人事担当者に聞く「今、欲しい人財」 第83回 ホーチキ株式会社

Profile

遠藤 亮(えんどう りょう)氏

人事部 人材戦略グループ キャリア開発チーム
チームリーダー

大学卒業後、鉄道会社で施工管理業務に2年間、人事業務に6年間従事。2016年、ホーチキ株式会社に転職。2023年4月よりキャリア開発のチームリーダーとして採用、教育を統括。人的資本経営の実現に向けた人事戦略の立案・遂行を担う。

社員の成長=会社の成長。
ホーチキは人財育成に注力しています。


 ホーチキは日本初の火災報知機メーカーとして1918年に誕生した。学校や会社で誰もが目にする壁にある赤いボタンの多くは、ホーチキの防災設備である。「社員の成長が会社の成長につながる」と考えるホーチキでは、どのような方針で採用や人材育成を行っているのか。人事部・人材戦略グループ・ キャリア開発チーム・チームリーダーの遠藤亮氏にお話をうかがった。

開発からメンテナンスまで一貫体制で安全・安心をサポート

──ホーチキ株式会社について教えてください。

遠藤 例えば、自宅の寝室には煙感知器、キッチンには熱感知器と、皆さんが暮らしたり仕事をしたりしているすべての建物に防災設備が付いています。普段意識することはなくとも、生活に欠かせない社会インフラである防災設備をお届けしているのが、私たちホーチキです。
 ホーチキは、1918年に創立した日本初の火災報知機メーカーとして、日本の防災業界を牽引してきました。世の中から火災による犠牲者や建物施設の損害がなくなることを願って、研究開発・製造から販売、施工、メンテナンスまで一貫体制で取り組み、安全と安心を提供する総合防災企業として歩んでいます。
 当社の事業領域は大別すると防災事業と防犯事業です。主力事業の防災事業で培った技術やノウハウをもとに、セキュリティや情報通信の分野へと展開し、事業領域を広げてきました。国内防災市場では、商業施設や大型施設といった大規模市場で約33%と第1位のシェアを、中規模市場では約25%のシェアを獲得しています。また海外展開も64年前から積極的に行っており、現在の海外拠点は17ヵ所です。

求めるのは「ミッション・ビジョン・バリュー」への共感

──ホーチキではどのような人材を求めていますか。

遠藤 当社は「人々に安全を」「社会に価値を」「企業をとりまく人々に幸福を」というミッションを掲げています。このミッションのもと、「人と技術の力で世界中にLife Safetyを創造する」というビジョン、そして「誠実」「情熱&チャレンジ」「チームワーク」の3つのバリューを持って事業に取り組んでいます。
 求める人物像の第一は、これらに共感できる方です。採用の基準でも、ミッション・ビジョン・バリューへの共感と、何事にも情熱を持って取り組める方かどうかを見極めています。

──ホーチキの新卒採用と中途採用について教えてください。

遠藤 採用では新卒採用をメインに実施しています。2025年4月は83名の新卒が入社し、2026年は69名の採用を計画しています。
 中途採用については、事業計画とニーズに応じて毎年変動し、多い年は70名、少ない年は40名程度です。中途採用の例を挙げると、大型案件の受注は建物竣工の2〜3年前ですが、竣工後は建物がある限りメンテナンスを続けます。そこで受注時に必要人員を算出して中途採用を行います。かなり早期に中途採用を始める理由は、メンテナンスをきちんと行うには施工段階から立ち会い、設備を正しく理解しておく必要があるからです。こうした大型受注の影響もあり中途採用人数は年によって変動します。

スピード感を持った選考でわずか1ヵ月後に内定

──新卒採用の選考フローについて教えてください。

遠藤 説明会のあと、エントリーシート提出と同時進行でWeb適性検査を行います。その後、オンラインでの1次グループ面接を行い、対面での個別面接を経て内定となります。
 対面での面接を1回にしているのは、学生の方が初めてホーチキという会社を知って、説明会に参加してから内定に至るまでに2〜3ヵ月かかってしまうのは、今の時代に合わないと考えたからです。迅速に企業研究や情報収集ができる今の学生の立場を考え、スピード感を持った選考にしています。
 そのため、当社の選考は通常1ヵ月、早い方は3週間で内定に至ります。これは他社と比べてもかなり早いと思います。

──短期間の選考でどのようにミスマッチを防いでいるのですか。

遠藤 会社説明会の前にインターンシップと工場見学を実施しています。開発現場や実際の工場での見学・体験をしたうえでエントリーしてくる学生が採用者の半数を占めているため、ミスマッチは少ないと考えています。

──内定式から入社までの間、入社前教育や内定者フォローはどのように実施していますか。

遠藤 入社前のイベントとして入社前教育と2回の内定者交流会を開いています。当社のバリューのひとつである「チームワーク」を重視し、内定式前にも交流会を実施して、入社前から同期の絆を深めるようにしています。

入社3年目まで集合研修を実施

──新入社員研修の内容を教えてください。

遠藤 新入社員研修は2ヵ月間実施します。最初の1週間はビジネスマナー研修を行い、例えば、名刺交換の練習を繰り返し実施して、しっかりと身につけてもらいます。
 その後、6〜7週間は会社の製品知識と部署の知識、製品関連法案の知識を深め、工場見学、生産現場等で実地体験をしてもらいます。
 新入社員研修後は、消防設備士資格取得のための研修を1ヵ月間実施します。
 そのあとは、配属先が決まり、それぞれの職種に応じた職種別研修が始まりますが、期間は職種ごとに異なります。開発・生産は10ヵ月、他は職種によって1〜2ヵ月ですが、職場の共通言語として専門用語をしっかりと学べる研修になっています。

──新入社員研修後はどのような教育を計画していますか。

遠藤 当社では社員の成長が会社の成長につながると考えているので、人材育成に力を入れています。そこで新入社員研修後は、2年目集合研修と3年目集合研修を実施し、入社後の成長を振り返り、今後の成長につなげていきます。来年度からは6年目教育を検討中で、独り立ちするまでしっかりとサポートします。

新たな評価制度で社員のキャリアアップを後押し

──新入社員研修と最初の職種別研修が終わったあとは、各配属先での教育が始まるのでしょうか。

遠藤 当社にはブラザー・シスターと呼ばれる先輩社員が、1年間しっかり伴走して仕事を教える「ブラザー・シスター制度」でしっかりとフォローします。
 新入社員研修と最初の職種別研修後は、階層別研修に切り替わっていきます。当社は5年前から優秀な社員がより早くキャリアアップできる人事評価制度を導入しました。つまり、全社員とも年功序列で上がっていくわけではなく、優秀な社員はどんどん成長していきます。新卒同期でも5年目、10年目にはまったく立場や給与が変わります。ある階層別研修の参加者には50代もいれば30代、20代もいます。5年前はほぼ同期が参加していましたので、ガラッと変わりました。おそらく10年後はもっと変わっているでしょう。
 当社はグローバルで活躍している企業ですので、成果報酬、成果主義を貫き、がんばった人が報われる体制を作りたいと考えています。

──現在の制度でステップアップしていく若手社員に特徴はありますか。

遠藤 「何事も自分ごととして捉え、自発的に行動できる人」「上司や組織に対して受け身にならず主体的に提案や発信ができる人」ですね。バックキャスティング思考ができる社員は、どんどん昇格していく可能性が高いです。
 そして、上に行けば行くほど大勢の部下を抱えることになります。年齢を問わず、部下にとってわかりやすい言葉を使い、目線を合わせて伝えられる人はさらにキャリアアップしていきます。

──社員にとって仕事のモチベーションにつながるのは、どのようなことだと思われますか。

遠藤 個人的には、仕事をしていて必要とされている感覚があることが一番大切だと思っています。人事担当者としては、その感覚を社員に味わってもらい、皆さんに楽しく仕事をしてほしいと考えています。

休みやすい環境をつくるために「心理的安全性」を強く意識

──人事制度、教育制度でホーチキらしい特徴的なものがあればご紹介いただけますか。

遠藤 人事制度面では、全国型と地域限定型の2つに分かれているのが特徴です。全国型は転勤ありですが、地域限定型は引っ越しをともなわない範囲での異動しかありません。
 また、評価制度を細かく作り込んでいます。本人がきちんと自己評価をしたあとで、上長が評価します。そして、最終的な会社の評価まですべて可視化しているので、自分がどういうところを評価されたのか、どの部分は評価されなかったのか、すべてわかります。
 そこから次年度に向けて、伸ばすところは伸ばし、直すところは直す。本人にとっても上長にとっても、成長を促すわかりやすいしくみだと考えています。
 もうひとつ、当社は有給休暇を含む休日が取りやすい会社です。年間休日は124日あり、夏季休暇も含めると有給休暇を取らなくても年間休日130日と、かなり休みが多い会社です。

──休みやすい会社にするためにどのような工夫をしていますか。

遠藤 職場で自分の気持ちや意見を安心して表現できるように、「心理的安全性」を非常に強く意識しています。そこで、上司が率先して休むように伝えるなど、管理職に対する教育の中で「心理的安全性」について意識して伝えています。
 もともとは男性の育児休業が10%にも満たない会社でしたが、今では約70%の男性社員が取得するようになりました。以前は違和感があった男性社員の育児休業も、今では当たり前になっています。コロナ禍を経て、「打ち合わせは絶対に対面でなければいけない」という上司もいなくなりました。社会の変化も後押しになっています。

充実した福利厚生で社員をサポート

──福利厚生面の特徴を教えてください。

遠藤 皆さんの会社にある法定の福利厚生制度は当たり前にすべてそろっていますし、福利厚生面では充実している会社だと考えています。
 例えば、有給休暇を最大120日分保有できることは、大きなアピールポイントです。毎年付与された有給休暇の未消化分は、120日まで繰り越しが可能です。そのため、短期留学で6ヵ月間休む場合でも、ストックがあればすべて有給休暇で賄えます。
 もうひとつ特徴的なのは、持ち家でも住宅手当が出る点です。一定の条件を満たせば持ち家で1万8,000円の住宅手当が出ます。これは他社ではあまり見られない制度です。また、雇用保険料は通常会社と社員の両者で負担しますが、当社は全額会社が負担しています。社員として普段当たり前に使っている制度を振り返ると、会社から幅広いサポートがあることがわかります。
 研修関連では、月10万円かかる英会話プログラムを会社9割負担で受講できます。こちらは手挙げ式で選抜はありませんので、誰でも受講可能です。グローバル企業として必要な投資と考えています。

入社1年で消防設備士資格を全員取得

──防災業界で働くために必要な資格はありますか。

遠藤 消防設備士甲種第4類の資格を新入社員全社員に取得してもらいます。消防設備士は消防法に基づいた「消防用設備等の工事・整備・点検」を行うために必須の国家資格で、消防設備士免状の種類によって扱える設備の種類が違ってきます。部署によってはかなり消防法関連の知識が必要とされますので、より難易度が高い資格が必要なケースもあります。
 消防設備士甲種第4類の資格取得に向けては、2ヵ月間の新入社員研修が終わると、すぐに1ヵ月間の消防設備士甲種第4類取得のための研修が始まります。しっかりと勉強することで、平均合格率35%に対し、当社の合格率は98%です。消防設備士試験は毎月1回実施されます。残念ながら不合格だった社員はすぐに次の試験に挑戦できます。2回以内の受験で100%、全員合格しています。ちなみに消防設備士の資格取得にかかる費用は全額会社負担です。

──消防設備士以外に推奨する資格、そして取得支援制度はありますか。

遠藤 業務に関わる内容の資格取得であれば、支援制度で取得費用全額を補助しています。また、職種別に一定レベルに達したときに取得すべき資格を公開しており、社員は「自分は今このレベルだから、この資格を取得しよう」と決めて取得をめざします。資格取得はあくまで任意ですが、上長との1on1ミーティングの際には、次のステップとして話をしています。

──キャリアアップや資格取得をめざしている読者に向けて、メッセージをお願いします。

遠藤 しっかりと目的を持って資格取得に励んでいただきたいと思います。合格したら自分がその資格を取得してどのように活用したいのかを、面接などできちんと伝えられるようにしてください。

[『TACNEWS』人事担当者に聞く「今、欲しい人財」|2025年12月 ]

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▲ホーチキ株式会社 本社

会社概要

社名     ホーチキ株式会社
設立     1918年(大正7年)4月2日
代表者    代表取締役 社長執行役員 細井 元
本社所在地  東京都品川区上大崎二丁目10番43号

事業内容

1. 火災報知設備(火災報知設備の製造、販売及び施工)
2. 保守(防災設備に係わる保守点検及び整備工事)
3. 消火設備(消火設備の製造、販売及び施工)
4. 防犯設備(防犯機器の製造、販売及び施工ならびに保守管理)

従業員数

単独1,573名、連結2,383名 (2025年3月31日現在)

URL

https://www.hochiki.co.jp/

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