけは覚えておいてください。例えば、会社内で「この扉を開けないでください」と従業員に指示を出せば多くの従業員はその指示を守ります。ただ、人間はミスを犯してしまうものですから、うっかり扉を開けてしまう従業員も出てきてしまいます。しかし、開けたらどうなるのかを説明した場合では、結果が変わることもあるでしょう。「放射能が漏れるので開けないで」と理由を説明したら、守る側の意識は強くなり、圧倒的にうっかりミスは起こりにくくなりますね。
 つまり、「個人情報を大切に扱わないとダメだ」と会社側から従業員に伝えるだけでは、ミスをしないように注意する意識は高まりません。法的リスクについても結果の重大性をしっかりと説明し、それが起こる法的根拠や法的知識を身につけさせた上で物事に取り組めば、守ろうと注意する意識が高くなります。事の重大性がわかっていれば、顧客情報が入ったリストを電車の網棚に放置して眠ってしまうことや、そのまま忘れてしまうリスクを避けられるでしょう。
 法的リスクをきちんと理解すれば、その結果がどうなるかを想像することができ、個人情報を取り扱う行動に注意を払えるようになるはずです。そのためには、法律の基本的な知識を身につけていることがとても大切です。ビジネス実務法務検定試験®は、受験者数が年々伸びていて需要が高まっている今、注目を浴びている検定試験です。基本的な要件と具体的な事案を解決する方法を学びながら、段階を踏んで法律の知識を身につけることができますので、ぜひ活用してください。

あらゆる職種で必要とされる法律知識を効率的に習得できます

Profile

佐藤 幸太郎氏

東京商工会議所 検定事業部
検定センター所長

 ビジネス実務法務検定試験®は、あらゆる職種で必要とされる法律知識を効率的に習得できることから、近年では、法務・総務部門だけでなく、営業・企画部門やお客様対応・接客部門、就職活動を控えた学生の受験者も増えています。合格者からは「企業として守るべき法律の内容を理解していたのでトラブルが起きても適切な対応ができた」との声が寄せられるなど「実務に役立つ検定試験」として認識されています。
 試験は公式テキストから出題され、勉強期間の目安は3級が3ヵ月程度、2級は半年程度です。独学でも合格できますが、仕事と勉強の両立は大変ですので、TACの講座を受講することで、効率よく合格をめざすのもひとつの手ではないでしょうか。社会人として押さえておくべき法律の基礎は3級でも身につきますが、よりビジネスに関わる実践的な知識が得られ、企業から高く評価されるのは2級です。ぜひ2級を目指してください。